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耳が見たくて気になるのです
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「うぐ……わ、私は一体……」
「落ち着いてください、大きな魔物が現れ襲われていたのです」
「ひ……姫様は無事か……?」
鎧を纏った男は、意識を取り戻すと一際豪奢な馬車に目をやって、僕に問いかける。
他にも怪我人は見受けられるのだが、姫様がいると聞いて僕は真っ先にそちらへ向かう。
倒れている人たちには、とりあえず振りかけて応急処置とさせていただこう。
走って辿り着いた馬車の中、可愛らしいカーテンの付いた物見から、中に少女が横たわっているのが見える。
頭からの出血もあり、急いで助けなくてはならないようだ。
「よっ……と……」
よじ登って物見から中へと潜り込む。
ドアは鍵がかけられていたし、後から壊したなどとは言われたくはないからな。
中に入って鍵を見てみると、ご丁寧にカンヌキまでしてあって、外からは絶対に開けられない仕様に……
魔物に襲われた時は、そこそこ効果はありそうだ。
「大丈夫ですか?」
「う……貴方は?」
「通りがかった冒険者です。
魔物は別の者が退治してくれていますので、ご心配なく……」
フリフリの黄色い衣装に宝石のついた髪飾り。
姫と言っていたが、どう見ても中学生くらいにしか見えないし、あと……
「半分だけなんだ……」
耳とか、見えている肌の一部とか尻尾とか……
完全に獣ではなく、まるでコスプレ衣装。
そうなると気になるのが耳で、人族としてのものはどうなっているのか?
僕はそっと姫様の顔に触れようとする。
「貴方のような小さな少年が……
勇気がおありなのですね、本当にありがとう……」
「あっ、いや……」
ニコッと笑顔を見せる姫様に、僕の手も止まってしまう。
残念だ。僕の予想では髪の毛が耳の辺りにも生えていて、横髪がどうなびいても関係がない。
その説を今こそ確かめるチャンスだったというのに……
まぁ姫様に無礼は良くないよね。
とりあえず他の人たちも助けなきゃいけないし、カンヌキを取り鍵を開けて外に出る。
いつまでも壊れた馬車にいるわけにはいかなかったし、ひとまず僕たちの馬車を指差して避難してもらうこと。
一通り治療も終え、護衛だった人たちは意識を取り戻す。
僕は大きな音のする方へと向かう。
まだフロックスが魔物と戦っているようなのだ。
「来てくれたかクロウッ!
すまん、俺の攻撃じゃほとんど通用しねぇ!」
マジか、と思ってしまった。
フロックスだってそこそこの冒険者だと自負していたくらいなのだ。
この山にはそんなフロックスでも敵わない魔物がゴロゴロといるということか?
そりゃあ囮でも使って逃げたいと思う気持ちもわからなくはないぞ。
「嫌魔弾は?」
「試してみたが、こいつには効き目が無いみたいだ」
せっかく一つ3万Gもしたというのに……
勿体ないなんて思ってはいられないし、とにかく僕も剣で攻撃を……
カキーンッ!
「……っ⁈ 硬っ!」
大きな魔物の皮膚は、まるで鉄板のような抵抗が……
そういえば見た目がサイのような感じもしなくもない。
二足歩行していたものだから、未知の生物にしか見えなかったが、似たような生物はどこにでも……
「なんて考えてる場合じゃなかった!
うわっ、ちょっ⁈」
ズドーン、ズドーンと周囲の木をなぎ倒しながら僕たちに攻撃を仕掛けてくる魔物。
フロックスにも、この魔物は見たことがないそうだ。
ゆえに攻略法などは知るはずもない。
確かサイは膝が弱点で、そこを狙ってアンダースローで石を投げれば……
いやいや、それは自称百獣の王が言ってたやつだ……
僕はタバスコ爆弾とナベのフタを駆使しながら戦い続ける。
魔物の動きは遅くはないが早くもない。
なんとか避けるくらいはできるのだが……
「時間をかけると他の魔物が来るぞ、何か策は無いのか?」
むしろ僕が聞きたいまである。
火魔法なら身体の硬さもあまり関係ない気もするけれど、僕には使えないし……
植物の栽培も今は関係ない。
あとは武器や料理へ加工してしまうこと。
魔物が生きててもできたりしないだろうか?
素早く背後に回ってミルを回してみたり……したところで変化は無い。
さすがにそう甘くはなかった。
氷……は使えそうか?
「アイスショット!」
この際、技名なんてものは雰囲気である。
『製氷機!』と叫ぶよりはマシだろうしイメージもしやすい。
ただ氷が当たったところで、やはり大きなダメージは期待できないようだ。
「じゃあ熱湯! 紅茶に適した高温だよっ!」
ジャー……っとお湯をかけていると、なんだか洗車でもしている気分になる。
いや、よく考えたら液体ならなんでも出せるんだったっけ?
僕は手を止め、少し考える。
まっ先に思い浮かんだのがマグマ。
溶けてさえいれば液体なのだから、別に水じゃなくても発現可能。
ただ問題は、周囲が山だということだ。
山火事になったらすぐに消化できるだろうか?
パニックになってヤエの魔法が暴走でもしたら二次災害に……
「決めたっ! フロックス離れててっ。
……いくよっ、液体窒素!」
シュワーというかブシャーというか。
熱湯をかけた直後の魔物の皮膚に当たって、今度は凄まじい蒸気が辺り一面に。
視界が失われ、僕はまたも『失敗』という言葉が頭をよぎってしまったのだ。
ただ、それも一瞬の出来事だったし、あとは時間をかけて冷え固まるのをひたすら待った。
周囲の植物が大変なことになっていたけれど、燃えるよりはマシじゃないかと勝手に納得して、遂に巨大な二足歩行のサイは光になったのだった。
後に残されたのは素材ではなく、謎の石。
丸くて光っていたので、気になって手に取った。
すると、シュンッッ……と一瞬で消えてしまい、勝手に僕のステータスが浮かび上がっていた。
『NEW:インドサイ/鋼ボディを獲得』
「落ち着いてください、大きな魔物が現れ襲われていたのです」
「ひ……姫様は無事か……?」
鎧を纏った男は、意識を取り戻すと一際豪奢な馬車に目をやって、僕に問いかける。
他にも怪我人は見受けられるのだが、姫様がいると聞いて僕は真っ先にそちらへ向かう。
倒れている人たちには、とりあえず振りかけて応急処置とさせていただこう。
走って辿り着いた馬車の中、可愛らしいカーテンの付いた物見から、中に少女が横たわっているのが見える。
頭からの出血もあり、急いで助けなくてはならないようだ。
「よっ……と……」
よじ登って物見から中へと潜り込む。
ドアは鍵がかけられていたし、後から壊したなどとは言われたくはないからな。
中に入って鍵を見てみると、ご丁寧にカンヌキまでしてあって、外からは絶対に開けられない仕様に……
魔物に襲われた時は、そこそこ効果はありそうだ。
「大丈夫ですか?」
「う……貴方は?」
「通りがかった冒険者です。
魔物は別の者が退治してくれていますので、ご心配なく……」
フリフリの黄色い衣装に宝石のついた髪飾り。
姫と言っていたが、どう見ても中学生くらいにしか見えないし、あと……
「半分だけなんだ……」
耳とか、見えている肌の一部とか尻尾とか……
完全に獣ではなく、まるでコスプレ衣装。
そうなると気になるのが耳で、人族としてのものはどうなっているのか?
僕はそっと姫様の顔に触れようとする。
「貴方のような小さな少年が……
勇気がおありなのですね、本当にありがとう……」
「あっ、いや……」
ニコッと笑顔を見せる姫様に、僕の手も止まってしまう。
残念だ。僕の予想では髪の毛が耳の辺りにも生えていて、横髪がどうなびいても関係がない。
その説を今こそ確かめるチャンスだったというのに……
まぁ姫様に無礼は良くないよね。
とりあえず他の人たちも助けなきゃいけないし、カンヌキを取り鍵を開けて外に出る。
いつまでも壊れた馬車にいるわけにはいかなかったし、ひとまず僕たちの馬車を指差して避難してもらうこと。
一通り治療も終え、護衛だった人たちは意識を取り戻す。
僕は大きな音のする方へと向かう。
まだフロックスが魔物と戦っているようなのだ。
「来てくれたかクロウッ!
すまん、俺の攻撃じゃほとんど通用しねぇ!」
マジか、と思ってしまった。
フロックスだってそこそこの冒険者だと自負していたくらいなのだ。
この山にはそんなフロックスでも敵わない魔物がゴロゴロといるということか?
そりゃあ囮でも使って逃げたいと思う気持ちもわからなくはないぞ。
「嫌魔弾は?」
「試してみたが、こいつには効き目が無いみたいだ」
せっかく一つ3万Gもしたというのに……
勿体ないなんて思ってはいられないし、とにかく僕も剣で攻撃を……
カキーンッ!
「……っ⁈ 硬っ!」
大きな魔物の皮膚は、まるで鉄板のような抵抗が……
そういえば見た目がサイのような感じもしなくもない。
二足歩行していたものだから、未知の生物にしか見えなかったが、似たような生物はどこにでも……
「なんて考えてる場合じゃなかった!
うわっ、ちょっ⁈」
ズドーン、ズドーンと周囲の木をなぎ倒しながら僕たちに攻撃を仕掛けてくる魔物。
フロックスにも、この魔物は見たことがないそうだ。
ゆえに攻略法などは知るはずもない。
確かサイは膝が弱点で、そこを狙ってアンダースローで石を投げれば……
いやいや、それは自称百獣の王が言ってたやつだ……
僕はタバスコ爆弾とナベのフタを駆使しながら戦い続ける。
魔物の動きは遅くはないが早くもない。
なんとか避けるくらいはできるのだが……
「時間をかけると他の魔物が来るぞ、何か策は無いのか?」
むしろ僕が聞きたいまである。
火魔法なら身体の硬さもあまり関係ない気もするけれど、僕には使えないし……
植物の栽培も今は関係ない。
あとは武器や料理へ加工してしまうこと。
魔物が生きててもできたりしないだろうか?
素早く背後に回ってミルを回してみたり……したところで変化は無い。
さすがにそう甘くはなかった。
氷……は使えそうか?
「アイスショット!」
この際、技名なんてものは雰囲気である。
『製氷機!』と叫ぶよりはマシだろうしイメージもしやすい。
ただ氷が当たったところで、やはり大きなダメージは期待できないようだ。
「じゃあ熱湯! 紅茶に適した高温だよっ!」
ジャー……っとお湯をかけていると、なんだか洗車でもしている気分になる。
いや、よく考えたら液体ならなんでも出せるんだったっけ?
僕は手を止め、少し考える。
まっ先に思い浮かんだのがマグマ。
溶けてさえいれば液体なのだから、別に水じゃなくても発現可能。
ただ問題は、周囲が山だということだ。
山火事になったらすぐに消化できるだろうか?
パニックになってヤエの魔法が暴走でもしたら二次災害に……
「決めたっ! フロックス離れててっ。
……いくよっ、液体窒素!」
シュワーというかブシャーというか。
熱湯をかけた直後の魔物の皮膚に当たって、今度は凄まじい蒸気が辺り一面に。
視界が失われ、僕はまたも『失敗』という言葉が頭をよぎってしまったのだ。
ただ、それも一瞬の出来事だったし、あとは時間をかけて冷え固まるのをひたすら待った。
周囲の植物が大変なことになっていたけれど、燃えるよりはマシじゃないかと勝手に納得して、遂に巨大な二足歩行のサイは光になったのだった。
後に残されたのは素材ではなく、謎の石。
丸くて光っていたので、気になって手に取った。
すると、シュンッッ……と一瞬で消えてしまい、勝手に僕のステータスが浮かび上がっていた。
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