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10.家族の集まり(2)
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「先程、社長からお電話がありました」
「父さんから?」
「家族旅行忘れるなよ、と仰っていました」
「あー、大丈夫、覚えてる!」
社長からの電話は、以前から計画していた家族旅行についてだった。
上の姉の婚約祝い、そして下の兄姉の大学卒業祝いを兼ねて1泊2日の温泉旅行に行こうという話をずっと前からしていた。それが来週の土日についに決行される。もちろん、彼らの身の回りの世話をする人物が必要なので、七海たち従者も付いて行く。
「何処に行くんだっけ?」
「松島です」
「へえー、遠いなあ。宮城だよな? 東北なんて初めて行くぞ」
「東北……私も無いですね」
七海と晴太郎は大抵一緒に行動しているので、晴太郎が行ったことが無い場所は七海も行ったことが無い。晴太郎に出会う前も、あちこち旅行に行くような家庭では無かったので、遠くにはほとんど行ったことがない。
「温泉かー、楽しみだなあー!」
わくわくした様子で晴太郎がギターの弦を弄りながら呟く。いくら弦を弾いてもアンプにはヘッドフォンが繋がっているので、どんな音を奏でているのかはわからない。
「もうひとつ、よろしいですか?」
「うん、なんだ?」
「春の演奏会についてです」
「演奏会……ああ、もうそんな時期かー……」
もつひとつの用事は、晴太郎にとってあまり良いものではない。演奏会、という単語を聞いて晴太郎は眉間に皺を寄せた。
毎年3月の終わりに、中条ホールディングスが主催するコンサートが開かれる。通称、『春の演奏会』。
晴太郎もピアノを弾かなくなる前までは毎年参加し、そこでピアノを演奏していたのだが、ここ2年程は参加を断っている。
「うーん……それってすぐに返事しないと駄目なやつ?」
「いえ、3月頭くらいまでは待てますが……」
本当は社長や副社長から、晴太郎が演奏会に出席するように説得しろと言われている。しかし、七海は晴太郎の意思を尊重したい。嫌なものを無理やりさせるのは可哀想なので無理強いはできない。
「七海は……俺のピアノ、聴きたいか?」
晴太郎の瞳に、少し不安の色が見えた。やはり、彼はピアノを演奏する事に対して、何か思う事があるのだ。
「もちろんです。私はあまり音楽に詳しくないですが、坊ちゃんのピアノは特別です」
これは七海の本心だ。実際、毎年春の演奏会で晴太郎のピアノを聴くのが楽しみだった。それに、七海は晴太郎が才能だけに頼っておらず、人一倍努力していたことも知っている。だからこそ、大きなステージで彼の演奏を聴くのが好きだった。
「本当に俺のピアノ?」
まだ不安の残る瞳で七海を見上げた。これは七海の推測でしかないが、晴太郎は彼自身のピアノを聴いて欲しいと思っている。彼が奏でる音の奥に、他の人の影を見ないで欲しいのだ。だから"俺のピアノ"と、晴太郎は七海に言うのだ。
「父さんから?」
「家族旅行忘れるなよ、と仰っていました」
「あー、大丈夫、覚えてる!」
社長からの電話は、以前から計画していた家族旅行についてだった。
上の姉の婚約祝い、そして下の兄姉の大学卒業祝いを兼ねて1泊2日の温泉旅行に行こうという話をずっと前からしていた。それが来週の土日についに決行される。もちろん、彼らの身の回りの世話をする人物が必要なので、七海たち従者も付いて行く。
「何処に行くんだっけ?」
「松島です」
「へえー、遠いなあ。宮城だよな? 東北なんて初めて行くぞ」
「東北……私も無いですね」
七海と晴太郎は大抵一緒に行動しているので、晴太郎が行ったことが無い場所は七海も行ったことが無い。晴太郎に出会う前も、あちこち旅行に行くような家庭では無かったので、遠くにはほとんど行ったことがない。
「温泉かー、楽しみだなあー!」
わくわくした様子で晴太郎がギターの弦を弄りながら呟く。いくら弦を弾いてもアンプにはヘッドフォンが繋がっているので、どんな音を奏でているのかはわからない。
「もうひとつ、よろしいですか?」
「うん、なんだ?」
「春の演奏会についてです」
「演奏会……ああ、もうそんな時期かー……」
もつひとつの用事は、晴太郎にとってあまり良いものではない。演奏会、という単語を聞いて晴太郎は眉間に皺を寄せた。
毎年3月の終わりに、中条ホールディングスが主催するコンサートが開かれる。通称、『春の演奏会』。
晴太郎もピアノを弾かなくなる前までは毎年参加し、そこでピアノを演奏していたのだが、ここ2年程は参加を断っている。
「うーん……それってすぐに返事しないと駄目なやつ?」
「いえ、3月頭くらいまでは待てますが……」
本当は社長や副社長から、晴太郎が演奏会に出席するように説得しろと言われている。しかし、七海は晴太郎の意思を尊重したい。嫌なものを無理やりさせるのは可哀想なので無理強いはできない。
「七海は……俺のピアノ、聴きたいか?」
晴太郎の瞳に、少し不安の色が見えた。やはり、彼はピアノを演奏する事に対して、何か思う事があるのだ。
「もちろんです。私はあまり音楽に詳しくないですが、坊ちゃんのピアノは特別です」
これは七海の本心だ。実際、毎年春の演奏会で晴太郎のピアノを聴くのが楽しみだった。それに、七海は晴太郎が才能だけに頼っておらず、人一倍努力していたことも知っている。だからこそ、大きなステージで彼の演奏を聴くのが好きだった。
「本当に俺のピアノ?」
まだ不安の残る瞳で七海を見上げた。これは七海の推測でしかないが、晴太郎は彼自身のピアノを聴いて欲しいと思っている。彼が奏でる音の奥に、他の人の影を見ないで欲しいのだ。だから"俺のピアノ"と、晴太郎は七海に言うのだ。
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