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九話 死に戻りミスラ
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「ひとまず、魔の森の奥地を目指しましょ。
予想が当たっているなら、多分アレがあるはずだから」
外に出ると、いまだに困惑が解けてはいない俺に対し、カリンは笑いながら言った。
フードの隙間から見えるにやけた口元は、自身の表れなのであろう。
もしくは、俺を不安にさせないための演技である可能性も捨てきれはしない。
「あ、あぁ……アレが何かは知らんが、当てがあるなら俺は構わんぞ」
どのみち俺も森の中ほどまでは行く予定だったのだ。
今まで使っていた洞窟がある。そこを根城にすることも考えていたからな。
「そうそう、さっき言っていた名前なんだけどさ。
『ミスラ』っていうのはどう?
私のいた世界の英雄神の名前、優れたジョブを持つキミにピッタリじゃないかな?」
ミスラ……か。
響きは悪くないし、ラグナの名前を捨てるのであれば何かしらは考えるべきだろうな。
街を出るとはいっても、名前がないのは色々と不都合がありそうだ……
俺が悩んでいる素振りを見せていると、カリンは続けて別の案も出してくる。
「他には、『ペルセポネ』って神様の名前もあったと思うけど……確か女神様なんだよね。
『死』に関わりそうな名前のキャラクターって、他になにかいたっけなぁ……」
「いや、ミスラで構わない。
何を言っているのかはあまり理解できないが、放っておくと『死神』だの『疫病神』だのと名付けられてしまいそうだ」
「そんなことないよぉ。一応最高レア度の排出率8%のキャラクターから選んでるんだよ?」
「いや、それが俺には理解できんと言っているんだが……」
カリンには悪気は全くないのだろう。
ボソッと呟いた『死に関わる』という発言も、ただカッコよさを求めた結果なのかもしれない。
俺にとっては不吉な印象でしかないわけだが。
……ということは、ミスラもそういった意味合いを含んだ名前ということか。
まぁ……今更どうでも構いやしないな……
しばらく歩き、森に入ると俺は時折現れるゴブリンを倒しながらカリンと共に奥地を目指す。
道中、彼女が自身のできることをポツリポツリと喋っていた。
ステータスを表示させて見ているのだろう、俺には見えない何かを眺めながら『あーでもない、こうでもない』と喋っていたのだ。
『HP』『MP』『SP』という表記があるのは当然のことだと思っていた。
魔法を使うには身体に蓄えられたマナエネルギーを使用しなくてはならない。
より効率よく魔法を発動させるために、杖などに仕込んだ魔石に反応させ、ゴブリンを屠る火力を生み出すことができる。
そして当然MPが無くなってしまえば、再び身体に貯まっていくまでは魔法は使えない。
彼女にはその『MP』が存在しないらしいのだ。
獣人も含め誰しもが持つはずの力を持っていないのは、異世界人であることの証明になるのだろうか?
そして『SP』についても同様であった。
身体能力を一時的に高め、強力な一撃は通常時の3倍の威力ともいわれている。
これもまた、彼女のステータスには存在していないらしいのだ。
異世界人は一体どのような世界で生きてきたというのだろうか?
まぁそれも彼女の妄想かもしれないし、深くは考えないでおこう…・・・
また、彼女には俺の見ているステータスとは別のものも見えているみたいでもあった。
「前はできなかったしなぁー……一応パーティー申請は、っと……
……オッケーね、相手が納得していれば勝手に受理されるのかな?
じゃあこれで私にも経験値が入るよね」
俺が戦っている後ろで、特に怖がる様子もなくウインドウを操作している風のカリン。
まぁお荷物になるよりは助かるのだが、俺に気をつかう素振りが全く無いのはどうなのだろうか?
俺は素早くゴブリンを倒し、マナを拾う。
そこにカリンが話しかけてきて、ちょっと試したいことがあるのだと言っていた。
「ちょっと離れてからチャット飛ばすから。
なにか変化があったら合図してくれない?」
「それは構わないが……お前、ここは魔物の出る森の中だぞ?」
「平気よゴブリンくらい。
私の攻撃が通らなくたって、アイテムで攻撃すればいいんだから。
もったいないから普段は使わないようにしているだけよ」
異世界の少女とは、こうも度胸があるものなのだろうか?
普通であれば殺されるかもしれないと、森に入るのすら嫌がるレベルのはずなのだが……
度胸がある……というか、やはり単に馬鹿なだけかもしれないな……
「あ、なんか私のこと馬鹿にしてるでしょ?」
目をやや細め、俺を睨みつけているカリン。
俺がとった苦笑いの表情を見て、さすがに感づかれてしまったな。
「そ、そんなことはないが、ちょっと驚いただけだ」
「別に馬鹿にしてくれたっていいわよ。
私にしてみたら、凄い力を持っているのに全然使いこなせてないあんたたちの方が馬鹿に見えるんだから」
追記……彼女は馬鹿なだけではなく、自信過剰なところもあるようだ……
そして、彼女の言っていたチャット機能というものを試してもらった。
目の前に現れた彼女のリアルタイムの映像と音声、そして打ち込んだと思しき文字が別ウインドウに表示されている。
俺もまた目の前のウインドウに文字を入れてみると、同様に相手へと送られることがわかった。
だが、テストを終えて戻ってきたカリンに、どうやってやったのかを聞いてはみたものの……
終ぞ俺がその『チャット機能』を使うことは、できなかったのである。
予想が当たっているなら、多分アレがあるはずだから」
外に出ると、いまだに困惑が解けてはいない俺に対し、カリンは笑いながら言った。
フードの隙間から見えるにやけた口元は、自身の表れなのであろう。
もしくは、俺を不安にさせないための演技である可能性も捨てきれはしない。
「あ、あぁ……アレが何かは知らんが、当てがあるなら俺は構わんぞ」
どのみち俺も森の中ほどまでは行く予定だったのだ。
今まで使っていた洞窟がある。そこを根城にすることも考えていたからな。
「そうそう、さっき言っていた名前なんだけどさ。
『ミスラ』っていうのはどう?
私のいた世界の英雄神の名前、優れたジョブを持つキミにピッタリじゃないかな?」
ミスラ……か。
響きは悪くないし、ラグナの名前を捨てるのであれば何かしらは考えるべきだろうな。
街を出るとはいっても、名前がないのは色々と不都合がありそうだ……
俺が悩んでいる素振りを見せていると、カリンは続けて別の案も出してくる。
「他には、『ペルセポネ』って神様の名前もあったと思うけど……確か女神様なんだよね。
『死』に関わりそうな名前のキャラクターって、他になにかいたっけなぁ……」
「いや、ミスラで構わない。
何を言っているのかはあまり理解できないが、放っておくと『死神』だの『疫病神』だのと名付けられてしまいそうだ」
「そんなことないよぉ。一応最高レア度の排出率8%のキャラクターから選んでるんだよ?」
「いや、それが俺には理解できんと言っているんだが……」
カリンには悪気は全くないのだろう。
ボソッと呟いた『死に関わる』という発言も、ただカッコよさを求めた結果なのかもしれない。
俺にとっては不吉な印象でしかないわけだが。
……ということは、ミスラもそういった意味合いを含んだ名前ということか。
まぁ……今更どうでも構いやしないな……
しばらく歩き、森に入ると俺は時折現れるゴブリンを倒しながらカリンと共に奥地を目指す。
道中、彼女が自身のできることをポツリポツリと喋っていた。
ステータスを表示させて見ているのだろう、俺には見えない何かを眺めながら『あーでもない、こうでもない』と喋っていたのだ。
『HP』『MP』『SP』という表記があるのは当然のことだと思っていた。
魔法を使うには身体に蓄えられたマナエネルギーを使用しなくてはならない。
より効率よく魔法を発動させるために、杖などに仕込んだ魔石に反応させ、ゴブリンを屠る火力を生み出すことができる。
そして当然MPが無くなってしまえば、再び身体に貯まっていくまでは魔法は使えない。
彼女にはその『MP』が存在しないらしいのだ。
獣人も含め誰しもが持つはずの力を持っていないのは、異世界人であることの証明になるのだろうか?
そして『SP』についても同様であった。
身体能力を一時的に高め、強力な一撃は通常時の3倍の威力ともいわれている。
これもまた、彼女のステータスには存在していないらしいのだ。
異世界人は一体どのような世界で生きてきたというのだろうか?
まぁそれも彼女の妄想かもしれないし、深くは考えないでおこう…・・・
また、彼女には俺の見ているステータスとは別のものも見えているみたいでもあった。
「前はできなかったしなぁー……一応パーティー申請は、っと……
……オッケーね、相手が納得していれば勝手に受理されるのかな?
じゃあこれで私にも経験値が入るよね」
俺が戦っている後ろで、特に怖がる様子もなくウインドウを操作している風のカリン。
まぁお荷物になるよりは助かるのだが、俺に気をつかう素振りが全く無いのはどうなのだろうか?
俺は素早くゴブリンを倒し、マナを拾う。
そこにカリンが話しかけてきて、ちょっと試したいことがあるのだと言っていた。
「ちょっと離れてからチャット飛ばすから。
なにか変化があったら合図してくれない?」
「それは構わないが……お前、ここは魔物の出る森の中だぞ?」
「平気よゴブリンくらい。
私の攻撃が通らなくたって、アイテムで攻撃すればいいんだから。
もったいないから普段は使わないようにしているだけよ」
異世界の少女とは、こうも度胸があるものなのだろうか?
普通であれば殺されるかもしれないと、森に入るのすら嫌がるレベルのはずなのだが……
度胸がある……というか、やはり単に馬鹿なだけかもしれないな……
「あ、なんか私のこと馬鹿にしてるでしょ?」
目をやや細め、俺を睨みつけているカリン。
俺がとった苦笑いの表情を見て、さすがに感づかれてしまったな。
「そ、そんなことはないが、ちょっと驚いただけだ」
「別に馬鹿にしてくれたっていいわよ。
私にしてみたら、凄い力を持っているのに全然使いこなせてないあんたたちの方が馬鹿に見えるんだから」
追記……彼女は馬鹿なだけではなく、自信過剰なところもあるようだ……
そして、彼女の言っていたチャット機能というものを試してもらった。
目の前に現れた彼女のリアルタイムの映像と音声、そして打ち込んだと思しき文字が別ウインドウに表示されている。
俺もまた目の前のウインドウに文字を入れてみると、同様に相手へと送られることがわかった。
だが、テストを終えて戻ってきたカリンに、どうやってやったのかを聞いてはみたものの……
終ぞ俺がその『チャット機能』を使うことは、できなかったのである。
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