35歳ニートがテストプレイヤーに選ばれたのだが、応募した覚えは全く無い。

紅柄ねこ(Bengara Neko)

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スノウ……散った一欠片の雪片

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「ん……ここはどこ……?」
 プテラの攻撃を受け、多分僕は死んでしまったはずである。
 だが、意識があるということは、またゲーム世界のどこかで復活するのだろうか……?

「おつかれさまでした、松風……神様」
 ジン様、決してカミサマではない、僕の名前だ。
 暗い暗い空間で、死んだはずの僕の意識はハッキリとしていた。

 「診断の結果ですが、あなたは晴れてこの世で存(ながら)えることとなりました。
 特に、最後の愛する人を庇う行動は、NPCから多くのポイントを獲得したようです。
 現実世界に戻っても、その気持ちを忘れずにいてください。
 我々は、決して貴方達を見捨てようとは思っていないのですから……」

 暗闇が晴れ、明るい荒野に舞い降りていた。
 だが、進めどここは仮想世界。
 街は無く、森も林も見つけられなかった。

 何かが用意されているわけでもなく、僕が現実に戻るまでのタイムラグのようなものだと説明された。

 そうか……どうやら僕は現実に戻れるらしい。
 あの後、アイズがどうなったのか……街は救われたのか……
 そんなことは、今ではもうわからなかった。

 僕はゲーム世界に入ったのはいつ頃だっただろうか?
 たしか卒業式を迎える頃だったとは思うのだが……

 次第に意識は薄れ、僕は再び暗黒の世界へと戻されていった……

「ねぇバカ兄貴?
 ……ねぇってば!!」
 気付けば妹の巫樹が目の前にいた。
 何を呼びかけているのかと思えば、朝食ができたのだから、いい加減ゲームをやめるように言いに来たらしい。

 ぼ……俺は今まで何をしていたのだろうか?
 確か、宅急便でゲームが届き、興味本位でプレイを始めたはずであった。
 それにしても、何か大事なことを忘れているようで、すごくモヤモヤとした気持ちにはなっていたのだ。

「あら? 起きてきたのねジン」
 母が笑顔で僕を迎えている。
 珍しいとさえ思ってしまったその表情。
 ……俺もまた嫌な気分ではなかったのだが。

「なんだよ……残り物のシチューかよ」
「ごめんね、マカロニとチーズを使ってグラタン風にしようかとも思ったんだけどね」

 こんな食卓の光景は珍しくない。
 父が帰らなければ、残り物が食卓に出ることは多いのだ。
 俺は黙って黙黙とシチューを食べ始めていた。

 そういえば、昨日も同じものを食べた記憶はある。
 だが、今回に限って言えば、妙に懐かしく、今まで以上に美味しいと感じてしまうのだ。

「んっ……今日も美味しいよ母さん……」
 自然とそんな言葉が口から出てしまった。
 残り物に言うような言葉ではなかったのだろうが、自然と口から出てしまったのだから仕方ない。

「そうっ? 今日はもう無くなっちゃったけど、喜んでもらえるのならいつでも作ってあげるからね」
 いつになく上機嫌な母である。
 向かいに座る巫樹は、僕をみてしかめっ面。
 なんだ? なにか言いたいのだろうか?

「ば……お兄ちゃん、なんか変なもの食べた?」
 ば?? 一体何を言おうとしたのだ?
 とにかく、俺は何も変なものは食べていない。
 しかし、なんだろうか?
 妙に違和感は感じてしまうのだが、全く嫌な気分にはならないのだった。

 その日の夜、再び部屋に戻った俺は、妙な感覚に囚われる。
 ベッドに置かれたゲーム機と、しっかり片付けられた部屋の状況。

 滅多に見ることにない『母が勝手に部屋の片付けをしました』という状況にそっくりなのだ。
 ゲーム機は動かしてデータが消えたら怒られる。
 だからそれ以外を綺麗にしよう。
 そんなことを考えているのだろう。

「……ん?
 でもこれって、俺が片付けたんだよなぁ」
 ゲームプレイ時に、たしか時間があって……
 それ自体はどうでもいいのだが、どうにもゲーム内容が思い出せないでいたのだ……

 たった一夜しかプレイしておらず、挙句に寝落ちしてしまったのだ。
 きっとキャラクターメイキングとか、そのあたりで面倒になったに違いない。

 俺はその日の夕食後、再びゲーム機を起動してみたのだった。
 フルダイブ型という、新しいゲーム機に期待を込めながら……
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