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容赦の無い人
2.1
しおりを挟む車を30分程走らせると、大きな家の前に辿り着いた。
お姉さんは立花さんをロープでグルグル巻きにして、車に鍵をかけて私と一緒に外に出る。
「一緒に住んでるって事?私が来た時は誰も居なかったけど」
「お姉さんが入ってない部屋とかに居るんじゃ無いですか?」
渡された鍵を差し込むと、鍵は開いていて、中からはドタバタ走る足音が聞こえてきた。
泥棒!?と思い二人で身構えると、中から出てきたのは汗だくになった社長。
そして、血まみれの朋美。
「わぁ!!…なんで葛原さんこんな所にいるの!仕事は!?」
「あっ」
携帯を見ると、大量の着信が。
急いで電話を掛けると道重は『何サボってるんすか!!鬼!!』と半泣きで怒っている。
「シゲちゃんごめん!今日戻れそうにないから頼んだ!」
電話を切ろうとした時、社長が私の携帯を取り上げて
「今からすぐに行かせるから、少しだけ3人で出来るかな?ごめんね、うん、じゃあね」
勝手にそう言い電話を切った。
社長は携帯を私に渡すと、すぐに戻りなさいと言って朋美をアスファルトの上に座らせる。
「何でですか!?ともちゃんがこんなに傷ついてるのに!」
「仕事は遊びじゃ無いんだよ、僕に任せてって話をしたはずじゃあないか。どうしてここに居るのかはそこのお嬢さんに話しを聞かせてもらうから、とっとと仕事に戻りなさい」
「でも…」
「もうじき警察が来る、話し終えたらすぐ連絡するから頼むよ」
「うああああああ!!バカァァァァァァ!!」
泣きながら全速力で走り去って行く葛原ちゃんと、その姿を見て涙を流す大葉ちゃん。
息子には、前科があった。
前妻と子供への暴力だ。
息子がおかしくなっていったのは、妻が不倫をしていて他の男とsexをしている現場を見てしまってからの事。
日に日におかしくなっていく息子の姿を見ていながらも、僕は見て見ぬふりをしてしまった。
大葉ちゃんと弟さんが震えながら泣く姿は、あの時の息子と被って見えて。
「ごめんな…晃。僕が愛情という物の与え方を教えなかったからだな…」
ロープでグルグル巻きにされ、顔面が傷だらけになった息子の顔を見て、ひたすらに謝り続けた。
「仕方ないじゃないか…誰も愛してくれないならこうするしか繋ぎ止められない…だから…」
「あんたがくだらない男だから皆離れてくんだよ、皐月はあんたの事好きだったのに、突き放したのはあんただろ」
芋虫のような格好で泣く立花の姿は滑稽で、無意識に心の中で留めていたかった言葉が溢れる。
誰も愛してくれないんじゃない、自分が誰も愛してないだけだ。
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