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しおりを挟む「ああ、あ、あ、もう、無理‥」
力なく唇からそんな言葉が零れているのにも構わず、ライセンは激しく腰を打ちつけた。目の前のマリキシャの顔がぼんやりとアヤラセに重なって見え、ますます陰茎は昂った。
ばちっばちっという肉のぶつかる音が広く暗い部屋に響く。マリキシャ———ツズルはもう声を上げる気力もなく、揺さぶられるままに短く「あ、あ、」と息とも声ともつかない音をこぼすだけだった。
ぐり、っと強く腰を擦るように打ちつけて精を放つ。ツズルはもう何度目かわからない精が自分の体内を濡らしていくのを感じたが、あまりの疲労で身体を動かすことさえできない。
性交を始めた頃は、ツズルにも強制性交幻覚剤がよく効いていて、理想のヒトとのめくるめくような性交に感じられ酔いしれていた。
しかし、ライセンのしつこくねちっこい性交に疲れ果てたツズルは、もうほとんど正気を保てていなかった。口の端からは途切れなく唾液が零れ、美しい黒い瞳は虚ろに半分閉じられたままだ。
うう、と呻きながら思い切り精を放ったライセンはぶるると身体を震わせると、ツズルの身体を足蹴にして押しやった。ツズルは蹴られてそのまま寝台から床へ滑り落ち、裸のままぐったりと横たわっている。
ライセンは寝台横の机に置いていた錠剤を口に含み、水と共にごくりと嚥下した。どこか遠くを見ているようだったライセンの紅い瞳に、しっかりとした光が戻ってくる。自分用の性交幻覚剤改の効果を打ち消す錠剤だった。
意識を清明に取り戻したライセンは、床に転がり息を粗くしているツズルを見下ろした。‥随分、この身体で楽しませてもらった。強制性交幻覚剤もたっぷり飲ませたし、そろそろこいつを返してやってもいい頃だろう。
机の上に載っていた小さな鐘を、ライセンは一度だけカン、と鋭く鳴らした。一分もしないうちに扉が叩かれる音がした。
「入れ」
ライセンの応えを受けて扉が開かれる。そこにいたのは、片腕を失ったエルニだった。
「呼んだか」
「だから鐘を鳴らしてるんだ、くだらねえことを訊くな」
横柄なライセンの物言いに、エルニは見えないように顔を顰めた。
ライセンとともにここ聖タイカ合国に逃げてきてからこっち、さっぱりいいことはない。ライセン自身は強制性交幻覚剤とここに来てから開発した症状緩和剤の売り上げで、裏社会で随分幅を利かせている。
しかし、エルニはツトマでリキを誘拐して凌辱した際、奪還しに来たアヤラセに片腕を切り落とされてからケチのつきっぱなしだ。
‥考えてみれば、ツトマでライセンに引っかかってからが運の尽きだったのかもしれない。噂に聞く『カベワタリ』の力を手に入れようと、せっかく仕入れた情報を持ってゴリキくんだりまでやってきたのに、何もいいことなぞなかった。
追われる身にはなるしライセンには顎で使われているし、片腕までなくした。
この半年くらい、エルニはずっとここで腐っていた。しかし、ライセンの恐ろしさも身に沁みてわかっているので、仕方なくライセンの言うことを聞いているのだ。
そんなエルニの心情を知ってか知らずか、ライセンはまた横柄に言いつけてきた。
「そこに転がってるマリキシャを、トレルーナ大公が滞在している宿まで連れて行け。そしてこれを渡せ」
机の抽斗に入れていた小さな袋を、乱暴にエルニの方に放り投げる。エルニは慌てて片腕でそれを受け止めた。
「これは‥?」
ライセンはにやりと笑った。
「そうだな‥二週間分、くらいの症状緩和剤と手紙が入ってる。封を切るなよ」
興味深そうに袋を見ていたエルニの視線が気に入らなかったのだろう、ライセンはぶっきらぼうに付け加えた。
「宿の前にいる門番に手紙を渡したらすぐに逃げろ。後をつけられるなよ。ここに誰か連れてきやがったら殺すからな」
「‥わかったよ』
エルニは気に入らないことだらけだったが、不承不承ライセンの言うことを聞き入れた。そして床に転がされている若いマリキシャに目をやった。
「裸じゃねえか。着るものは?」
「あー、風呂辺りに転がってるだろ、適当になんか着せておけ。俺はちょっと出かける」
ライセンはそう言い置いて自分も裸のまま部屋を出て行った。
エルニはツズルに衣服を着せるべく、別のヒトを呼び出すことにした。
トレルーナ大公御用達の高級宿は、その門扉を固く閉じていた。
つい先ほど、行方不明だった大公の第二子ツズルが戻ってきたのだ。宿中、上を下にの大騒ぎとなった。
会議へ行っていた大公ラニエリが急使を受けて一時間もせぬうちに宿へと帰り、十日ぶりともなる愛し子をかき抱いた。
しかし、当のツズルの様子がおかしい。
また興奮のあまり気づかなかったが、周囲の人々も沈痛な面持ちで沈黙したままだ。
反応を返さない我が子と周囲の異様さに気づいたラニエリは、長年仕えてくれている侍従のアツミの顔を見た。
アツミは、ぎゅっと眉を寄せ苦悩に満ちた表情をしている。
「‥‥何があった。ツズルはどうしてしまったというのだ」
アツミは何度も上を向いたり俯いたりして逡巡していたが、観念したかのように唇を固く結ぶと、ラニエリに一枚の書状を差し出した。
「これは?」
「‥‥ツズル様を拉致監禁していたものからの、書状にございます」
ラニエリは瞬間恐ろしい顔をしたが、すぐにその書状を受け取り中身を検めた。
そこには恐ろしい事実が書いてあった。
親愛なるトレルーナ大公へ
お前の子どもはなかなかいい味だった。味わうためにたっぷりと強制性交幻覚剤に漬けてやった。だからツズルは今、中毒になっている。
しかし気の毒だから、症状緩和剤を飲ませてやった。宿についてしばらくはぼんやりしているだろうが、少し経てば意識も清明になるだろう。
さて、症状緩和剤の効果持続期間の話をしよう。この薬は個人差もあるが、大体七日~十日間くらいは意識清明を保てるし中毒症状も抑えられる。
しかし、効果が切れれば前よりも酷い中毒症状に襲われる。そのまま症状緩和剤の投与がなければ、重度の中毒で死ぬ。
俺は今症状緩和剤の流通を止めている。三日ほど前から止めているから、お前たちが探しても症状緩和剤は手に入るまい。
わかるか?つまり大公の愛し子の命は、俺が握っているってことだ。
ツズルの命が惜しいなら、俺の言うことを聞いてもらいたい。この後また知らせを送る。その指示に従え。
従いたくないならそれはそれで構わない。ツズルが狂いながら死んでくのを眺めていればいいだろう。
言うまでもないが、このことは他言無用だ。そこの宿にいるトレルーナ公国人以外に漏らすなよ。
ラニエリは震える手でその書状をぐしゃりと握りしめた。
まさか、会議で話題に出た人物が、我が子伝いに接触を図ってくるとは!‥‥この書状に署名はないが、十中八九ゴリキ統主統治国の神力統主ランムイが言っていた「ライセン」という人物に違いない。
腕の中に抱きしめたツズルの様子を改めて見る。
いつもきらきらしている黒輝石のような瞳はぼんやりと光を失い、半開きになった唇からは一筋唾液が零れていた。
「ツズル、ツズルわかるか?ラニエリだ、お前の親だ」
茫洋としているツズルからの応えはない。
ラニエリは反応のない我が子を固く抱きしめた。
この子をこんな目に遭わせてしまったのは、私の責任だ。
どんなことをしてでもこの子を救ってみせる。
ラニエリはそう固く決心をした。
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