35歳ニートがテストプレイヤーに選ばれたのだが、応募した覚えは全く無い。

紅柄ねこ(Bengara Neko)

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追跡、そして襲撃

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 確かにプテラ(正式名称???)を倒すことはできた。
 だが、現れたのは2体であり、もう一体は僕たちの視界にはもう映らない。

「ねぇ茜っ!
 ちゃんと追いかけてるよねっ?」
「う、うん。
 任されてるんだから、ちゃんと見張ってるわよ」
 チャッピーは茜の返事を聞いて小さく拳を握りしめている。

 なんのことかは想像つくが、しかし僕はそんなスキルの存在を知らない。
「ふふんっ、さすがにアンタにも分からないみたいね。
 いいわ教えてあげるわよ」
 僕が首を傾げているのをみて、チャッピーがどや顔をするのだ。

 少なくともそのスキルを使っているのはチャッピーではなく茜だと思うのだが……
「うーん……マーキング……は僕も持ってるけど、違うしなぁ。
 あとはモンスターを使役しているか、妖精でも見えてるとか?」
 こんなゲームの世界だ、僕には見えないが妖精がいても不思議ではない。
 モンスターは僕も捕まえれるけれど、あれを追跡できるほどのものは見たことがな
い。

 ……?
「どうかした? ねぇチャッピー?」
「アンタさぁ……なんで人が少しいい気分になってるのに空気読まないの?」
 別に怒らせるつもりは全くないのだ。
 たまたま僕の言ってみた『妖精』が正解だっただけである。

「痛っ……なんで殴るかなぁ……」
「当然よ、私の気分を損ねたんだから」
 なんという理不尽だろうか。
 僕は現実では大人だけれど、今の身体は子供なのだぞ?
 殴られすぎて馬鹿になったらどう責任をとってくれるのだ。

「フェアリーアイっ!」
 何もない空間に、茜のスキルによって画像が映し出される。
 攻撃にはなんの役にも立たないけれど、妖精の見たもの聞いたものがすべてパーティーである僕たちに伝わるというスキルだった。

「すごいじゃん!
 結局一回も攻撃が当てられなかったチャッピーより、全然役に立ってるよ」
 僕は茜のスキルを本当にすごいと思った。
 言い方はもちろんわざとである。
 何度も殴られて、僕だってチャッピーに文句の一つくらい言ってやりたいのだ。

 すると、僕の後ろでは握り拳に息をハァーっと吹きかけているチャッピー。
 今でもそんな漫画みたいなことする人がいるんだ、なんて関心して見ていたが、やはりというか当然と言うべきか、その拳は僕の頭頂部へと振り下ろされるのだった。

「とにかく、さっさともう一匹のラスボスを倒しに向かうわよっ!」
 方角は……街のほう?
 高くそびえる街の外壁が、映し出される映像の端に見えるのだ。
 今は近くの丘で羽を休めているのか……いや、どうも妖精のことに気付いて僕たちを待っているかのようにも思えてくる。

「ずっと見られてるわね……」
「飛ぶのをやめるちょっと前に、振り返って妖精の方を見ていたの。
 多分、完全にバレているんだと思うわ」

 どれだけ賢いラスボスなんだ。
 普通はわざと隙を見せて、完全無敵状態だったのが一気に弱体化するようなものじゃないのか?
 ラスボスっていったらそういうのが普通だろうに。

「とにかく、こっそり近付いて不意打ちを仕掛けるのは難しそうね……」
「うん……冒険者が少し近付いただけでも反応しているみたいなの。
 多分、なにか考えがあって待ち伏せているのよ……」
 茜が不安そうに口にする。

 しかし、今更『じゃあやめようか』などとは決して言えない。
 封印を解いてしまい、世界には凶悪なボスが放たれてしまったのだ。
 放っておいたら世界は大変なことになるだろうし、チャッピーたちの目的だって果たせない。

「もう腹をくくって行くしかないみたいね。
 罠だってなんだっていいわ、その前に全力でぶっ倒してやるんだからっ!」
 気合を入れるチャッピー。
 なくなってしまった魔力を補充して、再度自身の強化魔法をかけていた。

「今度は私だって役に立つんだから」
 そう言って茜が取り出したのは、大きな……ライフル?
 映像は途切れ、足早に向かう二人と、それを追いかけるようについていく僕。

【精霊砲:使役する妖精の力を用い、究極の一撃が放たれる。再使用24時間】
 なるほど、先ほどの戦いで使わなかったのは、もう一匹のモンスターを追尾させられていたからか。
 きっとチャッピーから『何があっても追尾は解除しちゃダメ』って感じで言われていたんだろうなぁ。

 しばらく走っていると、アールフォートの街が見えてくる。
 どうやら多くの冒険者たちがプテラの存在に気付いているようだ。
 門の外はざわついているようで、一刻も早く中に入りたいという冒険者が押し寄せているようであった。

「いたわ……。
 これ以上近づくと気付かれそうね、どうする?」
 どうするもこうするもない。
 これだけ街の近くに留まられては、僕も気が気ではないのだ。

「決まってる、さっさと倒すよ。
 ……ずっと飛んでたらいいくせに、僕たちを甘くみたようだからお仕置きしなくちゃね……」
 絶対に街には被害を与えたくはない。
 茜の精霊砲を合図として、僕たちは一斉にプテラに飛びかかったのだった。
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