朧月

容赦の無い人

2.3

『朋美ちゃん、あんなに気が強かったんだねぇ』

社長からやっと連絡が来たのは、午後21時を回った時の事。
泣きじゃくる立花さんを、朋美は容赦無く罵りまくっていたそうだ。

「すぐにそっち行きます」

『わかった、待っているね』

電話を切ってすぐに、病院まで全力で走った。
言われた病棟に行き6階の一番奥の病室を勢いよく開けると、包帯やガーゼで全身を覆われた朋美が座っていた。

「なに…裸足で来たの？」

ボロボロ泣きながらベッドの側まで来て泣き崩れる皐月の足は、傷まみれになっていて。

皐月が仕事に戻った後、私は立花に暴言を吐きまくっていた。
「もうやめてくれ」と言う社長の静止を無視して、何度も、何度も。

警察と救急車が５分ほどで到着してすぐに、私は救急車に乗せられた。
社長は警察の対応に追われ、私の手を握ってくれる人は居なかった。

でも、皐月は手を思い切り握って
「私に嘘ついた罰として塩塗ってあげるね！」と泣き笑いを見せる。
とても、暖かかった。

「息子が本当に申し訳無い事をしてしまったね、だけどあの子がああなってしまったのは父親である僕の責任だから…本当にごめんなさい」

社長は深々と頭を下げ、静かに病室を出て行く。その姿はとても小さくて、寂しそうだった。

「あのね皐月、驚かないで聞いてくれる？」

「もう充分驚かされたからもう驚かないよ！カモン！」

「立花さん、逮捕にはならないみたいなの」

「はぁ！？え、ちょ、えぇ！？」

皐月は目を大きく見開き
髪の毛をガシガシと掻きながら挙動不審になっていて。
思わず笑みが溢れる。

「身柄は拘束されたらしいんだけど、一応付き合っていたし立花さんの家に転がり込んだの私だから…。DVをしていたってだけだと罰金払えば出てこれるんだって」

普通なら怖がって泣き叫んでもおかしくない話を、何故か朋美は淡々と話す。
何処か、逮捕されない事に安堵しているような雰囲気が漂っていた。

「ねぇともちゃん、まさか本気であの男に惚れたとか言わないよね？」

「チンコは小さいしすぐ暴力に走るし滅茶苦茶な人だけど、皐月に似てるから放っておけないの」

無邪気で、感情を剥き出しにして、それでいて優しい。
あの人には私が着いていなきゃ。
そう告げると、皐月は私の両頬をパンっと叩く。

「それは違うよ。暴力は愛じゃない、支配したい為に殴るの。私は支配される程出来た人間じゃあ無かったから殴られなかっただけ。ともちゃんがそう思っているのは洗脳されているからなんだよ」

心配している皐月の言葉さえ、
この時の私には響かなかった。