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9章《暗黒龍ニーズヘッグ》
12話
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ニーズヘッグは、ヤマダさんと共にどこかへ消えてしまった……
どこまでも追いかけて決着をつけると言っていたヤマダさん。
おそらくもう地力で戻って来ることはできないだろう。
僕たちが乗ってきた船の周りには、多くの別の船が停泊している。
魔族も人族も関係なく、互いに怪我人の治療にあたっているようだ。
まさかこんなにも大量の人々を世界樹に呼び出していたとは……
姿を見せた僕に、まっ先に駆け寄ってきたのはリリアだ。
「お帰り、セン……もう大丈夫なの?」
「うん……ニーズヘッグもかなり弱っていたし、もう戻って来ることはないと思う……」
他のみんなも僕の周りに集まってきて、心配そうな表情をする。
そして僕は不安を取り除きたい一心で、ユーグに問いかけた。
「ねぇ、別の世界から召喚したのがユーグなら、同じことができるんだよね?」
『山田……のことですね?』
瞬間、みんなの表情が曇る。
この場にいないこと、僕の質問、そして前もって聞いていたユーグの解答で、全てを察してしまったのだ。
『ごめんなさいセン……今の私にはその力は残されておりません……』
答えを聞く前からミアは泣いて膝から崩れてしまっていた。
ヤマダさんが帰ってこないことに気付いていたのだ。
ユーグはそれどころか、今も徐々に世界は崩壊に近づいているという。
ギリギリ持ち堪えていた一線を超えてしまい、このままではニーズヘッグがいなくても世界樹は朽ちてしまうのだと。
不安を口にする僕たち。
魔族や人族の代表も数名集まってきて、ユーグの話に耳を傾ける。
『とはいっても、今ならまだ修正は可能です。
皆さんに預けた私の力……それを返していただくことで』
レベル、武器、アイテム……そして【スキル】も。
魔素を用いて利用していた全てのものがユーグの力に変えられる。
『ついでに金も戴けると私は嬉しいのですけどね』
皆はそれを承諾した。
わずかばかりの力を持っていても、魔物に立ち向かうほどのものではない。
そして、可能な限り僕たちの力を残して欲しいのだとも言っていた。
まだ世界にはたくさんの魔物が存在している。
それはこれまでにニーズヘッグの力で生み出されたもの。
それを誰が討伐するのだと、その責任を負いたい者などいなかった。
別に僕たちに押し付けたとか、そういうつもりではないのだろう。
だが、ニーズヘッグの大きな力を目の当たりにしてしまい、わずかばかりの勇気も砕かれてしまったのだと。
そうなのかもしれないけれど、こうやって集まってくれたことは本当に感謝だった。
来てくれなかったら全滅だった。
被害を受けても、最後まで戦ってくれた。
強いのは僕なんかじゃない……負けない、絶対に勝つんだと協力してくれた全員だ。
そんな皆が魔物退治を僕たちに頭を下げて願い出ているのだ。
「怖くて逃げてばっかりでさ……
暑いのも寒いのも嫌いだったし、ドラゴンなんて聞いてふざけるなって思ったよ正直……」
僕はみんなの前で、これまでの想いをぶつけていた。
コルンが横で聞いていて、そんな僕の愚痴に相槌を打つ。
「本当だよな。特訓はキツいし、サボるとリリアが怒るしよ。
ひでぇんだぜ、水魔法でバシャーンって」
「あら、私はよく覚えていないんだけど、こんなのだったかしら?」
水の球を浮かべながらコルンを睨むリリア。
テセスはそれを見てクスクスと笑っている。
「スキルを通じて多くの人と関わりを持てて、僕だってみんなのおかげでこうやって戦うことができていますっ!」
何が言いたいかって?
全然話がまとまらなくて、自分でも何を言いたいのかサッパリだよ。
とにかく、これまで僕たちだって皆に助けられてきたのだから。
その恩返しにちょこっとくらい魔物退治に出掛けたっていいじゃないか。
コルンももちろん行くと言う。
リリアは毎日村へ帰る条件ならと。
正直三人だけでは少々不安だ。
もう数人はいてほしいのだけど……
「私は聖女に戻るわ。
事後報告で悪いんだけど、そういう約束なのよ」
突然とんでもない一言をぶち込んでくるのがテセス。
「えっ? なんで……?」
「いやぁ、なんか噂になってたらしくて、手伝う代わりに国を導いてくれとか言われちゃって」
悪びれる様子もなく、いや当然か、悪いことをしたわけではないのだから。
本当にテセスが聖女で大丈夫なのか??
共に冒険した僕には、そんな不安しかなかった。
だから力は不必要だと。最悪僕を呼び出してなんでもやってもらうのだとか……
ひどい話だ……
「でも、世界樹が花を咲かせたら一緒に見にいこうね。
あっ……もちろんリリアちゃん優先でも私は構わないわよ」
本当に自由なものである。
やりたいことをやるだけ。そんなテセスが最強に思えてしまうくらいに……
ミアは魔族領に戻るそうだ。
本人はそんなつもりはないそうだが、ヤマダさんと共に行動しニーズヘッグを倒した功績が評価されて、そのまま後を継いで欲しいと言われていた。
僕とリリアが初めて出会った魔族。
そんなデュランさんにも久しぶりに会って、ヤマダさんの最後を説明したら笑われてしまった。
『あの魔王様がそんな簡単にくたばるはずがない』のだと。
そう自信満々に言われてしまうと、そんな気がしてくるのだから不思議なものである。
他の従者だった人たちも、ミアの実力は買っているようだ。
僕たちも、落ち着いたら魔族領へ遊びにいくのも面白そうだ。
バリエさん、そしてカンブリス隊長も船に乗っていた。
騎兵隊の内部は、そう簡単には変わっていないみたいだけど、バリエさんもそこに一枚噛んでいるのだとか。
「魔族の方から、実力のある人を数名スカウトしてやったんですよ」
バリエさんは転移を使って、時々魔族を連れ帰っていた。
バリエさん一人で貴族に立ち向かうのは難しいが、根本的に数を増やす作戦をとったのだとか。
カンブリスは実力と愛国心さえあれば入隊を認めるし、それが魔族でも関係ない。
「おかげで脱退希望者が少しずつ出てきちまったんだがな……」
カンブリス的には良いのか悪いのか……
しかも当のバリエさんは隊に戻るつもりはないのだとか。
ビックリだった。
一時は戦争だなんだと騒いでいた王都が、ずいぶんと平和になっているらしいのだから。
魔族の知恵が役に立っている……
作物に工業、それに魔物は激減した。
生まれた時から魔族は悪だと決めていた国の王は、悩んでしまい床に伏しているのだとか。
被害が無かったわけではないが、ともかくこれで世界樹は救われた。
人々で争い合えば、その分星も傷ついてしまう。
『そうならないよう願っている』なんて言いながら、ユーグは姿を消してしまった……
『じゃあ皆さんから魔素を回収しちゃうので、先にそれぞれの街に戻ってもらったらどうですか?』
「あれ? 消えたんじゃないの?」
声だけが聴こえてきて、しかも僕たちだけに?
『嫌ですねぇ……姿を維持するのは大変なんですよ。
見えてなかったら、集まった皆さんが何のために戦っているのか分かりづらいじゃないですか』
あ、あぁそういうこと……
疲れたから姿だけを『消した』ってことね……
ユーグの指示通り、無事な船や転移魔法でそれぞれの街へと帰っていく。
力を残す者は僕を含めて三人だけ。
テセスは聖女として、ユーグと会話ができるようにしておくらしい。
それまでの数年で、聖女らしい振る舞いをもう一度身に付けるのだとか……
なんで数年??
……というか、そのやり取りを聞いているとどうもお喋りがしたいだけみたいだ。
『でね、その時の川内の言った言葉がさぁ~』
「それだったらセンも似たようなことが~」
どんな理由なんだよ、と。
まぁ聖女という仕事も楽ではないみたいだし、世界樹のお告げが聞けるとなればそれっぽくも感じちゃうけれど……
ひとまずは解散になって、僕たち三人はヤマダさんの用意してくれた船の上でユーグと会話する。
これからの魔物退治の相談だ。
力の全てを残すこともできず、加えてユーグの力はほとんど使用できなくなるそうだ。
なんでも回復に専念することで、数年は眠りにつくだろうから……と。
「今までも寝てたじゃん」
『あれは意識を失っていたのであって、機能を止めたわけでは』
「そうなの? 別にどっちでもいいけど……」
そして力が残ると言っても、それぞれ少しずつだけだった。
それぞれ魔物から吸収した魔素はそのまま残しレベルは変動無し。
それに加えて僕はスキルを一つ。
世界樹の力は関係なく、素材の持つ魔素以上の力は発揮しない。
故にとんでもない攻撃力は無くなってしまった。
コルンは強い武器を望んだ。
弓もいいけれど、なんだかんだ剣が好きなのだと。
だから魔物から吸収した魔素で成長する剣『エクスカリバー』が残された。
『リリア、貴女はどうしますか?』
「魔法! ……って言いたいけれど、私はこの子を自由にしてあげて欲しいわ……」
ポンッと現れたのは、ようやく再召喚された召喚獣ピヨちゃん。
戦いのためだけに生み出されて、ずっとリリアと共にいた存在。
消えては欲しくない。
だけどこれからも危険な戦いに連れていくのは心苦しいらしい。
これからはピヨちゃんの好きなように生きさせてほしいのだと。
「もちろん、人を襲うようなら怒るわよ。
でも、そんな子じゃないって信じてるから」
『うーん……難しいですね』
「なんで⁈ やっぱりスキルが関係しているから?」
『いえ、その子が離れたくないと言っているものですから……
多分、放っておいても付いてっちゃうんじゃないかと……』
「あはは……そういうことね……
うん、だったらそれでいいわっ」
目に涙を滲ませながら、リリアは頷いた。
これでとにかく準備は整ったわけだ。
「そういやブランとミントはどうしたんだ?」
「あっ、そういえば……」
ふと思い出して、戦いを繰り広げていた甲板へ。
そこには、せっせと甲板を補修している二人の姿があった。
「あ、ありがとう二人とも……」
「ごめんね、忘れていたわ」
僕たちに気付いたブランは、少しだけ手を止めて笑って言う。
「いえ、沈んでは大変なことになりますので。
ただ、木材が足りないので船室をいくつか壊そうかと思っています」
かなり破壊されてしまったからなぁ。
沈まないことが優先だし、仕方ないか。
「木材なら大量にあるじゃねーか」
「えっ? もしかしてコルン、持ってるの?」
インベントリに保管している?
最近は使ってなかったし、僕は持っていないけれど……
「いや、世界樹も木材じゃん。
ユーグに言って枝を数本貰ったらいいんじゃねーかと思ってよ」
『ちょっとコルン⁈
だったら貴方は爪を剥いで頂戴って言ったらするのですか??
私の身体をなんだと思っているのですかっ!!』
ユーグのお叱りを受けたところで、僕は転移して村から木材を調達してくる。
これで船もどうにかなったことで、今度こそ本当にユーグとはお別れだ。
眠りから覚める数年後には、魔物のいない平和な世の中を作り上げてやろう。
そう心に誓って、僕たちは船を進めるのだった……
どこまでも追いかけて決着をつけると言っていたヤマダさん。
おそらくもう地力で戻って来ることはできないだろう。
僕たちが乗ってきた船の周りには、多くの別の船が停泊している。
魔族も人族も関係なく、互いに怪我人の治療にあたっているようだ。
まさかこんなにも大量の人々を世界樹に呼び出していたとは……
姿を見せた僕に、まっ先に駆け寄ってきたのはリリアだ。
「お帰り、セン……もう大丈夫なの?」
「うん……ニーズヘッグもかなり弱っていたし、もう戻って来ることはないと思う……」
他のみんなも僕の周りに集まってきて、心配そうな表情をする。
そして僕は不安を取り除きたい一心で、ユーグに問いかけた。
「ねぇ、別の世界から召喚したのがユーグなら、同じことができるんだよね?」
『山田……のことですね?』
瞬間、みんなの表情が曇る。
この場にいないこと、僕の質問、そして前もって聞いていたユーグの解答で、全てを察してしまったのだ。
『ごめんなさいセン……今の私にはその力は残されておりません……』
答えを聞く前からミアは泣いて膝から崩れてしまっていた。
ヤマダさんが帰ってこないことに気付いていたのだ。
ユーグはそれどころか、今も徐々に世界は崩壊に近づいているという。
ギリギリ持ち堪えていた一線を超えてしまい、このままではニーズヘッグがいなくても世界樹は朽ちてしまうのだと。
不安を口にする僕たち。
魔族や人族の代表も数名集まってきて、ユーグの話に耳を傾ける。
『とはいっても、今ならまだ修正は可能です。
皆さんに預けた私の力……それを返していただくことで』
レベル、武器、アイテム……そして【スキル】も。
魔素を用いて利用していた全てのものがユーグの力に変えられる。
『ついでに金も戴けると私は嬉しいのですけどね』
皆はそれを承諾した。
わずかばかりの力を持っていても、魔物に立ち向かうほどのものではない。
そして、可能な限り僕たちの力を残して欲しいのだとも言っていた。
まだ世界にはたくさんの魔物が存在している。
それはこれまでにニーズヘッグの力で生み出されたもの。
それを誰が討伐するのだと、その責任を負いたい者などいなかった。
別に僕たちに押し付けたとか、そういうつもりではないのだろう。
だが、ニーズヘッグの大きな力を目の当たりにしてしまい、わずかばかりの勇気も砕かれてしまったのだと。
そうなのかもしれないけれど、こうやって集まってくれたことは本当に感謝だった。
来てくれなかったら全滅だった。
被害を受けても、最後まで戦ってくれた。
強いのは僕なんかじゃない……負けない、絶対に勝つんだと協力してくれた全員だ。
そんな皆が魔物退治を僕たちに頭を下げて願い出ているのだ。
「怖くて逃げてばっかりでさ……
暑いのも寒いのも嫌いだったし、ドラゴンなんて聞いてふざけるなって思ったよ正直……」
僕はみんなの前で、これまでの想いをぶつけていた。
コルンが横で聞いていて、そんな僕の愚痴に相槌を打つ。
「本当だよな。特訓はキツいし、サボるとリリアが怒るしよ。
ひでぇんだぜ、水魔法でバシャーンって」
「あら、私はよく覚えていないんだけど、こんなのだったかしら?」
水の球を浮かべながらコルンを睨むリリア。
テセスはそれを見てクスクスと笑っている。
「スキルを通じて多くの人と関わりを持てて、僕だってみんなのおかげでこうやって戦うことができていますっ!」
何が言いたいかって?
全然話がまとまらなくて、自分でも何を言いたいのかサッパリだよ。
とにかく、これまで僕たちだって皆に助けられてきたのだから。
その恩返しにちょこっとくらい魔物退治に出掛けたっていいじゃないか。
コルンももちろん行くと言う。
リリアは毎日村へ帰る条件ならと。
正直三人だけでは少々不安だ。
もう数人はいてほしいのだけど……
「私は聖女に戻るわ。
事後報告で悪いんだけど、そういう約束なのよ」
突然とんでもない一言をぶち込んでくるのがテセス。
「えっ? なんで……?」
「いやぁ、なんか噂になってたらしくて、手伝う代わりに国を導いてくれとか言われちゃって」
悪びれる様子もなく、いや当然か、悪いことをしたわけではないのだから。
本当にテセスが聖女で大丈夫なのか??
共に冒険した僕には、そんな不安しかなかった。
だから力は不必要だと。最悪僕を呼び出してなんでもやってもらうのだとか……
ひどい話だ……
「でも、世界樹が花を咲かせたら一緒に見にいこうね。
あっ……もちろんリリアちゃん優先でも私は構わないわよ」
本当に自由なものである。
やりたいことをやるだけ。そんなテセスが最強に思えてしまうくらいに……
ミアは魔族領に戻るそうだ。
本人はそんなつもりはないそうだが、ヤマダさんと共に行動しニーズヘッグを倒した功績が評価されて、そのまま後を継いで欲しいと言われていた。
僕とリリアが初めて出会った魔族。
そんなデュランさんにも久しぶりに会って、ヤマダさんの最後を説明したら笑われてしまった。
『あの魔王様がそんな簡単にくたばるはずがない』のだと。
そう自信満々に言われてしまうと、そんな気がしてくるのだから不思議なものである。
他の従者だった人たちも、ミアの実力は買っているようだ。
僕たちも、落ち着いたら魔族領へ遊びにいくのも面白そうだ。
バリエさん、そしてカンブリス隊長も船に乗っていた。
騎兵隊の内部は、そう簡単には変わっていないみたいだけど、バリエさんもそこに一枚噛んでいるのだとか。
「魔族の方から、実力のある人を数名スカウトしてやったんですよ」
バリエさんは転移を使って、時々魔族を連れ帰っていた。
バリエさん一人で貴族に立ち向かうのは難しいが、根本的に数を増やす作戦をとったのだとか。
カンブリスは実力と愛国心さえあれば入隊を認めるし、それが魔族でも関係ない。
「おかげで脱退希望者が少しずつ出てきちまったんだがな……」
カンブリス的には良いのか悪いのか……
しかも当のバリエさんは隊に戻るつもりはないのだとか。
ビックリだった。
一時は戦争だなんだと騒いでいた王都が、ずいぶんと平和になっているらしいのだから。
魔族の知恵が役に立っている……
作物に工業、それに魔物は激減した。
生まれた時から魔族は悪だと決めていた国の王は、悩んでしまい床に伏しているのだとか。
被害が無かったわけではないが、ともかくこれで世界樹は救われた。
人々で争い合えば、その分星も傷ついてしまう。
『そうならないよう願っている』なんて言いながら、ユーグは姿を消してしまった……
『じゃあ皆さんから魔素を回収しちゃうので、先にそれぞれの街に戻ってもらったらどうですか?』
「あれ? 消えたんじゃないの?」
声だけが聴こえてきて、しかも僕たちだけに?
『嫌ですねぇ……姿を維持するのは大変なんですよ。
見えてなかったら、集まった皆さんが何のために戦っているのか分かりづらいじゃないですか』
あ、あぁそういうこと……
疲れたから姿だけを『消した』ってことね……
ユーグの指示通り、無事な船や転移魔法でそれぞれの街へと帰っていく。
力を残す者は僕を含めて三人だけ。
テセスは聖女として、ユーグと会話ができるようにしておくらしい。
それまでの数年で、聖女らしい振る舞いをもう一度身に付けるのだとか……
なんで数年??
……というか、そのやり取りを聞いているとどうもお喋りがしたいだけみたいだ。
『でね、その時の川内の言った言葉がさぁ~』
「それだったらセンも似たようなことが~」
どんな理由なんだよ、と。
まぁ聖女という仕事も楽ではないみたいだし、世界樹のお告げが聞けるとなればそれっぽくも感じちゃうけれど……
ひとまずは解散になって、僕たち三人はヤマダさんの用意してくれた船の上でユーグと会話する。
これからの魔物退治の相談だ。
力の全てを残すこともできず、加えてユーグの力はほとんど使用できなくなるそうだ。
なんでも回復に専念することで、数年は眠りにつくだろうから……と。
「今までも寝てたじゃん」
『あれは意識を失っていたのであって、機能を止めたわけでは』
「そうなの? 別にどっちでもいいけど……」
そして力が残ると言っても、それぞれ少しずつだけだった。
それぞれ魔物から吸収した魔素はそのまま残しレベルは変動無し。
それに加えて僕はスキルを一つ。
世界樹の力は関係なく、素材の持つ魔素以上の力は発揮しない。
故にとんでもない攻撃力は無くなってしまった。
コルンは強い武器を望んだ。
弓もいいけれど、なんだかんだ剣が好きなのだと。
だから魔物から吸収した魔素で成長する剣『エクスカリバー』が残された。
『リリア、貴女はどうしますか?』
「魔法! ……って言いたいけれど、私はこの子を自由にしてあげて欲しいわ……」
ポンッと現れたのは、ようやく再召喚された召喚獣ピヨちゃん。
戦いのためだけに生み出されて、ずっとリリアと共にいた存在。
消えては欲しくない。
だけどこれからも危険な戦いに連れていくのは心苦しいらしい。
これからはピヨちゃんの好きなように生きさせてほしいのだと。
「もちろん、人を襲うようなら怒るわよ。
でも、そんな子じゃないって信じてるから」
『うーん……難しいですね』
「なんで⁈ やっぱりスキルが関係しているから?」
『いえ、その子が離れたくないと言っているものですから……
多分、放っておいても付いてっちゃうんじゃないかと……』
「あはは……そういうことね……
うん、だったらそれでいいわっ」
目に涙を滲ませながら、リリアは頷いた。
これでとにかく準備は整ったわけだ。
「そういやブランとミントはどうしたんだ?」
「あっ、そういえば……」
ふと思い出して、戦いを繰り広げていた甲板へ。
そこには、せっせと甲板を補修している二人の姿があった。
「あ、ありがとう二人とも……」
「ごめんね、忘れていたわ」
僕たちに気付いたブランは、少しだけ手を止めて笑って言う。
「いえ、沈んでは大変なことになりますので。
ただ、木材が足りないので船室をいくつか壊そうかと思っています」
かなり破壊されてしまったからなぁ。
沈まないことが優先だし、仕方ないか。
「木材なら大量にあるじゃねーか」
「えっ? もしかしてコルン、持ってるの?」
インベントリに保管している?
最近は使ってなかったし、僕は持っていないけれど……
「いや、世界樹も木材じゃん。
ユーグに言って枝を数本貰ったらいいんじゃねーかと思ってよ」
『ちょっとコルン⁈
だったら貴方は爪を剥いで頂戴って言ったらするのですか??
私の身体をなんだと思っているのですかっ!!』
ユーグのお叱りを受けたところで、僕は転移して村から木材を調達してくる。
これで船もどうにかなったことで、今度こそ本当にユーグとはお別れだ。
眠りから覚める数年後には、魔物のいない平和な世の中を作り上げてやろう。
そう心に誓って、僕たちは船を進めるのだった……
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