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1章 ダンジョンと少女
魔物と獣人
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凍花がパン屋に戻ると、店の灯りはついたままで店内には誰もいなかった。
店を閉めて食事の準備をしているわけでもなく、かといって出かけている様子もない。
ロゼッタがどこにいるのかという疑問はあったが、屋根裏に寝かせた獣人のことも気になって階段を上る凍花。
しかし、あまりに想定外の光景が広がっていて凍花は叫ぶしかできずにいた。
「どうしたんですかロゼッタさん!」
横になり腫れた腕を押さえながら呻くロゼッタの姿があり、そこには獣人もトラの姿も見当たらない。
トラには普段は特に指示はしていなかったが、今回は獣人の子を見てて欲しいと伝えただけである。
それは誰かに危害を加えようとするのを止めるという指示でもなく、誰かから護れという指示でもない。
「そういうこと……?」
妙に納得したが、起きてしまった出来事をそう易々と受け入れることもできないのも事実。
「いや、そんなことより早く手当しなきゃ!
えっと、ステータス割り振りがたしか知力と……」
店に回復薬はあるが、取りに下の階へ降りる時間も惜しく感じてしまう。
召喚するのはやはりスライムであり、以前より多くのステータスが割り振れる分、魔法の習得もあっさりと上手くいく。
【ヒーリング:対象単体に回復の効果】
実際に使うのは初めてだったが、その効果はかなり優れていたようだ。
ゆっくりと腫れが引いていき、徐々に痣は消えていき、痛みに関しては和らいだのかどうかは不明だが、ロゼッタの荒い息も落ち着き、そのまま意識を失ってしまったのだ。
念のためにもう一度と思ったが、スライムのステータスが低いため、しばらくは使用できそうにない。
「とりあえず大丈夫……かな?
後で謝らなきゃ……だよね」
原因はほぼ間違いなく獣人の子であり、それは人間にとって魔物という認識なのだろう。
どうしてロゼッタを襲ったのかは定かではないが、ここから逃げ出してどこかに隠れているのは間違いない様子。
店を飛び出した凍花は村中を駆け回る。
すぐに見つかればいいが、ギルドの様子からすると、発見次第獣人の子は討伐対象になるのだろう。
だから『大物だな』なんて言われていて、きっとそれは獣人を倒して持ち帰ったという事を意味していたのだろう。
「いたか?
こっちは見当たらない!」
「いや、畑の方にもいなかった!
建物の隙間も探した方がいい!」
あれだけ平穏な村だったというのに、一瞬にして物々しい雰囲気になってしまう。
そして、男達のその表情と言葉がが凍花の心に突き刺さってくる。
さらには村に訪れていた行商の面々も、騒ぎに巻き込まれまいと慌てて荷物を片付けているのだ。
「帰ったらオレンジマーマレード作ろう……とか考えてたのになぁ……
ねぇトラ、どこ行ったのよトラ……」
辺りには『殺せ』と騒ぐ冒険者と、騒ぎを知って怯える村人達。
呼びかける魔物も見当たらなければ、獣人の姿ももちろん見つからない。
次第に不安になり、呼びかける声は大きくなっていった。
それでも返事は聞こえてこない。
ダンジョンの調査で頑張ったつもりだったが、しっかり迷惑をかけてしまったのだ。
たしかに人間にとっては魔物かもしれないが、言葉を理解する怯えた獣人の子が殺されるなんて納得もいかない。
そして以前も考えていた不安要素がもう一つ。
やはり自分もまた人間ではない存在なのかという気持ちが凍花を襲う。
「やだよもう……
こんな世界で生活するの怖いよ……」
小さな教会にかかる十字架を見上げて、凍花は気持ちが言葉になって溢れてしまう。
身体は幼い頃に戻り、田舎の家族とも連絡はとれず。
一度は神様を恨んだけれど、それでも前向きに暮らそうと思った矢先の出来事。
異世界について知らないことが多すぎて、だけどどうにかできそうな気持ちが無いわけでもなかった。
きっと明日には村を追われて出ていくことになる。
それだけならともかく、自分もまた魔物扱いされて追われる立場になるのかもしれない。
すべて凍花の勝手な妄想ではあるが、知っている者もいない異世界での生活という孤独な状況に、悲観的にならずにはいられないのも仕方なかったのだろう。
だから凍花は諦めてしまった。
村人と和解する道を閉ざし、逃げて、楽に生きたいと願ったのだ。
「おい、逃げたぞ!
教会の方へ行った!」
「逃すな、変異種だ殺せ!」
冒険者と共に、村人もクワや斧を持って走ってくる。
しかし、教会に近づくと大きな巨体が村人たちの行手を阻む。
「もうやめて……
子供を追いかけまわすとか……意味わかんない」
オークは特に行動するわけでもなく、ただ凍花たちを護るように立ちはだかるのみである。
村人にとってはオークから村を護ったはずの者が、急にオークを出して襲いかかってくるのだから恐怖でしかない。
当然、その言葉の刃は凍花にも振りかざされることとなったのだ。
「そいつは魔物だぞ!」
「そうだ、早く殺さねぇと!」
「おめぇもそいつらの仲間だったんか?!」
一体どちらが魔物なのだろうか?
確かに平野に現れる魔物は意味もなく人々を襲いかかる。
だが、今のこの状況は全くの真逆ではないのか?
そう思うと、凍花も我慢できずに口走ってしまう。
「魔物はあんた達じゃない!
こんな小さな子に寄ってたかって!」
自分もおそらく魔物寄りの存在に違いない。
それでもこちら側にも言い分はいくらでもあるのだ。
トラに隠れる獣人の子を見て、凍花は気持ちを固めてしまう。
「もういい……やって!」
『グォォォ!』
オークが夜の村で大きな雄叫びを上げると、近くにいた村人達は竦んでしまう。
そして地面に強い一撃を放ち、周囲には土煙が巻き起こる。
そして次の瞬間には、凍花たちの姿はどこにも見当たらなかったのであった……
店を閉めて食事の準備をしているわけでもなく、かといって出かけている様子もない。
ロゼッタがどこにいるのかという疑問はあったが、屋根裏に寝かせた獣人のことも気になって階段を上る凍花。
しかし、あまりに想定外の光景が広がっていて凍花は叫ぶしかできずにいた。
「どうしたんですかロゼッタさん!」
横になり腫れた腕を押さえながら呻くロゼッタの姿があり、そこには獣人もトラの姿も見当たらない。
トラには普段は特に指示はしていなかったが、今回は獣人の子を見てて欲しいと伝えただけである。
それは誰かに危害を加えようとするのを止めるという指示でもなく、誰かから護れという指示でもない。
「そういうこと……?」
妙に納得したが、起きてしまった出来事をそう易々と受け入れることもできないのも事実。
「いや、そんなことより早く手当しなきゃ!
えっと、ステータス割り振りがたしか知力と……」
店に回復薬はあるが、取りに下の階へ降りる時間も惜しく感じてしまう。
召喚するのはやはりスライムであり、以前より多くのステータスが割り振れる分、魔法の習得もあっさりと上手くいく。
【ヒーリング:対象単体に回復の効果】
実際に使うのは初めてだったが、その効果はかなり優れていたようだ。
ゆっくりと腫れが引いていき、徐々に痣は消えていき、痛みに関しては和らいだのかどうかは不明だが、ロゼッタの荒い息も落ち着き、そのまま意識を失ってしまったのだ。
念のためにもう一度と思ったが、スライムのステータスが低いため、しばらくは使用できそうにない。
「とりあえず大丈夫……かな?
後で謝らなきゃ……だよね」
原因はほぼ間違いなく獣人の子であり、それは人間にとって魔物という認識なのだろう。
どうしてロゼッタを襲ったのかは定かではないが、ここから逃げ出してどこかに隠れているのは間違いない様子。
店を飛び出した凍花は村中を駆け回る。
すぐに見つかればいいが、ギルドの様子からすると、発見次第獣人の子は討伐対象になるのだろう。
だから『大物だな』なんて言われていて、きっとそれは獣人を倒して持ち帰ったという事を意味していたのだろう。
「いたか?
こっちは見当たらない!」
「いや、畑の方にもいなかった!
建物の隙間も探した方がいい!」
あれだけ平穏な村だったというのに、一瞬にして物々しい雰囲気になってしまう。
そして、男達のその表情と言葉がが凍花の心に突き刺さってくる。
さらには村に訪れていた行商の面々も、騒ぎに巻き込まれまいと慌てて荷物を片付けているのだ。
「帰ったらオレンジマーマレード作ろう……とか考えてたのになぁ……
ねぇトラ、どこ行ったのよトラ……」
辺りには『殺せ』と騒ぐ冒険者と、騒ぎを知って怯える村人達。
呼びかける魔物も見当たらなければ、獣人の姿ももちろん見つからない。
次第に不安になり、呼びかける声は大きくなっていった。
それでも返事は聞こえてこない。
ダンジョンの調査で頑張ったつもりだったが、しっかり迷惑をかけてしまったのだ。
たしかに人間にとっては魔物かもしれないが、言葉を理解する怯えた獣人の子が殺されるなんて納得もいかない。
そして以前も考えていた不安要素がもう一つ。
やはり自分もまた人間ではない存在なのかという気持ちが凍花を襲う。
「やだよもう……
こんな世界で生活するの怖いよ……」
小さな教会にかかる十字架を見上げて、凍花は気持ちが言葉になって溢れてしまう。
身体は幼い頃に戻り、田舎の家族とも連絡はとれず。
一度は神様を恨んだけれど、それでも前向きに暮らそうと思った矢先の出来事。
異世界について知らないことが多すぎて、だけどどうにかできそうな気持ちが無いわけでもなかった。
きっと明日には村を追われて出ていくことになる。
それだけならともかく、自分もまた魔物扱いされて追われる立場になるのかもしれない。
すべて凍花の勝手な妄想ではあるが、知っている者もいない異世界での生活という孤独な状況に、悲観的にならずにはいられないのも仕方なかったのだろう。
だから凍花は諦めてしまった。
村人と和解する道を閉ざし、逃げて、楽に生きたいと願ったのだ。
「おい、逃げたぞ!
教会の方へ行った!」
「逃すな、変異種だ殺せ!」
冒険者と共に、村人もクワや斧を持って走ってくる。
しかし、教会に近づくと大きな巨体が村人たちの行手を阻む。
「もうやめて……
子供を追いかけまわすとか……意味わかんない」
オークは特に行動するわけでもなく、ただ凍花たちを護るように立ちはだかるのみである。
村人にとってはオークから村を護ったはずの者が、急にオークを出して襲いかかってくるのだから恐怖でしかない。
当然、その言葉の刃は凍花にも振りかざされることとなったのだ。
「そいつは魔物だぞ!」
「そうだ、早く殺さねぇと!」
「おめぇもそいつらの仲間だったんか?!」
一体どちらが魔物なのだろうか?
確かに平野に現れる魔物は意味もなく人々を襲いかかる。
だが、今のこの状況は全くの真逆ではないのか?
そう思うと、凍花も我慢できずに口走ってしまう。
「魔物はあんた達じゃない!
こんな小さな子に寄ってたかって!」
自分もおそらく魔物寄りの存在に違いない。
それでもこちら側にも言い分はいくらでもあるのだ。
トラに隠れる獣人の子を見て、凍花は気持ちを固めてしまう。
「もういい……やって!」
『グォォォ!』
オークが夜の村で大きな雄叫びを上げると、近くにいた村人達は竦んでしまう。
そして地面に強い一撃を放ち、周囲には土煙が巻き起こる。
そして次の瞬間には、凍花たちの姿はどこにも見当たらなかったのであった……
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