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22.七海の決断(1)
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目を覚ますと、真っ暗だった。
カーテンの隙間から見える窓の外は、まだ闇に包まれている。隣にはすやすやと寝息を立てる愛しい人。まだ彼が隣にいることに安心し、小さく息を吐いた。
ベッドヘッドに置いてあるスマートフォンを手探りで見つけ、人工的な光の眩しさに目を細めながら時間を確認する。まだ朝の5時を過ぎたばかりだ。真冬の日の出は遅いので、真っ暗なのも納得がいく。
起きるつもりはなかったが、なんとなく目が冴えてしまった。隣で眠る晴太郎を起こさないよう、静かにベッドを抜ける。部屋の電気は付けず、スマートフォンの明かりを頼りに部屋を出て、廊下のキッチンの換気扇の下に立つ。目当ての小さな箱は、隅っこにひっそりと置かれていた。
その箱から煙草を一本取り出し口に咥える。同じく箱から取り出したライターで火を付けた。ジュボ、と音がして紙と草の焼ける独特な香りが漂う。煙を身体中に巡らすように、深く息を吸うと頭がくらっとした。
空っぽの灰皿を見て、ここ数日1本も煙草を吸っていなかったことを思い出した。確か、最後に口にしたのは会社の喫煙所。晴太郎と会ってから心も身体満たされていて、煙草のことなんてすっかり頭から抜け落ちていた。
換気扇に吸い込まれていく煙を眺めながら、考える。頭に浮かんでくるのは、晴太郎とのこれからのこと。どうしたら一緒に居られるのか、どうしたらこの関係を続けられるのか。ふと、昼に紗香に言われたことを思い出す。
——会社、辞めていいのよ。
彼女の目を見れば、これが冗談ではないということがすぐにわかった。
本当にいいのだろうか。何度も何度も考えたが、結局答えは出ない。
ぼうっと考えに耽っていると、トン、と背中に軽い衝撃を感じ現実に引き戻される。
「……起きたらいないから、びっくりしたぞ」
「ああ、すみません……起こしてしまいましたね」
軽い衝撃の状態は晴太郎だった。キッチンに向かって立つ七海に、そっと背後から抱きついて来たのだ。腹に回した腕にぎゅっと力を入れて、背中にぐりぐりと額を押し付ける。ずいぶん可愛らしい甘え方だと、思わず笑みが溢れた。
晴太郎が近くにいるなら煙草は駄目だ。匂いが付くし、副流煙は体に悪い。今はそうではないが、一緒に暮らしていた頃は喫煙者であることを何となく隠していたので、見られたくない。火を消そうと灰皿に手を伸ばすと、待て、と晴太郎が声を上げた。
「そのままでいい。消さなくて、いいから」
「えっ? でも、匂いがついてしまいますよ?」
「いい。これも……七海の匂い、だ」
——ずっと昔から変わらない、七海の匂い。
そう言って背中に鼻を埋める晴太郎。隠していたつもりになっていたが、彼はずっと前から知っていたようだった。
カーテンの隙間から見える窓の外は、まだ闇に包まれている。隣にはすやすやと寝息を立てる愛しい人。まだ彼が隣にいることに安心し、小さく息を吐いた。
ベッドヘッドに置いてあるスマートフォンを手探りで見つけ、人工的な光の眩しさに目を細めながら時間を確認する。まだ朝の5時を過ぎたばかりだ。真冬の日の出は遅いので、真っ暗なのも納得がいく。
起きるつもりはなかったが、なんとなく目が冴えてしまった。隣で眠る晴太郎を起こさないよう、静かにベッドを抜ける。部屋の電気は付けず、スマートフォンの明かりを頼りに部屋を出て、廊下のキッチンの換気扇の下に立つ。目当ての小さな箱は、隅っこにひっそりと置かれていた。
その箱から煙草を一本取り出し口に咥える。同じく箱から取り出したライターで火を付けた。ジュボ、と音がして紙と草の焼ける独特な香りが漂う。煙を身体中に巡らすように、深く息を吸うと頭がくらっとした。
空っぽの灰皿を見て、ここ数日1本も煙草を吸っていなかったことを思い出した。確か、最後に口にしたのは会社の喫煙所。晴太郎と会ってから心も身体満たされていて、煙草のことなんてすっかり頭から抜け落ちていた。
換気扇に吸い込まれていく煙を眺めながら、考える。頭に浮かんでくるのは、晴太郎とのこれからのこと。どうしたら一緒に居られるのか、どうしたらこの関係を続けられるのか。ふと、昼に紗香に言われたことを思い出す。
——会社、辞めていいのよ。
彼女の目を見れば、これが冗談ではないということがすぐにわかった。
本当にいいのだろうか。何度も何度も考えたが、結局答えは出ない。
ぼうっと考えに耽っていると、トン、と背中に軽い衝撃を感じ現実に引き戻される。
「……起きたらいないから、びっくりしたぞ」
「ああ、すみません……起こしてしまいましたね」
軽い衝撃の状態は晴太郎だった。キッチンに向かって立つ七海に、そっと背後から抱きついて来たのだ。腹に回した腕にぎゅっと力を入れて、背中にぐりぐりと額を押し付ける。ずいぶん可愛らしい甘え方だと、思わず笑みが溢れた。
晴太郎が近くにいるなら煙草は駄目だ。匂いが付くし、副流煙は体に悪い。今はそうではないが、一緒に暮らしていた頃は喫煙者であることを何となく隠していたので、見られたくない。火を消そうと灰皿に手を伸ばすと、待て、と晴太郎が声を上げた。
「そのままでいい。消さなくて、いいから」
「えっ? でも、匂いがついてしまいますよ?」
「いい。これも……七海の匂い、だ」
——ずっと昔から変わらない、七海の匂い。
そう言って背中に鼻を埋める晴太郎。隠していたつもりになっていたが、彼はずっと前から知っていたようだった。
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