結婚相手が同じ顔!~年下第三王子と政略結婚したはずがいつの間にか溺愛されてます~

さんから

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下世話な第三王子

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 この国の王族や身分の高い貴族は生まれつき魔力が備わっており、自分の顔と似た特徴を持つ者を伴侶に選ぶことでさらに大きなチカラが供給される──とは誰もが初等教育で学ぶけど、まさか本当にそれだけで王子の花嫁に選ばれるとは思わなかった。ちなみに男が王家に輿入こしいれしたのは十数年ぶりのことらしい。
「花嫁殿の名は何と言ったか」
「……レインハルトです、エルマー王子」
 部屋に入ってすぐに問われ、ほんの数時間前に神父様に促され呼び合ったばかりですが……とは言えずもう一度名乗る僕。無事に結婚式を終えたあと着替えを済ませ、彼の執務室に案内されたところだった。

 “エルマー王子”。

 呼び名の通りこの国の第三王子で、僕の結婚相手。
 触り心地の良さそうな生地で仕立てられた普段着姿。腕組みをして机に寄りかかるというらくな格好にも関わらず、王宮生活ではぐくんだと思われる気品が隠しきれていない。
 瞬く星々を散りばめた夜空を思わせる黒髪。
 初雪と水晶玉を溶け込ませ、丹念にならしたようなきめ細やかな肌。
 剣術に秀でており並の刺客なら自力で撃退するという噂も納得の、細身ながらよく鍛えられているのが分かる体つき。
 どこを取っても一国の未来をになう王子様にふさわしい要素しかない。……だけど顔だけ、滑らかで細長い首に支えられているその顔だけが、これまでの人生で幾度となく鏡で突き合わせてきた──つまり僕自身のそれとまったく同じで、強烈な違和感を覚えた。
 ──同じ顔でもツヤと体格だけでここまで印象が変わるのか。
 ──とりあえず僕も明日からトレーニングを始めよう……。
「俺と花嫁殿は、顔以外は随分違うな」
 自分から名前を聞いてきたにも関わらず明らかに覚える気のないエルマー王子は、僕と同じことを考えていたようで興味深そうにこちらを眺めている。なんだか見世物小屋の動物になった気分だ。
「香油で誤魔化しているが髪の痛みが酷い。肌も乾ききっているし、身体は──ただただ薄い。初めて見た時、名門貴族の生まれというのが信じられなかった」
「……」
 ──つらつら並べ立ててくれましたけどそれ、生まれ持ったものとは関係ないですよね!?
 喉から飛び出しそうになったツッコミを必死に飲み込む。相手が相手だし不用意なことを言えば、折檻せっかんでは済まないだろう。
「明日から美容専門の係を付ける。楽しみにしておけ」
「……お心遣い痛み入ります……」
「さて。雑談はこのくらいにして……“魔力供給”について話がしたい。そこに掛けて聞いてくれ」
「は、はい」
 僕は王子に一礼して、近くの椅子に座りながらごくり……と喉を鳴らす。
 “魔力供給”。王族が自分の顔と似た伴侶を持つことによって得られるという恩恵。夫婦間で顔に関する共通点があればあるほどその供給量は増えるっていうから、顔“だけ”はほぼ同じである僕を迎え入れたエルマー王子が手にする魔力がどれほど強大になるかは想像にかたくない。
 ──……正直言って、かなり抵抗がある。
 ──だって学校を辞めさせられる直前に習った感じだと魔力供給の方法って、その……。
「学校で習う方法で言うと、供給を望む王族とその伴侶──この場合は俺と花嫁殿が体を重ねることか」
「っ!?」
 僕が心の中ですら詰まるようなことをさらりと言ってのけたエルマー王子に開いた口が塞がらない。三つも年下のはずだけど、もうそっちの耐性が……!?
「俺としては今すぐにでも手にしたいチカラだが……今日は婚礼の疲れが残っているだろう。明日あすの早朝、少し時間をもらいたい」
「そっ、早朝……!?」
 あまりの急展開に咄嗟に両腕に手をかけて自分の身体を抱きしめる。明日の朝早くに、僕の純潔が散る?しかも結構お手軽な感じで……!
「……花嫁殿」
「は、はい……?」
「すまない、補足が抜けていた。おおやけにされてないだけで魔力供給の方法は他にもある」
「へっ?」
「魔術の研究が進み、今は特殊な道具に俺たちの顔の造形を取り込ませるだけで供給は完了する」
「そっ、そうなんですか……?」
「ああ」
 淡々と告げられたそれに拍子抜けする。胸の内で決まりかかった覚悟が、『解散!!』と声を張り上げて消えて行った。
「だから安心してくれ、花嫁殿」
 セルフハグの必要がなくなりいたずらに両腕を彷徨わせている僕の元に、机を離れたエルマー王子が悠然とやってくる。こちらも立った方が良いのだろうか。なんて悩んでいるうちに、質感だけなら絹と比べても大差ない髪先が僕の頬にはらりとかかった。
 
「俺は“そういうこと”は段階を踏みたいし……まずもってこんな貧相な身体には欲情しない」
「──っ!」
 
 まるで愛の告白のように囁かれた、あろうことか自分と同じ顔から出た下世話極まりない発言に腹が立った僕は。
 
「ぼっ、僕だって!初めてを捧げるならもっときよらかで言葉を選べる人が良いです!!」

 気づけばこの国の王子様を前に、力の限り叫んでいた。
 ──し、しまった。つい……!
「……ふはっ。俺の花嫁は存外肝が据わっている」
 “無礼”。“不敬”。“処刑”。それらの文字が脳内でもの凄い勢いで巡る中、エルマー王子はあっけらかんと笑っている。
 こちらは背中に嫌な汗がどっと噴き出す一方で、僕の顔はこんな表情も出来るのかと──少しだけ新鮮だった。
 
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