35歳ニートがテストプレイヤーに選ばれたのだが、応募した覚えは全く無い。

紅柄ねこ(Bengara Neko)

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13話

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「まさかぁ、その坊ちゃんがオークの棲む廃墟をどうにかしてくれるって言うんですかい?」
「ははっ、そのまさかだよ。
 俺たちはコイツの付き人、荷物持ちみたいなもんだっ」

 馬車は、半日借りると1000G。
 それが最低の金額なのだが、もちろんメリットは多い。
 待機中の御者(馬車を運転する人)は、いつも街で加工品を作っていることが多い。
 そして、そういう人たちを冒険者は『空き馬車』と呼んでいるのだ。

 移動中以外は、だいたいがモンスター除けのお香を焚いて待機する。
 その間も手仕事をすることができる、なかなかに人気のある商売なのだ。

『いやぁ、最近はオークの皮が手に入り難くてねぇ』
 ちょうどこの空き馬車は、オークの皮を加工して防具を作ることを主としていたようだ。
 そんな話から、何故か僕が廃墟の全てのオークを倒す話になってしまっていた。

「まぁ見ていなって、ガッツリ稼げたらおっちゃんにも分け前をやるからよ」
「そりゃあありがたい。
 そうや、乗り心地はどうでっしゃろ兄さんがた」
 羊毛の入ったクッションを取り出して、僕たちに手渡す御者のおっちゃん。

 そんなものがあるのなら最初から出して欲しかったが、まぁサービスなのだから文句も言えまい。
 いい加減に尻が痛いと感じてきたところだったのだ。

「着いたよ兄さんがた、私は少し離れたところで香を焚いているからね。
 一応何かあったらすぐに出れるようにしておくが、モンスターの群れを率いてくるのだけは勘弁してくれよ」
 冗談っぽく笑う御者のおっちゃん。
 フラグじゃないよね?
 ゲームだから、そういうところが不安で仕方ないんだけど……

「おー……いるいる。
 二人とも気をつけるんだぞ、オークには物理攻撃の得意な奴と、魔法や罠を使う奴がいるらしいからな」
 ボジョレが門のそばに立って中の様子を見る。
 元は小さな街だったこの廃墟も、ひとたびモンスターにやられてしまうとここまでひどくなってしまう。
 そんな例に挙げられるような場所らしい。

 だから石造りの門もしっかりしているし、建物も面影は残っている。
 だけど……

「なんとかファイターとか、なんとかメイジってさ、どっちかっていうとゴブリンのイメージなんだけど」
 オークっていうと、棍棒を振り回すようなイメージだし、ギルドでは動きが鈍いとか言っていたし……

「ん? そういやゴブリンなんてモンスターもいたっけなぁ。
 よく知ってるな坊主」
 くそっ、さっきまで子供子供と言われていたけれど、遂にボジョレにまで『坊主』と呼ばれてしまった。

 いやいや見てよこのふさふさの髪の毛。
 少なくとも現実世界の自分と比べたら天と地の差だよ?
 あー……自分で思っててちょっと嫌になる。
「ストレス発散に暴れてきていい?」
「いやいや無茶すんなってスノウ。
 いくらお前でも一人でアレは……」

 アランが言い終わる前に、僕は目に止まった一匹のオークに向かって走り出す。
 一発……二発……三発!
 オークが攻撃を受けてこちらに気付く。
 だが遅い、さらに追撃を二発!
 右腕を大きく振りかぶったところで、僕は距離をおく。
 さすがに防御力は低いのだ。
 一撃だろうともらうわけにはいかない。

 ブンッ!
 オークの右腕は空を切る。
 それを確認してさらに追撃三発!
 パァァァン……

「よしっ、一体討伐完了!」
 僕は、周囲に魔物の姿がないかを確認し……

 ……いないわけがなかった。
 既に気付かれていて、内一体は間近に迫っていた。
 悠長に素材を拾うわけにもいかずに、近くにいたオークに斬りかかる僕。
 それを倒したと思ったら、また別のオークが近付いていた。

「なぁ、俺たちって何をしに来たんだ?」
「何ってそりゃあ、スノウ様の荷物持ちだろう?」
 スノウの動きが早すぎるせいで、戦闘に加わるタイミングが全くわからないアランとボジョレ。
 下手に近づけば自分が怪我をしそうだったものだから、二人は遠目に見ている他なかったのだった。

「ちょっと! ずっと見てないで、倒すのを手伝ってよ!」
 二十体ほど倒して、ようやく周囲にオークの姿が見えなくなった。
 僕は二人のもとに駆け寄って、文句を言う。

「いやぁ……そうは言ってもなぁ」
「あぁ、俺たちは荷物持ちだしなぁ」
 いつまでその設定を引っ張るつもりなのだ。
 それに、ウルフを倒せるくらいならこんなオークくらい余裕じゃないか。
 それに戦ってみてわかったけど、やっぱりボジョレの言っていたのはゴブリンのことだろう。

 次はちゃんと戦いに参加すると約束させて、僕たちは一旦拾い集めた素材を馬車まで運んでおいた。
「こ、こんなにも狩ってきたんですか??
 まだ一時間も経ってませんぜ!」
 まぁ、一時間どころかその半分も経っていないのだけど。

 だから僕たちはもう一度廃墟へ向かう。
 それに二十体ばかしのオークを相手にしたことで、新たなスキルも得ることができたのだ。
【無双:攻撃を受けない限り、自身の攻撃力は徐々に上がる。最大で二倍に上昇】

 今度の習得条件はなんだったんだろうな?
 おそらくノーダメージで百回以上攻撃するとか、時間内に一定数を倒すとか。
 隠した相手じゃ簡単すぎるから、レベルが均衡している相手を一定時間内にノーダメージで一定数……
 うん、まぁあり得るのはこのあたりだろうな。

 二倍というのはありがたい。
 基本的に僕はダメージを受けてはいけないのだから、効果は永続みたいなもんだ。
 それともう一つ……

「おいおい……さっきよりもひどくなってないか?」
「子供だから成長が早いんだな。
 いいじゃねーか、アランはアレのお気に入りなんだろ?」
 武器が違うわけではない、急所を狙っているわけでもない。
 それなのにスノウの剣は強くなっていく。
 今ではオークが拳を振り上げた頃には倒してしまっているのだ。

【怪力リング】
「やっぱり攻撃力アップの装備品は大事だよね」
 僕は右手に着けた指輪を見ながらニンマリとしていた。
 いい歳のおっさんがこんな表情をしていたら、多分周りの人たちは引いてしまうだろう。
 いいんだ、今の僕は子供なのだから。

 何体ものオークを倒して、ただ一個だけ手に入った指輪はおそらくレアドロップ品。
 名前くらいはわからないものかと眺めていたら、鑑定……ではなく【目利き1】を習得した。
 名前がわかれば、おおよその効果は想像がつく。

「おい……スノウは一体どうしちまったんだ?」
「知るかよ……モンスターを殺しすぎておかしくなっちまったんじゃねぇのか……?」

 ニヤニヤと笑みを浮かべている少年は、本人が思っている以上に気味の悪いものだったのだ。
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