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七話 ギルド
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「そう申されましても、ギルドカードを所持されていない方からの買取は規約違反に……」
それほど混雑していない時間ではあったが、俺が受付嬢と揉めているうちに人々が集まり始めていた。
中には、先ほど助けた2人もいて、施設内はちょっとした騒ぎである。
「だからっ、俺のカードはタックスの奴が持ってやがったんだよ!」
「ですが、死亡届が出されてもう10日は過ぎていますよ?
森の中で遊び人が一人で生き延びたなんて考えられません。
どうしてもと仰るのでしたら、その身を証明してもらえる人を連れてきてくださいと、そう申し上げているだけです!」
冒険者の命でもあるギルドカードは、既に死亡届代わりにギルドへ返却されていた。
パーティーを組む際に、俺が逃げないようにと奪いやがったタックスの奴は、アースと共に俺を死んだことにしやがったのだ。
そこまでは想像できていたが、まさか仲間割れとアース殺害の疑惑まで付けられているとは思わなかった。
ラグナという人物は、タックスによって悪人に仕立て上げられたのだ。
おかげでひどい目に遭っている。
まずは身分を証明できる人物を。
頭を下げて頼めば、元先生や元恋人が助けてくれるかもしれない。
だが、3年前に俺を捨てた者たちに頼らねばならない俺の心は、既にボロボロだ。
顔も見たくなければ声も聞きたくない。
そう思うと、どうにも悔しくて堪らなかった。
とにかく状況は最悪だった。
まず第一に俺は『死人』扱いであり、当然ギルドからも除名されている。
ものの売り買いは冒険者ギルドとか関係のない生産ギルドが統括しているため、そこは問題ないのだが。
もし仮に俺がラグナだと証明できたとすると、今度は殺人の疑惑を晴らさなくてはならない。
仕返しをしてやったタックスとセリシュが戻ったとして、さて俺の疑惑を晴らしてくれるのだろうか?
兵を呼ぶだのと職員が言い出したので、俺はギルドを出ることにした。
考えても考えても、今の俺がなにをすればいいのかがわからない。
街で生活するためには身分証が必要だ。
出入りはともかく、このままでは寝泊まりに困る。
宿へ行くにしても、長期で滞在すればいつかは身分の提示を求められてしまう。
残された道は……そう、街を捨てるしかなかったのだ。
もちろん身分を証明でき、疑惑を晴らすことができたのなら、俺は今まで通り『遊び人のラグナ』にはなるだろう。
夕暮れまで考えて、路上の脇道でへたり込んで辿り着いた答えは、出ていくことであった……
「あっ、こんなところにいたわ。
ずっと探していたのよ」
ふいにカリンという少女が、俺に声をかけてくる。
タックスたちといた時は、以前の俺のようにフードを被っていたのだが、彼女は獣人だったようだ。
黄褐色の毛に覆われた尖った耳を持ち、同じ毛色の尻尾があるという。
彼女は遊び人ではなく、単に種族の違いで蔑まれていた存在なのだった。
俺も以前は獣人を下に見ていたことを思い出す。
本人たちは何も悪くないのに、だ。
理由として暴力的とか、知能が低いと言われているが、それもまた人によって異なる。
「……すまん」
「えっと、何がでしょうか?」
「いや、なんでもないんだ。気にしないでくれ」
つい、そんな己の過去の考えを鑑みて発した言葉に、カリンはきょとんと首を傾げていた。
まったく存在しないわけではないのだが、獣人が街にいるのは珍しい。
その多くは保護者を失くし行き場を失った者。
または借金や集落の保護の代償に差し出された労力。
本来は魔物たちの住む街の外に集落を作って生活をする種族なのだ。
俺とカリンは場所を移すことにした。
もう一人のグラファスという青年は、改めて別のパーティーに入ることを検討しているらしい。
俺にとってはどうでもいい情報であった。
カリンが『もうご飯は食べました?』と、それに答えるように、ぐぅと俺の腹の音が鳴っていた。
昼の食事すらもまだであったことを思い出し、久しく来ていなかった食事処。
周りの冒険者たちは焼いた岩塩たっぷりの香ばしい肉に、冷えたエールをグイと飲み干している。
ただ、今の俺にそんなことをする気持ちは全く湧いてこなかったのだ。
少量のパンと肉、そして薄めた果実の汁に塩を少し混ぜた飲み物。
暑い中、ずっと日光にあたっていた俺には、これでもまだ塩っ気が足りないと感じたくらいだ。
これを食べたら街を出て、また森の中で暮らすことになるだろう。
「……こんなことを聞いて申し訳ございません」
向かいに座るカリンが突然謝っている。
何をしたのかと思ってはみたが、もちろん何もしていない。
今からその失礼なことを訪ねようとしているそうなのだから。
「ギルドで聞いたのですが、ラグナ……さんっていうんですよね?
お話では私がいたパーティーで以前荷物持ちをしていらっしゃったって」
俺はぶっきらぼうに『そうだ』と答える。
だからなんだ、何が言いたいんだと。
イラっとしてしまったのは、聞いてきた相手が獣人だからであろうか?
いや、今は思い出したくないことだからなのだろう。
カリンは聞いてくる。
本当に食料を奪ってタックスたちを森に置き去りにしたのか。
一人レベルの低いアースを闇討ちして、装備や衣服をはぎ取ったのか、と。
そういうことになっているらしいのだが、どこの世界に冒険者を闇討ちできる遊び人がいるのだと問い詰めたい。
他にも色々な質問の度に『そうだ』とか『違う』とか。
そして最後の質問には驚いた。
「あなたの名前、教えてもらってもいい?」
一体彼女が何を言っているのか、甚だ疑問であった。
先ほどからラグナであると、何度も言っているではないか。
獣人はやはり頭がおかしいのか?
そんなことを思うくらいには、さすがの俺もカリンのことを馬鹿にしただろう。
それほど混雑していない時間ではあったが、俺が受付嬢と揉めているうちに人々が集まり始めていた。
中には、先ほど助けた2人もいて、施設内はちょっとした騒ぎである。
「だからっ、俺のカードはタックスの奴が持ってやがったんだよ!」
「ですが、死亡届が出されてもう10日は過ぎていますよ?
森の中で遊び人が一人で生き延びたなんて考えられません。
どうしてもと仰るのでしたら、その身を証明してもらえる人を連れてきてくださいと、そう申し上げているだけです!」
冒険者の命でもあるギルドカードは、既に死亡届代わりにギルドへ返却されていた。
パーティーを組む際に、俺が逃げないようにと奪いやがったタックスの奴は、アースと共に俺を死んだことにしやがったのだ。
そこまでは想像できていたが、まさか仲間割れとアース殺害の疑惑まで付けられているとは思わなかった。
ラグナという人物は、タックスによって悪人に仕立て上げられたのだ。
おかげでひどい目に遭っている。
まずは身分を証明できる人物を。
頭を下げて頼めば、元先生や元恋人が助けてくれるかもしれない。
だが、3年前に俺を捨てた者たちに頼らねばならない俺の心は、既にボロボロだ。
顔も見たくなければ声も聞きたくない。
そう思うと、どうにも悔しくて堪らなかった。
とにかく状況は最悪だった。
まず第一に俺は『死人』扱いであり、当然ギルドからも除名されている。
ものの売り買いは冒険者ギルドとか関係のない生産ギルドが統括しているため、そこは問題ないのだが。
もし仮に俺がラグナだと証明できたとすると、今度は殺人の疑惑を晴らさなくてはならない。
仕返しをしてやったタックスとセリシュが戻ったとして、さて俺の疑惑を晴らしてくれるのだろうか?
兵を呼ぶだのと職員が言い出したので、俺はギルドを出ることにした。
考えても考えても、今の俺がなにをすればいいのかがわからない。
街で生活するためには身分証が必要だ。
出入りはともかく、このままでは寝泊まりに困る。
宿へ行くにしても、長期で滞在すればいつかは身分の提示を求められてしまう。
残された道は……そう、街を捨てるしかなかったのだ。
もちろん身分を証明でき、疑惑を晴らすことができたのなら、俺は今まで通り『遊び人のラグナ』にはなるだろう。
夕暮れまで考えて、路上の脇道でへたり込んで辿り着いた答えは、出ていくことであった……
「あっ、こんなところにいたわ。
ずっと探していたのよ」
ふいにカリンという少女が、俺に声をかけてくる。
タックスたちといた時は、以前の俺のようにフードを被っていたのだが、彼女は獣人だったようだ。
黄褐色の毛に覆われた尖った耳を持ち、同じ毛色の尻尾があるという。
彼女は遊び人ではなく、単に種族の違いで蔑まれていた存在なのだった。
俺も以前は獣人を下に見ていたことを思い出す。
本人たちは何も悪くないのに、だ。
理由として暴力的とか、知能が低いと言われているが、それもまた人によって異なる。
「……すまん」
「えっと、何がでしょうか?」
「いや、なんでもないんだ。気にしないでくれ」
つい、そんな己の過去の考えを鑑みて発した言葉に、カリンはきょとんと首を傾げていた。
まったく存在しないわけではないのだが、獣人が街にいるのは珍しい。
その多くは保護者を失くし行き場を失った者。
または借金や集落の保護の代償に差し出された労力。
本来は魔物たちの住む街の外に集落を作って生活をする種族なのだ。
俺とカリンは場所を移すことにした。
もう一人のグラファスという青年は、改めて別のパーティーに入ることを検討しているらしい。
俺にとってはどうでもいい情報であった。
カリンが『もうご飯は食べました?』と、それに答えるように、ぐぅと俺の腹の音が鳴っていた。
昼の食事すらもまだであったことを思い出し、久しく来ていなかった食事処。
周りの冒険者たちは焼いた岩塩たっぷりの香ばしい肉に、冷えたエールをグイと飲み干している。
ただ、今の俺にそんなことをする気持ちは全く湧いてこなかったのだ。
少量のパンと肉、そして薄めた果実の汁に塩を少し混ぜた飲み物。
暑い中、ずっと日光にあたっていた俺には、これでもまだ塩っ気が足りないと感じたくらいだ。
これを食べたら街を出て、また森の中で暮らすことになるだろう。
「……こんなことを聞いて申し訳ございません」
向かいに座るカリンが突然謝っている。
何をしたのかと思ってはみたが、もちろん何もしていない。
今からその失礼なことを訪ねようとしているそうなのだから。
「ギルドで聞いたのですが、ラグナ……さんっていうんですよね?
お話では私がいたパーティーで以前荷物持ちをしていらっしゃったって」
俺はぶっきらぼうに『そうだ』と答える。
だからなんだ、何が言いたいんだと。
イラっとしてしまったのは、聞いてきた相手が獣人だからであろうか?
いや、今は思い出したくないことだからなのだろう。
カリンは聞いてくる。
本当に食料を奪ってタックスたちを森に置き去りにしたのか。
一人レベルの低いアースを闇討ちして、装備や衣服をはぎ取ったのか、と。
そういうことになっているらしいのだが、どこの世界に冒険者を闇討ちできる遊び人がいるのだと問い詰めたい。
他にも色々な質問の度に『そうだ』とか『違う』とか。
そして最後の質問には驚いた。
「あなたの名前、教えてもらってもいい?」
一体彼女が何を言っているのか、甚だ疑問であった。
先ほどからラグナであると、何度も言っているではないか。
獣人はやはり頭がおかしいのか?
そんなことを思うくらいには、さすがの俺もカリンのことを馬鹿にしただろう。
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