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最終回 物語はこれでひと区切り
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さて、かくして魔王城の反乱騒動は終わりを迎え、俺は停戦交渉のさなかに慌ただしく結婚することとなる。
というのも、リリーに一発で命中したらしくて……心あたりがありすぎて疑う余地もない。
腹が目立つ前にリリーと結婚となれば魔王様も「ずるいぞっ」と騒いで、そちらも急ピッチで進行して大変な騒ぎだった。
なにしろ、国をあげての大慶事なのだ。
その合間に人間の国との停戦交渉も参加したわけだが、こうした外交ってのはすり合わせが大切らしい。
俺は実務ができないし、結婚式の関係が忙しすぎてチョイチョイ顔を見せる感じだ。
だが、そんな中でも『王配』が出てくるのはわりと効果があるらしく、使節団には喜ばれている。
なんでも俺は人間の国では軍人として恐れられているらしく、勝手に向こうが『武断政治をやるだろう』『侵攻作戦は俺が主導している』と勘違いしてビビっているのだとか。
政治に口出しする気はあまりないが、うまくまとまるなら俺の名前くらい使ってほしい。
そんな停戦交渉の最中に2人と結婚したわけだが、今のところは俺がそれぞれの部屋に出向く通い婚みたいな形で生活している。
なるべく平等にしてるはずだけど、マリーいわく『リリーのほうが多くてズルい』のだそうだ。
いやまあ、その辺りは俺は元々リリーの婚約者だったわけだし、娘の母親だし、仕方がないのではなかろうか。
リリーは怒ると怖いし。
あと、覚悟はしてたが王配ってのはかなり儀礼的な仕事が多い。
さすがにダンジョンとはかけもちできるスケジュールではないので、俺は公社を退職。
後をゴルンに任せて公務に専念する形となった。
忙しいけど四六時中マリーと一緒にいられて嬉しいとか考えていたが……仕事中のマリーは驚くほどマジメなのだ。
俺は何度も『ちゃんとしろ』『自覚を持て』と叱られてしまうほどである。
貴族的な教育を受けていない俺は恥のかき通しだ。
まあ、その後のフォローでマリーが『落ち込んでるのか?』『オッパイ触るか?』と慰めてくれたりするので不満はない。
それはさておき、俺だけではなく皆の生活も紹介していこうと思う。
◆
タックは大いに出世し、ダンジョンのみならず、さまざまな魔道具のデザイナーとして活躍。
彼女のデザインした魔道具は2度もグレートデザイン賞を受賞し、いまや有名デザイナーの仲間入りを果たした。
72号ダンジョンの担当は後輩に引き継ぎ、忙しく飛び回っているらしい。
なぜかローガンと電撃結婚したが、わずか9ヶ月で離婚。
その理由は「なんかイイかもって勘違いしたっす!」とのことだ。
タックはなんだかんだでエリートだし、元冒険者のローガンとは色々とすれ違いも多かったのだとか。
◆
ゴルンには俺の退職後ダンジョンの所長を引き継いでもらった。
統率に長けているし、書類仕事も下手じゃないゴルンは72号ダンジョンを発展させ、拡張を続けていく。
今では8階層まで増設され、公社の主力ダンジョンの一角である。
本人はたまに謎のドワーフとしてマナーの悪い冒険者を懲らしめるらしく、ヤクザドワーフと言えばわりと有名なユニークモンスターなのだとか。
タックが担当から外れて寂しそうにしていたが、娘の活躍は嬉しいようだ。
俺とはたまに飲みに行く友達づき合いをしてくれている。
◆
アンは数年ほどダンジョンで経験を積んだ後、公社に転籍した。
公社でもキャリアを重ね、いつしかダンジョン立ち上げのスペシャリストとして活躍したようだ。
文通してた斧戦士とたまに会ったりしてたそうだが、タックとローガンの破局? を見て『文化の差は大きいな』と判断しふってしまったらしい。
その後、31才のときに9つも下の新入社員と結婚した。
意外と言えば意外だが、世話好きの彼女らしいんじゃないかとリリーも笑っていた。
◆
レオは27才までダンジョンで働いていたが、老齢になりアンに引き取られてヨボヨボになるまで余生を送った。
亡くなった後、アンがレオの子どもたち(何人かいたらしい)と共に遺産を相続したのだが、なんとアンの分だけで4000万魔貨もあったのだとか。
ガティートはライフスタイルとしてあまり金を使わないことに加え、ダンジョン住まいのレオの収入はそのまんま貯金になっていたようだ。
ちなみにアンの続柄は『内縁の妻』になっていたらしい。
レオなりの恩返しだったのは分かるが、ちょっと面白い話だ。
◆
サンドラはなぜかリンと共に、ダンジョン公社のキャンペーンガールをやることになった。
現役の冒険者だった彼女らが大騒ぎしながら各地のダンジョンを攻略する映像は大ヒット。
その動画に俺も正体を隠してゲスト出演したんたが、なぜか一発で身バレして『ヤリキングおつ』『サンドラさまに近づかないでください』『離れてリンたん! 妊娠しちゃう!』とかメチャクチャ叩かれたぞ。
まあ、いいけど。
特にサンドラはモデルや俳優としても活躍の場を広げ、ハスッパな雰囲気と率直な物言いで人気を獲得した。
意外に素朴なところもある彼女はタレントとして高いポテンシャルがあるようだ。
そして、サンドラは人気絶頂の中、未婚のまま妊娠して大騒ぎになるのだが……まあ、色々あるんじゃないかな。
ちょっとした『事情』があって俺とはちょこちょこ会ってたりする。
◆
ドアーティは魔王領で実業家となった。
もともと料理人になりたかったらしく「どこか紹介してくれ」ということで親父さんの店で修行に入る。
その後、今までに貯めた資金と、魔王様救出の褒美で『ダンジョンズ』というバーを出したが、この店が大繁盛した。
いわゆるコンセプトバーというやつで、冒険者ギルドの酒場をイメージしたものだが、これがウケたのだ。
ぶっちゃけ、簡単な料理とドリンクをワイルドな器で出すだけなのだが、若いOLの女子会で大人気なのだとか……世の中は何が流行るか分からない。
革鎧で客あしらいするドアーティもまんざらでもなさそうである。
近いうちに支店の展開も考えているそうだ。
◆
リンはサンドラと共にマルチタレントとして活躍している。
魔法団や研究所からスカウトをうけたのだが「オイラに勤め人はムリでやんす」と断ったそうだ。
本人は欠けた前歯を治したいらしいが、プロデューサーに『トレードマークだから』と止められているとボヤいていた。
独特の方言と欠けた前歯でお茶の間の人気者なのだとか。
不思議なことにリンは謎のコミュニケーション能力を発揮し、マリーの友達としてよくプライベートスペースに出入りしている。
理由は本当によく分からない。
なんのしがらみもないリンの気安さはマリーにとって好ましいようで『初めての友達なんだ』と嬉しそうにはにかんでいた。
30近くなって初めての友達ができたと聞き、俺は少し複雑な気分になってしまうが……今が楽しければそれで良しだろう。
よく2人で一緒にお出かけしているようだ。
◆
オグマは人間の国に帰った。
今回の報酬で田舎に土地を得て、農場を拓くそうだ。
「また何かあったら呼んでくれ、仲間だからな」
そう言い残してクールに去ったのだが……緊急連絡用に持たせたメーラーでリンがちょこちょこチョッカイをかけているらしい。
なんだかんだでサンドラパーティーは仲がよく、年に何度かは顔を合わせるそうだが、それもリンのおかげなのだろう。
余談だが、人間の国では姓を名乗るのは貴族や富裕層の特権らしく、鑑定の魔道具で『オグマ・リリーリテーナ』と表示されてちょっとした騒ぎになったそうだ。
腕の良いオグマは事情があり主家を捨てた騎士だと勘違いされているのだとか。
◆
ローガンはなかなか見込みがあるので、俺が軍に推薦しておいた。
とりあえず超スペシャル促成ブートキャンプコースにつっこんだのだが無事に乗り越えてくれたらしい。
これからは対勇者部隊の最前線に放り込まれる予定だ。
サンドラから教わった斥候の技は魔王軍にはない独特のものでなかなか重宝されているとか。
タックに振り回されて離婚歴がついてしまったが、まだまだ若いし頑張ってほしい。
◆
エステバンたちは森に帰った。
これからもシェイラやレーレたちと仲良く暮らしていくに違いない。
システムを復旧した殊勲者エステバンだが、あとから聞いたところによると知らない装置を適当にいじってたのがたまたまハマったらしい。
メチャクチャになった装置の調整関係が大変だとエルフ社長がボヤいていた。
転移の関係がうまく行ったのは奇跡だと聞いたときにはゾッとしたよ。
しかし、本人はそれを聞いても「気にしない気にしない、終わったことだ」とどこ吹く風だ。
操作も知らないのにシステム復旧を引き受けるとかどうかしてるとしか思えない。
「あはっ、エステバンは賢いんだっ!」
「ボクがついてけばよかったのにねー。ラッキーラッキー」
シェイラとレーレもあっけらかんとしている。
彼らの働きに報いるために要職を……と考えていたが、あまり触らないほうが良さそうだ。
ちなみにエージェント時代の彼らは『クラッシャーズ』と呼ばれていたらしい。
その破壊実績は推して知るべしである。
◆
内務卿は反乱軍の騒ぎの責任を取り辞任した。
その後は俺の教育係兼アドバイザーとして補佐をしてくれている。
エルフ社長は後任として内務卿に抜擢された。
反乱軍の鎮圧はダンジョン公社の功績が大であり、それに報いた人事だ。
内務卿(元)とエルフ社長(元)は仲が良いらしく、俺のサポートを内務卿(元)が、マリーのサポートをエルフ社長(元)がしてくれる感じだ。
まだまだこの2人から学ぶことは山ほどある。
隠居はまだまだ先だろう。
◆
ウェンディは公社の新社長に就任した。
実はウェンディのダンジョンは、ダンジョンブレイカーの襲撃も撃退しており、魔王城への救援の主力として活躍。
実績や功績が評価された形の出世だ。
まだ年若く(年齢不詳だが)、風変わりなウェンディは公社を大きく改革するのではと目されていたが、意外なことに安定したエネルギー供給を目指し続けた穏やかな経営であった。
彼(彼女?)は俺やリリーとも親しくしてくれる貴重な友人である。
たまに顔を出してリリーと口喧嘩して盛り上がっているようだ。
◆
開拓村の村長とギルド支部長は、俺のイタズラ心から停戦交渉の時に『会いたい』と呼び出したことがある。
俺もダンジョン経営から離れてしまったし、もう会えなくなる前に挨拶をしたわけだ。
彼らは場違いなところに来たとビクついていたが、俺の姿を見てアゴが外れるほど口を開けていたな。
あれは傑作だった。
その後、いくらか話をして呼び出したおわびにお土産をもたせたのだが、向こうからしてみれば気が気でなかったようだ。
これを聞いたマルセさんは「やっぱりステキな人だった」となぜか大喜びだったそうだが……よく分からない反応だ。
別れ際に俺が「困ったことがあったら声をかけてくれよ」と伝えたことで、開拓村は人間の国でも『特別な土地』になったらしい。
魔王(男性相続の人間の国では王配は一般的ではないらしく、俺のことは魔王と伝わったようだ)が訪れ、村長らと友誼を結び、暴走から助けてくれたエピソードのおかげで他の有力者たちからの干渉を受けずに発展・拡大を続けた。
少し未来の話ではあるが都市として認められるほどに成長したのだそうな。
◆
馴染みの冒険者たちは、開拓村が拡大を続けるうちに古株となり徐々に引退をした。
女ドワーフは開拓村の衛兵隊発足の折りには隊長に就任。
そのパーティーも衛兵隊の中核として活躍したそうだ。
骨拾いは村内にささやかな物件を得て古物商を始めたそうな。
かけだし冒険者にとって新品の装備を整えるのは難しく、古物商はそれなりに繁盛したらしい。
見た目は怪しいが、良心的な商売なのだとか。
斧戦士はアンにフラレてから、相棒の魔法弓手と違う土地に移った。
まあ、頑張れ。
男獣人と女エルフは夫婦になってからも冒険者に薬を売ったり、ダンジョンで漁をしたりと土地に根づいた生活を続けた。
ある意味でもっともダンジョンに寄り添った生き方なのかもしれない。
◆
ハーフ・インセクトはよほど72号ダンジョンの環境が合ったのか、増殖を続けた。
時に強力な冒険者によって間引きもされたが、確実にコロニーを増やし、新たなダンジョンが造られるたびに株分けを行うほどの勢いとなる。
そして、とうとうとあるダンジョンにてコントロール不能となり、人間の国へ大氾濫を引きおこすこととなった。
その後、ハーフ・インセクトは魔族、人間、獣人の共通の危機として認識されることとなるのだが……これはまだ少し先の未来の話。
◆
ローガイン元帥は頭部と片腕が無い壮絶な姿でグロスと相打ちになっていた。
元帥の戦死はかなり稀な話だ。
その姿はローガインラストシューティングと呼ばれ、長く語り継がれることとなる。
全身を魔道化したグロスには生存説があるが、真偽の程は不明だ。
だが、生きていたとすれば必ずやまみえることになるだろう。
グロスの逆襲に備え、俺も鍛錬を欠くわけにはいかない。
今後、魔王領において過度の身体魔道化は規制される方針だ。
◆
リリーはホモグラフト夫人として俺の妻になった。
出産もしたが(リリーに似たかわいい女の子だ)、実務能力に長けた彼女はキャリアウーマンとしてバリバリ働いている。
新設されたエネルギー局では局長に就任し、ダンジョンをはじめバランスの良い魔道エネルギーの供給を目指すのだとか。
俺は彼女を愛しているし、なんだかんだで能力的にも性格的にも噛み合ってるのはリリーだと思う。
今後も公私で彼女をサポートできたらいいなと考えている。
◆
マリーはさらにふくよかになった。
少し体調が心配だったが、妊娠していたらしい。
本人は痩せたいらしいが、ポヨポヨしててかわいいので俺もリリーもこのままでいいと思ってたりする。
よくリリーの娘の世話もしてくれるし、マリーは本当に心根の優しい女性だ。
ちなみに1度だけ俺のことを『アナタ』って呼んでくれたが、真っ赤になって照れていた。
いまでも『ホモくん』『マリー』の関係だが、それでいいと思う。
◆
かくして、ダンジョン公社での俺のキャリアは終えた。
これからもまだまだ人生は続くし、身の回りの忙しさは増すばかり。
だが、物語はこれでひと区切り、ここからは別の話だ。
これ以上プライバシーの切り売りをするものでもないし、このあたりでご勘弁。
まあ、また機会があれば続きの話でもしようじゃないか。
というのも、リリーに一発で命中したらしくて……心あたりがありすぎて疑う余地もない。
腹が目立つ前にリリーと結婚となれば魔王様も「ずるいぞっ」と騒いで、そちらも急ピッチで進行して大変な騒ぎだった。
なにしろ、国をあげての大慶事なのだ。
その合間に人間の国との停戦交渉も参加したわけだが、こうした外交ってのはすり合わせが大切らしい。
俺は実務ができないし、結婚式の関係が忙しすぎてチョイチョイ顔を見せる感じだ。
だが、そんな中でも『王配』が出てくるのはわりと効果があるらしく、使節団には喜ばれている。
なんでも俺は人間の国では軍人として恐れられているらしく、勝手に向こうが『武断政治をやるだろう』『侵攻作戦は俺が主導している』と勘違いしてビビっているのだとか。
政治に口出しする気はあまりないが、うまくまとまるなら俺の名前くらい使ってほしい。
そんな停戦交渉の最中に2人と結婚したわけだが、今のところは俺がそれぞれの部屋に出向く通い婚みたいな形で生活している。
なるべく平等にしてるはずだけど、マリーいわく『リリーのほうが多くてズルい』のだそうだ。
いやまあ、その辺りは俺は元々リリーの婚約者だったわけだし、娘の母親だし、仕方がないのではなかろうか。
リリーは怒ると怖いし。
あと、覚悟はしてたが王配ってのはかなり儀礼的な仕事が多い。
さすがにダンジョンとはかけもちできるスケジュールではないので、俺は公社を退職。
後をゴルンに任せて公務に専念する形となった。
忙しいけど四六時中マリーと一緒にいられて嬉しいとか考えていたが……仕事中のマリーは驚くほどマジメなのだ。
俺は何度も『ちゃんとしろ』『自覚を持て』と叱られてしまうほどである。
貴族的な教育を受けていない俺は恥のかき通しだ。
まあ、その後のフォローでマリーが『落ち込んでるのか?』『オッパイ触るか?』と慰めてくれたりするので不満はない。
それはさておき、俺だけではなく皆の生活も紹介していこうと思う。
◆
タックは大いに出世し、ダンジョンのみならず、さまざまな魔道具のデザイナーとして活躍。
彼女のデザインした魔道具は2度もグレートデザイン賞を受賞し、いまや有名デザイナーの仲間入りを果たした。
72号ダンジョンの担当は後輩に引き継ぎ、忙しく飛び回っているらしい。
なぜかローガンと電撃結婚したが、わずか9ヶ月で離婚。
その理由は「なんかイイかもって勘違いしたっす!」とのことだ。
タックはなんだかんだでエリートだし、元冒険者のローガンとは色々とすれ違いも多かったのだとか。
◆
ゴルンには俺の退職後ダンジョンの所長を引き継いでもらった。
統率に長けているし、書類仕事も下手じゃないゴルンは72号ダンジョンを発展させ、拡張を続けていく。
今では8階層まで増設され、公社の主力ダンジョンの一角である。
本人はたまに謎のドワーフとしてマナーの悪い冒険者を懲らしめるらしく、ヤクザドワーフと言えばわりと有名なユニークモンスターなのだとか。
タックが担当から外れて寂しそうにしていたが、娘の活躍は嬉しいようだ。
俺とはたまに飲みに行く友達づき合いをしてくれている。
◆
アンは数年ほどダンジョンで経験を積んだ後、公社に転籍した。
公社でもキャリアを重ね、いつしかダンジョン立ち上げのスペシャリストとして活躍したようだ。
文通してた斧戦士とたまに会ったりしてたそうだが、タックとローガンの破局? を見て『文化の差は大きいな』と判断しふってしまったらしい。
その後、31才のときに9つも下の新入社員と結婚した。
意外と言えば意外だが、世話好きの彼女らしいんじゃないかとリリーも笑っていた。
◆
レオは27才までダンジョンで働いていたが、老齢になりアンに引き取られてヨボヨボになるまで余生を送った。
亡くなった後、アンがレオの子どもたち(何人かいたらしい)と共に遺産を相続したのだが、なんとアンの分だけで4000万魔貨もあったのだとか。
ガティートはライフスタイルとしてあまり金を使わないことに加え、ダンジョン住まいのレオの収入はそのまんま貯金になっていたようだ。
ちなみにアンの続柄は『内縁の妻』になっていたらしい。
レオなりの恩返しだったのは分かるが、ちょっと面白い話だ。
◆
サンドラはなぜかリンと共に、ダンジョン公社のキャンペーンガールをやることになった。
現役の冒険者だった彼女らが大騒ぎしながら各地のダンジョンを攻略する映像は大ヒット。
その動画に俺も正体を隠してゲスト出演したんたが、なぜか一発で身バレして『ヤリキングおつ』『サンドラさまに近づかないでください』『離れてリンたん! 妊娠しちゃう!』とかメチャクチャ叩かれたぞ。
まあ、いいけど。
特にサンドラはモデルや俳優としても活躍の場を広げ、ハスッパな雰囲気と率直な物言いで人気を獲得した。
意外に素朴なところもある彼女はタレントとして高いポテンシャルがあるようだ。
そして、サンドラは人気絶頂の中、未婚のまま妊娠して大騒ぎになるのだが……まあ、色々あるんじゃないかな。
ちょっとした『事情』があって俺とはちょこちょこ会ってたりする。
◆
ドアーティは魔王領で実業家となった。
もともと料理人になりたかったらしく「どこか紹介してくれ」ということで親父さんの店で修行に入る。
その後、今までに貯めた資金と、魔王様救出の褒美で『ダンジョンズ』というバーを出したが、この店が大繁盛した。
いわゆるコンセプトバーというやつで、冒険者ギルドの酒場をイメージしたものだが、これがウケたのだ。
ぶっちゃけ、簡単な料理とドリンクをワイルドな器で出すだけなのだが、若いOLの女子会で大人気なのだとか……世の中は何が流行るか分からない。
革鎧で客あしらいするドアーティもまんざらでもなさそうである。
近いうちに支店の展開も考えているそうだ。
◆
リンはサンドラと共にマルチタレントとして活躍している。
魔法団や研究所からスカウトをうけたのだが「オイラに勤め人はムリでやんす」と断ったそうだ。
本人は欠けた前歯を治したいらしいが、プロデューサーに『トレードマークだから』と止められているとボヤいていた。
独特の方言と欠けた前歯でお茶の間の人気者なのだとか。
不思議なことにリンは謎のコミュニケーション能力を発揮し、マリーの友達としてよくプライベートスペースに出入りしている。
理由は本当によく分からない。
なんのしがらみもないリンの気安さはマリーにとって好ましいようで『初めての友達なんだ』と嬉しそうにはにかんでいた。
30近くなって初めての友達ができたと聞き、俺は少し複雑な気分になってしまうが……今が楽しければそれで良しだろう。
よく2人で一緒にお出かけしているようだ。
◆
オグマは人間の国に帰った。
今回の報酬で田舎に土地を得て、農場を拓くそうだ。
「また何かあったら呼んでくれ、仲間だからな」
そう言い残してクールに去ったのだが……緊急連絡用に持たせたメーラーでリンがちょこちょこチョッカイをかけているらしい。
なんだかんだでサンドラパーティーは仲がよく、年に何度かは顔を合わせるそうだが、それもリンのおかげなのだろう。
余談だが、人間の国では姓を名乗るのは貴族や富裕層の特権らしく、鑑定の魔道具で『オグマ・リリーリテーナ』と表示されてちょっとした騒ぎになったそうだ。
腕の良いオグマは事情があり主家を捨てた騎士だと勘違いされているのだとか。
◆
ローガンはなかなか見込みがあるので、俺が軍に推薦しておいた。
とりあえず超スペシャル促成ブートキャンプコースにつっこんだのだが無事に乗り越えてくれたらしい。
これからは対勇者部隊の最前線に放り込まれる予定だ。
サンドラから教わった斥候の技は魔王軍にはない独特のものでなかなか重宝されているとか。
タックに振り回されて離婚歴がついてしまったが、まだまだ若いし頑張ってほしい。
◆
エステバンたちは森に帰った。
これからもシェイラやレーレたちと仲良く暮らしていくに違いない。
システムを復旧した殊勲者エステバンだが、あとから聞いたところによると知らない装置を適当にいじってたのがたまたまハマったらしい。
メチャクチャになった装置の調整関係が大変だとエルフ社長がボヤいていた。
転移の関係がうまく行ったのは奇跡だと聞いたときにはゾッとしたよ。
しかし、本人はそれを聞いても「気にしない気にしない、終わったことだ」とどこ吹く風だ。
操作も知らないのにシステム復旧を引き受けるとかどうかしてるとしか思えない。
「あはっ、エステバンは賢いんだっ!」
「ボクがついてけばよかったのにねー。ラッキーラッキー」
シェイラとレーレもあっけらかんとしている。
彼らの働きに報いるために要職を……と考えていたが、あまり触らないほうが良さそうだ。
ちなみにエージェント時代の彼らは『クラッシャーズ』と呼ばれていたらしい。
その破壊実績は推して知るべしである。
◆
内務卿は反乱軍の騒ぎの責任を取り辞任した。
その後は俺の教育係兼アドバイザーとして補佐をしてくれている。
エルフ社長は後任として内務卿に抜擢された。
反乱軍の鎮圧はダンジョン公社の功績が大であり、それに報いた人事だ。
内務卿(元)とエルフ社長(元)は仲が良いらしく、俺のサポートを内務卿(元)が、マリーのサポートをエルフ社長(元)がしてくれる感じだ。
まだまだこの2人から学ぶことは山ほどある。
隠居はまだまだ先だろう。
◆
ウェンディは公社の新社長に就任した。
実はウェンディのダンジョンは、ダンジョンブレイカーの襲撃も撃退しており、魔王城への救援の主力として活躍。
実績や功績が評価された形の出世だ。
まだ年若く(年齢不詳だが)、風変わりなウェンディは公社を大きく改革するのではと目されていたが、意外なことに安定したエネルギー供給を目指し続けた穏やかな経営であった。
彼(彼女?)は俺やリリーとも親しくしてくれる貴重な友人である。
たまに顔を出してリリーと口喧嘩して盛り上がっているようだ。
◆
開拓村の村長とギルド支部長は、俺のイタズラ心から停戦交渉の時に『会いたい』と呼び出したことがある。
俺もダンジョン経営から離れてしまったし、もう会えなくなる前に挨拶をしたわけだ。
彼らは場違いなところに来たとビクついていたが、俺の姿を見てアゴが外れるほど口を開けていたな。
あれは傑作だった。
その後、いくらか話をして呼び出したおわびにお土産をもたせたのだが、向こうからしてみれば気が気でなかったようだ。
これを聞いたマルセさんは「やっぱりステキな人だった」となぜか大喜びだったそうだが……よく分からない反応だ。
別れ際に俺が「困ったことがあったら声をかけてくれよ」と伝えたことで、開拓村は人間の国でも『特別な土地』になったらしい。
魔王(男性相続の人間の国では王配は一般的ではないらしく、俺のことは魔王と伝わったようだ)が訪れ、村長らと友誼を結び、暴走から助けてくれたエピソードのおかげで他の有力者たちからの干渉を受けずに発展・拡大を続けた。
少し未来の話ではあるが都市として認められるほどに成長したのだそうな。
◆
馴染みの冒険者たちは、開拓村が拡大を続けるうちに古株となり徐々に引退をした。
女ドワーフは開拓村の衛兵隊発足の折りには隊長に就任。
そのパーティーも衛兵隊の中核として活躍したそうだ。
骨拾いは村内にささやかな物件を得て古物商を始めたそうな。
かけだし冒険者にとって新品の装備を整えるのは難しく、古物商はそれなりに繁盛したらしい。
見た目は怪しいが、良心的な商売なのだとか。
斧戦士はアンにフラレてから、相棒の魔法弓手と違う土地に移った。
まあ、頑張れ。
男獣人と女エルフは夫婦になってからも冒険者に薬を売ったり、ダンジョンで漁をしたりと土地に根づいた生活を続けた。
ある意味でもっともダンジョンに寄り添った生き方なのかもしれない。
◆
ハーフ・インセクトはよほど72号ダンジョンの環境が合ったのか、増殖を続けた。
時に強力な冒険者によって間引きもされたが、確実にコロニーを増やし、新たなダンジョンが造られるたびに株分けを行うほどの勢いとなる。
そして、とうとうとあるダンジョンにてコントロール不能となり、人間の国へ大氾濫を引きおこすこととなった。
その後、ハーフ・インセクトは魔族、人間、獣人の共通の危機として認識されることとなるのだが……これはまだ少し先の未来の話。
◆
ローガイン元帥は頭部と片腕が無い壮絶な姿でグロスと相打ちになっていた。
元帥の戦死はかなり稀な話だ。
その姿はローガインラストシューティングと呼ばれ、長く語り継がれることとなる。
全身を魔道化したグロスには生存説があるが、真偽の程は不明だ。
だが、生きていたとすれば必ずやまみえることになるだろう。
グロスの逆襲に備え、俺も鍛錬を欠くわけにはいかない。
今後、魔王領において過度の身体魔道化は規制される方針だ。
◆
リリーはホモグラフト夫人として俺の妻になった。
出産もしたが(リリーに似たかわいい女の子だ)、実務能力に長けた彼女はキャリアウーマンとしてバリバリ働いている。
新設されたエネルギー局では局長に就任し、ダンジョンをはじめバランスの良い魔道エネルギーの供給を目指すのだとか。
俺は彼女を愛しているし、なんだかんだで能力的にも性格的にも噛み合ってるのはリリーだと思う。
今後も公私で彼女をサポートできたらいいなと考えている。
◆
マリーはさらにふくよかになった。
少し体調が心配だったが、妊娠していたらしい。
本人は痩せたいらしいが、ポヨポヨしててかわいいので俺もリリーもこのままでいいと思ってたりする。
よくリリーの娘の世話もしてくれるし、マリーは本当に心根の優しい女性だ。
ちなみに1度だけ俺のことを『アナタ』って呼んでくれたが、真っ赤になって照れていた。
いまでも『ホモくん』『マリー』の関係だが、それでいいと思う。
◆
かくして、ダンジョン公社での俺のキャリアは終えた。
これからもまだまだ人生は続くし、身の回りの忙しさは増すばかり。
だが、物語はこれでひと区切り、ここからは別の話だ。
これ以上プライバシーの切り売りをするものでもないし、このあたりでご勘弁。
まあ、また機会があれば続きの話でもしようじゃないか。
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※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
完結お疲れ様でした。ダンジョン側からの視点という事で読み始めましたが作者様にはたくさん楽しませて頂きました。ありがとうございます(●´ー`●)
皆が笑顔でいられるなら重婚もアリなんじゃないかと思います( *ˊ▿ˋ*)っ🍵
うん。ホモ君含め、魔王に組みする優秀な人材が退役したからと、王座を狙ったがまさか、半官半民のダンジョン機構が魔王の奪還に動いたのは計算外なんだろうな。
とりあえず、ダンジョンが動かせかつDP考えたければダンジョン近場にいる人間の軍人は殺さずに簡単に無力化できるかと。
まぁ、ダンジョン内でなくてもダンジョン領域内なら死なずに動けなくなる程度のDPの吸い上げ率にいじれるのでは(笑)
最後にホモ君、王配確定で正妻は妹でその他の女性陣は第二夫人以降か愛妾かな?
この戦いが終わった後、本人の知らない所で結婚話しが決まりそう。