50 / 55
1章 ダンジョンと少女
大会前日
しおりを挟む
ドラーニアの行動は早く、街に戻った凍花は一つの空き店舗に招かれることになった。
「今日からここをトウカ達の家と思ってくれ。
なぁに、お金のことなら心配しなくていいぞ」
長いこと使われていない店内はホコリっぽく、蜘蛛の巣が張っている。
ドラーニアが言うには、昔から気に入った者に店舗を貸し出しては料理を作らせているそうだ。
「でも本当に私、パン屋で接客をしてた程度でお店の経験なんて無いですよ?
それに、明後日の大会に出場する予定だからすぐには……」
異世界料理で一儲けなんてことを考えたことが無いわけではない。
マヨネーズだとか唐揚げなんてものが、こちらの世界にあるわけもなく、ロゼッタさんのパン屋で販売できないかと考えたくらいだ。
ドラーニアには店の開店を待ってもらうべく、簡単に説明を続ける。
最初は訝しげに聞いていたドラーニアだが、大会の内容を話すと次第に表情が変わっていった。
「あぁ。大会というのは、龍殺しのアレか。
そういえばそこそこの強者が集まっておるとは思ったが、全く懲りておらんようじゃのぉ」
うすら笑いとでもいうのだろうか?
ドラーニアの笑みに不気味な印象を持った凍花である。
「龍殺しの……なんです?」
聞き覚えのない名前に凍花は聞き返す。
「いやなに、山の上にいる龍を誰が倒しに行くのかという度胸試しよ」
「優勝したら山に登るんですか?」
「登るには登るが、実際には供物を供えにくる役割さ。
道中で魔物にやられでもしたら大変だとでも思っておるんじゃろ?」
大昔から開かれていたお供え係を決める大会。
今でも供物は置かれるが、それはギルドからの依頼で行われるもので、以前とは異なり雑なものなのだとか。
「たまに喰ってやろうと思うたりもするが、そこは我慢じゃな」
「喰って……?」
聞き捨てならないセリフが聞こえるが、ドラーニアは淡々と話をし続ける。
「それはそうと、大会じゃったな。
そっちの長耳娘が出場するのか?
人間どもと比べたら、あまりに可哀想じゃろ」
「えっと……ラビのことですよね?
もしかして気付いてて言ってるんですか?」
外套もフードも一度も外してはいない。
それなのに耳が長いことをどこで知ったのか?
それもそうだが、先程から話がどうも怪しい感じがしてしまう。
「お姉ちゃん……この人、多分私たちと一緒……」
後ろからラビが小声で話しかける。
「あ、やっぱり?
なんか言ってることが歳の割に昔の話みたいだったし」
「なんじゃ二人でこそこそと。
いやぁ、アタシも出場してみるかな?
でも、そうするとアタシがアタシのために供物を運ぶことになるのか」
「あのドラーニアさん……?
もしかしなくても、その……天空龍とか呼ばれてたりします?」
もはや『それとなく』など聞けはしない。
当人も隠している様子はないので、潔く聞いてみる凍花。
「なんじゃ言わんかったか?
この街に棲んでおる龍など、アタシら以外に他にはおらんではないか」
火を吹き風を巻き起こし、爪はあらゆるものを切り裂いて天高く舞う。
「あぁ、この姿で街にいる理由か?
暴れても餌が逃げていくだけだしな。
それに人間の作るメシに興味があるんじゃよ」
この世界で最も強いとされる天空龍は、人間に化けることもでき、人々を飼い殺しているようだ。
「大体、アタシの縄張りでダンジョン同士潰しあって何を企んでいるのかと思っておったが……
納得したさ。うまいメシのためならば仕方無いわな」
うんうん頷いて、一人語りは止まらない。
ではサンドイッチを持っていなければ、どうなっていたのだろうか?
ジッと見据えるドラーニアの瞳と目が合い、生きた心地のしない凍花であった。
「今日からここをトウカ達の家と思ってくれ。
なぁに、お金のことなら心配しなくていいぞ」
長いこと使われていない店内はホコリっぽく、蜘蛛の巣が張っている。
ドラーニアが言うには、昔から気に入った者に店舗を貸し出しては料理を作らせているそうだ。
「でも本当に私、パン屋で接客をしてた程度でお店の経験なんて無いですよ?
それに、明後日の大会に出場する予定だからすぐには……」
異世界料理で一儲けなんてことを考えたことが無いわけではない。
マヨネーズだとか唐揚げなんてものが、こちらの世界にあるわけもなく、ロゼッタさんのパン屋で販売できないかと考えたくらいだ。
ドラーニアには店の開店を待ってもらうべく、簡単に説明を続ける。
最初は訝しげに聞いていたドラーニアだが、大会の内容を話すと次第に表情が変わっていった。
「あぁ。大会というのは、龍殺しのアレか。
そういえばそこそこの強者が集まっておるとは思ったが、全く懲りておらんようじゃのぉ」
うすら笑いとでもいうのだろうか?
ドラーニアの笑みに不気味な印象を持った凍花である。
「龍殺しの……なんです?」
聞き覚えのない名前に凍花は聞き返す。
「いやなに、山の上にいる龍を誰が倒しに行くのかという度胸試しよ」
「優勝したら山に登るんですか?」
「登るには登るが、実際には供物を供えにくる役割さ。
道中で魔物にやられでもしたら大変だとでも思っておるんじゃろ?」
大昔から開かれていたお供え係を決める大会。
今でも供物は置かれるが、それはギルドからの依頼で行われるもので、以前とは異なり雑なものなのだとか。
「たまに喰ってやろうと思うたりもするが、そこは我慢じゃな」
「喰って……?」
聞き捨てならないセリフが聞こえるが、ドラーニアは淡々と話をし続ける。
「それはそうと、大会じゃったな。
そっちの長耳娘が出場するのか?
人間どもと比べたら、あまりに可哀想じゃろ」
「えっと……ラビのことですよね?
もしかして気付いてて言ってるんですか?」
外套もフードも一度も外してはいない。
それなのに耳が長いことをどこで知ったのか?
それもそうだが、先程から話がどうも怪しい感じがしてしまう。
「お姉ちゃん……この人、多分私たちと一緒……」
後ろからラビが小声で話しかける。
「あ、やっぱり?
なんか言ってることが歳の割に昔の話みたいだったし」
「なんじゃ二人でこそこそと。
いやぁ、アタシも出場してみるかな?
でも、そうするとアタシがアタシのために供物を運ぶことになるのか」
「あのドラーニアさん……?
もしかしなくても、その……天空龍とか呼ばれてたりします?」
もはや『それとなく』など聞けはしない。
当人も隠している様子はないので、潔く聞いてみる凍花。
「なんじゃ言わんかったか?
この街に棲んでおる龍など、アタシら以外に他にはおらんではないか」
火を吹き風を巻き起こし、爪はあらゆるものを切り裂いて天高く舞う。
「あぁ、この姿で街にいる理由か?
暴れても餌が逃げていくだけだしな。
それに人間の作るメシに興味があるんじゃよ」
この世界で最も強いとされる天空龍は、人間に化けることもでき、人々を飼い殺しているようだ。
「大体、アタシの縄張りでダンジョン同士潰しあって何を企んでいるのかと思っておったが……
納得したさ。うまいメシのためならば仕方無いわな」
うんうん頷いて、一人語りは止まらない。
ではサンドイッチを持っていなければ、どうなっていたのだろうか?
ジッと見据えるドラーニアの瞳と目が合い、生きた心地のしない凍花であった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
異世界で美少女『攻略』スキルでハーレム目指します。嫁のために命懸けてたらいつの間にか最強に!?雷撃魔法と聖剣で俺TUEEEもできて最高です。
真心糸
ファンタジー
☆カクヨムにて、200万PV、ブクマ6500達成!☆
【あらすじ】
どこにでもいるサラリーマンの主人公は、突如光り出した自宅のPCから異世界に転生することになる。
神様は言った。
「あなたはこれから別の世界に転生します。キャラクター設定を行ってください」
現世になんの未練もない主人公は、その状況をすんなり受け入れ、神様らしき人物の指示に従うことにした。
神様曰く、好きな外見を設定して、有効なポイントの範囲内でチートスキルを授けてくれるとのことだ。
それはいい。じゃあ、理想のイケメンになって、美少女ハーレムが作れるようなスキルを取得しよう。
あと、できれば俺TUEEEもしたいなぁ。
そう考えた主人公は、欲望のままにキャラ設定を行った。
そして彼は、剣と魔法がある異世界に「ライ・ミカヅチ」として転生することになる。
ライが取得したチートスキルのうち、最も興味深いのは『攻略』というスキルだ。
この攻略スキルは、好みの美少女を全世界から検索できるのはもちろんのこと、その子の好感度が上がるようなイベントを予見してアドバイスまでしてくれるという優れモノらしい。
さっそく攻略スキルを使ってみると、前世では見たことないような美少女に出会うことができ、このタイミングでこんなセリフを囁くと好感度が上がるよ、なんてアドバイスまでしてくれた。
そして、その通りに行動すると、めちゃくちゃモテたのだ。
チートスキルの効果を実感したライは、冒険者となって俺TUEEEを楽しみながら、理想のハーレムを作ることを人生の目標に決める。
しかし、出会う美少女たちは皆、なにかしらの逆境に苦しんでいて、ライはそんな彼女たちに全力で救いの手を差し伸べる。
もちろん、攻略スキルを使って。
もちろん、救ったあとはハーレムに入ってもらう。
下心全開なのに、正義感があって、熱い心を持つ男ライ・ミカヅチ。
これは、そんな主人公が、異世界を全力で生き抜き、たくさんの美少女を助ける物語。
【他サイトでの掲載状況】
本作は、カクヨム様、小説家になろう様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる