S賞の無い世界なんて確実に低評価! ~異世界行ってもガチャは生きがいなのでやめられません~

紅柄ねこ(Bengara Neko)

文字の大きさ
5 / 9

タイミング

しおりを挟む
「B賞出ちゃったかぁ……」
 引き換え景品の中でめぼしいものはリザードの皮で、加工すると鎧になるのだが正直子供には必要のない素材。

 12歳になったローマは冒険者になることも考えていたが、一応は貴族の息子なのでそれも簡単ではない。
 だから、魔道具や武具は集めているが、使うことは滅多にない。
 毎日かかさずと言って良いほど店に向かうため、足腰はそこそこ鍛えられてしまっているから、なおのこと冒険者も気になってしまう。

 そんなローマが気になってしまったガチャが『勇者ガチャ』である。
 スキルや魔法の習得は教会でお布施を支払って授かるものなのだが、通常は大人になってから財産のほとんどを失って行う儀式という認識である。

 だからスキルもなく冒険者をやっている人は多く、教会での儀式は一種のステータスであるとされているのだ。

 そんな一撃大逆転な景品がS賞に入っている勇者ガチャだが、カプセルのサイズが非常に小さいため総数は全く不明である。
 1回300ゴールドと安いわけでもなく、さらにはA賞からC賞の当たり枠のいずれも大した景品ではない。

 そして、儀式を受けるには100万ゴールドともいわれるハイリスクハイリターンなガチャが稼働して約1ヶ月。
 金額的にはおそらくすでに100万以上使われているし、残数も最初から比べると4割程度には減っている。

 さすがにこの量を買い占めるわけにもいかないので、当たりが確実に入っている保証は無いのだが、それでもやはり気になって回してしまうローマであった。
 その日も雑貨ガチャでハイポーションを獲ったものだから、その代わりに部屋に保管していた安い方のポーションを5つばかし売却した。
 その帰り道に5回だけ、と思い回し始めたのである。

 1回目はハズレ。
 ハイリスクと知って回すのだが、ハズレの場合の景品は何も用意されていないのは寂しすぎる。
 さすがに法律に触れるんじゃないかと思っても、ここは異世界なのだから確かめようもない。

 2,3回目もやはりハズレであり、その当たりにくさがよくわかる。
 ところが4回目。
「あ……引換券入ってる。
 やば、マジでS賞だったらどうしようかな……」

 他の人が回しているのを見ても、9割以上がハズレだった。
 その1割以下の確率を引き当てて、おそらく一個しか入っていないS賞であったなら。

 意を決して引換券をめくると、そこには……
『B賞』
 人生そううまくはいかない。
 まぁB賞でも勝ちは勝ちである。
 おそらく数百ゴールド程度の利益でしかないが、勝った時点でやめるという選択肢も時には重要なのである。

「ほら、これが前言ってたやつ。
 勇者ガチャ。ねぇやってみようよ」
「うぇ……これカプセルいくつ入ってるんだよ。
 当たるわけねぇよ」

 そう。今B賞を出したばかりなのだから、そう簡単に当たるはずがない。
 ローマも景品の引き換えを行いながら二人の若者の様子を眺めていた。
「一回だけだぞ。って、一回300ゴールドかよ。
 100ゴールドじゃねえのかよ……」
 もし100ゴールドならば誰かが買い占めているだろう。
 ざっと見3000個、30万ゴールド程度であれば儀式を受けたいという者はいても不思議ではない。

 渋々金を取り出して筐体に入れる男と、それを見ながら期待している女。
『ガコンッ』
 何の変哲もない普通のカプセルを取り出し、男はため息をつきながら開封する。
「お、なんか入ってるぞ」

 その言葉がローマの背筋を凍らせた。
 本来5回プレイしようと思いまわし始めたのだ。
 しかし4回目で当たりが出てしまい、5回目はやめてしまった。

「なんて書いてあるんだ? S……賞?」
「へぇー、とりあえず当たりなんだね、すっごーい」

 『すっごーい』ではない。とんでもないのだ。
 しかもちゃんと当たりが入ってて、まだカプセルは大量に残っている。

 ……帰り道、放心状態で雑貨屋に向かうローマ。
「防具に加工するなら2000ゴールド、素材の買取りなら1500ゴールドだね」
「買い取りでお願いします……」
 もはや1500ゴールドなど、どうでも良くなってしまうのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

処理中です...