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第一章
2.ヴァンヘル
しおりを挟む「スバル殿、昨日はゆっくりできたかな。」
「はい。お部屋は美しく、食事は見た目はもちろん、味も大変素晴らしかったです。」
「うんうん、それはよかった。」
突然の異世界訪問という、日本中の2次元ラヴァーの願望を叶えてしまった翌日。
昨日の夕食に引き続き今日の朝食も部屋で頂いたあと、王様に呼ばれて再び王の間だ。ただ前回のような突然の参上ではなかったので、なんだかギャラリーが多い。
(見世物みたいで気持ち悪いな)
黒目黒髪が珍しいかはともかく、異世界から来たってなったらそりゃ物珍しいだろうけど。
「それで、スバル殿。
昨日言ったとおり、そなたにはこの世界の平和を取り戻してほしいのだ。それに伴い、我らで話し合った結果、まず本日より10日間この世界の歴史や現状について学んでほしいと思う。
異論はないな」
「はっ。」
「講師としてスィーチをスバル殿につける。
奴は東の塔の管理をしている者だ。歳をとってはいるが、この世界や大陸については本国の中では奴が一番よく知っている。精々励むが良い。
今日は1度ウタレア研究所に行き、その後東の塔へ行くように。」
「畏まりました。」
「案内も含め、今日はヒルファーに護衛をさせる。ヒルファー。」
「はっ。ここに」
「此奴は本国の第一騎士団団長のヒルファー・ゲシュダウだ。
安心して身を任せるとよい。本国でも指折りの剣士だ。」
それでは、と王様が席を外すと、ギャラリーもザワザワと去っていった。
ちらちらこちらを盗み見るような視線を感じるが、そんなのは気にしない。
気にし………ない!
けっけっと内心悪態をつきまくると、目の前にヒルファーと呼ばれた男が立っていた。
「改めまして、ヒルファー・ゲシュダウと申します。
スバル様のことは命に変えてでも、お守りいたします。」
黒い髪にグレーの瞳のハンサムが……目の前にっ…!後ろの方に髪を一つに縛って優雅に微笑む様は、それこそ本物の王子みたい。てか、ディ◯ニーに出てたって!絶対!
げふんげふん。いけね、1000年に1人のイケメンを目の前に興奮してた。落ち着け、俺。
「ヒルファー殿、こちらこそ本日はよろしくお願いします。」
本当は命に変えて守ってもらわなくていいんだけど、それを言うとヒルファーさんに申し訳ないから、黙っておく。
「ヒルファーで構いませんよ。では、参りましょう」
てか、今日一日こんなイケメンの隣歩くわけ?
はは、死のう。
△▲▽▼△▲
気のせいだろうか。目の前にある建物は、薄汚い建物でもコンクリートでできた無機質的なものでもなく、なんとも可愛らしい建物なのだが……。
「ここは…」
「こちらがウタレア研究所になります。」
「こちらが……。ここは魔法に関する研究をされているのですよね?」
「はい。先程も申し上げたように、ここでは魔力を用いるものすべてを研究対象としています。それは魔道具や魔法陣、魔力を持つ人や魔物など、多岐にわたるのです。
詳しくは、所内の者に聞いてみると良いですよ。では、中へ入りましょう。」
わかりやすく説明しつつ、すっとスマートにエスコートをするヒルファーさん。
すごい!すごすぎるわ!!
でもいくら国賓とはいえ男なんで、そんなにレディーファーストな扱いもやめてほしい。
「お待ちしておりました、スバル様、ヒルファー殿。」
ウサギのぬいぐるみのファミリーにあったような、可愛らしい建物の中は、これまたtheファンタジーといった感じだった。
吹き抜けになっている部屋の中央には螺旋階段があり、そこを白衣を着た人たちが行ったり来たりしている。壁一面には本棚が広がり、様々な色の背表紙の本がびっちり並んでる。てか、たまに本が浮いてどこかに消えるんだけど……なんで?もしや……魔法?!
2階では実験をしているのか、バチバチと何かが光っているように見える。
(ここ2日で一番の異世界っぷり!)
「スバル様?」
「はっ!申し訳ありません。私のいた世界ではこの様に本が浮くことなんてなかったもので、つい珍しくて。」
「そうでしたか。これから、魔力測定と身体検査を行いますので、こちらへ。」
「それでは参りましょう、スバル様」
「はい」
△▲▽▼△▲
「ないですね、魔力
健康状態も良好なので、間違いないでしょう。」
「…………………そうです、か。」
あのあと、試着室みたいな個室につれてかれたと思ったら身包みがされて強制的に色々調べ上げられたあと、ヘトヘトの状態で謎の水晶を触ったら、魔力が無い…………だと…?
「先程のお話ですと、スバル様のいらっしゃられた世界では魔力を使うことはないのですよね?」
「使うことがない、というより魔力という概念そのものがありません。」
「そうなのですね。となると、そもそもスバル様やスバル様のいた世界では魔力がない、ということですね。」
「はい。」
「ならはじめから魔力がなかった可能性が高いですね。」
ううっ、チートスローライフはいづこ………。
魔法が使えないとなると本格的に一人での生活はきつそうだぞ……。
研究所の人は、俺の悲しみの理由が別のものだと思ったんだろう。
「ご安心ください、スバル様。たとえスバル様に魔力がなくとも、私達はスバル様を精一杯サポートさせていただにます。
ですからお気を落とさず。
この世界の平和をどうか取り戻してください…。」
キラキラとした瞳で腕を組みそう言ってきた。
いや、気持ちはありがたいんだよ。でもね、でもね、
そうじゃないんだよっ!
「あ、ありがとうございます。」
それでも感謝の言葉を忘れない……。俺ってば偉いっ!!
▽▼△▲▽▼
「ここの大陸の人は皆魔力を持っているのですか?」
「いや、そのようなことはありませんよ。
全く魔力を持たずに生まれる者もいれば、私のように持っているけれど微量の者、魔力量に富んだ者、様々います。とはいえ、この国の者は魔力を有する人がほほとんどでしょう。
この国は魔力の研究が盛んなためか、魔力がなければ使えない“魔道具”が多用されます。そのため魔力のない人たちは生活しづらく、隣国に行くことが多いのですよ。」
研究所から塔までの道中。ヒルファーさんに質問をしてみると、これまた分かりやすい回答が返ってきた。絶対この人頭いいだろ。
「そうなのですね」
「ご安心なさってください。かの女神は異界の者を待てと申したのです。魔力ではない私達とは異なる何かをスバル様は有しているのでしょう。不安になることはないと思いますよ。」
「ふふ、ヒルファー殿はお優しいのですね。」
「そのようなことは。思ったことを申し上げたまでです。それに、ヒルファーで構いませんよ?」
(え、これどう返すのが正解なの?呼び捨ておk?ジーマで?バイヤーじゃない?
てか腰に!腰に手が回られておりまする!!ぎゃぁぁああ)
優雅に微笑みながら、もしかしなくとも抱きしめられてしまってる俺は、一体どうすればよいのでしょうか?!しかも相手は国宝級イケメンやぞ!い、い、い、いくら男の子でも……こ、こ、こんなに近いと…………
た、たすけてぇ…
「これヒルファー。我の新しい弟子を口説くでない。」
「なっ、スィーチ様、けしてそのようなことは…」
「では何か、兄弟子として?
弟弟子を抱き寄せ?
密着し?
名を呼ばせようとするのは?
何故じゃ?
んんん?
師匠の目を見て申してみよ」
「うっ………」
抱きしめる力が弱まった………?
た、助かった?
ヒルファーさんの腕の力が弱まったタイミングで華麗に距離を取る。
そしてちらりと盗み見ることを忘れない。しかもジト目で。
いかにも、もう私はあなたのことを信頼しませんよ、って感じで!!
「うっ……スバル様、先程のは……!」
「やあやあ、そなたがスバルか」
弁明しようとするヒルファーさんの言葉を遮って、目の前に現れたのは、
ボン・キュッ・ボンの美魔女だった。
「はじめまして、異界から来た救世主よ
我が東の塔の管理者、スィーチ・ダーウェンだ。
キミのお師匠様さ。」
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