朧月

容赦の無い人

1.8

立花さんが無言で帰っていった後から、連絡が途絶えてしまった。
職場にも朋美と立花さんが揃って顔を出さなくなり、社長は新しい人を3人迎え入れて、田植えの手伝いや蜂の巣駆除等の仕事を黙々とこなす。

「社長ー！見て、日焼けの跡凄いでしょー！！」

肘から下にかけて真っ黒になった肌を見せると、社長は頭に巻いたタオルを取る。その姿はとても可笑しくて。

「ツートン頭だー！！」

「はは、もう嫌になっちゃうよ…」

指をさして盛大に笑うと、つられて新人の3人もゲラゲラと笑い始めた。
現場で一番ドジな相原くんも上半身裸になり、タンクトップの形がくっきり付いた自分の姿で笑う。

「まだ5月なのにこれっすよ、8月やばそうっすよね！」

「もう全裸で仕事しないと酷い事になっていっちゃうよね～、股間も焼かなきゃ！」

パッと股間を押さえて
ここは黒くなっちゃ駄目っすよと笑う相原くん。

「そーいやこの前、社長の息子さん見ましたよ！色白で短髪のイケメンっすよね！」

「よく覚えてたねぇ、一回しか見た事無いでしょ？」

「あんな社長に似てない美形、すぐに覚えちゃいますよ！」

堂々と社長をディスり、頭を思い切り叩かれていた。
人が増えたおかげでとても楽しく、好きだったはずの立花さんの事さえ考えない日々。

【見て！テスト全教科満点！】

朋樹からは勉強を頑張っている内容のメール。叔母さんの家に行く事にしたそうで、少しだけ安心した。

だが、肝心の高卒認定の勉強は私しかしていない。
朋美のお母さんに怒られちゃう！！

急いで会社を出て朋美のお母さんに電話し、朋美が帰っていないか連絡すると、

『連絡がつかなくなったの…、突然…』

酷く落ち込んだ声色。
一旦切って電話をかけるが、電源を切っているのか何回掛けても繋がらない。

「もしもし！朋美の居場所知りませんか！」

『え、大葉ちゃん？知らないけど何で？』

立花さんに急いで連絡し、3回目のコールで電話に出た。
しらばっくれた様子で、居場所など教えようともしない。

「この前朋美が、立花さんに聞いてないの？って言ってたから！教えて下さい」

何も答えず、突然切られた電話。
もう何回かけても繋がらないままで。

立花さんに連絡してしまった事を、酷く後悔する日がくるなんて想像もしていなかった。