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八話 バーチャル配信者
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食事も終わろうとしていた時にカリンから発せられた質問が、俺のその後の人生を大きく変えたのは間違いない。
「名前、教えてもらってもいい?」
「あ? さっきからラグナだっつってんだろ」
「そうね、でももう冒険者やめちゃう気でいるんでしょ?」
まるで俺が何に悩んでいたのかを知っているかのようだった。
カリンは『遊び人』のことも知っているらしい。
しかも俺がその遊び人だと知ると、あろうことか『うらやましい』とさえ言ってくるのだ。
馬鹿にしやがって、とは正直思ったが、彼女に至ってはその最低な『ジョブ』すら与えられていないのだという。
どのような種族でも、一定の年齢以上であれば教会や神殿などで授かることはできるはずなのだが……
「私、実は別の世界から来たんだよねぇ。
魔法なんて使えないし、気付いたら自分の姿がフォクシーだから驚いたわよ」
「別の世界……?」
カリンの言うことは全く理解しがたい。
フォクシーというのが、カリンの記憶にあるキツネという動物を模した獣人なのだということ。
剣士や魔法使いは下級職で、条件を満たして転職をしないと役に立たないジョブなのだということ。
遊び人に転職するには、単純にレベルを上げてもなれないということ。
その者個人の高い素の能力が、転職には必要なのだとか……
「じゃあ、その事をギルドに伝えれば俺も」
「そんなわけないじゃない。
低レベル冒険者しかいなくて、バトルマスターはおろか魔法戦士もパラディンも存在しない世界でどうやって認知させるのよ」
もしかしたら夢だった騎士団も……という妄想は、瞬時に打ち砕かれた。
「でも私もラッキーだったわよ。
トレーディングカードの開封動画を撮影してたのに、気付いたらこんな世界にいるんだもの。
1ボックス目からPPのテノちゃん引いて神引きーって思ったのに。
よく考えたら興奮しすぎて死んじゃったのかなぁ? あはは」
10カートンに1枚と言われている最高レアを引き当てた興奮で……とは何のことなのか?
配信したところで低評価待ったなしだとか、そういう知らない世界の話をされても困ってしまう。
まぁ、なんだか喋ってて楽しそうなので、今は口を挟まないようにしておこう……
しばらく好き勝手に喋っていたカリンだが、前の世界でも名前はカリンだったそうだ。
ただしそちらのカリンは偽名であり、バーチャル配信者としての名前『花巻カリン』と名乗っていたらしい。
獣人でキツネで、この世界に来て一人この街の傍で『バーチャルが具現化しやがったぁ!』と叫んでいたそうだ。
ともあれ、ジョブやスキルのことは詳しいようで、俺の得たスキル『クリエイト』のことも知っていた。
そんなカリンが、再度俺に問いかけてくる。
「どうせこの街に残る気がないならさぁ、どこか他の街に行っちゃおうよ。
この街にいた悲運なラグナはもういない! ねっ」
……それが俺の人生を一変させた、一人の獣人の少女カリンの言葉だったのだ。
行動に移したのは、その日の夜のうちになった。
まとめるような荷物もないのだし、なによりいつまでも獣人と共にいる姿を周囲に見られるのには抵抗があったからだ。
カリンは確かに変な少女ではあるが、決して悪い子ではなさそうだとは感じていた。
それでも俺もまた獣人というだけで、周囲の冷たい視線を浴びせてくる者ども同様に、彼女を侮蔑するような感情は持ち合わせていたのだが……
俺自身は口数も少なく、食事代を支払い終えると静かに店を出て行く。
楽しそうにしながら後ろをついてくるカリンには違和感しか感じないのだが、それはここまで笑う獣人を他に見たことが無かったからに他ならない。
例によってカリンはフードを深く被り直し、それとはわからないように俺の横を歩いている。
食料など必要そうなものを買い込んで、街を出た。
深夜に狩りをする冒険者も珍しくはない。
誰も俺たちを止める者など、いるはずもないのだった……
「名前、教えてもらってもいい?」
「あ? さっきからラグナだっつってんだろ」
「そうね、でももう冒険者やめちゃう気でいるんでしょ?」
まるで俺が何に悩んでいたのかを知っているかのようだった。
カリンは『遊び人』のことも知っているらしい。
しかも俺がその遊び人だと知ると、あろうことか『うらやましい』とさえ言ってくるのだ。
馬鹿にしやがって、とは正直思ったが、彼女に至ってはその最低な『ジョブ』すら与えられていないのだという。
どのような種族でも、一定の年齢以上であれば教会や神殿などで授かることはできるはずなのだが……
「私、実は別の世界から来たんだよねぇ。
魔法なんて使えないし、気付いたら自分の姿がフォクシーだから驚いたわよ」
「別の世界……?」
カリンの言うことは全く理解しがたい。
フォクシーというのが、カリンの記憶にあるキツネという動物を模した獣人なのだということ。
剣士や魔法使いは下級職で、条件を満たして転職をしないと役に立たないジョブなのだということ。
遊び人に転職するには、単純にレベルを上げてもなれないということ。
その者個人の高い素の能力が、転職には必要なのだとか……
「じゃあ、その事をギルドに伝えれば俺も」
「そんなわけないじゃない。
低レベル冒険者しかいなくて、バトルマスターはおろか魔法戦士もパラディンも存在しない世界でどうやって認知させるのよ」
もしかしたら夢だった騎士団も……という妄想は、瞬時に打ち砕かれた。
「でも私もラッキーだったわよ。
トレーディングカードの開封動画を撮影してたのに、気付いたらこんな世界にいるんだもの。
1ボックス目からPPのテノちゃん引いて神引きーって思ったのに。
よく考えたら興奮しすぎて死んじゃったのかなぁ? あはは」
10カートンに1枚と言われている最高レアを引き当てた興奮で……とは何のことなのか?
配信したところで低評価待ったなしだとか、そういう知らない世界の話をされても困ってしまう。
まぁ、なんだか喋ってて楽しそうなので、今は口を挟まないようにしておこう……
しばらく好き勝手に喋っていたカリンだが、前の世界でも名前はカリンだったそうだ。
ただしそちらのカリンは偽名であり、バーチャル配信者としての名前『花巻カリン』と名乗っていたらしい。
獣人でキツネで、この世界に来て一人この街の傍で『バーチャルが具現化しやがったぁ!』と叫んでいたそうだ。
ともあれ、ジョブやスキルのことは詳しいようで、俺の得たスキル『クリエイト』のことも知っていた。
そんなカリンが、再度俺に問いかけてくる。
「どうせこの街に残る気がないならさぁ、どこか他の街に行っちゃおうよ。
この街にいた悲運なラグナはもういない! ねっ」
……それが俺の人生を一変させた、一人の獣人の少女カリンの言葉だったのだ。
行動に移したのは、その日の夜のうちになった。
まとめるような荷物もないのだし、なによりいつまでも獣人と共にいる姿を周囲に見られるのには抵抗があったからだ。
カリンは確かに変な少女ではあるが、決して悪い子ではなさそうだとは感じていた。
それでも俺もまた獣人というだけで、周囲の冷たい視線を浴びせてくる者ども同様に、彼女を侮蔑するような感情は持ち合わせていたのだが……
俺自身は口数も少なく、食事代を支払い終えると静かに店を出て行く。
楽しそうにしながら後ろをついてくるカリンには違和感しか感じないのだが、それはここまで笑う獣人を他に見たことが無かったからに他ならない。
例によってカリンはフードを深く被り直し、それとはわからないように俺の横を歩いている。
食料など必要そうなものを買い込んで、街を出た。
深夜に狩りをする冒険者も珍しくはない。
誰も俺たちを止める者など、いるはずもないのだった……
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