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それで疲れが取れるのです?
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「ふぅー……それにしても大量に狩ったなぁ」
「どうでもいいですけど、僕の身体じゃ運ぶのを手伝えませんからね」
山のように積まれたワイルディアの前で、フロックスは汗を拭っている。
普段はここまで出現しないみたいなのだけど、今日は異常発生とも思えるくらいに現れたのだ。
『運が良いな』なんて言うけれど、僕にはそうは思えない。
今からこれを解体しなくてはならないのだから……
「んなことは期待してねぇよ。
それよりも、昨日のアレ頼んだからなっ」
フロックスがそう言うと、一本のナイフを使い器用にワイルディアを解体し始めた。
冒険者たるもの、いかなる状況でも……かどうかは知らないけれど、ナイフは必需品だから僕も持っていた方が良いな。
スコルピウスみたいにスキルで作れるのなら良いけれど、そう上手くはいきそうにない。
干し肉のつもりがローストになったみたいに、素材次第で出来上がりは決まっているみたいだしなぁ……。
「これでー……20。やっと3分の1かぁ」
黙々と作業をする後ろで、僕はスキルを使って料理に変えていく。
モモ肉はローストに、バラやロース肉は全て煮込み料理に変化した。
部位によっても出来る料理が異なるのか……
「味付けもされてるし、便利なスキルだなぁ……これだけはあのクソ女神に感謝かもな……」
「ん? 女神様がどうかしたか?」
「あー、えっと……どうせならもっと簡単に料理できるスキルだったら良いのになぁって。
ほら、いちいち解体する必要が無い……とかさ」
僕はワイルディアの山に近付くと、ミルを回して『こんな風にさぁ』なんて説明する。
それで料理に変化していたら、どれだけ手間が省けるだろうかと。
そんな事を言ったものだから、目の前のフロックスも呆れたような表情を浮かべている。
ポカーンと口を開けて、『馬鹿だろうコイツ』とでも言わんばかりに。
「ははは……なんでもない……」
僕は恥ずかしくなって、トボトボと後ろに下がる。
解体済みの肉にスキルを使って、次を待つのだけど、フロックスの動きは止まったままだ。
僕の女神発言が変……いや、そういえば魔法じゃなくてスキルって言ってしまった?
もしかして不審に思われたのかな?
恐る恐る顔を上げてフロックスの表情を見てみる……と、なぜか山のように積まれたワイルディアが消えている。
「……これもクロウの魔法……なのか?」
フロックスが地面を指差すと、そこには完成したローストと煮込みがズラリと。
しかも料理にならないツノはまた別にして積まれている。
呆気にとられていたのは、僕の言動ではなく……いや、これをやったのも僕だし僕の言動で間違いはないのだけど。
そうではなくて、山のようにあったワイルディアが一瞬で料理に変わっていたからだった。解体も下処理も無く……
まぁでも質量的には減っているし、魔法のある世界だったら多少はありかもしれない。
素材が剣に変わったり、魔法だって何もないところから水や石を生み出すのだから。
少しくらい変わった現象が起きても、それは予測の範疇に含まれると……
「……やっぱ変?」
「ものすごく……な。
人前では絶対に見せん方がいいと思うぞ……」
ため息を吐いて、チラリとこちらを見てくるフロックス。
今度は本当に僕に対して呆れている感じだった。
まぁ仕方ない。
手間が省けたのだから、感謝されこそすれ、恨まれるようなことは何も無いじゃないか。
「まだ昼だしな。
肉だけ街に運んだら、もう一狩り行ってくるか?」
背中に大きな荷物を抱えて歩き出すフロックス。
さすが獣人、力も強く自分より大きなものも簡単に運べるみたいだ。
煮込み……は持って帰るには大変だったし、とりあえず放置するほかなかった。
街に戻ると、千食分以上の料理を酒場に納品して出てくるフロックス。
子供だから外で待っとけとか言われて、少し残念な僕。
貰った額は旅費には十分だけど、傭兵を雇うには心許ないらしい。
スコルピの爪も結構な額で売れたみたいで、もう少しだけ金策、あとは情報集めと傭兵を雇えばいいだけらしい。
「つっっかれたぁー……」
「汗をかいただろう。浴場ならば向こうの建物だ、行ってくるか?」
「あっ、お風呂があるんだ。
この世界に来て初めてかも」
ギルドから出ると、正面に見える大きな建物を指差すフロックス。
さすが大きい街だけあって、色々な施設があるものだと感心してしまう。
昨日もそのまま寝てしまい、身体は若干生臭さが残っていた。
今日も朝から動きっぱなしだし、こんな状態でギルドに行ったら受付のお姉さんは普通に嫌がりそうなものだ。
「じゃあ行こうよっ、早くっ!」
「いや、俺は……」
あれ? 汗をかいているのはフロックスも同じだと思っていたが……
「……もしかしてお風呂が嫌い……とか?」
「あっ、いやそんなことは……
俺は水浴びで十分だ。一人で行ってくればいい」
僕の言葉に、あからさまに動揺するフロックス。
犬は風呂が苦手だとは聞いたことがあるが、狼もそうなのだろうか?
自分の匂いが消されるだとか、人工的な匂いがキツく感じられて辛い……とか。
「よく見たら、フロックスの毛って汚いんじゃない?
それに臭いよ。彼女とかいるの?」
「いや女は関係ねーだろ!
いいんだよ俺は、いつもこうなんだよ」
いつもこうだから、今日もこうでいい。とは思って欲しくない。
それに汚いとわかった以上、僕がフロックスでモフモフはできないわけだ。
せっかく獣人が目の前にいるのに、これじゃあ勿体無い。
「行くよっ、ねぇ」
「構うなっ、俺は情報を集めてくるっ!」
全くお風呂へ向かおうとしないフロックス。
ドリンクバーでお湯を出してぶっかけてやろうかとも思ったが、残念だけど今日は諦めることにしよう。
ダニかノミでもいたら嫌だなぁ……今度から少し距離を置かなくては……
「どうでもいいですけど、僕の身体じゃ運ぶのを手伝えませんからね」
山のように積まれたワイルディアの前で、フロックスは汗を拭っている。
普段はここまで出現しないみたいなのだけど、今日は異常発生とも思えるくらいに現れたのだ。
『運が良いな』なんて言うけれど、僕にはそうは思えない。
今からこれを解体しなくてはならないのだから……
「んなことは期待してねぇよ。
それよりも、昨日のアレ頼んだからなっ」
フロックスがそう言うと、一本のナイフを使い器用にワイルディアを解体し始めた。
冒険者たるもの、いかなる状況でも……かどうかは知らないけれど、ナイフは必需品だから僕も持っていた方が良いな。
スコルピウスみたいにスキルで作れるのなら良いけれど、そう上手くはいきそうにない。
干し肉のつもりがローストになったみたいに、素材次第で出来上がりは決まっているみたいだしなぁ……。
「これでー……20。やっと3分の1かぁ」
黙々と作業をする後ろで、僕はスキルを使って料理に変えていく。
モモ肉はローストに、バラやロース肉は全て煮込み料理に変化した。
部位によっても出来る料理が異なるのか……
「味付けもされてるし、便利なスキルだなぁ……これだけはあのクソ女神に感謝かもな……」
「ん? 女神様がどうかしたか?」
「あー、えっと……どうせならもっと簡単に料理できるスキルだったら良いのになぁって。
ほら、いちいち解体する必要が無い……とかさ」
僕はワイルディアの山に近付くと、ミルを回して『こんな風にさぁ』なんて説明する。
それで料理に変化していたら、どれだけ手間が省けるだろうかと。
そんな事を言ったものだから、目の前のフロックスも呆れたような表情を浮かべている。
ポカーンと口を開けて、『馬鹿だろうコイツ』とでも言わんばかりに。
「ははは……なんでもない……」
僕は恥ずかしくなって、トボトボと後ろに下がる。
解体済みの肉にスキルを使って、次を待つのだけど、フロックスの動きは止まったままだ。
僕の女神発言が変……いや、そういえば魔法じゃなくてスキルって言ってしまった?
もしかして不審に思われたのかな?
恐る恐る顔を上げてフロックスの表情を見てみる……と、なぜか山のように積まれたワイルディアが消えている。
「……これもクロウの魔法……なのか?」
フロックスが地面を指差すと、そこには完成したローストと煮込みがズラリと。
しかも料理にならないツノはまた別にして積まれている。
呆気にとられていたのは、僕の言動ではなく……いや、これをやったのも僕だし僕の言動で間違いはないのだけど。
そうではなくて、山のようにあったワイルディアが一瞬で料理に変わっていたからだった。解体も下処理も無く……
まぁでも質量的には減っているし、魔法のある世界だったら多少はありかもしれない。
素材が剣に変わったり、魔法だって何もないところから水や石を生み出すのだから。
少しくらい変わった現象が起きても、それは予測の範疇に含まれると……
「……やっぱ変?」
「ものすごく……な。
人前では絶対に見せん方がいいと思うぞ……」
ため息を吐いて、チラリとこちらを見てくるフロックス。
今度は本当に僕に対して呆れている感じだった。
まぁ仕方ない。
手間が省けたのだから、感謝されこそすれ、恨まれるようなことは何も無いじゃないか。
「まだ昼だしな。
肉だけ街に運んだら、もう一狩り行ってくるか?」
背中に大きな荷物を抱えて歩き出すフロックス。
さすが獣人、力も強く自分より大きなものも簡単に運べるみたいだ。
煮込み……は持って帰るには大変だったし、とりあえず放置するほかなかった。
街に戻ると、千食分以上の料理を酒場に納品して出てくるフロックス。
子供だから外で待っとけとか言われて、少し残念な僕。
貰った額は旅費には十分だけど、傭兵を雇うには心許ないらしい。
スコルピの爪も結構な額で売れたみたいで、もう少しだけ金策、あとは情報集めと傭兵を雇えばいいだけらしい。
「つっっかれたぁー……」
「汗をかいただろう。浴場ならば向こうの建物だ、行ってくるか?」
「あっ、お風呂があるんだ。
この世界に来て初めてかも」
ギルドから出ると、正面に見える大きな建物を指差すフロックス。
さすが大きい街だけあって、色々な施設があるものだと感心してしまう。
昨日もそのまま寝てしまい、身体は若干生臭さが残っていた。
今日も朝から動きっぱなしだし、こんな状態でギルドに行ったら受付のお姉さんは普通に嫌がりそうなものだ。
「じゃあ行こうよっ、早くっ!」
「いや、俺は……」
あれ? 汗をかいているのはフロックスも同じだと思っていたが……
「……もしかしてお風呂が嫌い……とか?」
「あっ、いやそんなことは……
俺は水浴びで十分だ。一人で行ってくればいい」
僕の言葉に、あからさまに動揺するフロックス。
犬は風呂が苦手だとは聞いたことがあるが、狼もそうなのだろうか?
自分の匂いが消されるだとか、人工的な匂いがキツく感じられて辛い……とか。
「よく見たら、フロックスの毛って汚いんじゃない?
それに臭いよ。彼女とかいるの?」
「いや女は関係ねーだろ!
いいんだよ俺は、いつもこうなんだよ」
いつもこうだから、今日もこうでいい。とは思って欲しくない。
それに汚いとわかった以上、僕がフロックスでモフモフはできないわけだ。
せっかく獣人が目の前にいるのに、これじゃあ勿体無い。
「行くよっ、ねぇ」
「構うなっ、俺は情報を集めてくるっ!」
全くお風呂へ向かおうとしないフロックス。
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