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しおりを挟むメイクの落ちてしまった部分を優しく拭い終わると、清永は伽羅の顔を両手で挟んで自分の方にくいっと向けた。
「伽羅は、俺のこと‥どう思ってる?素直な今の気持ちを聞かせてくれ。少しでも俺に、チャンスはあるか?見込みはないか?」
目の前に、整いすぎる程整った美しい清永の顔がある。伽羅はあまりの近さにあわあわしながら言った。
「ちょ‥あの、ちょっと、近い!近いです!」
慌てふためいている伽羅の様子を見て、くくっと含み笑いをしながら清永は少し伽羅から距離を取った。肩は依然として抱いたままだ。伽羅は右半身にくっついている清永の身体の説を感じながら、もそもそと喋った。
「あの‥私は、お付き合いとかもしたことがないですし、すっごく誰かを好きだ、と思ったこともないんです」
「ああ、聞いてる」
清永は軽くそう受け流した。伽羅は清永の手から顔を外して下を向き、うう、と唇を噛んだ。
同い年のはずなのに、なんでいつも清永は余裕があるんだろう、愛を乞うようなものの言い方をしているはずなのに、全然そんなふうに聞こえない。私が色よい返事をしてくれるだろうってわかってるように聞こえる。
伽羅はそう考えて、またうう、と唸った。そんな伽羅の肩を清永がぽんぽんと軽くたたく。
「ゆっくりでいいから、伽羅の思っているところを全部言ってくれ」
やっぱり余裕だ。
嫌われたりしたこと、ないのかな。
嫌われても、平気なのかな。
「清永さんは不安になったりしないんですか?」
そう切り出した伽羅に、清永は少し首を傾げた。
「不安?」
「‥自分の好きな人が、自分から離れていくかも、とか、自分のことを好きじゃないかも、とか」
下を向いたままそう言葉を続けた伽羅を、清永はぐっと抱き寄せた。
「伽羅は、不安なのか?俺が伽羅を好きかそうでないか」
「いやっ、え、あの、」
「好きだ、伽羅」
下を向いていた伽羅の顔を、再び清永の手が捉えて清永の方に向けさせる。目も鼻も真っ赤にしている伽羅を見て清永は微笑んだ。
「不安にさせていたのか‥?俺は、結構わかりやすく、伽羅に愛情表現していたつもりだったけどな」
「‥でも、私と清永さんでは、色々なことが違いすぎます」
「伽羅はそう言うことが気になるのか?」
頬を挟んでいる清永の手をそっとまた外しながら伽羅は言った。
「気にならない方がおかしいでしょう?このひと月余りでおわかりだと思いますけど、色々なものの価値観が私と清永さんでは天と地ほども違うんです。‥例えば清永さんのご両親や周りの方々が、私で納得するとは思えません」
清永は外された手でぐっと伽羅の両肩を掴んだ。痛いほどに力が込められている。真剣な様子で伽羅をじっと見つめる清永に、伽羅は、ドクンと心臓が大きく拍動したのを感じた。
「それは、伽羅の気持ちの上では俺のことを認めているということか?‥伽羅は、伽羅も俺を‥好きでいてくれるのか?」
あ、と伽羅は思ったが、もうそれ以上の言葉が出てこない。
確かに、今の伽羅の言葉は、伽羅が清永のことを好きでないと出てこないものだ。
「伽羅」
真面目な顔でじっと伽羅を見つめてくる清永の顔を直視できない。
「‥‥た、ぶん、‥清永さんのことを‥あの‥好き、だと思います‥‥」
伽羅のその言葉を聞いた清永は、大きく目をみはった。
首まで赤くして恥ずかしがっている伽羅が目の前にいることが信じられない。
俯いている伽羅の顔に、清永は恐る恐る触れた。熱くなっている頬が、伽羅の気持ちを代弁してくれているかのようだ。
「、伽羅」
「‥‥はい」
「俺が、好き、か?」
伽羅はぎゅっと目をつぶった。
「はい!好きです!あの、せ、清永さんが好きなんですけどでも清永さんの好きがあの友人としての好きなのかそれともあの庶民が珍しいから面白くて好きなのかわからなくて、あの私は多分、男性として清永さんを意識しているっていうかあの好きっていうかでも清永さんが私のことをそんな風に好きかわからな」
羞恥のあまりこれまでが嘘のように一気に話し出す伽羅の言葉を聞いた清永は、伽羅の背中と後頭部に腕を回しぐっと自分の中に抱き込んだ。
そして、まだ話している途中の伽羅の唇を塞いだ。
「んう、ん?!」
急に口づけられた伽羅はあっけに取られて変な声を出した。だがその声も、清永の唇の中にのみ込まれていく。
柔らかい清永の唇が、自分の唇に触れているのだ、と認識して伽羅はまたかあっと全身が熱くなるのを感じた。
え、ちょっと待って、これは噂に聞くキスというやつでは‥?
私、清永さんにキスされてる‥‥?
伽羅がそう自覚するまでの数秒間で、清永は伽羅の唇に舌を挿し込み歯列をこじ開け、その咥内を舌先で愛撫した。
あっという間に咥内を蹂躙されて完全に伽羅の脳内は茹で上がった。思いもよらない快感に翻弄されて伽羅はへにょへにょになる。
それでも、何とか弱々しく清永の胸に手をついて自分から清永を引き離した。
清永もはあはあと息を弾ませ、目を潤ませて伽羅を見ている。濡れた唇を清永が拳でぐいと拭うのを見て、また伽羅は恥ずかしくなった。
清永は何も言わず、今度は全身で伽羅を抱きしめてきた。キスよりはましなそれに、伽羅は大人しく身を任せた。
清永の腕の中に抱き込まれ、じっとしていると清永の拍動も伽羅の身体に伝わってくる。自分だけがドキドキしているのだと思っていたのに、身体を通して伝わってくる清永の拍動は伽羅に負けずどくどくと早かった。
「せ。いえい、さん」
「伽羅、好きだ。伽羅も、俺を好きなんだな?」
「‥はい」
「ありがとう、伽羅。‥好きだ、愛してる。何も心配するな。伽羅を手に入れるためなら俺は何でもできる」
清永は少し震えた声でそう言うと、またぎゅうっと力を込めて伽羅を抱きしめた。伽羅もそっとそのたくましい背中に腕を回して抱きついた。
「あの、‥私も、清永さんの隣にいるために、できる努力は、します‥」
「伽羅」
もう一度伽羅の顔を捉えて口づけようとしたとき、ガチャリ、とドアが開錠される音がした。
「ただいま?姉ちゃんもう帰ってる?」
「清永さんの車がありましたからね、いますよ‥あ、ほらい‥た‥」
ソファの上で抱き合っている二人を見て、左柄がやや驚きながら。しかし非常に面白そうな顔をしながら見つめてきた。
檀は入り口近くで足が止まっている。
「あ~、檀くん、俺と一緒にラウンジでお茶しない?パフェ食べちゃおうよ~」
「‥‥要らない」
左柄に声をかけられた檀は、短くそう返事するとタタッと奥へ進みベッドルームに向かった。
「檀、」
清永の腕の中から伽羅が声をかけたが、檀は振り向きもせずベッドルームに入るとバタンとドアを閉めてしまった。ベッドルームのドアには鍵がかかるわけではないので、入ろうと思えば入れるのだが、どうにも檀の様子は人を受け付けない何かを醸し出していた。
「檀‥」
伽羅が力なくそう呟いてもベッドルームのドアは開かない。
清永に目配せされた左柄が、明るい声を出す。
「いや~難しい年頃ですもんね。ちょっと俺が話してきますよ。‥清永さんは伽羅さんと少し外に行ったら?」
「わかった、‥伽羅、行こう」
「でも、」
清永は伽羅を立ち上がらせながら言った。
「今の場合は、愛善に任せた方がいいと思う」
「そう、でしょうか‥」
「そうですよ~、はいはいいってらっしゃい!」
急き立てるような左柄の言葉に押されて、伽羅は後ろ髪をひかれながらも清永と一緒に部屋を後にした。
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