朧月

容赦の無い人

2.2

仕事場に戻ると、半泣きで汗を滝のように流しながら怒る3人組。
的場さんはクスクスと笑って、ギャン泣きする私の頭を撫でてくれていた。

「あっ！的場さん！僕の頭も撫でて下さいよ！」

ほらほら、と頭を差し出す相原の頭を思い切り叩いて笑う的場さんの姿は、どこか母と重なって見えた。

「何があったのかは聞かないわ。でもね、泣くのは辞めなさい。不細工な顔してるわよ」

サッと差し出された鏡を見ると、見るも無残な私の顔面。

「何このブス！！目が腐っちゃう！」

「葛原さんぶっさ～！！」

「竹内だって真顔が変顔みたいなくせに！」

ギャアギャアと騒ぎながら仕事に戻り、とにかく早く朋美と話がしたい一心で草をむしり続けた。
後から聞いた話し、こんなに早くむしれるなら何故最初からやらなかったんだと言われる程に素早いスピードだったそうだ。

「うおおおおお！！草めぇぇぇ！！生えてくんなぁぁぁ！！」

「うるさいっすよ！」

「関係ねぇよおおお！！うおらぁ！！」

鬼の様な顔で草をむしる葛原さんと、踊りながら除草剤を撒く道重。
竹内にいたっては、草刈機を振り回しているではないか。

「俺しかまともな人居ないんじゃないか…？」

癖の強すぎる3人をマジマジと見つめると、「とっととむしりまくれこのタコ」と葛原さんは言う。
誰がタコだ。

「そんなに急がなくても、明後日までこの仕事なんでしょ？何でそんな急ぐんですか？」

「相原には関係ねぇ！はっ！」

根が堅く張っていて、男3人でも抜けない背の高い草を一人で引っこ抜く。
すげぇ、と道重と竹内は拍手をして興奮している。
俺も心の中で興奮した。
ゴリラのような女を見たのは初めてだからだ。

15時の時点で、今日中に終わらす箇所全てを終わらせるとすぐに煙草を吸い始める葛原さん。
タオルを首に巻き股を思い切り開いて煙草を吸う姿はおっさんそのもの。

「未成年が煙草すっちゃ駄目っすよ」

煙草を取り上げて俺が吸うと、恨めしそうにカッと睨みつけてくる。

「相原ぁ…あんた今いくつ？」

「23っすよ！だから俺は吸っても合法なんっす」

「煙草は20歳までだごるぁ！返せ私のニコチン！」

「駄目っすよ体に悪いんすから！まだ18歳なんだからあと2年は我慢して下さい！」

チッと舌打ちをして500mlのエナジードリンクを一気に飲み干し、片付けを始めた。
相原は法律関係の仕事に就きたかったが、大学受験で見事に4年浪人し、諦めて友人二人を連れてこの会社に入ったそうで。

「何でこんな踏み付けられまくった道端のティッシュみたいな気分なんだろう」

晴れ渡る晴天の空を見て、溜息が漏れた。