私がモンスター発生源?! 〜異世界で考えたさいきょうの魔物育成計画〜

紅柄ねこ(Bengara Neko)

文字の大きさ
3 / 55
1章 ダンジョンと少女

剣と洞窟とにわとりと

しおりを挟む
「誰かいるのかー?」
「ねぇアレン、やっぱり魔物だってば。
 キューブで一気に倒しちゃいましょうよ」
「でもなぁ……万が一襲われて動けない人間だったら」

 男の呼びかける声と、その男に話しかける女の声が聞こえていた。
 話の内容から察するに、ここに連れてきた首謀者ではなさそうだったが、状況が状況だけにおいそれと姿を現すわけにはいかないと考える凍花。

「に……にゃぁぁあ」
 完全に冷静さを欠いている凍花は、あろうことかで猫の声真似をしたのだ。

『なんだ猫か』
『そうね、気のせいだったかしら』

 ……なんて世界線は、存在しなかった。
 女は急に騒ぎ出し、男もカチャカチャと騒がしく音を立てている。

 動物の動画を毎日見ているだけあって、猫の声真似には多少の自信はあったのだ。
 それなのに『焼き尽くした方が』だの『やられる前に』だのと物騒な言葉が飛んでくるのだから凍花もそれはもう焦っていた。

「ちょ、ちょっと本当になんなの一体!!」
 意を決して二人の前に姿を現した凍花。
 仕事で着ていたベージュのジャケットを脱ぐと、それを盾にしながら恐る恐る二人の顔を覗き込んでいた。

「人がいるのかっ?!
 おいっ、パンテラが近くにいるぞ、早く逃げろ!」
 厚い革の腰巻きと鉄のプレートを胸に当てた男が、西洋風の剣を構えてこちらを見ていた。

 とんでもないコスプレだ。
 同人ゲームでも見ないほど雑であるその姿は、まるで薬草を摘みに来ただけの村人A。
 カゴを脇に抱えていて、その中には草を詰めてある。
 女の方はといえば、脛には厚めに布を巻いており寝巻きにしても質素な上下に首には破れた麻布らしきものを巻いている。
 男が村人Aならば、こちらは囚人Aといったところ。
 薄暗くてハッキリはしなかったが、どちらも髪の色が白に近いようで、目や口元も日本人とは違う雰囲気を持っていたのは凍花にとってとても印象的であった。

 そして囚人Aこと、女もまた声をかけてくる。
「お、女の子??
 とりあえず危険だからこっちに来なさい。パンテラがいるのよ!」

 パンテラというものが凍花には何のことかはわからなかったが、二人は敵ではないようだ。
 奥にまだ人がいるのかと尋ねられた凍花だが、状況が全く理解できていないせいで返答もできやしない。
 女が凍花の身体を抱きしめると、男は剣を握ったまま凍花のいた方向へと歩を進める。

 『もう大丈夫だから』と優しく声をかける女に、凍花はパンテラとは何かと聞くことにした。
 毒蛇か蜘蛛か、はたまた地方独自の幽霊みたいなものなのか?
 そうだとしても、凍花にはここへ連れてこられた理由は全くわからないのだったが。

「何って、聞こえなかったの?
 さっき威嚇してる声が聞こえたじゃない。
 階層の浅いダンジョンだからポロくらいしか沸いてこないと思ってたのに」
「ポロ……?威嚇??」

 聞き慣れない言葉に、首を傾げる凍花。
 男も周囲を警戒しながら凍花たちの元へと戻ってくる。
 その手には淡い光を放つ四角い物体があり、剣には何かを切ったような液体が付いている。
 それもまた凍花には見慣れない光景であったのは間違いがない。

 しかし、凍花には考える間も与えてはくれないようで、何かに反応した男は再び剣を構える。
 今いた場所とは反対側の、二人がやってきた方へ警戒を強めたのだ。
「パンテラは見当たらなかったが警戒しててくれ、サラ。
 俺はポロを倒してくる」
「わかったわアレン。……ほら、行くわよ!」

 アレンとサラ。
 来た道を戻る二人をなりきりコスプレイヤーとばかり思い込んでいたが、どうにも様子がおかしい。
 日本人ではなく、知っているキャラの格好ではない。
 だが言葉は通じるし、洞窟も剣もおそらく本物である。

 疑念が湧いて止まらなく、今は大人しく着いていくしかない凍花だったが、すぐ後に見た光景によって一つの答えを導き出すこととなった。
「よし、仕掛けるぞ」
「ポロは……他にはいないみたいね。
 気をつけてね、アレン」

 二人がポロと呼んでいるそれは、どう見ても鶏と表現するのが正しかった。
 正確には、眼の鋭く光った鶏のような、限りなく近いけれどどことなく恐ろしい雰囲気を纏った生物。
 トサカがちょっと大きくて、小さくコッココッコ鳴いているようだ。

 そしてアレンは後ろを向いていたポロに向かって斬りかかったのだ。
 5メートルはあろう間合いを、一瞬で詰めて上から一気に剣を振り落とす。

 そして、幾ばくかの砂になったそれの中から小さな何かを拾い上げるアレン。

「わかった……これ異世界転生ものじゃん……」
 サラに手を握られたまま、呆然と立ち尽くす凍花の姿がそこにはあったのだった。
 





しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

異世界で美少女『攻略』スキルでハーレム目指します。嫁のために命懸けてたらいつの間にか最強に!?雷撃魔法と聖剣で俺TUEEEもできて最高です。

真心糸
ファンタジー
☆カクヨムにて、200万PV、ブクマ6500達成!☆ 【あらすじ】 どこにでもいるサラリーマンの主人公は、突如光り出した自宅のPCから異世界に転生することになる。 神様は言った。 「あなたはこれから別の世界に転生します。キャラクター設定を行ってください」 現世になんの未練もない主人公は、その状況をすんなり受け入れ、神様らしき人物の指示に従うことにした。 神様曰く、好きな外見を設定して、有効なポイントの範囲内でチートスキルを授けてくれるとのことだ。 それはいい。じゃあ、理想のイケメンになって、美少女ハーレムが作れるようなスキルを取得しよう。 あと、できれば俺TUEEEもしたいなぁ。 そう考えた主人公は、欲望のままにキャラ設定を行った。 そして彼は、剣と魔法がある異世界に「ライ・ミカヅチ」として転生することになる。 ライが取得したチートスキルのうち、最も興味深いのは『攻略』というスキルだ。 この攻略スキルは、好みの美少女を全世界から検索できるのはもちろんのこと、その子の好感度が上がるようなイベントを予見してアドバイスまでしてくれるという優れモノらしい。 さっそく攻略スキルを使ってみると、前世では見たことないような美少女に出会うことができ、このタイミングでこんなセリフを囁くと好感度が上がるよ、なんてアドバイスまでしてくれた。 そして、その通りに行動すると、めちゃくちゃモテたのだ。 チートスキルの効果を実感したライは、冒険者となって俺TUEEEを楽しみながら、理想のハーレムを作ることを人生の目標に決める。 しかし、出会う美少女たちは皆、なにかしらの逆境に苦しんでいて、ライはそんな彼女たちに全力で救いの手を差し伸べる。 もちろん、攻略スキルを使って。 もちろん、救ったあとはハーレムに入ってもらう。 下心全開なのに、正義感があって、熱い心を持つ男ライ・ミカヅチ。 これは、そんな主人公が、異世界を全力で生き抜き、たくさんの美少女を助ける物語。 【他サイトでの掲載状況】 本作は、カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しています。

処理中です...