91 / 146
17.彼の場所へ(1)
しおりを挟む
『レディス、アーンド、ジェントルマン! 夢の国へ、ようこそ~!』
ゲートを潜ると、華々しいアナウンスと愉快な音楽。道を歩けば、海外にあるような建物がたくさん見えて来る。小さなステージで音楽を奏でている人たちがいる。笑顔の着ぐるみがこちらに向かって手を振っている。
晴太郎にとって、ここで目に入る全てのものが新鮮だった。
「わあ……すごい、すごいぞ!」
キラキラと目を輝かせながら、晴太郎は言った。
今日は楽しくて仕方がない。だって、念願叶って夢の国に来ることが出来たのだから。
「坊ちゃん、お待ちください!」
人の多さも全く気にせずどんどん進んでいく晴太郎の後を、パーク内の地図を持った七海が慌てて付いてきた。
「七海、早く早く! アトラクションがいっぱいあるんだよな?」
「何に乗りますか?」
「うーん、そうだな……あっ、アレがいい!」
きょろきょろと周りを見回して目に入ったのは、山の上をトロッコを模した乗り物で走るジェットコースターのようなアトラクション。山が噴火するという派手な演出とともに、きゃああ、と乗っている人たちの悲鳴が聞こえる。すごく楽しそうだ。
「あ、アレですか……?」
期待とわくわくでいっぱいだったこの時の晴太郎は、七海の若干引き攣った顔に気付くことが出来なかった。
七海に異変が現れたのは、ジェットコースターを降りた直後のこと。
「坊ちゃん、すみません……少し、休憩しませんか?」
「……えっ、もう休憩?」
晴太郎は不満気な声を上げた。まだひとつアトラクションに乗ったばかりだ。早すぎるだろうと抗議しようと七海を見上げ、やっとこの時異変に気付いた。
「えっ、大丈夫か? お前、顔真っ青だぞ?」
青白い顔をして、暑くもないのにじわりと額に汗がにじんでいる。
このような七海は見たことがない。只事ではないと思い、晴太郎は七海の手を引いて、近くにあったベンチに座らせた。その時掴んだ手は、驚くほど冷たくなっていた。
「具合悪かったのか? 迎え呼ぶか?」
「いいえ、大丈夫です……少し休むと、すぐに良くなりますから」
「本当か? 顔色すごく悪いぞ?」
本人は大丈夫だと言っているが、七海の大丈夫はあまり信用ならない。晴太郎のことを優先して、いつもすぐに無理をしてしまうからだ。
せっかく来たのに残念だが、やっぱり帰ったほうがいい。具合の悪い七海を放って置くことなんて出来ない。迎えを頼もうと家に電話しようとした晴太郎を、七海があわてて制止した。
「大丈夫です! いつも、こうですから……」
「……いつも?」
何のことだと問うと、七海はバツが悪そうな顔をして晴太郎から目を逸らした。
ゲートを潜ると、華々しいアナウンスと愉快な音楽。道を歩けば、海外にあるような建物がたくさん見えて来る。小さなステージで音楽を奏でている人たちがいる。笑顔の着ぐるみがこちらに向かって手を振っている。
晴太郎にとって、ここで目に入る全てのものが新鮮だった。
「わあ……すごい、すごいぞ!」
キラキラと目を輝かせながら、晴太郎は言った。
今日は楽しくて仕方がない。だって、念願叶って夢の国に来ることが出来たのだから。
「坊ちゃん、お待ちください!」
人の多さも全く気にせずどんどん進んでいく晴太郎の後を、パーク内の地図を持った七海が慌てて付いてきた。
「七海、早く早く! アトラクションがいっぱいあるんだよな?」
「何に乗りますか?」
「うーん、そうだな……あっ、アレがいい!」
きょろきょろと周りを見回して目に入ったのは、山の上をトロッコを模した乗り物で走るジェットコースターのようなアトラクション。山が噴火するという派手な演出とともに、きゃああ、と乗っている人たちの悲鳴が聞こえる。すごく楽しそうだ。
「あ、アレですか……?」
期待とわくわくでいっぱいだったこの時の晴太郎は、七海の若干引き攣った顔に気付くことが出来なかった。
七海に異変が現れたのは、ジェットコースターを降りた直後のこと。
「坊ちゃん、すみません……少し、休憩しませんか?」
「……えっ、もう休憩?」
晴太郎は不満気な声を上げた。まだひとつアトラクションに乗ったばかりだ。早すぎるだろうと抗議しようと七海を見上げ、やっとこの時異変に気付いた。
「えっ、大丈夫か? お前、顔真っ青だぞ?」
青白い顔をして、暑くもないのにじわりと額に汗がにじんでいる。
このような七海は見たことがない。只事ではないと思い、晴太郎は七海の手を引いて、近くにあったベンチに座らせた。その時掴んだ手は、驚くほど冷たくなっていた。
「具合悪かったのか? 迎え呼ぶか?」
「いいえ、大丈夫です……少し休むと、すぐに良くなりますから」
「本当か? 顔色すごく悪いぞ?」
本人は大丈夫だと言っているが、七海の大丈夫はあまり信用ならない。晴太郎のことを優先して、いつもすぐに無理をしてしまうからだ。
せっかく来たのに残念だが、やっぱり帰ったほうがいい。具合の悪い七海を放って置くことなんて出来ない。迎えを頼もうと家に電話しようとした晴太郎を、七海があわてて制止した。
「大丈夫です! いつも、こうですから……」
「……いつも?」
何のことだと問うと、七海はバツが悪そうな顔をして晴太郎から目を逸らした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる