58 / 146
12.嘘(1)
しおりを挟む
目を覚ますと朝になっていた。いつの間にか布団の上にしっかり寝ていて、隣で晴太郎がすやすやと眠っている。布団の上まで運ばれた記憶はあるが、それ以降のものはだいぶあやふやだ。どうして彼が同じ布団の中にいるのだろうか。
起き上がるとガンガンと叩かれるような酷い頭痛がし、眉間に皺を寄せる。情けない姿を見せてしまったこと、いっそ夢だったら良かったのにと思う。しかしこの頭の痛みが、昨日の出来事が夢ではなく現実の事だと訴えてくる。
とりあえず色々頭の中を整理しなければ、と布団から出て洗面台で顔を洗う。ばしゃばしゃと冷水を浴びるように洗っていると、だんだんと頭の中がはっきりしてくる。
昨日のことは、どこまでが現実でどこからが夢なのか。風太郎が来たのはたぶん現実なので謝らなければならない。晴太郎と大事な話をしたのだが、あれは夢だったのだろうか。
布団のある部屋に戻ると、晴太郎が起きていた。小さく欠伸をして眠たげな目を擦っている。
「晴太郎様、おはようございます」
「七海! もう大丈夫なのか?」
「はい。昨日は、本当に申し訳ありませんでした……」
「いや、いいんだ。平気そうで良かった……」
ホッとして胸を撫で下ろす晴太郎を見て、七海は宗が痛む。こんなにも主人に心配をかけて、自分は一体何をしているのだ、と。
「晴太郎、七海。部屋入るよ」
コンコン、と控えめなノックの直後、返事を待たずに風太郎が入ってきた。確か、昨日の情けない姿はしっかり見られていた気がする。かなり気不味いが、ちゃんと謝らねばならない。畳の上で正座して、風太郎に向かって深々と頭を下げる。
「風太郎様、昨日はご迷惑をお掛けして……申し訳ありませんでした」
「え、いいよ、僕が勝手にやっただけだし……顔、あげてよ」
七海が思っていたより風太郎は気にしていない様子でホッとした。顔を上げると、頭痛薬の箱を渡された。
「使うかな、と思って持ってきたんだけど……」
「何から何まで……すみません、助かりました」
今日はわざわざこれを届けるために来てくれたらしい。二日酔いのせいで頭痛が酷かったので、かなりありがたい。
「でも、水がないから……晴太郎、下の自販機で水買ってきてくれる?」
「うん、わかった!」
「坊ちゃん、いいですよ。そのくらい私が自分で……」
「七海、まだ本調子じゃないだろ? 俺が行って来るから、待ってろ!」
いくら主人の兄が言った事でも、さすがに主人にお使いをさせることなんて出来ない。七海はあわてて彼を止めたが、晴太郎は部屋を出て行ってしまう。
風太郎と部屋に二人残された七海。ぱたぱたと晴太郎の足音が完全に聞こえなくなると、風太郎が声を掛けてきた。
起き上がるとガンガンと叩かれるような酷い頭痛がし、眉間に皺を寄せる。情けない姿を見せてしまったこと、いっそ夢だったら良かったのにと思う。しかしこの頭の痛みが、昨日の出来事が夢ではなく現実の事だと訴えてくる。
とりあえず色々頭の中を整理しなければ、と布団から出て洗面台で顔を洗う。ばしゃばしゃと冷水を浴びるように洗っていると、だんだんと頭の中がはっきりしてくる。
昨日のことは、どこまでが現実でどこからが夢なのか。風太郎が来たのはたぶん現実なので謝らなければならない。晴太郎と大事な話をしたのだが、あれは夢だったのだろうか。
布団のある部屋に戻ると、晴太郎が起きていた。小さく欠伸をして眠たげな目を擦っている。
「晴太郎様、おはようございます」
「七海! もう大丈夫なのか?」
「はい。昨日は、本当に申し訳ありませんでした……」
「いや、いいんだ。平気そうで良かった……」
ホッとして胸を撫で下ろす晴太郎を見て、七海は宗が痛む。こんなにも主人に心配をかけて、自分は一体何をしているのだ、と。
「晴太郎、七海。部屋入るよ」
コンコン、と控えめなノックの直後、返事を待たずに風太郎が入ってきた。確か、昨日の情けない姿はしっかり見られていた気がする。かなり気不味いが、ちゃんと謝らねばならない。畳の上で正座して、風太郎に向かって深々と頭を下げる。
「風太郎様、昨日はご迷惑をお掛けして……申し訳ありませんでした」
「え、いいよ、僕が勝手にやっただけだし……顔、あげてよ」
七海が思っていたより風太郎は気にしていない様子でホッとした。顔を上げると、頭痛薬の箱を渡された。
「使うかな、と思って持ってきたんだけど……」
「何から何まで……すみません、助かりました」
今日はわざわざこれを届けるために来てくれたらしい。二日酔いのせいで頭痛が酷かったので、かなりありがたい。
「でも、水がないから……晴太郎、下の自販機で水買ってきてくれる?」
「うん、わかった!」
「坊ちゃん、いいですよ。そのくらい私が自分で……」
「七海、まだ本調子じゃないだろ? 俺が行って来るから、待ってろ!」
いくら主人の兄が言った事でも、さすがに主人にお使いをさせることなんて出来ない。七海はあわてて彼を止めたが、晴太郎は部屋を出て行ってしまう。
風太郎と部屋に二人残された七海。ぱたぱたと晴太郎の足音が完全に聞こえなくなると、風太郎が声を掛けてきた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる