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1章 ダンジョンと少女
ラビ育成計画
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ダンジョンを攻略すれば新しい力が手に入る。
どうやらそれは間違いない。
しかし、凍花にはチート能力でのし上がる気は微塵もない。
ただ必要なものは、気の休まる仲間と宿である。
「もっと、ラビのことをわかってもらえると良いんだけど……」
「何か言いました?」
「いや、なんでもないよ」
獣人だから討伐対象。
変わったスキルだから、レベルが高いから、だから強くて一目置く存在。
この世界のそんな常識などどうでもいいし、かといって人間を滅ぼしたいなんて想いも当然あるはずがない。
森を抜けて山岳地帯に差し掛かると、新たな魔物が現れた。
それは岩のような見た目をしており、獲物が近づいた時に攻撃を仕掛けてくる擬態した魔物。
これまで、数で攻めたり質で攻めたり。
はたまた罠を仕掛けたり見た目で惑わせたりと、様々な方法で獲物を仕留めんとする魔物たちが存在していた。
「岩に擬態しているし、物理攻撃は跳ね返すし……
結構いやらしい魔物だね」
「わ、私も魔法を覚えますから」
オークを召喚してスキルの強撃で攻撃したところ、まさかの反撃にあって無駄にエーテルとマテリアを消費してしまった。
それを見ていたはずなのに、ラビは『自分も戦える』からと、奮起していたのだ。
そこまで言うのならと、試してみたら見事に反撃にあってしまう。
いや、一体は倒したのだが、魔物が魔法かスキルかを使用した時には確定で物理攻撃が跳ね返されてしまうのだ。
「そんなこと言ったら、私なんて力も無いし魔法も使えないよ」
「あ、いや……えっと……」
笑いながらラビに冗談を言ったのだが、本気で困惑させてしまったようである。
お荷物になりたくなくて良いところを見せたかったのだろう。
凍花には、その気持ちだけで十分すぎるほどだった。
それにしても魔法を覚えるなんてこと、努力でできるのならば自分もやりたいものである。
相当な数の魔物を倒してきたが、キューブなんて一度も手に入れたことがない。
唯一持っている風魔法の指輪も、せいぜい草を狩れる程度の力しかないが、これはこれで役には立ってくれている。
「次は絶対に失敗しない!」
トラの横を意気揚々と歩くラビと、後ろからそんなラビを見る凍花。
「……それに、ラビはきっとすぐに魔法を覚えられるよ。
大丈夫……うん」
凍花は誰にも聞こえない声で呟き、ステータスカードを見ている。
そこに追記された【リンク:レベル2】は未だに効果を発動しておらず、そのタイミングを考えてしまうのである。
登り坂に差し掛かった頃、再び人影が見てたものだから、エルフの女性を思い出してしまう。
素肌を見せていて髪は長く薄い衣は胸の半分ほどしか覆っていない。
そんな人間が森の奥深くにいるという時点で、すでにかなり怪しんでいたのだ。
そんなルアノという女性エルフとは対照的に、麻の服に長袖はしっかりと腕を隠し、髪は束ねて手にはナタを持っている。
ガタイもしっかりしていて、ふくよかな体型の女性が立っていたのだ。
ルアノとの共通点といえば、凍花が持ち合わせていない二つの大きなメロンくらいであろうか?
そんな女性が現れた時、一瞬だけ反応が遅れてしまい凍花は焦る。
人間にとって獣人は魔物と同類であり、討伐すべき存在なのである。
しかし、反応は思っていたものではなく……
「あらあら、こんな山に女の子がいるなんてね。
見たところ魔物使いさんみたいだけど、こんな小さな子がねぇ……珍しいねぇ」
ラビも突然の鉢合わせに驚いており、その場で硬直。
そんな状況になってしばし、凍花はようやく言葉が出てくる。
「そ、そうなんですよ。
ダンジョンに出てくる色んな生き物に会いたくて、気付いたら遠くまで来ちゃいました」
凍花が笑顔で答えると、ラビはゆっくりと凍花の元へ歩いて後ろに隠れる。
敵意がないと知って落ち着いたのだろうが、それでもまだ凍花の腕を握るラビの手は若干震えているようでもあった。
「冒険者ってのは、みんなそうなのかねぇ?
うちの子もこれくらいの時から『勇者だ勇者だ』って騒いでたけど。
そういえば祭りも近いんだろ? お嬢ちゃんも参加する予定なのかい?」
ぐるりと迂回した先に、女性の住む村があるのだと知り、二人は案内してもらうことになる。
「そうなのかもしれないです……
パンテラと会った時に、やっぱり嬉しかったなぁって感じてましたし」
そんな凍花の話を聞いて、女性も身の上話をし始める。
マリアと名乗った女性は、木材を加工して生活しているようで、質の良いものを求めて山の際までやってきていたという。
「スキルを持った者の性ってやつかね?
魔物も出て危険なのは百も承知なんだけど、少しでも良いものを求めてしまうんだ」
自分は冒険者ではないから魔物とのルールはよくわからない。
それでも自分のやりたいことを全力で取り組みたい。
そんな気持ちがあったものだから、凍花の言う『色々な生き物を見たい』という気持ちに共感できたのだと、マリアは心境を伝打ち明けた。
ルアノというエルフを見れば、確かに危険な存在は多く、冒険者が警戒するのも仕方ないのかもしれない。
だからなのだろう。村の入り口が見えた時、凍花はその歩みを止めてしまったのであった。
どうやらそれは間違いない。
しかし、凍花にはチート能力でのし上がる気は微塵もない。
ただ必要なものは、気の休まる仲間と宿である。
「もっと、ラビのことをわかってもらえると良いんだけど……」
「何か言いました?」
「いや、なんでもないよ」
獣人だから討伐対象。
変わったスキルだから、レベルが高いから、だから強くて一目置く存在。
この世界のそんな常識などどうでもいいし、かといって人間を滅ぼしたいなんて想いも当然あるはずがない。
森を抜けて山岳地帯に差し掛かると、新たな魔物が現れた。
それは岩のような見た目をしており、獲物が近づいた時に攻撃を仕掛けてくる擬態した魔物。
これまで、数で攻めたり質で攻めたり。
はたまた罠を仕掛けたり見た目で惑わせたりと、様々な方法で獲物を仕留めんとする魔物たちが存在していた。
「岩に擬態しているし、物理攻撃は跳ね返すし……
結構いやらしい魔物だね」
「わ、私も魔法を覚えますから」
オークを召喚してスキルの強撃で攻撃したところ、まさかの反撃にあって無駄にエーテルとマテリアを消費してしまった。
それを見ていたはずなのに、ラビは『自分も戦える』からと、奮起していたのだ。
そこまで言うのならと、試してみたら見事に反撃にあってしまう。
いや、一体は倒したのだが、魔物が魔法かスキルかを使用した時には確定で物理攻撃が跳ね返されてしまうのだ。
「そんなこと言ったら、私なんて力も無いし魔法も使えないよ」
「あ、いや……えっと……」
笑いながらラビに冗談を言ったのだが、本気で困惑させてしまったようである。
お荷物になりたくなくて良いところを見せたかったのだろう。
凍花には、その気持ちだけで十分すぎるほどだった。
それにしても魔法を覚えるなんてこと、努力でできるのならば自分もやりたいものである。
相当な数の魔物を倒してきたが、キューブなんて一度も手に入れたことがない。
唯一持っている風魔法の指輪も、せいぜい草を狩れる程度の力しかないが、これはこれで役には立ってくれている。
「次は絶対に失敗しない!」
トラの横を意気揚々と歩くラビと、後ろからそんなラビを見る凍花。
「……それに、ラビはきっとすぐに魔法を覚えられるよ。
大丈夫……うん」
凍花は誰にも聞こえない声で呟き、ステータスカードを見ている。
そこに追記された【リンク:レベル2】は未だに効果を発動しておらず、そのタイミングを考えてしまうのである。
登り坂に差し掛かった頃、再び人影が見てたものだから、エルフの女性を思い出してしまう。
素肌を見せていて髪は長く薄い衣は胸の半分ほどしか覆っていない。
そんな人間が森の奥深くにいるという時点で、すでにかなり怪しんでいたのだ。
そんなルアノという女性エルフとは対照的に、麻の服に長袖はしっかりと腕を隠し、髪は束ねて手にはナタを持っている。
ガタイもしっかりしていて、ふくよかな体型の女性が立っていたのだ。
ルアノとの共通点といえば、凍花が持ち合わせていない二つの大きなメロンくらいであろうか?
そんな女性が現れた時、一瞬だけ反応が遅れてしまい凍花は焦る。
人間にとって獣人は魔物と同類であり、討伐すべき存在なのである。
しかし、反応は思っていたものではなく……
「あらあら、こんな山に女の子がいるなんてね。
見たところ魔物使いさんみたいだけど、こんな小さな子がねぇ……珍しいねぇ」
ラビも突然の鉢合わせに驚いており、その場で硬直。
そんな状況になってしばし、凍花はようやく言葉が出てくる。
「そ、そうなんですよ。
ダンジョンに出てくる色んな生き物に会いたくて、気付いたら遠くまで来ちゃいました」
凍花が笑顔で答えると、ラビはゆっくりと凍花の元へ歩いて後ろに隠れる。
敵意がないと知って落ち着いたのだろうが、それでもまだ凍花の腕を握るラビの手は若干震えているようでもあった。
「冒険者ってのは、みんなそうなのかねぇ?
うちの子もこれくらいの時から『勇者だ勇者だ』って騒いでたけど。
そういえば祭りも近いんだろ? お嬢ちゃんも参加する予定なのかい?」
ぐるりと迂回した先に、女性の住む村があるのだと知り、二人は案内してもらうことになる。
「そうなのかもしれないです……
パンテラと会った時に、やっぱり嬉しかったなぁって感じてましたし」
そんな凍花の話を聞いて、女性も身の上話をし始める。
マリアと名乗った女性は、木材を加工して生活しているようで、質の良いものを求めて山の際までやってきていたという。
「スキルを持った者の性ってやつかね?
魔物も出て危険なのは百も承知なんだけど、少しでも良いものを求めてしまうんだ」
自分は冒険者ではないから魔物とのルールはよくわからない。
それでも自分のやりたいことを全力で取り組みたい。
そんな気持ちがあったものだから、凍花の言う『色々な生き物を見たい』という気持ちに共感できたのだと、マリアは心境を伝打ち明けた。
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