【ダンジョン公社、求人のお知らせ】 勤務地、72号ダンジョン。 オープニングスタッフ募集中。 未経験OK、アットホームな職場です。

小倉ひろあき

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64話 アンタも苦労してるな

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 骨拾いにわざと階段を見せた翌日、俺たちは暇を持て余していた。

 冒険者が全く来なくなってしまったのだ。
 変異を警戒してのことだろうが、俺たちは開店休業だ。

 ゴルンは酒を飲んでるし、タックは頬杖で婦人向け雑誌を読んでいる。

 リリーは昼寝をしているレオのブラッシング中だ。
 日に何度もブラッシングされるレオの毛並みはツヤツヤと輝いており、寝床のソファーのゴージャス感も相まって立派に見える。

 そして俺は、厨房でアンに教わりながらお菓子作りをしていた。

「よし、こんなもんでどうだ?」
「わー、きれいに笑ってますねえ。エドさん上手です」

 作っているのはサンダーアンダギー。
 魔王領にある地方の郷土菓子でズッシリとしたボリュームがあり、俺もわりと好きだ。

 さっくりと丸めた生地を低温の油でじっくり揚げるのだが、生地が膨張して表面が割れる。
 その様子が笑っているようだとも、花が咲いたようだともたとえられる縁起の良い揚げ菓子だ。

「上手にできましたね。サンダーアンダギー、免許皆伝です」
「お師匠さま、ありがたき幸せ」

 アンが「あはっ」と笑いながらサンダーアンダギーが満載された大皿をドンとテーブルに乗せた。
 調子にのって作ったので、かなりの量があるが……ドワーフが2人もいるし大丈夫だろう。

「……エドってお菓子作りまでできるんですね」
「いや、これはアンのおかげだな。リリーも食べてくれるかい?」

 リリーが「いただきます」とはかなげに笑う。
 なぜか弱っているが大丈夫だろうか。

「――リリーさん、1杯いくか?」
「いえ……あ、やっぱりいただきます」

 なぜかリリーまでもゴルン特製のハイボールを飲み始めてしまった。
 ウチの就業規定に飲酒はないが、リリーもなかなかの豪傑である。

「あはっ、私とエドさんはストレートティーにしますね。サンダーアンダギーに合うと思います」

 アンが嬉しそうにアイスティーを淹れてくれる。

 それにしても、リリーがなぜかナーバスになっているようだ。
 上品にサンダーアンダギーとハイボールを口に運んでいるが、やってることは隣の荒くれドワーフと変わらないからな。

「アンタも苦労してるな」
「……くっ、本人たちが無自覚なのがまた……」

 なにやらゴルンがリリーを慰めているが、意外と仲がいいのかもしれない。

「うん、おいしいっすよ! 板さん良い腕してるっすね!」
「はは、お褒めにあずかり光栄です。お客さま」

 タックはモリモリ食べ、ハイボールをジョッキで飲んでいる。
 サンダーアンダギーは甘いが、揚げ物だしハイボールやビールは合いそうな気がする。

「日持ちもするらしいから持って帰ってもいいぞ」
「あっ、それならすぐに用意しますね」

 アンが手早く食品用パックを用意し、タックとリリーに手渡す。

「あら、私もいただけるんですか?」
「はいっ、時間をおいてもしっとりしておいしいと思います」

 リリーはクスリと笑い「そうね、姉も喜びます」とパックを受け取っていた。

 もしかしなくてもリリーの姉とは魔王様だろう。
 はじめて作ったお菓子が魔王様に献上されるとか勘弁してほしい。

 その後もダラダラとお菓子食べたりボードゲームをしたりしていたが(本当にやることがないのだ)、不意にレオが「あおん」と鳴いた。

「レオさん、起きました。ご飯ですか?」

 アンが問いかけるが、レオは不服そうに「うわん」と高く鳴いた。

「おっ、モニターだな。冒険者が集まってきてるぜ」

 レオのメッセージを読み取ったゴルンがモニターを示す。
 そこにはダンジョンの外、回復の泉の側で柵や土嚢を積み上げる冒険者の姿があった。

 どうやらレオは昼寝しているようでモニターを把握していたらしい。
 いつもゴージャスなソファーで丸まっているが、仕事はしっかりしてくれているのである。

「柵や土嚢を組み立てた簡易的な陣……占有ではなく監視か?」
「おう、占有の時はモンスターが減った直後に暴走スタンピードだったからな。警戒したんだろ。今のとこピッタリ10人だ、まだ増えるだろう」

 いつもならリリーがテキパキと報告するのだが、酒精アルコールが入っているためか動きが鈍い。
 彼女は酒に弱くはないが、ホロ酔い状態のようだ。
 まったく酔いを見せないゴルンの反応が早い。

「現在11人に増えました。アベレージは17、高レベルはこの4人です」
「おっ、こちらも常連さんだぜ」

 見ればよく見る顔の女ドワーフのパーティーや、骨拾いもいる。
 ゴルンはよく利用する冒険者の顔を把握しているのだ。

「報告者の骨拾いは逃げられんだろうな」
「ふん、無理やり表舞台に引き上げたって、本人が望むとは限らねえぞ」

 俺はゴルンのボヤキを聞きながら「まあまあ」と曖昧に返事をする。

 このダンジョンの経営理念は『地域と共生』である。
 ならば利用者とも利益を分かち合うような……そんなことがあってもいい気がするのだ。
 骨拾いはそのテストである。

 うまくいけば互いにとって儲けもの。
 腕は悪くない骨拾いがパーティーを組んでダンジョンに挑戦するようになれば、ウチにもDPとして還元される。
 ダメでもウチに損はないし、骨拾いとっても階層発見の実績はムダにはならないだろう。

 骨拾いは冒険者たちに混ざり、組み立てずみの小さな柵を地面に打ちつけ、土嚢を積み上げている。
 集団を差配しているのは先日開拓村で見た男(45話参照)だ。
 やはり男はギルドの関係者だったのだろう。

「よし、それなら冒険者の防備が整ったところで残ってるモンスターをぶつけてやれ」
「了解、移動手段がないモンスターを除き、入り口付近に集めます。ゴーレムはどうしますか?」

 リリーも調子が出てきたようだ。
 俺は少しだけ考え「ゴーレム3、ガーゴイル6」と指示を出す。
 ゴーレムの生産は続いているので部屋が満杯になる前に消費しときたいのだ。

「了解です。3階層のモンスターはどうしますか?」
「そこは出さなくていい。2階層までのモンスターだけだ」

 リポップを止めたとは言え、モンスターはまだわりと残っている。
 簡易的な防壁はあるが、冒険者らも楽な戦いとはいかないだろう。

「ソルトゴーレム3、ソルトガーゴイル6、バンシーが3、ロッククラブが5、ウォーターゼリーが4です。スライムは3階層に回しました。いつでもどうぞ」
「もう少しだけ待とう。冒険者の数が15になったら一気に放流する」

 こちらとしても冒険者を殺したいわけではない。
 占有の時とは状況が違うのだ。

「冒険者、揃いました」
「よし、足の遅いゼリーとロッククラブはゴーレムに抱えさせて運ばせよう。一気に出すぞ!」

 俺の合図でモンスターたちが一気に放流された。
 先ずは足の速いソルトガーゴイルが先頭になる形だ。

 奇襲に対し冒険者たちは少し乱れたが、女ドワーフが中心となって防壁の後ろにまとまるようだ。
 ギルドの男は後方に下がり、女ドワーフに戦闘指揮を任せるらしい。

「悪くない、あのドワーフ……指揮が中級か。軍でも下士官なら十分務まるな」
「へっ、採点が甘えな。いいとこ兵長だろうよ」

 魔族領と人間の国に別れたドワーフの中には民族的にしこりがある者も多い。
 ゴルンの女ドワーフに対する評価がからいのも仕方がない部分もある。

(ま、露骨に差別発言しないだけゴルンもたしなみがあるんだよな)

 俺だけならまだしも、ここには他のスタッフもいるのだ。
 出自差別的な発言はあまり良い顔はされないだろう。
 生まれは自分では選べないのだから、それを侮辱するものではない。

「おおっ!? 罠を使ってるっすよ!」
「む? 罠設置……なるほど、骨拾いか。やるな」

 足を引っ掛けたり、木からモノが落ちてくるような単純な罠だが、直線的に攻撃するダンジョンモンスターには効果的だ。
 ガーゴイルの動きを止めたところで柵の内側から矢石が飛び、数を減らしていく。

 しかし、ガーゴイルは十分に露払いの役は果たした。
 続くゴーレムが防御柵に突っ込み、同時にウォーターゼリーとロッククラブが投げ入れられて冒険者たちを混乱させている。
 バンシーも追いつき、完全な乱戦模様だ。

 こうなれば個の力で勝る方が勝つ。
 あっという間にゼリーやロッククラブは数を減らし、ゴーレムやバンシーも囲まれて討ち取られていく。
 負傷者は多数でたものの、冒険者に死者はいないだろう。

「やるねえ。なかなかいいとこを揃えてきたみたいだな」
「ふん、あれだけ備えてたのに防御柵を破壊されてるじゃねえか」

 ゴルンは辛口採点だが、防御柵は冒険者の命を守るためのモノだ。
 陣地をいくら壊されても犠牲者がいなければ大成功だろう。

「しかし、骨拾いは思わぬ活躍だな」
「ああ、器用なもんだぜ。罠設置なんて工作兵以外では珍しいヤロウだ」

 冒険者たちは負傷者を回復の泉に集め、無事なものは柵を直しているようだ。
 恐らくは二波に備えているのだろう。

「うーん、そろそろダンジョンを探索してほしいとこだが……どうしたもんかねえ」
「ここで膠着しても滞在ポイントがオイシイっす! 放置っすね!」

 なかなかタックが計算高いことを言う。

「それもそうか。ポイントが増えたら3階層のモンスター増やすのもアリだな」
「アリっす! 大アリ食いっすよ!」

 タックは皮算用で喜んでいるが……さて、次はどうなるだろうか。
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