私の主人はワガママな神様

どろろ

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14.本心(6)

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 食事の途中、ふと香菜子と洋太郎のグラスが空になっていることに気付いた。テーブルの上にある瓶ビールも全て飲み切ってしまったようだ。

「香菜子様、洋太郎様。お飲み物、持ってきましょうか?」
「ああ、悪いな。ビールは飽きたし……白ワインを頼むよ」
「私も洋太郎と同じやつで!」
「かしこまりました。晴太郎様はどうしますか?」
「俺も七海と一緒に行く!」

 どうやら七海の傍を離れるつもりはないようだ。すぐ戻ってくるのに、と思ったが、晴太郎がそうしたいなら七海は止めない。
 ドリンクカウンターに行くと、七海の上司である総務部の村上部長がいた。隣に若い女性を連れている。

「お疲れ様です、村上部長」
「おお、七海……と、これは、晴太郎坊ちゃん。お疲れ様です」

 村上部長は人当たりの良い初老の男性だ。晴太郎の姿を見つけるなり、深々とお辞儀をする。

「そちらの方は?」

 部長の隣にいる若い女性は、見覚えがなかった。はじめは総務部の新人かと思ったが、見覚えの無い顔だった。

「ああ、紹介が遅れてしまってすまない。私の娘です」
「初めまして。いつも父がお世話になっています」

 通りで見た事がないわけだ。初めまして、と七海もぺこりと頭を下げる。

「私の方こそ、いつもお父様にお世話になっております」
「いいえ、そんな……七海さん、とても、素敵な方ですね」
「はい?」
「会場に来た時から、素敵だなと思って見ていました」

 遅れてきたせいで目立ってしまったのだろうか。まさか、会社の人間以外に覚えられているなんて。隣にいる晴太郎が、驚いた様な表情で彼女と七海を交互に見ていた。

「七海さん、その……おいくつですか?」
「今年29歳になりました」
「あの、恋人はいらっしゃいますか?」
「えっ、恋人ですか? いませんが……」

 どうしてそんな事を聞くのだろうと、七海は首を傾げた。彼女の隣で部長も驚いた顔で何も言わないし、晴太郎もぎゅっと唇を結んで何も話さない。彼女は恋人が居ないと聞いて、嬉しそうに顔を輝かせた。

「でしたら、今度私と一緒に食事……」
「七海!」

 ぴしゃり、と場の空気が強張るような強い口調で晴太郎が読んだ。七海は驚いて肩を揺らす。彼女も驚いてしまったのか、途中で言葉を止めてしまった。
 
「……ごめん。俺、あっち行ってる」

 そう言った晴太郎は、酷く傷付いた顔をしていた。ズキリ、と胸が痛んだ。そんな顔した主人を、放っておけるわけがない。

「晴太郎様! すみません、部長、失礼します」

 ひとりで会場の外へと早歩きで出て行ってしまった晴太郎を、七海は慌てて追いかける。
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