朧月

変わる世界

6.0

「用意出来た？」

早朝６時から荷物を纏め、住み慣れた家を出る。
お父さんが借りてきたレンタカーのトラックに荷物を積み込み、お母さんの車に乗って地元を出る。

「皐月来なかったね」

朋樹は寂しそうに俯き、私は何度も謝った。
見知らぬ人からの嫌がらせは止むことは無く、朋樹の学校にまで足を運ぶ人が多かったそうで。

退院してすぐに引っ越しをしよう、と決めていたと聞かされたのは昨日の事だった。

「大丈夫、きっとまた会えるよ」

段々と見た事の無い風景が広がって行き、寂しさが一気に込み上げる。
全てをリセットしなければならない原因は私が作ったのに。

「2人とも、着いたら起こすからゆっくり寝てなさい」

お母さんに言われ、私達は目を閉じる。
一睡もしていなかったからか、すぐに意識を失った。


「そーいやこの手紙何だろう」

貰ったまま見忘れていた、朋美からの手紙を開けたのは夜の8時。
ぶっ通しで寝続けたおかげで、頭はボーッとしていた。

手紙に書いてあったのは、住所と今日の朝に引っ越すという内容。
急いで朋美に電話をかけると、案外すぐに繋がった。

「ごめん！手紙見たの今だったの！！引っ越しちゃったの！？」

『そーだよ、まあ皐月の事だから見るの忘れてるとは思ったけどね！また遊びに来てよ、遠いけど』

「どこでもドア作ったらすぐだよ！行くから寂しがらないでね！」

他愛も無い話をしばらくして電話を切り、リビングに降りる。
お母さんは吉野さんと一緒にご飯を食べている最中で。
来ているとも知らずにボサボサ頭の寝巻き姿だった私は、思わず悲鳴を上げる。

「うああああああ！！びっくりしたぁ！！」

「わぁ！！…おはよう？」

吉野さんも私の大きな声に驚きながらにこりと微笑む。
お母さんは溜息を漏らし、ペットボトルのメロンソーダを私に渡した。

「座って」

言われるがまま座り、メロンソーダを一気に飲み干す。
二本目をお母さんは机に置いて、記入済みの婚姻届を取り出した。

「今意見を聞かせて、私がこの人と結婚するの、賛成か反対か」

「全部書いてあるって事は私の意見聞く気無いって事じゃない？したいならすれば良いじゃん、私が結婚する訳でも無いのに」

少し反抗的な態度を取ると、お母さんは婚姻届をビリビリに破る。
私と吉野さんは驚いてお母さんの顔を見ると、お母さんは微笑んでいた。

「反対だって言うなら私はこの人を捨てるわ。記入済みなのは出すか破るかの二択だったからよ」

「えぇ…」

涙目になって俯く吉野さんの痛々しい姿を見て、私は賛成するしか無かった。
なんて恐ろしい人なのだ。