私がモンスター発生源?! 〜異世界で考えたさいきょうの魔物育成計画〜

紅柄ねこ(Bengara Neko)

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1章 ダンジョンと少女

ダンジョンコア『妥協』

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 翌朝、ドラーニアの去った空き家では、凍花が何度も何度も召喚を繰り返していた。
 朝早くからスライムを出してはクールタイムにスキルの確認。
 クールタイムが終わったら再びスライムの召喚。

「とりあえず汚れた家の中を綺麗にしないとだよね。
 釜の中のススとか、手作業だったら1週間あっても終わらないよ」
「スライムさん便利。
 私も吸収したら掃除のプロに……」
 ラビは腕に抱えたジェラートスライムを見ながら呟いた。

 おそらくリンクスキルを使ってスライムを譲渡したところで、汚れを消化できるようにはならないだろう。
 ラビで掃除というと、全身のその毛でホコリを拭き取ることだろうか?
 モップ代わりに床に擦り付けたら、意外と喜びそうではある。

 そんなことはともかく、大会を翌朝に控えつつも凍花は悩みに直面してしまっていたのだ。
『とりあえずニクスはいつでも食べれるみたいだし、また頼んだぞ』
 そう言い残してドラーニアは去ったのだ。

 それはつまり、ダンジョンを潰した凍花に代わりの食事を用意しろという脅しに他ならない。
「そもそも召喚した魔物って、お肉をドロップするのぉ?
 もうステータス見てても意味わかんないんだし……」

 今まであえて触れずにいたスキルの深い部分。
 ゲームはしたことはあるが、画面をタップする程度の簡単操作ばかり。
 そんなライトゲーマーに『DEX』だの『育成値』だの『システム解放条件』だの言われても理解ができない。

『コンコンッ』
 突然扉が叩く音が響き、返事をするまでもなくドアノブは回る。
 まだ外装を触ったわけではないし、客が来たということでも無さそうだ。

「ち、ちょっと待ってください!」
 少しの間をおいて凍花は慌て出す。
 部屋中のスライムに顔を晒したラビの姿。
 こんなところを見られでもしたら、また街を追い出されかねないのだ。

 しかし、そんな思いも虚しく一人の青年が中に入ってきてしまう。
「……」
 髪を後ろに梳きあげた黒服の青年は、一言も発することなく部屋中を見回している。
 困った凍花も言葉が出てこない。
「あ、あのこれは……」
 その続きは何を言えば良いのか?
 魔物が大量発生したとでも言うのだろうか?

 しかし、凍花のそんな心配をよそに男は何事もないように話し始める。
「……あぁ、掃除中でしたか。
 貴女様もドラーニア様から急に言われて困ったでしょうに。
 てっきり逃げ出すものと思っていましたから驚きましたよ」
「えっと……ドラーニアさんの……」

 男はドラジュと名乗り、普段はダンジョン内で家事を行っているという。
「いやしかし、妥協と寄生の使徒が共にいると聞いて驚きましたが。
 ダンジョンにも組み合わせがあるものなのですね」
 そんなドラジュの言葉に凍花は少し苛立ってしまう。

「そんなことを言いにわざわざ来たんですか?
 別に他人ひとを頼るのって悪いことじゃないと思いますけど」
「あぁいや、気を悪くされたのでしたらすみません。
 通常、ダンジョン同士は相容れないものだとされていましたもので」

 凍花もラビがダンジョンコアを持つことはよく知っている。
 そして、通常ダンジョンというものは、何かしらの方法でエネルギーをしているのだ。

 ラビが『寄生』だという確証は無かったが、それに近い存在であることは理解していた。
 あざとい弱さに発言。
 リンクスキルが、そもそも一緒に行動する前提のようなスキルである。

 これまでは、いつか見た夢の内容を前提に考えていたことだったが、今ハッキリそれを知ることとなった。
 ともかく、ドラジェが来た理由は凍花達のサポートである。
 美味しいものを食べたいというドラーニアが、さらに良いものを提供できるようにと送りつけたのがドラジェなのである。

「ですので、しばらくではありますが質問などありましたらお答えいたします」
「なんかマジメそうなの来たわ……
 ってかさ、聞いてもいい?」
「どうぞ何なりと。
 お答えできる内容でしたらお答えいたしますよ」

 若干面倒そうな気はしたが、店のこと以外でもサポートできるというドラジェを無碍にする必要もない。
 早速凍花は一つの疑問を聞くことにした。

「私って『妥協』なの?」
「そのようにドラーニア様から聞いておりますが?」
 何を持ってして妥協なのか?
 ちょっとラビとの旅を許していたり、村との和解を諦めて勝手に飛び出したり、スライムだから倒しても仕方ないと思ったり。

「……どうせ私は妥協する女ですよ。
 別に良いじゃん。嫌なことはしたくないんだから」
「なんのことでしょうか?」

 勝手に落ち込む凍花と、そんな凍花を見て意味のわからないドラジェであった。
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