私の主人はワガママな神様

どろろ

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3.大事な大事なご主人様(2)

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 しばらく待っていると、コンコンと控えめなノックの後、勢いよく扉が開いた。
 入ってきたのは上品なスーツを着て杖をついた男性。

「父さん!」

 男性の姿を見ると、隣に座っていた少年がソファから飛び降りて駆け寄った。杖をついた彼が、この少年の父親のようだ。

「よく来たな。しかし、来る前に電話をくれれば待たせなかったのに……」
「あ、ごめんなさい。どうしても、はやくあってはなしがしたかったんだ」
「そうかそうか。で、そちらは?」
「は、初めまして……七海と申します」

  ただ者ではないオーラを感じ取って、七海はソファから腰を上げ一例する。
 杖の男性はゆっくりと向い側のソファへ腰を掛けた。

「息子がお世話になりました」
「いえ、そんな……自分の方が彼に助けられたようなものです」
「七海は、サイフをひろってくれたんだ! あときょうかしょをひろってくれたし、かたぐるまもしてくれたんだ!」
「いっぱい遊んでもらえてよかったなあ。楽しかったか?」
「たのしかった!」

 微笑ましく話す父子を見ていると、父親のことを思い出す。自分たちにもこの親子のように仲良くしている時期があったのだろうか。

「この子がこんなに楽しそうにしているのを見るのは
久々だ。ありがとう、七海君」
「いえ、自分は何も……」
「ああ、そうだ。自己紹介がまだだったな」

 そういうと、目の前に座る男性はスーツの内側のポケットから名刺を取り出し、七海に渡した。
 受け取った名刺を見て、七海は目を見開いた。

『株式会社 中条ホールディングス 
 代表取締役 社長 中条源太郎なかじょうげんたろう

「えっ……」

 こんなに驚くのも無理はない。
 中条ホールディングスはこの世で知らない人は存在しないほどの有名な大企業。不動産、電化製品、医療、化学薬品、保険、IT、製菓、玩具……など、手掛ける商品は幅広く、就活生が志望する企業ランキング1位を10年独占する大企業なのだ。

「私はここの代表取締役で、この子は私の息子の晴太郎だ」
「だっ、いひょう……の、息子……」
「なんだ、聞いてなかったのか? ちゃんと自己紹介しないと駄目じゃないか」
「えー? わすれてた!」

 驚きでポカンとしている七海を他所に、少年と男性——晴太郎せいたろうと社長は2人で話を続けていた。
 
「七海、いえに帰りたくないっていってるから、うちにとまらせてあげられないか?」
「それは良いが、七海君は家出少年なのか? ご両親が心配するのでは……」

 彼のいう通りだ。制服を着た高校生が家に帰りたくないだなんて、普通なら通用しない。今日一日だけでも温かい場所に居られる、という希望が消えかかってしまい七海は肩を落とす。
 けれども、やはりあの冷たい家には帰りたく無い。七海には訳がある。
 
「実は、父親が……蒸発しまして……」

 信じてもらえるか分からないし、同情して貰えないかもしれない。ただの家で少年だと思われるのは嫌だったので、ここ数日間の出来事を、彼に全て話すことに決めた。
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