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第一話 婚約破棄の理由は?
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広い会場に、侯爵家のオランジェレス様の叫び声がこだました。
「ヴァレリアン!この場をもって、宣言しようではないか!俺はお前と婚約破棄をさせていただく!」
今は、年に数回開かれる、貴族の社交場としてのダンスパーティの最中である。その休憩時間に、伯爵令嬢である私・ヴァレリアンは婚約破棄を言い渡されてしまった。
一体、どういう理由でなのかしら?
他の貴族たちも、手を止めて殿下と私を見ている。ここは、婚約破棄を申し上げる場ではないところ。
そんなところで婚約破棄を言い渡されるのは、相手がどんなに嫌いであろうと少し嫌な気分になるものね。
「オランジェレス様、婚約破棄までたどり着いた経緯をうかがっても?」
「ああ、きっちり話させてもらう。おいで、ケイレン!」
オランジェレス様はそう言うと、裏舞台に向かって手招きをした。
とててっと小走りでやってきたのは、伯爵令嬢のケイレン。
……私の妹だ。
オランジェレス様はケイレンをかたわらに寄せると、私に向かってびしっと指をさした。
「お前は自分の妹であるケイレンに、屋敷や学園、いたるところで嫌がらせをしていたことがわかった!このような可愛らしいケイレンに嫌がらせをする奴など、俺の婚約者とは見られない!よって、婚約破棄とし、代わりにこのケイレンと婚約を結ぶ!何か異論があるなら言ってみろ!」
ケイレンも、さすがに泣いてはいないが、私を見て怯えたような顔をしている。
あれは、演技ね。だって、ほら今、私だけに見えるようにニヤッと笑ったもの。
他の貴族の皆も、困り顔。このパーティには、鶴の一声でこの事態をおさめられそうな、めちゃ飛び抜けて偉い権力をもった人はいない。殿下と私の両親もいない。このパーティの華となるアマデア公爵令嬢は……あら、扇子でお顔を隠しているけれど、微かに微笑んでいらっしゃるわ。まるで、劇を楽しむかのように。
…ここでは、殿下と妹を除いたら、敵も味方もいなさそうね。
「オランジェレス様、私がケイレンに嫌がらせをしたというのは、ケイレン自身からの証言ですか?それとも、第三者からの…」
「もちろん、ケイレンからに決まっているだろう!ケイレンはひどく怯えながら告白してくれたのだ。」
私の言葉をさえぎるほど、自信満々のよう。そういえば、このような場面をどこかで聞いたような…。
思い出した。隣国から流行として伝わってきた、断罪物語。いじめをしていた令嬢が婚約破棄されて、別の令嬢が新たに結ばれるという、あるあるじゃない。まさかケイレンったら、それを真似しようとしているの?
それだけじゃなく、ケイレンはもともと、幼い頃から私のモノをほしいと言ってやまなかったわね。まさか婚約者まで奪おうとするとは思いもしなかったけれど…。最近、欲が激しくなっているケイレンなら頷けるかもしれないわね。
ともかくこんなことはやめさせないと…!
「オランジェレス様、はっきりと申し上げます。私はこれまでケイレンに嫌がらせと言われるようなことは一切しておりません。」
「やはり、そう言うのだな。しかし、嘘は通用しない!素直になって、さっさとケイレンに謝れ!」
「ヴァ、ヴァレリアンお姉様、今この場で謝ってくだされば…こ、これまでのことはなしにしてあげます!あ、も、もちろん殿下はもらいますけどっ。」
「ああ、愛しいケイレン。よく勇気を出して言った。お前は姉とは違って優しいのだな。」
「や、やめてください。恥ずかしいです…。」
ケイレンはそう言って縮こまる。あ、今、また私に向かってフフッと笑みを浮かべたわ。どれほど私を困らせるのが好きなのかしらね、あの子は。
でも、ああやって調子に乗っていられるのもここらへんでおしまい。
きっと、あの人と妹のことだし、そろそろボロが出てくるはず。
私は二人を見つめると、冷たい声を放った。
「それでは、私がケイレンに嫌がらせを行ったという証拠はございますね?」
二人は青ざめるか、高確率で
「そんなものはない!ケイレンの証言だけで十分だ!」
などと馬鹿げたことを言うと思っていた。けれど 、
「ああ、もちろんあるさ。」
オランジェレス様は自信満々な声で、言い張ったのだった。
「ヴァレリアン!この場をもって、宣言しようではないか!俺はお前と婚約破棄をさせていただく!」
今は、年に数回開かれる、貴族の社交場としてのダンスパーティの最中である。その休憩時間に、伯爵令嬢である私・ヴァレリアンは婚約破棄を言い渡されてしまった。
一体、どういう理由でなのかしら?
他の貴族たちも、手を止めて殿下と私を見ている。ここは、婚約破棄を申し上げる場ではないところ。
そんなところで婚約破棄を言い渡されるのは、相手がどんなに嫌いであろうと少し嫌な気分になるものね。
「オランジェレス様、婚約破棄までたどり着いた経緯をうかがっても?」
「ああ、きっちり話させてもらう。おいで、ケイレン!」
オランジェレス様はそう言うと、裏舞台に向かって手招きをした。
とててっと小走りでやってきたのは、伯爵令嬢のケイレン。
……私の妹だ。
オランジェレス様はケイレンをかたわらに寄せると、私に向かってびしっと指をさした。
「お前は自分の妹であるケイレンに、屋敷や学園、いたるところで嫌がらせをしていたことがわかった!このような可愛らしいケイレンに嫌がらせをする奴など、俺の婚約者とは見られない!よって、婚約破棄とし、代わりにこのケイレンと婚約を結ぶ!何か異論があるなら言ってみろ!」
ケイレンも、さすがに泣いてはいないが、私を見て怯えたような顔をしている。
あれは、演技ね。だって、ほら今、私だけに見えるようにニヤッと笑ったもの。
他の貴族の皆も、困り顔。このパーティには、鶴の一声でこの事態をおさめられそうな、めちゃ飛び抜けて偉い権力をもった人はいない。殿下と私の両親もいない。このパーティの華となるアマデア公爵令嬢は……あら、扇子でお顔を隠しているけれど、微かに微笑んでいらっしゃるわ。まるで、劇を楽しむかのように。
…ここでは、殿下と妹を除いたら、敵も味方もいなさそうね。
「オランジェレス様、私がケイレンに嫌がらせをしたというのは、ケイレン自身からの証言ですか?それとも、第三者からの…」
「もちろん、ケイレンからに決まっているだろう!ケイレンはひどく怯えながら告白してくれたのだ。」
私の言葉をさえぎるほど、自信満々のよう。そういえば、このような場面をどこかで聞いたような…。
思い出した。隣国から流行として伝わってきた、断罪物語。いじめをしていた令嬢が婚約破棄されて、別の令嬢が新たに結ばれるという、あるあるじゃない。まさかケイレンったら、それを真似しようとしているの?
それだけじゃなく、ケイレンはもともと、幼い頃から私のモノをほしいと言ってやまなかったわね。まさか婚約者まで奪おうとするとは思いもしなかったけれど…。最近、欲が激しくなっているケイレンなら頷けるかもしれないわね。
ともかくこんなことはやめさせないと…!
「オランジェレス様、はっきりと申し上げます。私はこれまでケイレンに嫌がらせと言われるようなことは一切しておりません。」
「やはり、そう言うのだな。しかし、嘘は通用しない!素直になって、さっさとケイレンに謝れ!」
「ヴァ、ヴァレリアンお姉様、今この場で謝ってくだされば…こ、これまでのことはなしにしてあげます!あ、も、もちろん殿下はもらいますけどっ。」
「ああ、愛しいケイレン。よく勇気を出して言った。お前は姉とは違って優しいのだな。」
「や、やめてください。恥ずかしいです…。」
ケイレンはそう言って縮こまる。あ、今、また私に向かってフフッと笑みを浮かべたわ。どれほど私を困らせるのが好きなのかしらね、あの子は。
でも、ああやって調子に乗っていられるのもここらへんでおしまい。
きっと、あの人と妹のことだし、そろそろボロが出てくるはず。
私は二人を見つめると、冷たい声を放った。
「それでは、私がケイレンに嫌がらせを行ったという証拠はございますね?」
二人は青ざめるか、高確率で
「そんなものはない!ケイレンの証言だけで十分だ!」
などと馬鹿げたことを言うと思っていた。けれど 、
「ああ、もちろんあるさ。」
オランジェレス様は自信満々な声で、言い張ったのだった。
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