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9章《暗黒龍ニーズヘッグ》
8話
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次第に海面が持ち上がっていくようだった。
船も揺れ、世界樹には波がぶつかり、近くにいた魔物たちも遠ざかっていくのが見える。
僕の想像したエリクシールは、もっとこう……パァッと輝いて世界樹が再び葉を茂らせて、神々しく光り輝くものだったのだけど。
この様子では強力なケムリ玉とでも言い換えた方がわかりやすいんじゃないだろうか?
「向こうから来るわ!」
いち早く気配を察知するミントと共に、ブランが船頭の方へと向かう。
どんどんと大きな魔力が迫ってくるのは、僕たちでも容易にわかってしまった。
そのくらい、今までに出会ったことのなかった感覚に包まれていた。
「とんでもない魔力を感じるわ……」
「リリアちゃんも感じるの?
これが、暗黒龍なのかしら……」
もともとそんなものを感じたことなんて無かった。
ルシフェルとの戦いで、周囲の魔素が変化したり消えたりと。
それを体験していたせいで、微妙な空気の変化に敏感になっているのだろう。
そんな二人は、ピヨちゃんに乗って距離をおく。
テセスがやられては大変だし、それ以上に、正直船ごと沈められるイメージしか沸いてこないのだが……
ミアのアイテムで、僕たちを不思議な光が包み込む。
この光には、少しくらいなら衝撃を和らげてくれる効果があるそうだ。
コルンは弓を構え、ヤマダさんも剣を持って船頭へ。
僕も、少し離れたところで暗黒龍が顔を出すのを待つ。
ザァァッ……と持ち上がった海面が割れていき、そこから漆黒に染まった頭部が見えてくる。
大きい……
頭でこの大きさならば、全体では船ぐらいの……いやそれよりも大きいかもしれない……
ドラゴン戦でも大きいとは感じたが、それよりもまだ二回りは違うといったところ。
これが魔素を吸い続けて大きくなった暗黒龍ニーズヘッグなのか……
「くらえぇっ!」
コルンが開戦の矢を放つ。
すぐにブランの地魔法も放たれ、上空からはリリアが雷を落とす。
あまりの大きさに、少し驚いてしまったが、すぐに僕も大きく剣を振る。
ヒュンッと飛んでいく魔素の刃は、ドラゴンすらも一撃で仕留めることのできるもの。
一気に魔力を奪われて、船の甲板で吐きそうになってしまったけれど、これで倒すことができるなら僕は何度でも吐いてやる。
なんて、ちょっとカッコいいセリフを想像してみたけれど、やはり吐くのだけは勘弁願いたいものだ……
「センっ!
倒れている場合じゃねえぞ!」
同じく剣から出す衝撃波のようなもので、攻撃を繰り返すヤマダさん。
顔を上げてみると、龍の首に深い傷がついているのは見える。
すぐに魔力回復薬を使うが、一時的とはいえ魔力酔いで身体が重い。
長期戦を覚悟するなら、あまり一度に魔力を消費する攻撃は控えた方がいいかもしれない……
「みんなっ!
召喚スキルを使うから気をつけてっ!」
リリアが上空から叫ぶ。
きっと、衝撃に備えてほしいという意味なのだろう。
すでに暗黒龍のせいで、かなり揺れているから気をつけるも何も……
「ヒュージワイバーン!」
リリアが名前を呼ぶと、一体の魔物がさらに上空に現れる。
おお、大きなドラゴンだ。
何度か戦ったことのある、王都の東の森で初めて出会った魔物だ。
だが、普通のワイバーンではないのは、特性をつけて変化を与えているからだろうか?
「突っ込めぇぇ!」
どういう攻撃をするのかと思ったら、なんとただの突進。
しかし、次第に下降してくるワイバーンは、やけに大きいサイズである。
『ギャアア』『グォォォ』と、さながらドラゴン大戦争といったところだろうか?
ひどく海は荒れ、船体はキシキシと悲鳴をあげているようだった。
胴体の見えてきた暗黒龍を、再び押し戻す勢いで突進する巨大ワイバーン。
だがそれも一瞬で、暗黒龍がワイバーンの首元に噛み付いて船まで投げ飛ばしてきた。
「ぶつかるぞっ!」
コルンは身を低くして衝撃に備える。
『ぶつかるっ』と思い、一瞬だけ目を閉じたのだが、衝撃はこない。
スキルで出した魔物なのだし、消すこともリリアの思いのままのようだ。
ここはピヨちゃんと仕様が異なっていて助かる点だな。
僕はリリアの作ってくれた時間で、身体を休めることができた。
チャンスがあれば、もう一撃さっきの攻撃を当ててやろう。
さらにミアのアイテムが再び僕たちを光に包み込む。
長時間は保たないみたいだが、この戦いでは出し惜しみをするつもりは全くないようだ。
暗黒龍が僕たちの方を見ると、船体に向かって大きく口を開き噛み付いた。
バキバキと音を立てて破壊される船。
乗組員は最低の人数だけしかいないが、沈没となると全員が助かるかどうかは怪しいところ。
ユーグがどうにかしてくれるだろう算段で、ここまで来たのだというのが正直な思いであった。
「リペアッ!」
するとブランが船に向かって魔法を放つ。
さすがは機械兵……なのだろうか?
こんな戦闘場面まで想定して作られているのなら、このプログラムを作った研究員たちは相当神経質なのかこだわりがあったのか……
完全修復とはいかないまでも、ある程度の浸水は防げるようだ。
周囲の素材が穴を埋めていくように船の破損箇所に集っていく。
おかげで攻撃に専念できる。
そう思った矢先、暗黒龍の動きが変わり、今度は上空を飛ぶピヨちゃん目掛けて口を開いた。
黒い何かが口元に集まるのだから、嫌な予感しかしなかった。
「させるかぁっ!」
慌てて僕は、その口元目掛けて再びあの一撃を放つ。
「大丈夫かっ?」
コルンが近寄ってくる。
咄嗟のことで、魔力の調整なんか忘れてしまい、全力の一撃を放ってしまったのだ。
すぐに魔力回復薬を使う。
一本では足りない、二本、三本目を手に取り、なるべく視線は暗黒龍から逸らさないようにした。
後で甲板は掃除しなくてはな……
まぁヤマダさんなら笑って許してくれるだろう……
「いい加減……倒れやがれっ!」
ヤマダさんの懇親の一撃が、暗黒龍の頭を切り落とす。
僕が胸を押さえてうずくまっている間に、深い傷の与えたところを集中的に狙って攻撃してくれたのだろう。
よく見ると、いつの間にかヤマダさんもダメージを負っている。
ギリギリまで前に出て、攻撃を受ける覚悟で剣を振るっていたのだ。
しかし、これで暗黒龍は倒した。
切り落とした頭部が海に沈み、パァッと光になって世界樹に取り込まれる。
ずいぶんと硬い魔物ではあったが、終わってしまえば大したことはない。
リリアも甲板に戻ってきた。
テセスの出番はなかったかと思ったが、上空ではリリアのサポートをしていたみたいだ。
多分テセスだって活躍したかっただろうし、まぁ本人もつまらなさそうではない……?
「え……?」
ふと、何やら違和感を感じてしまった。
ブランとミントは、未だに海面を見つめている。
ヤマダさんと、その横に寄り添ってミアもまた武器を片付ける様子はない。
一体ではない?
いや、これまでの話や川内の記憶を覗いても、ニーズヘッグはただ一体の子竜だった存在のはず……
「お前らっ!
まだ本体は下にいるんだ、すぐに戦闘態勢に戻れっ!」
ヤマダさんも、何やら確信を得たようで、僕たちに命令を飛ばした。
確かに強い魔力の感じは残ったまま。
時間が経って少し慣れてしまっていたために、それが普通だと感じてしまった故に、反応が遅れてしまったのだ。
船体に大きな穴を空けながら、黒い光が僕たちを襲う。
僕の剣を吹き飛ばされ、ピヨちゃんは強制的に消滅。
「ピ、ピヨちゃん⁈」
リリアは光に変化するピヨちゃんにすがっていた。
一応、召喚獣はしばらくすれば復活できるとは聞いているが……
幸いというべきか、油断していたわりに被害はそれで済んでいた。
誰も倒れていないことが何よりも大事なことだ。
暗黒龍を倒したのに、僕たちの暮らしが結局奪われてしまうのでは意味がない。
ザバァッ……と海面から現れたのは、先ほどと同じ頭部が二つ。
胴体も見えてきて、それは全てが一つの集合体だった。
頭を三つ持ち、予想よりもまだまだ巨大であった暗黒龍ニーズヘッグ。
漆黒の羽を広げると、その大きさは船の数倍……いや、もはやどれだけ大きいのかも検討がつかないほどである……
「あ……あれが暗黒龍……」
正直侮っていたと思う。
せいぜいこれまで戦ってきたドラゴンよりも、少し大きいくらい。
多分僕の剣でなら、難なく倒すことだってできる。
ユーグですら『強すぎる』なんて言っていた剣だったのだし。
だが、考えなくても容易に想像はできたはずなのだ。
僕たちの戦おうとしていた敵は、世界樹の持つ魔素を吸い続けた悪魔。
大きさはともかく、今の弱ったユーグでも使える奇跡のような効果など微々たるものなのだろう。
羽の一振りは暴風を巻き起こし、ひと鳴きすれば周囲の空気が震える。
ヤマダさんの攻撃も、その身体の表面で虚しく掻き消えるかのようだった。
これは……倒せない。
頭を切り落としたように、再び僕の剣でダメージを与えればもしかしたら……
だが、その剣も先程の不意打ちでおそらく海の中。
使い慣れない『銃』を取り出して、属性弾を打ち込んでみるが、大した効果は感じられない。
リリアは暗黒龍の失った首目掛けて爆弾ふぐの突撃を命じる。
ここまで召喚獣の扱いが荒いのは珍しい……というか、それだけ策が無いということだろう。
黒い大砲、とも思える攻撃は、船ごと僕たちにダメージを与えてくる。
ミアのアイテムと、これまで僕たちに蓄えられてきた魔素によって守られているとはいえ、いつまで保つのかもわからない。
当然……必殺技が『必殺』になることもなく、ミアに言われて覚えた新しいコルンの技も大した効果はない。
ピヨちゃんが再召喚できなければ、誰一人逃げることも能わない。
逃げたところで、すでに世界にこの暗黒龍は解き放たれたのだから、もう逃げる意味もないのだろうけれど……
僕は……いや、僕たちの動きは次第に鈍くなっていた。
もうどうしようもないという気持ちが強まっていたのだ。
『諦めてはいけません!』
そんな言葉が聞こえてくるまでは。
船も揺れ、世界樹には波がぶつかり、近くにいた魔物たちも遠ざかっていくのが見える。
僕の想像したエリクシールは、もっとこう……パァッと輝いて世界樹が再び葉を茂らせて、神々しく光り輝くものだったのだけど。
この様子では強力なケムリ玉とでも言い換えた方がわかりやすいんじゃないだろうか?
「向こうから来るわ!」
いち早く気配を察知するミントと共に、ブランが船頭の方へと向かう。
どんどんと大きな魔力が迫ってくるのは、僕たちでも容易にわかってしまった。
そのくらい、今までに出会ったことのなかった感覚に包まれていた。
「とんでもない魔力を感じるわ……」
「リリアちゃんも感じるの?
これが、暗黒龍なのかしら……」
もともとそんなものを感じたことなんて無かった。
ルシフェルとの戦いで、周囲の魔素が変化したり消えたりと。
それを体験していたせいで、微妙な空気の変化に敏感になっているのだろう。
そんな二人は、ピヨちゃんに乗って距離をおく。
テセスがやられては大変だし、それ以上に、正直船ごと沈められるイメージしか沸いてこないのだが……
ミアのアイテムで、僕たちを不思議な光が包み込む。
この光には、少しくらいなら衝撃を和らげてくれる効果があるそうだ。
コルンは弓を構え、ヤマダさんも剣を持って船頭へ。
僕も、少し離れたところで暗黒龍が顔を出すのを待つ。
ザァァッ……と持ち上がった海面が割れていき、そこから漆黒に染まった頭部が見えてくる。
大きい……
頭でこの大きさならば、全体では船ぐらいの……いやそれよりも大きいかもしれない……
ドラゴン戦でも大きいとは感じたが、それよりもまだ二回りは違うといったところ。
これが魔素を吸い続けて大きくなった暗黒龍ニーズヘッグなのか……
「くらえぇっ!」
コルンが開戦の矢を放つ。
すぐにブランの地魔法も放たれ、上空からはリリアが雷を落とす。
あまりの大きさに、少し驚いてしまったが、すぐに僕も大きく剣を振る。
ヒュンッと飛んでいく魔素の刃は、ドラゴンすらも一撃で仕留めることのできるもの。
一気に魔力を奪われて、船の甲板で吐きそうになってしまったけれど、これで倒すことができるなら僕は何度でも吐いてやる。
なんて、ちょっとカッコいいセリフを想像してみたけれど、やはり吐くのだけは勘弁願いたいものだ……
「センっ!
倒れている場合じゃねえぞ!」
同じく剣から出す衝撃波のようなもので、攻撃を繰り返すヤマダさん。
顔を上げてみると、龍の首に深い傷がついているのは見える。
すぐに魔力回復薬を使うが、一時的とはいえ魔力酔いで身体が重い。
長期戦を覚悟するなら、あまり一度に魔力を消費する攻撃は控えた方がいいかもしれない……
「みんなっ!
召喚スキルを使うから気をつけてっ!」
リリアが上空から叫ぶ。
きっと、衝撃に備えてほしいという意味なのだろう。
すでに暗黒龍のせいで、かなり揺れているから気をつけるも何も……
「ヒュージワイバーン!」
リリアが名前を呼ぶと、一体の魔物がさらに上空に現れる。
おお、大きなドラゴンだ。
何度か戦ったことのある、王都の東の森で初めて出会った魔物だ。
だが、普通のワイバーンではないのは、特性をつけて変化を与えているからだろうか?
「突っ込めぇぇ!」
どういう攻撃をするのかと思ったら、なんとただの突進。
しかし、次第に下降してくるワイバーンは、やけに大きいサイズである。
『ギャアア』『グォォォ』と、さながらドラゴン大戦争といったところだろうか?
ひどく海は荒れ、船体はキシキシと悲鳴をあげているようだった。
胴体の見えてきた暗黒龍を、再び押し戻す勢いで突進する巨大ワイバーン。
だがそれも一瞬で、暗黒龍がワイバーンの首元に噛み付いて船まで投げ飛ばしてきた。
「ぶつかるぞっ!」
コルンは身を低くして衝撃に備える。
『ぶつかるっ』と思い、一瞬だけ目を閉じたのだが、衝撃はこない。
スキルで出した魔物なのだし、消すこともリリアの思いのままのようだ。
ここはピヨちゃんと仕様が異なっていて助かる点だな。
僕はリリアの作ってくれた時間で、身体を休めることができた。
チャンスがあれば、もう一撃さっきの攻撃を当ててやろう。
さらにミアのアイテムが再び僕たちを光に包み込む。
長時間は保たないみたいだが、この戦いでは出し惜しみをするつもりは全くないようだ。
暗黒龍が僕たちの方を見ると、船体に向かって大きく口を開き噛み付いた。
バキバキと音を立てて破壊される船。
乗組員は最低の人数だけしかいないが、沈没となると全員が助かるかどうかは怪しいところ。
ユーグがどうにかしてくれるだろう算段で、ここまで来たのだというのが正直な思いであった。
「リペアッ!」
するとブランが船に向かって魔法を放つ。
さすがは機械兵……なのだろうか?
こんな戦闘場面まで想定して作られているのなら、このプログラムを作った研究員たちは相当神経質なのかこだわりがあったのか……
完全修復とはいかないまでも、ある程度の浸水は防げるようだ。
周囲の素材が穴を埋めていくように船の破損箇所に集っていく。
おかげで攻撃に専念できる。
そう思った矢先、暗黒龍の動きが変わり、今度は上空を飛ぶピヨちゃん目掛けて口を開いた。
黒い何かが口元に集まるのだから、嫌な予感しかしなかった。
「させるかぁっ!」
慌てて僕は、その口元目掛けて再びあの一撃を放つ。
「大丈夫かっ?」
コルンが近寄ってくる。
咄嗟のことで、魔力の調整なんか忘れてしまい、全力の一撃を放ってしまったのだ。
すぐに魔力回復薬を使う。
一本では足りない、二本、三本目を手に取り、なるべく視線は暗黒龍から逸らさないようにした。
後で甲板は掃除しなくてはな……
まぁヤマダさんなら笑って許してくれるだろう……
「いい加減……倒れやがれっ!」
ヤマダさんの懇親の一撃が、暗黒龍の頭を切り落とす。
僕が胸を押さえてうずくまっている間に、深い傷の与えたところを集中的に狙って攻撃してくれたのだろう。
よく見ると、いつの間にかヤマダさんもダメージを負っている。
ギリギリまで前に出て、攻撃を受ける覚悟で剣を振るっていたのだ。
しかし、これで暗黒龍は倒した。
切り落とした頭部が海に沈み、パァッと光になって世界樹に取り込まれる。
ずいぶんと硬い魔物ではあったが、終わってしまえば大したことはない。
リリアも甲板に戻ってきた。
テセスの出番はなかったかと思ったが、上空ではリリアのサポートをしていたみたいだ。
多分テセスだって活躍したかっただろうし、まぁ本人もつまらなさそうではない……?
「え……?」
ふと、何やら違和感を感じてしまった。
ブランとミントは、未だに海面を見つめている。
ヤマダさんと、その横に寄り添ってミアもまた武器を片付ける様子はない。
一体ではない?
いや、これまでの話や川内の記憶を覗いても、ニーズヘッグはただ一体の子竜だった存在のはず……
「お前らっ!
まだ本体は下にいるんだ、すぐに戦闘態勢に戻れっ!」
ヤマダさんも、何やら確信を得たようで、僕たちに命令を飛ばした。
確かに強い魔力の感じは残ったまま。
時間が経って少し慣れてしまっていたために、それが普通だと感じてしまった故に、反応が遅れてしまったのだ。
船体に大きな穴を空けながら、黒い光が僕たちを襲う。
僕の剣を吹き飛ばされ、ピヨちゃんは強制的に消滅。
「ピ、ピヨちゃん⁈」
リリアは光に変化するピヨちゃんにすがっていた。
一応、召喚獣はしばらくすれば復活できるとは聞いているが……
幸いというべきか、油断していたわりに被害はそれで済んでいた。
誰も倒れていないことが何よりも大事なことだ。
暗黒龍を倒したのに、僕たちの暮らしが結局奪われてしまうのでは意味がない。
ザバァッ……と海面から現れたのは、先ほどと同じ頭部が二つ。
胴体も見えてきて、それは全てが一つの集合体だった。
頭を三つ持ち、予想よりもまだまだ巨大であった暗黒龍ニーズヘッグ。
漆黒の羽を広げると、その大きさは船の数倍……いや、もはやどれだけ大きいのかも検討がつかないほどである……
「あ……あれが暗黒龍……」
正直侮っていたと思う。
せいぜいこれまで戦ってきたドラゴンよりも、少し大きいくらい。
多分僕の剣でなら、難なく倒すことだってできる。
ユーグですら『強すぎる』なんて言っていた剣だったのだし。
だが、考えなくても容易に想像はできたはずなのだ。
僕たちの戦おうとしていた敵は、世界樹の持つ魔素を吸い続けた悪魔。
大きさはともかく、今の弱ったユーグでも使える奇跡のような効果など微々たるものなのだろう。
羽の一振りは暴風を巻き起こし、ひと鳴きすれば周囲の空気が震える。
ヤマダさんの攻撃も、その身体の表面で虚しく掻き消えるかのようだった。
これは……倒せない。
頭を切り落としたように、再び僕の剣でダメージを与えればもしかしたら……
だが、その剣も先程の不意打ちでおそらく海の中。
使い慣れない『銃』を取り出して、属性弾を打ち込んでみるが、大した効果は感じられない。
リリアは暗黒龍の失った首目掛けて爆弾ふぐの突撃を命じる。
ここまで召喚獣の扱いが荒いのは珍しい……というか、それだけ策が無いということだろう。
黒い大砲、とも思える攻撃は、船ごと僕たちにダメージを与えてくる。
ミアのアイテムと、これまで僕たちに蓄えられてきた魔素によって守られているとはいえ、いつまで保つのかもわからない。
当然……必殺技が『必殺』になることもなく、ミアに言われて覚えた新しいコルンの技も大した効果はない。
ピヨちゃんが再召喚できなければ、誰一人逃げることも能わない。
逃げたところで、すでに世界にこの暗黒龍は解き放たれたのだから、もう逃げる意味もないのだろうけれど……
僕は……いや、僕たちの動きは次第に鈍くなっていた。
もうどうしようもないという気持ちが強まっていたのだ。
『諦めてはいけません!』
そんな言葉が聞こえてくるまでは。
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