カベワタリの物語ーリキとアヤラセー(森蘭丸の弟、異世界に渡る 第二部)

天知 カナイ

文字の大きさ
19 / 42

18

しおりを挟む


ツイ・ランはむっとした感情を隠しもせずに言い放った。
「とはいえ、ゴリキとて全ての情報をこちらに開示したわけでもあるまい?肝心なところを伏せられて行方だけ探せとは虫のいい話ではないか?」
そうやり込められたランムイの目がすうっと細められた。この人当たりの柔らかなシンリキシャが恐ろしい刃を裡に秘めていることは、政治の世界に住むものならだれでも知っていることだった。
一瞬、会議室の空気がピンと張りつめた。僅かな時をおいて、ランムイが口調だけは穏やかに話し始めた。

「英邁なる合国主ツイ・ラン様ならおわかりかと思いますが、国家運営の際には様々に思案を重ねるべきことがございまして」
そう言ってにっこりと笑ってみせた。ツイ・ランは不機嫌そうに黙ったままだ。ランムイの言葉を補足するように、同じくゴリキ統主統治国から参加していた無力ムリキ統主とうしゅ、シラエラが言葉を添えた。
「かの者は、わが国で罪のないムリキシャを手にかけておるでの。何としても捕まえたい気持ちはあるのじゃ」

ムリキシャの殺害、と聞いて場内にどよめいた。いずれの国であっても国家人口対策の根幹であるムリキシャの殺害は重罪だ。ジャイラ島主国のムルファがううんと唸った。
「‥‥随分と厄介な人物のようですな。裏稼業のものであってもそれなりの倫理観や常識は持ち合わせているものだが、どうもそれが欠けているのではないですか?」
ランムイは肩をすくめてため息をついた。
「そうですね‥ライセンはまず、我欲が一番。それを邪魔するものは悪、と考えているような者です。お恥ずかしながら幼少期よりその片鱗はあったのですが、対応が後手に回ってしまいました」

聖タイカ合国からのもう一人の参加者である、上院士コタ・シャが切り出した。
「無論、ムリキシャへのその仕打ちは容認できるものではない。しかし、当該人物が確実に我が国に潜伏しているという証はあるのか?もはやゴリキに帰国しているということはないのか?‥‥二年近くも前のことを持ち出して我が国を責められても困る」
ランムイは口角を上げた。
「こちらの手の者が、ライセンが聖カ・ジュに潜伏していると突き止めています。今から二十日ほど前のことです。‥‥この短期間でねぐらを変えることはあまり考えられません。そこで」

ランムイは言葉を切って議場内を見回した。各国の重鎮が揃ってランムイの顔を眺める。
「各国に要請を。まず、聖タイカには、裏社会の根城であるカモンギリ地区への捜索と封鎖。トレルーナ公国には聖カ・ジュから公都エルツァまでの街道の監視体制の強化。ジャイラ島主国には、海上経路の拡大阻止のための哨戒船増便。以上を願いたく」
聖タイカ合国の上院士コタ・シャが顔を歪めた。
「それでゴリキは何をするのかね?」
ランムイはコタ・シャの目をしっかりととらえて嫣然と笑った。
「‥‥ゴリキ統主統治国は、今市場に出回っている強制性交幻覚剤パルーリアを見つけ次第、片っ端から押収していきます。最悪、武力行使も問わないつもりです。そのために、私の持つ部隊に対し、国法御免状を発行していただきたい。間に合わなければ後日でも構いませんが、ここで発行の確約をお願いします」

合国主ツイ・ランが色をなした。
「我が国における主権を犯そうというのか?!我が国での武力行使の許可を他国に渡せると思うのか?!」
ランムイは一切表情を崩さない。
「はい。無論期限は切っていただいて構いません。そして武力行使の判断を下すのは、我が伴侶、特級退異師のヤルルアです」
ヤルルアの名前を聞いた一同に一瞬ざわめきが奔る。ヤルルアを国外に出した、という一事の重さを、それぞれの代表は感じ取った。
その隙を逃さずにランムイは言葉を継いだ。

「万が一、貴国に不利益をもたらした場合は特級退異師ヤルルア、神力シンリキ統主とうしゅランムイ、両名の名において賠償申し上げる」


凛としたランムイの声が響きしんとした議場に、のんびりとした様子でジャイラ島主国ムルファが口を開いた。
「ではその間、かの強制性交幻覚剤パルーリア症状緩和剤パロクシアの解析を進めておきませんかね?聖タイカ以外は、国お抱えの解析師部署があるはずです。この際、かの薬物に関しては情報の制限を取り払って共有し、対策を練るが良策では?」

ヨーリキシャの割合の少ない聖タイカ合国の二人はむっつりと黙り込み、ランムイとトレルーナ大公ラニエリは顎を引いて頷いた。
「得られた情報は聖タイカにも共有しよう‥‥それでも不満であれば、各国の解析師を聖タイカに集め、そこで解析を進めさせてはどうかな?それであれば聖タイカがのけ者のようには感じられずにすむだろう」
ラニエリの言葉に、合国主ツイ・ランと上院士コタ・シャは顔を見合わせ、ややあって渋々頷いてみせた。






その夜、リキが珍しく閨事をせがんできた。滅多にないことにアヤラセの顔はほころんだが、そのリキの行動の裏にあるものを考えると心は沈む。

ゆっくりとリキの衣服を脱がしてやりながらアヤラセは考えていた。
‥‥どんなに言葉を尽くしてアヤラセがリキへの愛を語っても、今のリキの心には届かない気がした。リキは、自分の存在価値に疑念を抱いているのだ。なぜ、自分がこの世界トワに渡ってこなければならなかったのか、と。
リキは見た目も普通のヒトとは違う上、ムリキシャとしても役割も今はない。そもそも、リキの子果樹に本来の子果が実ったことはない。
とすれば、ムリキシャとしての自分の価値も見いだせず、また異生物討伐においてもアヤラセがマリキを込めてやらねば戦うこともできない。

市井の民にあっても、高能力者コウリキシャの割合は少ない。ちからを使わず生きているヒトの方が七、八割ほどなのだ。それゆえにちからがないことを気にする必要はないとアヤラセは思うのだが、リキにとってはここはいまだに見知らぬ国であり、理解の範疇にないのだろう。
この世界トワやゴリキ統主統治国における「普通」を知らないリキが、生きていく道に迷うのは当然のことだと言える。

心からリキを愛し大事に思うアヤラセとしては、リキが生きて傍にいてくれるだけでいいのだ。しかし、一人のヒトとしてリキのことを考えたときに、そうも言っていられないのだろうということは推測できた。
成人とみなされるのはこの国では十六歳だ。リキは(おそらくだが)十八歳になり、成人年齢を超えて焦りを感じているのかも知れない。もともとこちらに来た時から自分は成人であると言い張っていたリキでもあったし。


日々、異生物退治に出かけているにもかかわらず、相変わらず白く滑らかなリキの肌に手のひらを滑らせる。吸いつくようなその肌触りにアヤラセは息を吐き、リキは小さく喘いだ。
うつぶせにして寝かせたその背中に、何度も唇をつけていく。ちゅ、ちゅ、と湿った音が闇の中に響く。そのたびにリキは身体を小さく震わせた。
首元に一度強く吸いついてからリキの顔を横に向かせて口づける。交わす唾液は甘い。上気した頬は艶めいていたが、その瞳の中には昏いものが凝ったままなのが見えた。
「リキ、俺はリキが傍にいてくれれば幸せなんだ。‥リキの心の慰めにはならないかもしれないが‥」
そう言われたリキがくるりと体の向きを変え、アヤラセの首に抱きついた。
「そんなことはない!そんなことはないんだ‥アヤラセ、すまない‥俺のせいで、いつもアヤラセを悲しい気持ちにさせている」
硬く閉じられたリキの瞼の隙間から、じわりと涙が滲みだした。アヤラセは優しくリキを抱きしめ、あやすように頭を撫でる。
「悲しくないよ、リキ。リキが元気で俺の傍にいてくれたら、俺は幸せなんだから」
そのまま一度深く口づける。歯列を追い舌を吸い上げ、ちゅぷちゅぷと音を立てた。そして唇を下げていき、リキの小さな乳首を唇で愛撫する。

「ふあ、あッ」
思わず喘いだリキの声を聞きながら、舌先で小さな粒を舐め転がした。舌先でぴんぴんと粒を弾くようにすればリキの身体も面白いように跳ねた。
「あ、それ、だめだ‥」
「‥じゃあ、こっち」
アヤラセの顔は胸から離れて下へと移動していき、リキの股間のあたりに到達すると、まだちからのないそれをぱくりと口に含んだ。
ぎょっとしたリキが思わずアヤラセの頭をつかんで離そうとするが、その腕を腹ってじゅるじゅると吸い上げてやる。瞬く間に陰茎は昂って芯を持った。
「アヤ、そんなの、いいっ、からっ!」
「ひいかは、らまっへ(いいから黙って)」
「そっ、そこで喋るな、ああ」

じゅるるッと吸い上げてから口から出し、硬くなった昂りの裏をべろりと舌を使って舐め上げる。そのまま幹を掌で扱きながら、亀頭のすべすべとした柔らかいところを舌でこじるように舐めた。
「ひゃっ、あ、あ、」
リキはたまらず精を吐き出した。びゅる、びゅっと何度かに分けて吐き出されたものを余すところなく舐め上げる。
「甘い‥」
その精はこの世の何よりも甘く、美味かった。その甘い味わいに、アヤラセは(間違いなくリキは自分を愛してくれている)と、感じて安心する。
だがその一方で、愛する相手の体液の甘さが愛情に比例するのだと、常識として知らないリキの中に落ちていくのは難しいのかもしれない、とアヤラセは思った。自分はリキの体液を甘いと感じ安心できるが、リキは真の意味では安心できないのかもしれない、と。

その愛情を理解してもらうべく、アヤラセは蜜を零しているリキの後孔へと指を伸ばした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会長様を手に入れたい

槇瀬陽翔
BL
生徒会長の聖はオメガでありながらも、特に大きな発情も起こさないまま過ごしていた。そんなある日、薬を服用しても制御することができないほどの発作が起きてしまい、色んな魔の手から逃れていきついた場所は謎が多いと噂されている風紀委員長の大我のもとだった…。

ひろいひろわれ こいこわれ【完結済み】

九條 連
BL
母を突然の事故で喪い、天涯孤独となった莉音は、ある夜、道端で暴漢に襲われかけたところをひとりの男に助けられる。 莉音を庇って頭を殴られ、救急搬送された男は青い瞳が印象的な外国人で、一時的な記憶喪失に陥っていた。 身元が判明するまでのあいだ、莉音がその身柄を引き受けることになったが、男の記憶はほどなく回復する。男は、不動産関連の事業を世界的に展開させる、やり手の実業家だった。 この出逢いをきっかけに、身のまわりで起こりはじめる不穏な出来事……。 道端で拾ったのは、超ハイスペックなイケメン社長でした――  ※2024.10 投稿時の内容に加筆・修正を加えたものと差し替え済みです。

【本編完結】異世界で政略結婚したオレ?!

カヨワイさつき
BL
美少女の中身は32歳の元オトコ。 魔法と剣、そして魔物がいる世界で 年の差12歳の政略結婚?! ある日突然目を覚ましたら前世の記憶が……。 冷酷非道と噂される王子との婚約、そして結婚。 人形のような美少女?になったオレの物語。 オレは何のために生まれたのだろうか? もう一人のとある人物は……。 2022年3月9日の夕方、本編完結 番外編追加完結。

女神様の間違いで落とされた、乙女ゲームの世界で愛を手に入れる。

にのまえ
BL
 バイト帰り、事故現場の近くを通ったオレは見知らぬ場所と女神に出会った。その女神は間違いだと気付かずオレを異世界へと落とす。  オレが落ちた異世界は、改変された獣人の世界が主体の乙女ゲーム。  獣人?  ウサギ族?   性別がオメガ?  訳のわからない異世界。  いきなり森に落とされ、さまよった。  はじめは、こんな世界に落としやがって! と女神を恨んでいたが。  この異世界でオレは。  熊クマ食堂のシンギとマヤ。  調合屋のサロンナばあさん。  公爵令嬢で、この世界に転生したロッサお嬢。  運命の番、フォルテに出会えた。  お読みいただきありがとうございます。  タイトル変更いたしまして。  改稿した物語に変更いたしました。

変態しかいない世界に神子召喚されてしまった!?

ミクリ21
BL
変態しかいない世界に神子召喚をされた宮本 タモツ。 タモツは神子として、なんとか頑張っていけるのか!? 変態に栄光あれ!!

【完結】幽閉の王を救えっ、でも周りにモブの仕立て屋しかいないんですけどぉ?

北川晶
BL
 BLゲームじゃないのに、嫌われから溺愛って嘘でしょ? 不遇の若き王×モブの、ハートフル、ファンタジー、ちょっとサスペンスな、大逆転ラブです。  乙女ゲーム『愛の力で王(キング)を救え!』通称アイキンの中に異世界転生した九郎は、顔の見えない仕立て屋のモブキャラ、クロウ(かろうじて名前だけはあったよ)に生まれ変わる。  子供のときに石をぶつけられ、前世のことを思い出したが。顔のないモブキャラになったところで、どうにもできないよね? でも。いざ、孤島にそびえる王城に、王の婚礼衣装を作るため、仕立て屋として上がったら…王を助ける人がいないんですけどぉ? 本編完結。そして、続編「前作はモブ、でも続編は悪役令嬢ポジなんですけどぉ?」も同時収録。

【本編&番外編完結】末っ子令息が魔王の生活改善をしたら、執着溺愛されました

伊藤あまね
BL
【11/24本編完結&11/26番外編完結】 ネガティブ魔王✕みそっかすな末っ子令息 凶事=魔王の機嫌次第とされる異世界のポレール国北部のベリエでは、月に一度魔王の機嫌を取るために生贄が差し出されている。 ベリエに住む伯爵の末令息・二コラは、魔王の機嫌を損ねた不義の子として存在を軽視されがちで、家族に従者同様な使いをされ、常に孤独を覚えていた。 ある年、干ばつ被害の鎮圧のため、魔王への生贄として姉に白羽の矢が立つも、強く拒まれ、代わりにニコラが嫁ぐことに。 しかし魔王は、「人間は信用ならないから嫌いだ」と、二コラの正体を見抜いたうえ、不遜な態度をとり続ける。その上ネガティブで不健康な生活環境に身を置いて卑屈な態度で、しかも悪の象徴である竜になることもできず全く魔王らしくない。 見兼ねた二コラは、得意の家事等で魔王の生活改善を行うことを決め、次々と魔王の生活を改めていくのだが―― 異世界で生活改善BLが始まる!!

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
恋愛
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。 さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった! しかしハルの血が特殊だと知った騎士はハルを連れ帰って? いっそ美味しい血と癒しを与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

処理中です...