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小倉ひろあき

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42話 冒険者サンドラ5

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 シュイヴァンの暗き森、ここで最近メキメキと頭角を現しつつある冒険者パーティがいた

「サンドラ、オグマ、下がれ! リンの魔法が行くぞ!」

 ドアーティの指示でパーティがブラッドウルフとの距離を空ける。
 ブラッドウルフはそれを許さじと追撃を行うが、間に入ったドアーティがそれを槍で阻む。

「よし、やれっ!」
合点がってんでやんす! 焼き尽くせ、熱波ヒートウェイブ!」

 ドアーティの合図と共にリンが熱波の魔法を放つ。

 本来であれば熱波の魔法とは熱を放射し、敵の動きを止める魔法だ。
 だが、先天的に魔力の加減ができないリンが放つと凄まじい。

 可視化できるほどの熱線がブラッドウルフごと森を焼き、覚悟の上で巻き込まれたドアーティも「ぐあー」と悲鳴をあげている。

「ドアーティ、無事か!?」

 サンドラが近づくと、ドアーティは「なんとかな」と手を上げて応えた。
 直撃でなかったとはいえ、リンの魔法は凄まじい。
 精霊の加護があるドアーティでもかなり弱っているようだ。

「指や耳は焼け落ちてないし、目も見えてるな。良し回復薬ポーションを飲め。気つけ薬はいるか?」
「いや、いい。だいぶ落ち着いたよ。助かった」

 応急処置が得意なオグマがドアーティを助け起こしている。
 彼が加入したことでドアーティも『少しの無茶』ができるようになり、モンスター退治の効率は飛躍的に上がった。

「それにしてもすごい威力だね、ブラッドウルフの群れが一撃かい」
「ひひっ、皆さんが的を固めてくれたおかげでやんすよ」

 ドアーティの治療中、サンドラとリンはブラッドウルフの尻尾を切り取っていく。
 回復薬は高価なものだが、まともにモンスターの群れと戦うことを思えば安いものだ。

「ブラッドウルフが6、さっきのポイズンスパイダーも合わせたら11体。調子がいいね」
「もっともっといくでやんす!」

 サンドラとリンはのんきに会話をしているが、囮をやらされるドアーティからすればたまったものではないだろう。

「まあ、しかたない。さっきの戦いではこれが最適解だった……はずだ。だが回復薬ももったいないしなにより痛い。もうやらんぞ」
「ひひっ、さーせん」

 ドアーティのぼやきをリンが茶化す。
 だが、もはやドアーティにも怒る気力はなく「はあ、火を消すか」とさらにぼやくのみだ。

 見れば熱波でくすぶってる木々はかなりあるようだ。
 その奥で何かが動く気配をサンドラは察した。

「待ちな、何かいるよ……リン、魔法を準備してくれ」

 サンドラが注意うながすと同時に抜け目のないオグマがカチリとクロスボウの装填を済ます。

火球ファイヤーボールあと1回でやんす。敵が多いと――」
「それは残念だ。すでに囲まれてるようだ」

 リンの言葉をオグマが遮った。
 周囲には人の影のようなものがチラついている。

「ヤギの頭部に4本の腕か……あれはレッサーデーモンだな。4体――いや、6体か」
「バカな!? デーモン系のモンスターがこんなとこで出るのかよ! 森を燃やしたから出てきたのか!?」

 ドアーティが悲鳴を上げるが、いるものは仕方ない。

 レッサーデーモンは強力なモンスターだ。
 人間より一回り以上大きな体格と4本の手で驚異的な戦闘力を誇る。

 サンドラたちならば1体や2体ならなんとかなるだろう。
 だが、6体は無理だ。

「リンがぶちかます。あとは逃げる。ケツはアタイとドアーティ」
「ああ、それしかないな。リンの魔法が合図だ。いっそ森を火事にしてやれよ」

 サンドラとドアーティは互いに顔を見合わせニヤリと笑う。
 危機に際して笑い、死への恐怖と不必要な力みを抜いたのだ。

「行くでやんすよ! ぶち壊せ、火球!」

 リンが魔力球をフルパワーで放つ。
 それは火球というより爆発エクスプロージョンのように炸裂し、着弾点に炎のうずを巻き起こした。

「いまだ、走れっ!」

 ドアーティの合図でオグマとリン、続いてサンドラが走る。

 森に慣れたオグマの先導で一気に駆け抜けるが、大柄なレッサーデーモンは足も速い。
 1体がサンドラに追いつき、2本の右の手を一気に振るう。

「うわっと! 当たるかよ!」

 サンドラは身を縮め、木の枝や茂みを使いながら巧みにレッサーデーモンの間を外す。
 だが、背を向けながら防ぐハンデはなかなか重い。

 ついにかわしきれず、小盾で攻撃を受け、バランスを崩す。
 僅かな時間だがサンドラの足が止まり、レッサーデーモンの追撃が振り下ろされた。

「サンドラ、右にかわせ!」

 オグマの声を聞き、咄嗟とっさにサンドラは右に体を傾ける。
 すると迫るレッサーデーモンの顔面にボルトが突き立った。

(……!? いまだっ!)

 サンドラはこのスキを逃さず、下から片手剣ショートソードを突き上げた。
 刃は唸りを生じ、レッサーデーモンのアゴから真上に突き刺さる――必殺の一撃クリティカルだ。

「なめんじゃないよっ!」

 サンドラは威勢よく自らを鼓舞し、レッサーデーモンが倒れるのも確認せずに駆け出した。

「サンドラ、スイッチだ! 前にいけ!」
「助かるよ、任せた!」

 ここでオグマがサンドラと位置を変え、しんがりを交代する。
 オグマは幅広の剣ブロードソードを抜き、仲間の最後尾を受け持った。

蔦絡みアイビーバインドっ! 走れ、走れっ!」

 ドアーティが精霊術で周囲の植物を操作し、デーモンの進路を妨げる。
 このスキに皆が走り続けた。

「悪いね! トレインだ! 逃げてくれっ!」

 トレインとは、戦闘中に逃げ切れず、追撃してくるモンスターを引き連れた冒険者のことだ。
 当然だが、進路上の冒険者にも大変な迷惑をかける。
 ゆえにこうして大声を張り上げ、周囲に危険を知らせるのだ。

「うわっ! デーモンか!?」
「悪いっ! トレインだ!」

 途中で他の冒険者がいたが、サンドラたちも注意を促すだけで精一杯だ。

「見えたでやんす! おーいっ、トレインでやんすっ!」
「トレインだっ! 援護頼むっ!」

 リンとサンドラが森の村が見える位置まで走り抜けた。
 視界は広がり、森を抜けたのがハッキリと見て取れる。

 ほどなくして見張りが鐘を鳴らし、村の防衛隊が弓を構えて並ぶ。
 中には小ぶりなバリスタ(大型の据え置き型のクロスボウ)を構える者もいるようだ。

 そのままサンドラたちが村に接近すると、防衛隊から矢石が斉射された。
 的の大きなレッサーデーモンはこれをもろに受け、次々に倒れていく。

「はあ、はあ、はあ、助かったでやんす」
「ふうーっ、ヤバかったな。なんとか全員無事だ」

 疲労困憊のサンドラたちは崩れ落ちるように村の門をくぐり、地面にへたりこんでしまう。
 命がけの鬼ごっこはスリル満点だが、何度もやりたいことではない。

 サンドラは今回助かったのは奇跡みたいなものだと強く感じた。

「悪いがな、規則だ。すぐに冒険者ギルドに行ってくれるか?」

 防衛隊を率いる射手がサンドラを促した。
 トレインを引き起こし、防衛隊を出動させたのだ。
 説明の責任は当然ある。

「ああ、すまなかった。助かるよ」

 サンドラは防衛隊長と共に冒険者ギルドに向かい、今回の経緯を説明した。

 魔法の行使で今までも何度か森を焼いてしまったこと。
 深さ的に『出るはずがない位置』でレッサーデーモンに囲まれたこと。
 手に負えないモンスターの群れから逃げるため、トレインを起こして防衛隊を出動させたこと。

「ふーむ、それはダンジョンがお前さんたちを狙った排除だな。悪いが森の破壊をして排除を起こしちゃペナルティだ。この暗き森は出入り禁止になるだろう」
「分かってるよ。明日にはシュイヴァンの街へ向かうつもりさ。もう寄りつかないから正式な通達の必要ないよ」

 サンドラは少し意地を張り、ギルド職員に移動することを伝えた。
 この暗き森ダンジョンはサンドラたちを鍛え上げてくれた。
 なんだかんだで愛着はあるが、ペナルティではしかたがない。

「ひひっ、さーせん」

 悪びれずにリンが謝るが、彼女のせいではないとサンドラは感じていた。

「ま、しゃーないだろ。俺たちパーティの結果さ」
「ああ、リンの魔法が無ければ死んでいただろう。謝る理由はない」

 いつもはリンの軽口を叱るドアーティだが、今回ばかりは何も言わない。
 オグマも同様のようだ。

 こうして、サンドラたちは暗き森から離れることになった。


■パーティーメンバー■
 
サンドラ
レベル22、女性
偵察(上級)、剣術(上級)、投擲(中級)、罠解除(中級)、盾術(初級)、統率(初級)、交渉(初級)
 
ドアーティ
レベル24、男性
槍術(上級)、製図(上級)、調理(上級)、精霊術(中級)、農業(初級)、統率(初級)、精霊の加護|(ギフト)
 
リン
レベル21 、女性
攻撃魔法(上級)、第六感(上級)、看破(中級)、短剣術(初級)、先天性魔力異常|(ギフト)

オグマ
レベル24、男性
射撃(上級)、観察(上級)、剣術(中級)、隠密(中級)、モンスター知識(中級)、応急処置(中級)、体術(初級)、偵察(初級)
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