桃宇統也は、そこに居る。

ツカサ

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白衣を着た男 2

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「ねぇ、統也さんはさ、何タイプの幽霊なの?」

私は、今日も統也さんの所に来ていた。
そして、来て早々、そんなことを私が聞くもんだから、統也さんは面食らっていた。

「タイプ、って?」

「昨日、調べたんだ。浮遊霊とか、地縛霊ってのがいるんでしょ?統也さんは何かなって。
ずっとここに居るし、地縛霊?」

「えー?さぁ。考えたことも無い。というか、幽霊だって居たい所に居るし、居たくなくなったらどっか行くよ。身体が無いだけで、元々人間なんだし。」

確かにそうだ、と思った。肉体は無くとも、元々人間なのだ。自由にする。

「じゃあ、どこかに行ったりするの?」

「そういえば・・・無いね。行こうとも思わなかった。」

「じゃあ、やっぱり地縛霊なんじゃ?」

「そうなのかなぁ。今度、出てみようか。」

「大丈夫?」

「分からない。けど、暇だし。もう死んでるから、なんとでもなるよ。ところで、今日はどうしたの?また落とし物?」

「あ、違う違う。そうじゃなくてね、」

 話し込んでしまったが、今日ここに来た理由を思い出した。あれから弟のスマホがどうなったのか、統也さんに伝えようと思ったのだ。
ただ、それだけで私が大変な思いをしてまたここに来るわけではない。なんとなく、また統也さんと話したいと思ったのだ。幽霊に惹かれるなんて、危険だろうか。
 私の目の前に立っている統也さんの顔を見る。

「?どうしたの。」

相変わらずの薄ら笑顔。少しだけ、自分の頬が熱くなったことに驚き、急いで視線を逸らした。

「や、えっ、と。あれから、スマホがどうなったのか伝えようと思って。」

「そっか、実は少し気になってたんだよね。どうだった?」

私は、スマホを持って帰ってからのことを話した。
 弟にスマホを返す時、電源がつかないことを伝えると、弟は焦った様子だった。充電を100%まで充電して行ったので、数時間で0になる可能性は低いという。
・・・・弟のスマホは、炎天下によって、壊れてしまっていたのだった・・・。
そこからが大変だった。弟は母にこっぴどく叱られ、しばらく買い替えは無しだという。
それで今、弟は荒れに荒れまくり、学校から帰ると、ふて寝しに部屋にこもっている。

「弟さんのスマホだったのか。ごめん、俺が簡単に物を持てるタイプの幽霊だったら、日陰に避難させたのに。」

統也さんから薄ら笑顔が消えて、申し訳なさそうだった。

「気にしないでください。忘れてった弟が悪いんです。というか、やっぱり幽霊って、物持てないんですね。」 

「あぁ、うん。基本、持てないよ。持てないし、触れないよ。」

統也さんは「あ、でも」と、続けた。

「稀に触った物に影響が出ることもあるみたい。」

 統也さん曰く、物を触ろうとすると手がすり抜けていくのだが、何の原理かは知らないが、稀に触った物が動いたり、持てたりすることがあるらしい。そして、統也さんはこんなことを話してくれた。
 ある日の深夜、酔っ払った中年男性がここまで迷い込んできて、その辺で寝転んでぐーすか眠ってしまったらしい。自分自身は幽霊で、介抱することもできず、ただただ男性を見守るしかなかった。
 ふと、風で揺れる男性の髪が気になった。見てみると、転んだのかなんなのか、前髪あたりに草が付着していた。自分が触っても何も影響が無いことは承知していたが、なんとなく手で草を払ってみた。すると、勢いよく髪の塊が飛んでいってしまったらしい。
 そう、その中年男性はカツラだったのである。今まで物を触っても何も影響が無かったのにカツラを飛ばせてしまった事にかなり焦ったという。カツラをあるべき場所へ戻すため、拾い上げようとしたが、掴もうとしてもすり抜けていくだけ。廃墟のある場所には、空の月と陸の月が、朝まで光り輝いていたという・・・。

「だからね、触る物はちゃんと選ぼうって心に決めたんだ。弟くんのスマホも、一応試しはしたんだけど、ダメだったよ。ほんとにごめんね。」

「はぁ・・・。」

話はおっさんのヅラを取ってしまったという、ロマンスのカケラも無いものだが、統也さんは楽しそうに話していた。生前、誰かと話をする事が好きな人だったのかもしれないな、と思った。
 
「どうしたの?俺の顔、ジロジロ見て。華実さんにはよく顔見られてる気がするよ。」

私はいつの間にか、統也さんの顔を凝視していたらしい。顔が熱い。

「そんなことよりさ、この前、カブトムシ取りに来た、って男の子が来てね・・・・・」

統也さんは、再び嬉々として別の話を始める。
 記憶の無い、白衣を着た幽霊。いつか、彼の事を本当の意味で知る事ができるようになるだろうか。ここまで来るのは大変だけれど、彼と話ができるなら、悪くない。
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