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23.私の主人はワガママな神様(4)
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「あ、七海さん。もうすぐ着きますよ」
「はい……すごい、人多いですね」
「そりゃまあ、人気者のコンサートですからねえ」
目的地の会場に着くと、そこはとても賑わっていた。駅から歩いてきたであろう人の列、そしてぱっと見ると満車に見える駐車場。
「駐車場、空いてますか?」
「ああ、大丈夫っす。俺ら関係者なんで」
そう言って山田は正面の入り口をスルーして、関係者専用の入り口へ車を走らせた。
通り過ぎた入り口には、遠にいてもしっかり見える立派な看板が立っていた。
『中条晴太郎 ピアノ ソロコンサート』
今日は、晴太郎のコンサートの日だ。
晴太郎は、大学を卒業し留学を経て、世界に名を轟かせる有名なピアニストになった。
『天才ピアニスト中条香織の息子』ではなく、『中条晴太郎』として、多くの人に認められるようになったのだ。
ピアノの腕前はもちろん、各方面へ楽曲提供もしていて、この業界で中条晴太郎の名を知らない者はいないと言われている。
今日はそんな晴太郎の、連日行われていたコンサートの最後の日。それに、七海は招待されていたのだ。
コンサートの告知があった直後、一般のチケットはすぐに完売。何万人も入るような大きな会場で行われるコンサートなのに。こんなにも多くの人が晴太郎の演奏を求めて来るのだと思うと、七海はじんと胸が熱くなった。
——俺、ピアノ頑張ってみる。
晴太郎が七海にそう言ってから、何年が経っただろうか。あの日から、晴太郎が血の滲むような努力をしてきたことを、七海はよく知っている。その晴太郎がこんなにも多くの人に認められた。何も感じずにはいられない。
「席、ここです」
山田に案内されたのは、1階席と2階席の間に作られた限られた人しか入れない場所。いわゆる、関係者席だ。多分、有名人がお忍びで見に来るような席なのだろう。数席ごとに仕切られていて、半個室状態。隣のボックスとはパーテーションで仕切られていて見えないようになっている。しっかりとプライベートが保証されているようだ。
あまりの特別対応に、七海は驚いた。
「や、山田くん……私は一般人ですし、こんな席でなくても……」
「えー、ここにしろって坊ちゃんに言われたんですけど」
「だって、こんな立派な……」
「いいんですって。それに、七海さんここに来るの坊ちゃんと俺以外知りませんし、社長に見つかったら面倒じゃないですか!」
「う……っ、それは、そうですね……」
社長の名を出されて、七海は何も言えなくなってしまう。
山田の言う『社長』は、源太郎のことではない。彼は数年前にい社長の座を退き、会長になった。
中条ホールディングスの現社長は、長男の幸太郎だ。
「観念して、大人しくここに座ってくださーい」
「はい……」
「とは言っても、まだ少し時間あるんで、今のうちに一服とかしてきていいですよ。俺、ここで待ってますんで」
腕時計に目を落とすと、山田の言う通りまだいくらか時間がある。ここに座っていてもソワソワして落ち着かないので、彼の言葉に甘えて一服させてもらうことにする。
「幸太郎様に見つからないように、気をつけてくださいね~」
そんな軽口で見送られながら、喫煙所に向かう。
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