カベワタリの物語ーリキとアヤラセー(森蘭丸の弟、異世界に渡る 第二部)

天知 カナイ

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お互いに愛を囁きながら何度も肌を合わせた二人は、翌朝遅くまで泥のように眠った。一足先に目覚めたアヤラセは、ぐっすりと眠っているリキの顔を見て一安心した。とりあえず昨夜は悪夢にうなされることなくよく眠れたようだ。
毎夜抱き潰してやればいいのだろうか。‥いや、リキにも自分にも仕事があるからそれは現実的ではない。
さらさらとリキの銀髪を手で梳いてやりながら、アヤラセは考えた。

リキの心の重荷を完全に取り除くのは難しいかもしれないが、少しでも自分に自信を持ってほしい。アヤラセはそう考え、どうすればいいかを思案してみる。
もともとリキはムリキシャだ。ハリ玉を持っていたし子果樹だってちゃんと生えた。ただ、そこに実ったのが通常考えられないものだっただけだ。
それに‥
アヤラセはぎゅっと目を瞑った。ランムイから聞いた、「龍人タツト」の話が頭から離れない。

彼らはみな「雄」であり、輝く銀髪と金の瞳を持っているという。その寿命は長く、いつまで生きるのか龍人タツト自身にもわからない程だとか。
彼らは全ての力を合わせたようなタツリキという力を使い、この世界の「調整」をしているのだという。
無論、アヤラセは一度もそういった人々を見たことがないし、ランムイからそのような説明を受けても今一つ理解しきれていない。ランムイ自身も実際に龍人タツトに会った事は一回しかないと言っていた。
「まあ、よくわからない生き物、って感じでしたね」

アヤラセは今まで生きてきて、リキ以外に銀髪のヒトを見たことがない。
リキが自分の存在意義を確かめるためにも、リキ自身が龍人タツトではないのか確かめること、そしてムリキシャとして生きていく道があるのかということをしっかりと確認すべきだ、と思い至った。

リキの長い銀髪を弄びながら、もう一度横になってリキの寝顔を眺める。伏せられた瞼のふちには黒みがかった銀色の睫毛がびっしりとふちどられ、目尻が少しだけ赤くなっていた。たくさんイかせすぎたのだろうか。顔をぐっと近づけて赤くなった目尻にちゅっと口づけてやった。
その刺激で目覚めたリキが、ゆっくりと銀灰色の睫毛を持ち上げた。美しい翠色の瞳が見える。
「‥アヤラセ‥」
「おはよ、リキ。腹減ってない?」
「‥‥確かに‥昨日、夕飯を食べなかったな‥」
そう呟いたリキを見て、アヤラセは笑った。

「そうだよな!‥なんか買ってくるよ。麺とパンどっちがいい?」
アヤラセたちの住んでいる家の傍には、朝食と昼食の客を当て込んだ屋台が十数件立ち並んでいるところがある。おそらくそこで何か買ってくるつもりなのだろう。リキは重い身体を起こそうとしたが、アヤラセに止められた。
「大丈夫だ、俺が行ってくるから」
「すまない‥」
「全然構わないよ!で、どっち?」
「‥じゃあ、麵で」
「わかった、行ってくるな!」
そう言うとアヤラセは簡素な衣服をさっと身につけ、家を出て行った。リキもゆっくりと身体を動かし、寝台の下に落ちている衣類を拾い上げて上衣だけ身につけた。

昨日異生物にやられた腕を見てみれば、もう痕もなくなっている。おそらく自分が眠っている間に、アヤラセが自分のマリキで治してくれたのだろう。アヤラセのマリキは、特に外傷の治療に向いていると聞いたことがあった。
身体のだるさは取れない。上衣を身につけたリキは再び寝台に倒れこんだ。

あんなにアヤラセの身体を求めたのは、相当に久しぶりだった気がする。自分が何度精を吐き出したのか、リキは全く覚えていない。いつ眠りについたのかもわからなかった。それほど、溺れた。
(心に屈託があるからといって肉欲に溺れるとは‥)
リキは目を瞑り、深く息を吐いた。自分が情けない。アヤラセがいなければ、この世界トワでおそらく自分は生きていけないのだろう、とぼんやり考える。

そしてアヤラセはそれを嫌がらないだろうということもわかっていた。
アヤラセの愛情を疑ったことなどなかった。
ただ、自分がそれに見合った人物であるかの自信がないだけだ。
この世界トワで生きる意味を、見いだせないだけなのだ。
(リイアやライナがいう、「めんどくさいヒト」みたいだな、俺‥)
愛されてるのならその愛に寄りかかんなさいよ、何が悪いの!?と口々に言ってくる二人のことを想うと、笑みがこぼれた。あの二人はいつもリキの悩みを一刀両断してくれる。

身体が軋むように痛い。異生物にやられたところはほとんど異常はなくなっていたが、激しい情交が身体にだるさをもたらしていた。
アヤラセから、退異師の仕事は幾日か休みにしてもらったと聞いていた。まとまった休みは久しぶりで、何をしようかと思案した。
その時、ふっとユウビのことが思い出された。

リキの子果樹が繭となってユウビを覆いつくしたあの日以来、ツトマの子果清殿には行っていない。今、どのような状態なのかということについては時折、ナガエやアカーテが手紙で知らせてくれていたし、そもそも何も変わりはない、という報告しか受けていなかった。
しかし、今、ふとユウビの様子を見に行きたい、と思った。

統都アキツマからツトマまでは機工飛艇を使っても二時間ほどかかる。機工車を乗り継ぐならば休みなしで走らせても十時間以上はかかる距離だ。乗り合い機工車で行くならば、片道に丸一日かかるだろう。
三日の休みがあるなら、何とか往復できなくはない。
自分のこの何ともはっきりしない心境を打破するためにも、行ってみよう、とリキは決意した。



指定された場所に着くと、すぐに五人ほどのヒトが傍に寄ってきた。ラニエリを守るように護衛が周りを囲む。寄ってきたレイリキシャはにやっと笑った。
「護衛の皆さんも、この目隠しをしてもらえますかね?うちの大将のところに行ってもらうためには必要なことなんで」
相手の言い分に従うしかないラニエリは、唇を噛みながら護衛を手で制した。三人の護衛とラニエリの目元を灰色の目隠しが覆う。
覆われたその瞬間に、視覚だけでなく嗅覚や聴覚までも奪われた感じがして思わず目隠しを取ろうとする。その手をぐっと押さえたヒトが、手を押さえたままラニエリの耳元で囁いた。
「大将の特製目隠しなんですよ。そのままで、この縄を持ってください」
ラニエリと護衛の三人は一本の縄を持たされ、それを引いて歩かされ機工車に乗せられた。しばらく機工車が走った後、降りるように縄を引いて促される。

引かれるままに歩いていき、どこかの部屋に入ったと思しきところで目隠しが取り去られた。護衛は相変わらずラニエリの傍にいて武装も解かれていない。防御に余程の自信があるのだろう、とラニエリは思った。
急激に明るくなった視界に、何度か瞬きをする。ようやく目が慣れたころ、部屋の中の立派な長椅子に腰かけている若いヒトが目に入った。
燃えるような紅い髪に紅い瞳、みっしりと筋肉ののった身体つき。顔立ちも整っているのだが、どこか歪んでいるような印象を与える。

「よぉ、トレルーナ大公さん。俺がライセンだ」

ライセンはにやりとラニエリの顔を見て嗤ってみせた。


その姿を認めればラニエリの身体を峻烈な怒りが貫いた。こいつが、大事なツズルを強制性交幻覚剤パルーリア中毒にし、さらには症状緩和剤パロクシアがないと生きていけない身体にさせた張本人なのだ。

思わず駆け寄ってライセンに殴りかかろうとしたラニエリだったが、ライセンの手前10カル(=約90㎝)ほどのところでバン!と見えない壁に弾かれた。その勢いでバタンと後ろ様に倒れてしまったラニエリに、慌てて護衛たちが駆け寄って身体を起こさせた。ライセンはその様子をニヤニヤ笑いながら眺めている。

「俺も敵が少なくないんでね。色々と警戒はさせてもらってるんだ。まあ座んなよ、大公。話をしようぜ」


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