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24話
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「おっそいわねぇ……まーだ来ないのかしら?」
街の入り口で、二人の少女は少年を待っていた。
「ふふっ、チャッピーだって寝坊してたじゃないの」
茜は今朝のことを思い出して、クスクスと笑っている。
「だっ……だから別にあれはっ!」
寝ぼけて丸めた布団に抱きついていたチャッピーが、寝言でスノウのことを呼んでいたのだ。
当然そんなつもりはなかったチャッピー。
茜に笑われて、その表情はすでに真っ赤になっていたのだった。
「ごめんごめんっ。
親父さんがモンスター討伐依頼を頼んできたからさぁ」
珍しいことではあったが、普段たむろっている冒険者では手も足も出ないだろうモンスターが現れた時。
つまりハグレと呼ばれるイレギュラーなボスが出没した時は僕が呼び出されることは稀にあった。
「なに? じゃあ近くにハグレボスが出現してるっての?」
「チャッピー……ハグレって、通常モンスターの五倍のレベルっていう巨大モンスターなんでしょ?
逃げた方がいいんじゃないの?」
その情報は初めて聞いた。
さすが何ヶ月も色々な世界を案内役として回り歩いただけあって、僕なんかよりも相当詳しいものだ。
今回現れたハグレというのが、川沿いに棲むギャリングクラブとかいう大きな蟹だった。
面倒なことに、水辺の近くというのはやけに強くモンスターが出る場所なのだ。
放っておいても街に来ることはないだろうけれど、何かが起きる前に片付けてしまいたいと親父さんは言う。
「もう街には戻らないかもしれないし、最後に恩返しもしたいしさ」
そう言って僕は、二人に討伐の協力をお願いする。
「酔狂なやつねアンタ……
ログアウトしたら、こんな世界どうだっていいじゃないのよ」
チャッピーの言いたいことも理解はできる。
だが、僕だって毎日街の人にお世話になって暮らしてきたのだ。
街に連れてきてくれた行商のおじさんとは結局出会うことはなかった。
今頃どうしているのかと心配してしまうほどである。
「チャッピー、私もそれくらいはやってあげてもいいと思う。
だって、私たちがいなくなってもこの世界の人たちは、ここで生活し続けるんでしょ?」
辛酸を舐めたような表情のチャッピー。
気持ちはわかるのだが、それ以上にゲームという概念が抜けきらないのだと言う。
「わかったわよ、でもそれを倒したら、すぐにラスボスの封印は解いちゃうからね!」
先日のうちにスキルで生成したアイテムの数々。
素材自体は珍しくはないのだが、そのアイテムを作成できるようになるまでのレベル上げが大変であった。
まぁ、いつのまにか僕は作れるようになっていたのだけど。
「それじゃあ、ちゃっちゃと倒しちゃいましょ!」
チャッピーの鋭い爪がキラリと光る。
爪を武器としていて、種族特有の攻撃強化のスキルが使えるそうだ。
武器らしい武器が装備できないハズレ種族だと言うが、ケモナーでもある僕からすれば羨ましいくらいだったりするのだけど。
どうせこんな世界だから、性癖を隠すつもりもない。
「マジで言ってんの? アンタ……」
チャッピーのその視線も、別に嫌いではなかったし、それでも僕は自分をさらけ出す。
出していないのは本当の歳くらいなものだろう。
「まぁ……私だって変って言われるし、意外とアンタみたいに包み隠さず話してくれるおじさん、嫌いじゃないわよ……」
そういえばチャッピーは僕の本当の姿を見ていたんだっけ?
ゲームに入った時、自分の姿は見れなかったけれどもしかしたら……
僕は顔を真っ赤にして硬直してしまう。
チャッピーもそんな僕を見て、手を口に当てながら笑っているようだ。
「茜には黙っててあげるわよ……お・じ・さん」
これは絶対にバレているのだろうな。
そう思うと言いたいことも言えないでいる僕がいるのだった。
チャッピーを先頭に川沿いへと向かう。
道中、茜が話しかけてきて、僕が現実でどんな人なのかを聞いてくるのだ。
とてもじゃないけれど、ちゃんと答える気にはなれないでいた。
「ほらっ、そんなこと喋ってるとやられちゃうわよ!」
気付けば目の前に巨大な蟹がいる。
レベルは通常の蟹のちょうど5倍。
いままで気にして見たことはなかったが、きれでチャッピーの話は、より信憑性を増してしまった。
「やぁぁぁぁっっ!!」
チャッピーの力を溜めた一撃が、蟹のふんどしにめりこんだ。
冬のメスの蟹だったら、あの中にびっちりと外子(卵)があるのだろうけれど、ふんどしが小さいから多分オス。
背中に蟹ビルは付いていないから脱皮したてなのだろうか?
もはや巨大なモンスターにも僕は恐怖は感じていなかった。
様々なスキルを習得した結果、素早さが上がりすぎて動きが止まって見えてしまうのだ。
反応ができてしまうという意味であって、僕の中で時間がゆっくりに感じるということはない。
なんだかよくわからないけれど、いわゆる『遅いっ、止まって見えるわ!』なんてセリフは、つまりこういうことなのだろうな。
「ちょっと、なんでアンタは突っ立ってんのよ!」
チャッピーに怒られてしまった。
チャッピー一人で大丈夫だと思ったけれど、それで見ているだけなのはまた違うのだそうだ。
「じゃ、じゃあ……」
僕は空間収納からエクスカリバーを取り出した。
最近作成できるようになった一番強い剣。
素材集めは大変だったけど、さすが大きな街だけあって、素材の八割は市場で手に入ってしまった。
今日は焼き蟹か蟹雑炊か……
アイズと共に囲む食卓を想像してしまったのだけど、それが訪れる日はもう来ないのだろう。
そんなことを思うものだから、まるで胸が締め付けられるように、心が苦しくなってしまった。
街の入り口で、二人の少女は少年を待っていた。
「ふふっ、チャッピーだって寝坊してたじゃないの」
茜は今朝のことを思い出して、クスクスと笑っている。
「だっ……だから別にあれはっ!」
寝ぼけて丸めた布団に抱きついていたチャッピーが、寝言でスノウのことを呼んでいたのだ。
当然そんなつもりはなかったチャッピー。
茜に笑われて、その表情はすでに真っ赤になっていたのだった。
「ごめんごめんっ。
親父さんがモンスター討伐依頼を頼んできたからさぁ」
珍しいことではあったが、普段たむろっている冒険者では手も足も出ないだろうモンスターが現れた時。
つまりハグレと呼ばれるイレギュラーなボスが出没した時は僕が呼び出されることは稀にあった。
「なに? じゃあ近くにハグレボスが出現してるっての?」
「チャッピー……ハグレって、通常モンスターの五倍のレベルっていう巨大モンスターなんでしょ?
逃げた方がいいんじゃないの?」
その情報は初めて聞いた。
さすが何ヶ月も色々な世界を案内役として回り歩いただけあって、僕なんかよりも相当詳しいものだ。
今回現れたハグレというのが、川沿いに棲むギャリングクラブとかいう大きな蟹だった。
面倒なことに、水辺の近くというのはやけに強くモンスターが出る場所なのだ。
放っておいても街に来ることはないだろうけれど、何かが起きる前に片付けてしまいたいと親父さんは言う。
「もう街には戻らないかもしれないし、最後に恩返しもしたいしさ」
そう言って僕は、二人に討伐の協力をお願いする。
「酔狂なやつねアンタ……
ログアウトしたら、こんな世界どうだっていいじゃないのよ」
チャッピーの言いたいことも理解はできる。
だが、僕だって毎日街の人にお世話になって暮らしてきたのだ。
街に連れてきてくれた行商のおじさんとは結局出会うことはなかった。
今頃どうしているのかと心配してしまうほどである。
「チャッピー、私もそれくらいはやってあげてもいいと思う。
だって、私たちがいなくなってもこの世界の人たちは、ここで生活し続けるんでしょ?」
辛酸を舐めたような表情のチャッピー。
気持ちはわかるのだが、それ以上にゲームという概念が抜けきらないのだと言う。
「わかったわよ、でもそれを倒したら、すぐにラスボスの封印は解いちゃうからね!」
先日のうちにスキルで生成したアイテムの数々。
素材自体は珍しくはないのだが、そのアイテムを作成できるようになるまでのレベル上げが大変であった。
まぁ、いつのまにか僕は作れるようになっていたのだけど。
「それじゃあ、ちゃっちゃと倒しちゃいましょ!」
チャッピーの鋭い爪がキラリと光る。
爪を武器としていて、種族特有の攻撃強化のスキルが使えるそうだ。
武器らしい武器が装備できないハズレ種族だと言うが、ケモナーでもある僕からすれば羨ましいくらいだったりするのだけど。
どうせこんな世界だから、性癖を隠すつもりもない。
「マジで言ってんの? アンタ……」
チャッピーのその視線も、別に嫌いではなかったし、それでも僕は自分をさらけ出す。
出していないのは本当の歳くらいなものだろう。
「まぁ……私だって変って言われるし、意外とアンタみたいに包み隠さず話してくれるおじさん、嫌いじゃないわよ……」
そういえばチャッピーは僕の本当の姿を見ていたんだっけ?
ゲームに入った時、自分の姿は見れなかったけれどもしかしたら……
僕は顔を真っ赤にして硬直してしまう。
チャッピーもそんな僕を見て、手を口に当てながら笑っているようだ。
「茜には黙っててあげるわよ……お・じ・さん」
これは絶対にバレているのだろうな。
そう思うと言いたいことも言えないでいる僕がいるのだった。
チャッピーを先頭に川沿いへと向かう。
道中、茜が話しかけてきて、僕が現実でどんな人なのかを聞いてくるのだ。
とてもじゃないけれど、ちゃんと答える気にはなれないでいた。
「ほらっ、そんなこと喋ってるとやられちゃうわよ!」
気付けば目の前に巨大な蟹がいる。
レベルは通常の蟹のちょうど5倍。
いままで気にして見たことはなかったが、きれでチャッピーの話は、より信憑性を増してしまった。
「やぁぁぁぁっっ!!」
チャッピーの力を溜めた一撃が、蟹のふんどしにめりこんだ。
冬のメスの蟹だったら、あの中にびっちりと外子(卵)があるのだろうけれど、ふんどしが小さいから多分オス。
背中に蟹ビルは付いていないから脱皮したてなのだろうか?
もはや巨大なモンスターにも僕は恐怖は感じていなかった。
様々なスキルを習得した結果、素早さが上がりすぎて動きが止まって見えてしまうのだ。
反応ができてしまうという意味であって、僕の中で時間がゆっくりに感じるということはない。
なんだかよくわからないけれど、いわゆる『遅いっ、止まって見えるわ!』なんてセリフは、つまりこういうことなのだろうな。
「ちょっと、なんでアンタは突っ立ってんのよ!」
チャッピーに怒られてしまった。
チャッピー一人で大丈夫だと思ったけれど、それで見ているだけなのはまた違うのだそうだ。
「じゃ、じゃあ……」
僕は空間収納からエクスカリバーを取り出した。
最近作成できるようになった一番強い剣。
素材集めは大変だったけど、さすが大きな街だけあって、素材の八割は市場で手に入ってしまった。
今日は焼き蟹か蟹雑炊か……
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そんなことを思うものだから、まるで胸が締め付けられるように、心が苦しくなってしまった。
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