私の主人はワガママな神様

どろろ

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13.晴太郎の音(3)

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 春の演奏会は都内の大きな会場で行う。中条ホールディングスに関係のない一般の人でも入場可能なため、多くの観客が集まる。出演者は名だたる演奏家や音楽隊、有名な学校の吹奏楽部など幅広く音楽に関係のある人たち。晴太郎の出番は、午後の部の1番最初。休憩あけの一発目だ。出番に合わせて、午前の部が終わる頃に会場入りする。
 ここに来るのは何年振りだろうか。数年前までは毎年来て、毎年ステージの上に立っていたのに。久しぶりにステージに登るんだと実感して、少し緊張してきた。——大丈夫、ちゃんと練習したから、ちゃんと演奏できるはず。心配はいらない。

「坊ちゃん、どうかしましたか?」
「えっ……いや、何でもない」

 会場の空気に圧倒され、いつの間にか立ち止まってしまっていた。異変に気付いた七海が声を掛けてくれたが、こんな事で心配はかけられない。ここまで来て怖気付いたなんて格好が悪すぎる。
 
「控室を用意してくれているみたいです」

 こちらにあります、と七海に案内されて"関係者以外立ち入り禁止"の札が立った向こう側へ行く。ある一室のドアに"中条晴太郎様"と書いた紙が貼られていた。
 控室は4畳程度の広さの部屋で、テーブルと椅子がいくつか置いてあるだけの簡素な部屋だった。

「まだ出番まで時間がありますので、ごゆっくりなさって下さい。何かお飲み物でも買ってきますか?」
「あ、ああ……冷たいお茶を頼む」
「かしこまりました。待っていてくださいね」

 そう言うと七海は控室を出て行ってしまう。バタン、とドアが閉まる無機質な音だけが部屋の中に響く。
 ひとりになった部屋の中で、椅子に座って深く深呼吸をした。吸って、吐いて。また吸って。落ち着かない。静かな部屋の中で、ドクンドクンと自分の心臓の音だけがやけに大きく聞こえる。鎮まれ、鎮まれとぎゅっと自分の左胸を抑えたが、そんな事をしても変わらない。
 ひとりだから変に緊張してしまうのだ。七海が戻って来てくれたら気が紛れる。早く、早く戻って来て欲しい。一体どこまでお使いに行ってしまったのだろうか。
 まだかまだかと七海の帰りを待ち侘びていると、コンコン、と控えめなノックの音が聞こえた。
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