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12話

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 自己分析スキルのレベルが上がったことで、僕の持つスキルの詳細がわかるようになった。
 だが、たった数日間自分のステータスを見たがっただけで、こうも簡単にスキルレベルが上がるものなのか?
 そう思うと、座っていた冒険者に聞いてみたくもなるものだった。

「ねぇ、アランは自分の強さとかって自分でわかるの?」
 一緒にグレートアーリビルケドゥを倒した冒険者アラン。
 今日は早めに魔物退治を終えて一杯やっているようだった。

「強さ?
 そりゃあ俺だってアーリビルケドゥの一匹や二匹は簡単に倒せるぜ?」
 いやいや、そういうことではなくて……
 攻撃力とか防御力が数値化されているのかと、そんなふうに聞いてみる。

「なんだそりゃ?
 強さなんてもんは数値で表されるもんじゃねぇよ。
 その時の状況、メンタル、相手との相性なんかもあって、強い弱いが決まるもんだ。
 グレートアーリビルケドゥだって、あの強さで図体がデカくなけりゃ倒す前にこっちがやられてらぁ」
 そ、それはそうなのだけど……

 ダメだ、きっと数値化された世界なんてものは、頭っからありえないと決めつけてしまっているのだろう。
 まぁプレイヤーだけがスキルレベルが上がりやすいのかもしれない。
 だけどアイズみたいに鑑定眼を使える人もいるのだから、スキル自体の習得が不可能ってわけではないのだろう。

 一つずつ確認をしていたのだけど、まず逃げ足は今まで効果が無駄になっていたことを知った。
【逃げ足1:武器を持たないとき、素早さを五割増しにする】
 ウルフと戦っていて武器を落としてしまった時に、たしかにいつもより早く走れたような気はした。
 なるほど、逃げるときは武器など捨ててしまえということか。
 なかなか勇気のいるスキルじゃないか。

【モンスター愛1:モンスターに懐かれやすくなる】
 今のところ効果は発揮していないが、おそらくモンスターテイマーなんて感じになれるスキルだろう。
 忍耐は防御力が少しだけ上がったり、予測は攻撃を避けやすくなる効果がある。
 ただ、具体的な数値ではないし、本当にごくわずかな効果なのだろう。

 それよりも、やはり韋駄天ともう一つ、明かにヤバいスキルを習得している気がするのだ。
【大物喰らい3:自分よりも体格の大きいモンスターを相手にする際、HPMPを除く全てのステータスにボーナスポイント最大30を得る
 大きければ大きいほど、ボーナスポイントも大きくなる】
 素早さを上げて手数を増やした僕のこのキャラクターには相性が良すぎる気がするのだ。
 いきなりスキルレベルが3というのは、おそらくそれだけグレートアーリビルケドゥとの力の差があったということだろう。

「おいっ、スノウも俺たちとオーク狩りに行かねぇか?」
 そのままスキルを調べながらアランの横に座って、僕はホットミルクを飲んでいたのだ。
 すると今度は、ウルフではなく別の魔物を倒しに行くと言い出した。
 とても小声で、まるでアイズに聞かれないようにしているようだったし、それは多分間違ってはいない。

 名前を聞いて想像はできていたのだが、巨体で動きは鈍い、二足歩行のモンスターらしい。
「どうだ? そんなに強くないって噂だし、今から馬車で向かえば夕方には帰れるぜ」
 そう誘われては僕だって行きたいに決まっている。

 なんていったって大物喰らいのスキルが役に立ちそうなのだもの。
 素早さが今更30上がってもしれているが、僕の極振りに攻撃力30アップはワクワクが止まらない。
 いや、しかしドラゴンなんかもいるだろう。
 そうすると、いいところ半分の15アップといったところだろうか?
 それでもまぁ十分だろう。

 僕はニヤニヤが止まらなかった。

 北にある廃墟にオークは棲んでいるらしい。
 もちろん倒しきってしまえばモンスターが増えるには時間がかかる。
 だが、そこそこの広さの土地に、結構な数のオークがいるものだから、だいたいいつ行ってもオークはあちこちに犇(ひしめ)いているそうだ。

「町が一つ、丸ごとオークに支配されていてな。
……っつか、アラン……マジで子供を連れて行く気なのか?」
 よく見たら、正面に座っていたのは以前の相方ではないようだ。
「そういや、ボジョレはまだスノウのことを知らないんだったな。
 いやぁ本当にすごいんだぜコイツ」

 二週間ほど別の街にいたというボジョレは、よく見たら赤ワインのグラスを手にしている。
 これで飲んでいるのが今年の新酒だったら完璧なのだが。
「なに人の酒をジロジロ見てやがんだ?
 そんなにこの安ワインが飲みたきゃ、おやっさんにでも言えよな」

 残念、ただの安ワインだった。
「本当に注文しかねんから、茶化すなよ」
 いやいや飲まないから。
 ワインは嫌いじゃないけど、今からオーク退治だっていうのにそんなことしないから。

 ……うん、帰ってからコッソリ分けてもらおう。
 アランなら、きっと飲ませてくれるだろう。

「じゃあ早速空き馬車がないか、聞いてこようか」
 スッと席を立つアラン。
 戦いに行くと決めたせいか、ビールはまだ半分残っている。
「だな、さっさと終わらせて豪勢にいこうぜ」
 それとは対象的に、赤ワインをグイッと飲み干したボジョレ。

 出口に向かおうとすると、急に後ろから視線を感じてしまった。
 も、もしかして……

「スノウまで連れて、どこに行くのかしらぁ……」
 たまに見るアイズの怖い表情だ。
 こうなると、僕はきっと出かけられない……と思ったのだけど。

「はぁ……しょうがないわね、全く……
 連れて行ってもいいけど、怪我させて帰ってきたら、あんた達絶対に許さないからね!」

 意外だったけれど、アイズとしても僕をこの街に縛りつけるようなことはしたくないのだと言う。
 自分で考えて動くのは構わないけれど、ちゃんと周りの話も聞いてほしい、心配する方の身にもなってほしいと言う。

 もちろん僕だってわがままばかり言うつもりはないのだけど、そこまで心配されるのなら考えてみなくてはいけないだろう。
 アイズに安心してもらえる方法を……
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