訳もわからず異世界に来た俺はなんとかして平和を取り戻さないといけない……らしい

れーと

文字の大きさ
2 / 4
第一章

2.ヴァンヘル

しおりを挟む




「スバル殿、昨日はゆっくりできたかな。」

「はい。お部屋は美しく、食事は見た目はもちろん、味も大変素晴らしかったです。」

「うんうん、それはよかった。」


突然の異世界訪問という、日本中の2次元ラヴァーの願望を叶えてしまった翌日。

昨日の夕食に引き続き今日の朝食も部屋で頂いたあと、王様に呼ばれて再び王の間だ。ただ前回のような突然の参上ではなかったので、なんだかギャラリーが多い。


(見世物みたいで気持ち悪いな)


黒目黒髪が珍しいかはともかく、異世界から来たってなったらそりゃ物珍しいだろうけど。



「それで、スバル殿。
昨日言ったとおり、そなたにはこの世界の平和を取り戻してほしいのだ。それに伴い、我らで話し合った結果、まず本日より10日間この世界の歴史や現状について学んでほしいと思う。
異論はないな」

「はっ。」

「講師としてスィーチをスバル殿につける。

奴は東の塔の管理をしている者だ。歳をとってはいるが、この世界や大陸については本国の中では奴が一番よく知っている。精々励むが良い。

今日は1度ウタレア研究所に行き、その後東の塔へ行くように。」

「畏まりました。」

「案内も含め、今日はヒルファーに護衛をさせる。ヒルファー。」

「はっ。ここに」

「此奴は本国の第一騎士団団長のヒルファー・ゲシュダウだ。
安心して身を任せるとよい。本国でも指折りの剣士だ。」


それでは、と王様が席を外すと、ギャラリーもザワザワと去っていった。
ちらちらこちらを盗み見るような視線を感じるが、そんなのは気にしない。

気にし………ない!


けっけっと内心悪態をつきまくると、目の前にヒルファーと呼ばれた男が立っていた。


「改めまして、ヒルファー・ゲシュダウと申します。
スバル様のことは命に変えてでも、お守りいたします。」


黒い髪にグレーの瞳のハンサムが……目の前にっ…!後ろの方に髪を一つに縛って優雅に微笑む様は、それこそ本物の王子みたい。てか、ディ◯ニーに出てたって!絶対!

げふんげふん。いけね、1000年に1人のイケメンを目の前に興奮してた。落ち着け、俺。


「ヒルファー殿、こちらこそ本日はよろしくお願いします。」


本当は命に変えて守ってもらわなくていいんだけど、それを言うとヒルファーさんに申し訳ないから、黙っておく。


「ヒルファーで構いませんよ。では、参りましょう」


てか、今日一日こんなイケメンの隣歩くわけ?





はは、死のう。









△▲▽▼△▲






気のせいだろうか。目の前にある建物は、薄汚い建物でもコンクリートでできた無機質的なものでもなく、なんとも可愛らしい建物なのだが……。

「ここは…」

「こちらがウタレア研究所になります。」

「こちらが……。ここは魔法に関する研究をされているのですよね?」

「はい。先程も申し上げたように、ここでは魔力を用いるものすべてを研究対象としています。それは魔道具や魔法陣、魔力を持つ人や魔物など、多岐にわたるのです。
詳しくは、所内の者に聞いてみると良いですよ。では、中へ入りましょう。」


わかりやすく説明しつつ、すっとスマートにエスコートをするヒルファーさん。
すごい!すごすぎるわ!!
でもいくら国賓とはいえ男なんで、そんなにレディーファーストな扱いもやめてほしい。


「お待ちしておりました、スバル様、ヒルファー殿。」


ウサギのぬいぐるみのファミリーにあったような、可愛らしい建物の中は、これまたtheファンタジーといった感じだった。

吹き抜けになっている部屋の中央には螺旋階段があり、そこを白衣を着た人たちが行ったり来たりしている。壁一面には本棚が広がり、様々な色の背表紙の本がびっちり並んでる。てか、たまに本が浮いてどこかに消えるんだけど……なんで?もしや……魔法?!
2階では実験をしているのか、バチバチと何かが光っているように見える。


(ここ2日で一番の異世界っぷり!)


「スバル様?」

「はっ!申し訳ありません。私のいた世界ではこの様に本が浮くことなんてなかったもので、つい珍しくて。」

「そうでしたか。これから、魔力測定と身体検査を行いますので、こちらへ。」

「それでは参りましょう、スバル様」

「はい」










△▲▽▼△▲










「ないですね、魔力


健康状態も良好なので、間違いないでしょう。」







「…………………そうです、か。」



あのあと、試着室みたいな個室につれてかれたと思ったら身包みがされて強制的に色々調べ上げられたあと、ヘトヘトの状態で謎の水晶を触ったら、魔力が無い…………だと…?


「先程のお話ですと、スバル様のいらっしゃられた世界では魔力を使うことはないのですよね?」

「使うことがない、というより魔力というがありません。」

「そうなのですね。となると、そもそもスバル様やスバル様のいた世界では魔力がない、ということですね。」

「はい。」

「ならはじめから魔力がなかった可能性が高いですね。」


ううっ、チートスローライフはいづこ………。
魔法が使えないとなると本格的に一人での生活はきつそうだぞ……。



研究所の人は、俺の悲しみの理由が別のものだと思ったんだろう。

「ご安心ください、スバル様。たとえスバル様に魔力がなくとも、私達はスバル様を精一杯サポートさせていただにます。
ですからお気を落とさず。
この世界の平和をどうか取り戻してください…。」


キラキラとした瞳で腕を組みそう言ってきた。
いや、気持ちはありがたいんだよ。でもね、でもね、
そうじゃないんだよっ!

「あ、ありがとうございます。」


それでも感謝の言葉を忘れない……。俺ってば偉いっ!!









▽▼△▲▽▼








「ここの大陸の人は皆魔力を持っているのですか?」

「いや、そのようなことはありませんよ。

全く魔力を持たずに生まれる者もいれば、私のように持っているけれど微量の者、魔力量に富んだ者、様々います。とはいえ、この国の者は魔力を有する人がほほとんどでしょう。

この国は魔力の研究が盛んなためか、魔力がなければ使えない“魔道具”が多用されます。そのため魔力のない人たちは生活しづらく、隣国に行くことが多いのですよ。」



研究所から塔までの道中。ヒルファーさんに質問をしてみると、これまた分かりやすい回答が返ってきた。絶対この人頭いいだろ。

「そうなのですね」

「ご安心なさってください。かの女神は異界の者を待てと申したのです。魔力ではない私達とは異なる何かをスバル様は有しているのでしょう。不安になることはないと思いますよ。」

「ふふ、ヒルファー殿はお優しいのですね。」

「そのようなことは。思ったことを申し上げたまでです。それに、ヒルファーで構いませんよ?」



(え、これどう返すのが正解なの?呼び捨ておk?ジーマで?バイヤーじゃない?
てか腰に!腰に手が回られておりまする!!ぎゃぁぁああ)


優雅に微笑みながら、もしかしなくとも抱きしめられてしまってる俺は、一体どうすればよいのでしょうか?!しかも相手は国宝級イケメンやぞ!い、い、い、いくら男の子でも……こ、こ、こんなに近いと…………

た、たすけてぇ…







「これヒルファー。我の新しい弟子を口説くでない。」

「なっ、スィーチ様、けしてそのようなことは…」

「では何か、兄弟子として?
弟弟子を抱き寄せ?
密着し?
名を呼ばせようとするのは?
何故じゃ?
んんん?
師匠の目を見て申してみよ」

「うっ………」



抱きしめる力が弱まった………?
た、助かった?

ヒルファーさんの腕の力が弱まったタイミングで華麗に距離を取る。
そしてちらりと盗み見ることを忘れない。しかもジト目で。
いかにも、もう私はあなたのことを信頼しませんよ、って感じで!!

「うっ……スバル様、先程のは……!」

「やあやあ、そなたがスバルか」

弁明しようとするヒルファーさんの言葉を遮って、目の前に現れたのは、



ボン・キュッ・ボンの美魔女だった。






「はじめまして、異界から来た救世主よ


我が東の塔の管理者、スィーチ・ダーウェンだ。


キミのお師匠様さ。」


















しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 毎日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...