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「──どうしよう……」
放課後。
生徒会の活動が始まる前の空き時間にひとり訪れた図書室で、僕は掛けていた机の上に突っ伏した。頭の下敷きになっているのは数学の教科書と筆記用具──と、バツだらけの問題集。
波乱の体育際もなんとか無事に終わりはや一か月。期末テストが三日後に迫る中、何気なく数学の出題範囲に目を通した僕はとんでもないことに気づいた。
──範囲を間違って覚えたまま勉強してたなんて……!
テスト前は事前に発表された出題範囲を元に勉強して対策するわけで、特に数学が苦手な僕は範囲が発表されてすぐ綿密に計画を練って復習を重ねてきた。……けど、その勉強してきたところが実は今回のテストにはまったく関係なく、本当の範囲は教科書のもっと先のページであり──書かれたページ数を自分が読み間違えたんだと、よりにもよってテスト直前に気づいてしまったのだ。
──確かにこの単元は前のテストの時にこっちは出題するほどじゃないって先生言ってた。今思い出した……!
そして今。
まずはどれくらい理解してるかを見るため、家から持って来た問題集の本来の出題範囲にあたる練習問題をやってみたけど──結果はまさかの2点。……念のために言うけど100点満点の練習問題で、だ。
──授業で習った時、その日のうちに復習までやってるはずなのにまるで身についてない……!だからいつもテスト前は時間をかけて頭に叩き込んでるのに!
──本当にどうしよう、このままじゃ生徒会副会長が赤点で補習という前代未聞の事態に──……
「──何をしているのかね、東山くん」
と、突っ伏している後頭部に降り注いだ声に聞き覚えがあって、おそるおそる頭を上げる。
「ま、間壁先輩……」
声を掛けてきたのは、生徒会の三年生であり書記兼会計の間壁 真一郎(まかべ しんいちろう)先輩。
前は耳より長め、後ろはすっきり刈り上げた色素の薄い茶色い髪に、色白の肌。フチなし眼鏡の硝子部分に付いてしまうんじゃないかってくらい長いまつ毛が印象的な美形だ。身長は生徒会の三年生の中では一番低いのだと前に自分で言っていたけど明らかに175は越えているし、ピシッと伸びた背筋のせいかかなり高いように感じる。
「次期生徒会長と名高い君が図書室で居眠りだなんてね。テスト前だけどよほどの余裕があると見える」
──相変わらず棘のある物言い!
──間壁先輩もテスト勉強かな。こんなところで捕まるなんて困った、正直言ってこの人苦手なんだよ……!
細身の体型と儚げな容姿からは想像出来ないけど間壁先輩は意外と毒舌で、口を開くと場が凍り付くことも多い。この間も一年生の生徒会役員の小川さんが泣きそうになるまで問い詰めていた。
「決して居眠りしていたわけでは……っ」
「はぁ。……ふむ……?」
不満はあれど確かに机に突っ伏してたら居眠りに見えるよな……と次の言葉に困る僕に小さくため息をついた間壁先輩が次に視線を移したのは、机に広げたままの問題集。──バツだらけの上にご丁寧に“2”と獲得した点数まで書いてしまっている練習問題のページだ。
──あああっ、よりにもよって間壁先輩に見られてしまった……!
──あ。でも間壁先輩がこのことを生徒会の人たちに広めてくれれば、“東山は学力的にこの学校のトップにはふさわしくない”ってなって絶対に次の生徒会長になりたくない僕にとってはかえって都合が──良いわけがない、仮にも生徒会副会長がテスト範囲を間違えて慌てて勉強し直してるって事実が既に情けなさ過ぎる!!
「……」
「ま、間壁先輩……?」
「……」
急に黙り込んで僕の解いた練習問題を注視する間壁先輩。しまった、生徒会長・風紀委員会委員長に次いで学年三位の成績を誇る間壁先輩にとって2点は未知の数字だったか……?衝撃で呼吸を忘れちゃった……?と心配になったところで──
「──この問題はその公式では解けない」
「え?」
その口が徐に開かれた。
「……このページの……これを使ってみたまえ」
次に間壁先輩は机に広げていた教科書のページを二ページほど前に捲って、とある公式が載ったところをゆびでトントンと指す。
──間壁先輩が、皮肉ナシで勉強を教えてくれた……?
まさかの人からの真っ当なアドバイスに戸惑う間にも“さっさとやってみろ”といった視線が手元に突き刺さり、とりあえず言われた通りにやってみる。
「……解けた……」
なんと、あれだけ頭を悩ませていた問題が拍子抜けするくらいにするりと解けてしまった。
「あの先生の授業を僕は受けたことはないが、時折こうして似たような単元から問題を出して生徒を翻弄するそうだよ。次から注意してみると良い」
「あっ……ありがとうございます!」
「図書室では静かに」
さらに今の僕にとって有益過ぎる情報を授けられて、思わず感謝の言葉を叫ぶと間髪入れずに窘められる。そうだ、ここ図書室だった……。
「ところで──君はいつまでここにいるつもりだい?」
「え?……あっ」
何事も無かったようにそう続けられ壁にかかった時計を見ると、そろそろここを出て生徒会室へ向かわないといけない時間が迫っていた。
──そうだ、今日はミーティングがあるから時間通りに行かないと。
──生徒会室か……。
──……今は行くのちょっと気まずいな……。
「君は欠席かな?安西くんには僕の方から“東山くんは赤点を回避するのに精一杯でミーティングには出られない”と伝えておいても良いのだけど」
「そっ、それだけはやめてください……っ」
紛れもない事実なものの不名誉にも程がある理由の欠席を避けるべく、早々に机の上の片付けを済ませた僕は間壁先輩の背中を追い掛けるのだった。
◇◇
「おー東山、遅かったな」
「祖父江くん。隣座るね」
「ん」
場所は変わり生徒会室。
さっさと空いた席に座る間壁先輩に続き僕も、同じく二年生の生徒会役員である祖父江くんの隣に腰掛ける。
「図書室でテス勉してたんか」
「うん。数学がちょっとやばくて……」
「俺も。今回も余裕で基礎コースだわ」
「祖父江くんなら応用コースもいけそうだけど」
「無理無理。なれたとしてもお前と一緒ってことくらいしか良いことねぇよ」
「そう……?」
──僕が一緒なのは彼にとって良いことなのか……。
自然とにやけてしまう僕の隣で、“無理無理”と片手を横に動かす祖父江くん。
基礎コース・応用コースとはこの学校の数学の授業で採用されているクラス分けで、振り分けテストの点数で70点未満は教科書の内容をじっくり覚えていく基礎コース、それ以上は大学受験を視野に入れた授業をする応用コースとそれぞれ割り振られるのだ。……さっきの練習問題で2点を獲得した僕が応用コースというのは自分でも意外だと思うけど、二年生になって最初に行われた振り分けテストでたまたま解き方の分かる問題ばかりが出題されていた結果──ギリギリ応用コースとなる70点を取れてしまったという事情がある。
──三日後の期末テストの結果で、改めてどちらかのコースに振り分けがされる。
──だから出来ることなら解答をうまく調整して69点以下を取って、基礎コースで本来の学力に合った授業を受けたいけど……。
「──みんな揃ったな」
このままだと間違いなく基礎コースには行けるけど、逆に点が足らなさ過ぎて赤点になっちゃう……!なんとか生徒会の活動と被らないように先生に交渉しなくちゃ……と、夏休みに開かれる補習授業に思いを馳せたその時、生徒会室に入って来たのは安西 修哉先輩。僕が副会長として補佐を務める、この学校の生徒会長だ。
「安西くん、みんなといっても広報の南條くんが来ていないようだが?今日は学校に来ていただろう」
「南條はドラマの撮影が入っているとのことで今はもう下校している。なのでこのまま今日のミーティングを始めようと思う」
間壁先輩の問いかけにそう軽く返すと、会長は椅子には座らずみんなの前に出て話を切り出す。
「早速だが君たちに相談がある。テスト前に差し掛かり部活や委員会の活動が縮小されるなか、普段よりも多くの生徒が勉強のために図書室を利用している。……が、その中の一部が騒ぎ立てるなどして他の利用者を困らせているようだ」
「図書室……」
ちょうど今さっき、僕と間壁先輩が利用していた場所だ。
確かに今日の図書室は普段とは違って、うるさいとまではいかなくても少し騒々しかったように思う。
「そこで図書委員会より生徒会に協力の要請があった。本日から期末テストが始まるまでの間、数名の役員で警戒に当たってもらえないかと」
「確かにテスト前の図書室はやかましいけどさぁ……そういうのは風紀委員の仕事だろ?」
警戒と聞いて声を上げたのは、安西会長の近くの椅子に座って腕組みをしている、生徒会顧問の松原先生。
「先生の言う通り、本来なら風紀委員が対応すべきなのですが──彼らの声量は図書室での活動に向いていないという話になりまして」
「……あー」
合点がいったという風に頷く先生に、僕も苦笑いが出る。
この学校の風紀委員は委員長である北川辺先輩を筆頭にみんな声が大きい。……発言力があるというのもあるけど、この場合は安西会長も言っている通り声量的な意味でだ。
「図書委員会には貴重な資料を手続きなしで提供してもらったりしているので、恩を返して対等でいたいという意味もあるんだと思います」
「あーそういう。さすが東山は理解が早いな」
生徒会が図書委員会に協力することにピンと来ていない様子の松原先生にそう説明してから視線を戻すと、会長と目が──合うと思った瞬間すぐ背を向けられた。
──ま、またスルーされた……!?
──いつもなら僕の発言の後は同意するなり補足するなりしてくれるのに!
──あとお付き合いが始まってからは、目が合ったら必ず笑いかけてくれてたのに!
約二ヶ月前から安西会長と密かにお付き合いしている──はずの──僕だけど、最近、具体的には先月の体育祭が終わったあたりから明らかに会長に避けられていることに悩んでいた。
──やっぱり体育祭のリレーで会長が走るのを見れなかったのを怒ってる……?
──それとも、体育祭終わって疲れがとれないうちから次の生徒会長にはぜひ祖父江くんを!って激推ししてたのが鬱陶しかったとか……?
──どうしよう、心当たりがあり過ぎる!
「そういうわけで──今ここにいる君たちの中から二名ほど選びたいと思う。なお、司書の先生のご厚意により該当の役員たちには図書室で拠点となる座席の確保と、問題集やその他参考書などテスト勉強に役立ちそうな書籍の優先的な提供が約束されている。希望者はいるだろうか」
僕が悶々としている間も、安西会長は淡々と話を進めていく。……待てよ、警戒の合間にそんな好条件で勉強が出来るなら数学が赤点の危機にある僕にとっては都合がいいんじゃないか。
──何より今の会長と同じ空間にいるのも気まずいし……。
希望者がいないなら僕が手を挙げ──それにしてもほんとに会長と目が合わない!
「本に囲まれて仕事が出来るとは魅力的だね、それは僕が行こう」
「間壁ならそう言ってくれると思ったよ」
上半身ごと動かしてなんとか会長の視界に入ろうとするけど、その目線はいっそ不自然なほどに先に名乗りを上げた間壁先輩へ固定されている。
「東山くん、君も来たまえ」
「──えっ?」
突然の間壁先輩からの名指しに、会長の視界に入ろうと躍起になった姿勢のまま固まる僕。……「テレビから出てきた怨霊みたいになってるぞ」とは、祖父江くんの指摘である。
「何かね、僕と組むことに不満があると?生徒会副会長ともあろう君が、仕事を選ぶと」
「いえそんなことは……っ、謹んでお受けいたします!!」
「むやみに大声を出すものではないよ。体育祭で風紀委員と行動を共にして随分と影響を受けてしまったようだね」
機嫌を損ねまいと速やかに了承を伝えたつもりが、間壁先輩はそれにいつもの皮肉で返すと席から立ち上がる。
「今日はもう時間も残されていないし──僕と東山くんは早速図書室へ向かうとするよ。それで構わないかね?」
「ああ、頼む。俺は今日は生徒会室(ここ)にいるから人手が足りない時はいつでも呼んでくれ」
「うむ。それでは東山くん、僕たちは一足お先に失礼させてもらうとしよう」
「はっ……はいっ」
ここで席から立ち上がって、その場にいる役員のみんなに「失礼します」と軽く頭を下げるけど──……最後まで安西会長と目が合うことはなかった。
◇◇
「なっ……なによ!?この子に席譲ってってお願いしてるだけなのになんで間壁にそこまで言われないといけないのっ!?」
「今のがお願いだって?僕には縄張り争いに負けた猿が喚き散らしてるようにしか見えなかったけれど。どの辺りがお願いだったのか詳しく聞かせてくれるかね?──ああ、もちろん猿語でなく人間にも分かるような言語でよろしく頼むよ」
「……ふざけんなお前っ、二度と来ないから!」
「ぜひそうしてもらえると助かるね」
──キレッキレだなぁ……。
半泣きで図書室を出て行く三年生を遠い目で見送る間に、僕の前の席に間壁先輩が戻ってくる。
「まったく、“これ”が見えているはずなのに堂々と問題を起こすなんて……度胸だけは賞賛に値するよ」
間壁先輩が“これ”と呼んで見遣ったのは、左腕に嵌められた蛍光グリーンの腕章。【警戒中】と大きく書かれているそれは、ここへ向かう直前に安西会長から──すぐ近くにいた僕を差し置いて、生徒会室から出ようとした間壁先輩をわざわざ呼び止めて──渡されたものだ。
「先生、ラベル貼りが終わったので確認をお願いします」
「わっ、もう終わったの?さすが間壁くん、ありがとー」
──しれっと司書の先生のお手伝いもしながら仕事してるし……。
──これが三年生……。いや、あと一年でここまで出来る気しないけど……。
間壁先輩は生徒会の他に文芸部にも所属していて、部活中に書いたという推理小説が何かすごい賞を取ったとかで来月には紙の書籍として発売されるそうだ。
──作家としての仕事もたくさんあるだろうにどうやって学年三位の成績をキープしてるのかも気になるけど、何より──……。
「もう今からでも図書委員入って欲しいくらい。考えてみない?」
「それよりも先生、奥の棚が少しグラついているように見えました。倒れて怪我人でも出たら問題なのでは?」
「え、ほんと?ちょっと確認してくるー」
「……なんだい、東山くん」
僕の熱い視線に気づいていたらしく、指摘を受けて急ぎ足で確認へ行った司書の先生の背中を見送ると、今度はこちらに向き直る間壁先輩。
「君と話していたわけではないのに、その視線は不躾ではないかね?」
「す、すみません……」
「先生との話は終わったし、何か思うところがあるのなら今言ってくれて構わないけれど」
「思うところというか、大したことじゃないんですけど……」
この人の前で下手に繕っても無駄だろうと、思い切って口を開く。
「間壁先輩はすごいなって……。同じクラスの人や司書の先生相手にもあんなに毅然としてて」
こうして見ていると間壁先輩はクラスメイトはもちろん、司書の先生を始め目上の人にまで毅然とした態度で対応している。後輩が泣くまで追い詰めるその厳しい物言いに思うことがまったくないわけじゃないけど、今の僕にとってはその誰に対しても平等な正直さが羨ましい。
「僕も、怖がらずにあんな風にはっきり言えたら……」
僕はといえば恋人である安西会長にすら、気になることを伝えられないでいる。
──きっと僕がやらかした何らかのポンコツが安西会長にバレて、“東山は思ってたほど思慮深くない”って幻滅されたんだ。
間壁先輩に倣って『何か思うことがあるならはっきり言ったらどうですか?』なんて面と向かって聞こうものなら『それなら──』ってその場で振られてしまうに決まってる。……けど、会長と別れるくらいならこのままで良いやって割り切ることも出来ない。
──僕は一体どうすれば……うわ駄目だ、これ以上考えたらたぶん泣く。
──間壁先輩の目の前で泣いたりしたら、『泣くのは勝手だがその参考書は図書室からの借り物なのだから汚さないように』くらいは言われるに決まってる!
「──……僕は叙述ミステリーが好きでね」
──ほらっ、僕の目が潤んでることに気づいてさっそく口を開いた──……あれ?なんか思ってた切り口と違う。
「……じょじゅつ……?」
「簡単に言うと読者の先入観を利用した仕掛けのことだね」
導入的に皮肉の類じゃないと気づいてひとまず勉強のために持っていたシャーペンを机に置いて聞く姿勢を取る。それにしても珍しい、間壁先輩が自分の話をするなんて。
「先日賞を取った推理小説もそれを意識して書いたけれど、やはりアレは書くよりも読む方が心躍るよ。体験する度、いかに自分が先入観を持って物事を見ているか思い知らされる。──東山くんはどうかな。たった一、二年関わっただけの人間を捕まえて“この人はこうしたらああなるに決まってる”などと思い込んではいないかい?」
「……っ」
世間話のつもりで聞いていたところ突然投げ込まれたそれに、思わず息を飲む。
──先入観に、思い込み?
──今の僕の状況で当てはめてみれば、“安西会長が僕を避けているからって、僕と別れたいわけじゃない”ってこと?
──でも、それならどうして会長は……。
「普通なら通り過ぎてしまうような些細な事柄もすぐに感知し、自分の頭で考え、動く。そんな君に助けられている者は生徒会内外問わず大勢いる。……恐れることなどないよ、そうして積み重ねたものは君の思い込みを良い意味で裏切ってくれる」
「間壁先輩……」
「もっとも、東山くんは今はテストの方を恐れた方が良いと思うがね」
「うっ……」
この人なりに僕を励ましてくれたんだ、と感謝の気持ちが芽生えた直後に『この話はこれでおしまい』とでも言うように座っていた席から立ち上がる間壁先輩。
「あの練習問題の惨状を見るに警戒どころじゃないだろう、後は僕が引き受けるから君はそこでテスト勉強に専念したまえ」
「ええっ」
机に広げていた借り物の参考書を見遣りながらの間壁先輩の申し出に思わず声が出る。
「でも僕だけ何もしないで座ってるだなんて……」
「君が腕章を付けてそこに座っているだけで抑止としてはじゅうぶんだよ。それにそろそろ生徒会が警戒に当たっているという情報が出回る頃だから、疚しいことのある生徒たちは来なくなる」
そこでちょうどよく(?)視界の端で、図書室のドアから顔を覗かせて「うわマジで間壁いるっ」と不快感を隠しもせずひき返して行く三年生たちが見えた。
「確かに情報は出回っているようですが……」
「分かったのなら言う通りにした方が身のためだよ。──元から東山くんには勉強だけさせるつもりだった」
「……?じゃあ図書室での活動に僕を指名したのは……」
間壁先輩は最初から、練習問題で2点を取った僕に勉強の時間を作ってくれるつもりだったってこと……?さっきも励ましてくれたみたいだし、ひょっとしたら間壁先輩は、僕が思うよりずっと後輩思いの良い先輩なんじゃないか。
「ああ、勘違いしないでほしいのだがね。夏休みも生徒会の仕事があるのに君が期末テストで赤点を取って補習にでもなったら、必然的に僕の仕事が増えるから早めに手を打ったというだけのことだよ」
「はあ……」
……こういうの、妹に借りた少女漫画で読んだことある。
──間壁先輩って、所謂ツンデレってやつなのでは?
学校イチのイケメンの男の子が身を挺してヒロインを庇ってケガを負ったのに、『お前のためじゃないからなっ!』って叫んでたシーンと挙動が一緒だ。
「まずはそのページを丸暗記しておきたまえ。そこさえ覚えておけば赤点は避けられる」
「はっ、はい!」
あの漫画、また読みたくなっちゃったな。テストが無事に終わったらもう一回借りよう。なんて思いながら図書室内の見回りに行こうとしているらしい間壁先輩を見送ろうとすると、
「──もしも」
と歩き出した背中が一度止まる。
「本当にどうしようもなく、分からない単元があったら声を掛けたまえ。……手が空いていれば見てあげよう」
「……お、お願いします……」
──やっぱり間壁先輩はツンデレだ……。
なるべくお手を煩わせないようにしよう……と決めたものの、間壁先輩はその後十分おきに様子を見に来てくれ、僕はその度に恥を忍んで教えを乞うことになるのだった。
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