私の主人はワガママな神様

どろろ

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23.私の主人はワガママな神様(11)

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「迎えの時間決まったら、連絡してください。あと……なんか足りないものとかあったら、届けに来ますんで」
「ああ、わかった」
「じゃ、おふたりとも、ごゆっくり~」

 七海と晴太郎を車から下ろすと、山田は去って行った。

 連れてこられたのは、都内有数の超高級ホテル。思わず入り口で立ち止まってしまうほどの。
 本当にここに入るのか、と助けを求めるように晴太郎の方を見ると、きょとんとした顔をした彼と目が合った。

「ん? どうした? 早く行くぞ」

 セレブな家で育った正真正銘のセレブな彼に、七海の気持ちは届かなかったらしい。さっさと建物の中に入って行く背中を、七海も慌てて追いかけた。こんなところにひとり置いていかれるのは、場違いすぎて心細い。
 慣れた様子でチェックインを済ませた晴太郎に連れて行かれたのは、高級ホテルの中でもさらに高級なスウィートルーム。
 立派な扉を開けて部屋へ一歩入ったところで、七海はまた固まってしまう。

 部屋は広いリビングと寝室に別れており、リビングには大きなアイランドキッチンが設置されている。大きなベッドが二つ置いてある寝室は、その一部屋だけで七海が暮らすマンションの部屋より広い。部屋の奥は一面ガラス張りで都内の夜景が一望できる。部屋の電気を付けなくても、窓の外のビルの光に照らされていて真っ暗ではない。
 ——なんて、なんて贅沢な空間なのだろうか。

 戸惑っている七海に気を止めず、晴太郎はすたすたと部屋の中へ入って行く。歩きながら被っていた帽子と着ていたパーカーを脱いで、床に放った。
 急な雑な動作に、少し違和感を感じながらも、床に投げられたパーカーを拾おうとした。が、それは晴太郎によって阻止された。

「後でいいから、来い」

 晴太郎が向かったのは、大きなベッドが並ぶ寝室。彼はそのうちの一つに腰掛け、立ったままの七海を見上げた。

「……七海、こっちに来い」

 名前を呼ばれて気付いた。晴太郎の声に、余裕がないことに。

 七海を見つめる視線は熱く、早く触れたい、触れて欲しいという彼の気持ちがひしひしと伝わって来る。
 ベッドに座る彼の正面にに立つと、ぐい、と力強くネクタイを引かれた。七海の身体が前に傾いた隙に、キスをされる。
 晴太郎のキスはいつも性急だ。ガチリ、と歯と歯が当たる音がした。開いた唇の隙間から舌を捩じ込まれ、七海もそれに応えるように舌を絡めてやると、彼から甘い吐息が漏れた。

「っ、ふ、ぅ……」
「……ん、っ」

 ネクタイを引く彼の手から、ふと力が抜けた。ちゅ、と軽く舌に吸い付いてから解放してやると、先程よりさらに熱に濡れた目と視線が絡む。

「……っ、ずいぶん、性急ですね」
「は……、いいだろ? おまえと、ずっとこうしたくて、我慢してたんだから」
「ふ、今日は素直じゃないですか」
「はは……っ、好きなくせに」
「ええ、最高です」

 お互いの吐息を感じるほど顔を近付けて、戯れるようなキスをしながら笑い合う。
 触れたくて我慢していたのは晴太郎だけではない。七海だって、会いたくて触れたくて我慢していた。今日は互いに、我慢できそうにない。

「なあ、来いよ。七海」

 抱き付くように頸に手をまわされ、ぴったりと身体同士がくっついた。トクトク、と心地よいリズムを刻む晴太郎の鼓動を感じながら、七海はゆっくりと彼をベッドに押し倒した。

 昔は少し触れただけで顔を真っ赤にしていた晴太郎も、大人になってからはすっかり慣れてしまい、今では七海を煽ってくるような技まで身につけてしまった。
 昔の初心で可愛い晴太郎も、大人になった今の晴太郎も、七海にとって大切で大好きな人に変わりはない。

 着ていたジャケットを脱いで、パサリ、と床に放った。

 スイートルームを堪能するのは、明日でいい。
 ——今は、目の前の彼を愛することしか、考えられない。
 
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