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1章 ダンジョンと少女
ダンジョン攻略③
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「いらっしゃいませ……ってアレンさん?
パンを買いに来たんですか?」
「いや、実は……」
早朝、突如店にやって来て『スライムを貸してほしい』などと言い出したアレンだった。
話を聞いてみると、どうやら近くの川の汚染がひどく、放置すれば村にも影響がありそうだということであった。
それにしても次から次へと忙しい村である。
ダンジョン調査の件は知っていたようで、ならばいつぞやに噂になった掃除屋のスライムを試してみようとのことである。
「ちょっと待ってねー。
魔物も出るだろうし、ステータスは攻撃と素早さに振って……アレンさんを対象……っと」
「あ……いや、この間の……」
この間の模擬戦を行ったスライムくらいで良いと言いたかったアレンだったが、言い終わる前にスライムの召喚は済んでしまい、アレンの横には1匹のスライムが出現している。
そこらの魔物よりは早く動けるため、魔物を見かけた場合は先制攻撃で仕留めてしまうように命じるように伝え、悪食の効果が30分しか無いことも言っておく。
このスキルを使用しない場合は、せいぜいスライムと同体積のものしか消化しないのだから仕方ない。
「3匹もいれば十分だよね?」
「え? あ、いや1匹でじゅう……」
ポンッ……ポンッと更に2匹のスライムがいつの間にか出現していた。
アレンが言わんとしていることなど関係なく、それが凍花にとっての最良の対応である。
「スライムって基本なんでも消化するんだけど、ちゃんと指示してあげればそれ以外は消化しないから。
ちなみに、身体の気になる場所にも使えたりなんてことも……」
凍花はアレンの足元を見ながら、そう呟く。
強く縛った集めの革の靴、一日中着けている厚手の脛当てに胸当て。
それらがどういう弊害をもたらすかは、よくわかっている。
ニヤニヤとする凍花の表情に、アレンは何も言えずにただスライム3匹を借りるだけであった。
そんなことはともかく、パンの販売がひと段落すると凍花は出発の準備を急いだ。
「気をつけなよー。
今日くらい、別に休んだって良いんだからな」
「そんなの悪いよ。
この間も私の勝手で2日も休ませてもらってたんだし」
今でも自分のスキルのことを考えると気分は良くはない。
しかし、この世界で生きていかなくてはいけない状況に、悩んでばかりもいられない。
「よろしくね、トラ」
『ニャア』
凍花は荷物をまとめると、パンテラを連れて村を出発する。
村から出てからはパンテラに跨がれば目的地もすぐそこであった。
はてさて、ちょっとした遠征になるのだと聞かされていたが数キロ先の山を遠征と言って良いものだろうか?
改めて村の周囲を見回せば、盆地になっているようで周囲は山に囲まれている。
どの方位にも、おおよそ10kmも進めば山に当たるような地形であり、それを超えるというのはつまりは別の村か街へと行くことになるという。
問題があるとすれば、体感数百メートル間隔で魔物が現れて、その度に追いかけられるので都度手間であることか。
行商はこれを振り払うために馬を用意するという。
しかしながら、所詮はゴブリンかウサギか食人植物か。
あの後もステータスが上がっているパンテラの相手になるような魔物ではないので都度倒すことにした。
「小銭稼ぎも無駄になっちゃったし、少しでもドロップ集めないとねぇ。
……あ、また魔物? いえ、冒険者っぽいけど……」
遠目に見えるのは、人型らしき影が木に寄りかかって休んでいるようなもの。
慎重に近付いていくと、大きな2つの耳を上方へ尖らせている様子。
最初はそれも被っているフードの装飾なのかと思えたが、どうやら耳は頭から直接生えているようである。
となれば、人ではない魔物だろうと思ったのだが、そういうわけでもないのかもしれない。
凍花に気付いた人影は立ち上がり、木の裏に隠れてしまう。
全身を毛で覆われていたようにも見え、背は低くダボついたパーカーでも着ている様子であったのだ。
「魔物なら襲いかかってくるよね?
んー……コスプレしてるってこと?」
不思議に思い凍花は更に近付くが、相手は一向に姿を現そうとはしてこない。
そのため、意を決して木の反対側へと回り込んだ凍花が見たものは、異世界といえばとも言うべき『獣人』の姿であった。
パンを買いに来たんですか?」
「いや、実は……」
早朝、突如店にやって来て『スライムを貸してほしい』などと言い出したアレンだった。
話を聞いてみると、どうやら近くの川の汚染がひどく、放置すれば村にも影響がありそうだということであった。
それにしても次から次へと忙しい村である。
ダンジョン調査の件は知っていたようで、ならばいつぞやに噂になった掃除屋のスライムを試してみようとのことである。
「ちょっと待ってねー。
魔物も出るだろうし、ステータスは攻撃と素早さに振って……アレンさんを対象……っと」
「あ……いや、この間の……」
この間の模擬戦を行ったスライムくらいで良いと言いたかったアレンだったが、言い終わる前にスライムの召喚は済んでしまい、アレンの横には1匹のスライムが出現している。
そこらの魔物よりは早く動けるため、魔物を見かけた場合は先制攻撃で仕留めてしまうように命じるように伝え、悪食の効果が30分しか無いことも言っておく。
このスキルを使用しない場合は、せいぜいスライムと同体積のものしか消化しないのだから仕方ない。
「3匹もいれば十分だよね?」
「え? あ、いや1匹でじゅう……」
ポンッ……ポンッと更に2匹のスライムがいつの間にか出現していた。
アレンが言わんとしていることなど関係なく、それが凍花にとっての最良の対応である。
「スライムって基本なんでも消化するんだけど、ちゃんと指示してあげればそれ以外は消化しないから。
ちなみに、身体の気になる場所にも使えたりなんてことも……」
凍花はアレンの足元を見ながら、そう呟く。
強く縛った集めの革の靴、一日中着けている厚手の脛当てに胸当て。
それらがどういう弊害をもたらすかは、よくわかっている。
ニヤニヤとする凍花の表情に、アレンは何も言えずにただスライム3匹を借りるだけであった。
そんなことはともかく、パンの販売がひと段落すると凍花は出発の準備を急いだ。
「気をつけなよー。
今日くらい、別に休んだって良いんだからな」
「そんなの悪いよ。
この間も私の勝手で2日も休ませてもらってたんだし」
今でも自分のスキルのことを考えると気分は良くはない。
しかし、この世界で生きていかなくてはいけない状況に、悩んでばかりもいられない。
「よろしくね、トラ」
『ニャア』
凍花は荷物をまとめると、パンテラを連れて村を出発する。
村から出てからはパンテラに跨がれば目的地もすぐそこであった。
はてさて、ちょっとした遠征になるのだと聞かされていたが数キロ先の山を遠征と言って良いものだろうか?
改めて村の周囲を見回せば、盆地になっているようで周囲は山に囲まれている。
どの方位にも、おおよそ10kmも進めば山に当たるような地形であり、それを超えるというのはつまりは別の村か街へと行くことになるという。
問題があるとすれば、体感数百メートル間隔で魔物が現れて、その度に追いかけられるので都度手間であることか。
行商はこれを振り払うために馬を用意するという。
しかしながら、所詮はゴブリンかウサギか食人植物か。
あの後もステータスが上がっているパンテラの相手になるような魔物ではないので都度倒すことにした。
「小銭稼ぎも無駄になっちゃったし、少しでもドロップ集めないとねぇ。
……あ、また魔物? いえ、冒険者っぽいけど……」
遠目に見えるのは、人型らしき影が木に寄りかかって休んでいるようなもの。
慎重に近付いていくと、大きな2つの耳を上方へ尖らせている様子。
最初はそれも被っているフードの装飾なのかと思えたが、どうやら耳は頭から直接生えているようである。
となれば、人ではない魔物だろうと思ったのだが、そういうわけでもないのかもしれない。
凍花に気付いた人影は立ち上がり、木の裏に隠れてしまう。
全身を毛で覆われていたようにも見え、背は低くダボついたパーカーでも着ている様子であったのだ。
「魔物なら襲いかかってくるよね?
んー……コスプレしてるってこと?」
不思議に思い凍花は更に近付くが、相手は一向に姿を現そうとはしてこない。
そのため、意を決して木の反対側へと回り込んだ凍花が見たものは、異世界といえばとも言うべき『獣人』の姿であった。
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