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第一章
4.グァル
しおりを挟む「ではスバル、明日からここに通ってもらえるだろうか。
あいにく我はここからあまり遠くへ離れられん。とはいえ塔の下へは迎えに行くがな。」
「わかりました」
あの後、昼食をとったあとにスィーチさんには文字の書き方を教えてもらった。読み書きができればなんとかなる。望み薄だがスローライフだって!!
文字自体はアルファベットが変形したもので、音と文字が一致さえすれば問題ない。なにせ読むことができるからな。部屋に戻ったら練習しよう。幸い紙は貴重品じゃないようだったし。
「すまぬな、ここのものは魔法を使って文字を書くため、筆やインクが少ないんだ。
急ぎ手配するが、すぐ届くかはわからぬ。不便をかけるな。」
むしろ筆のほうが貴重だった。あ、ちなみに筆と言っても、日本の書道で使うようなものじゃなくて、万年筆とか羽ペンみたいなやつね。筆先が金属のおしゃれなやつ。
にしても魔法が使えないのは不便極まりすぎせん?
この国の人口の大半が魔力持ちだからって考慮しろってんだ!
「それと、ここに来るときは必ず護衛をつけるのだぞ?
いくら城の敷地の中とはいえ、安全とは限らないからな。
まあ、その護衛が不届きなことをするなどそれ以前の問題なのだが、なあ?」
思い当たるフシがありありのヒルファーさんが、視界の隅でびくっと小さくなる。
やっぱりあの密着っぷりは不届きなことだったんですね。
すかさずジト目で攻撃。
「くくく、どうするスバル。
そなたが嫌であるならすぐにでもヒルファーをそなたの護衛の任から下ろすよう王に進言するぞ?奴は我に借りを作りまくっているからな。
ヒルファーの一人や二人どうとでもなろう。」
スィーチさん、今日イチのいいお顔ではありませんか。実は魔王なんじゃない?
「スィーチ様、もしヒルファー殿が任を解かれるとなれば、誰が私のお付になると思われますか?」
「ス、スバル様?!」
「うむ、そうさな……。ヒルファーはバカ弟子ではあるが腕は確かなのでな、それに遜色ないとなると………ジャンダーになるだろうな。
ほれ、そなたを最初に見つけた、ピンクと黄色に黄緑の髪の派手男のことだ。デカイし五月蝿いしガサツだが、まあ、腕は確かだからな。」
派手髪か!俺を王の間にポイッと投げ捨ててったやつか!
あんなんガサツで済まされるかってんだ!
んん…俺を狙っているんだろうヒルファーさんか、あの人に向かって指差した挙げ句ポイした派手髪か………。
「ヒルファー殿、もう二度とあのようなことはなさいませんか?」
「ス、スバル様ぁ」
「もう二度となさらないというのであれば、明日からも私を守っていただけますか?」
「!もちろん。
ヒルファー・ゲシュダウ。この命に変えてでも、スバル様をお守りする所存です。」
すっと前に来て俺の手をすくい取り跪くヒルファーさんは、ガチモンのにディ◯ニープリンスだった。
やべえ、俺、プリンセスにされちゃう……。
「くくく、良かったなヒルファー。
まあ、しかし我もそのほうがありがたいな。
なにせジャンダーは塔に来ると必ず何かしら壊していくんだ。あやつ自分の大きさを全くわかっておらん。
ひとまず、我は王にそなたはよくやっておると伝えておこう。
明日はそうさな、昼が過ぎてから来るが良い。
昼まではそなたは忙しいだろうからな。落ち着いてからここに来るように。」
「わかりましたが…
明日、何かあるのですか?」
「まあ、朝になればわかるだろう。」
うんうんとニコニコ顔のスィーチさん。
え、まじ何が起こるわけ?とてつもなく怖いんだけど…。
「ではヒルファー、くれぐれも我が新たな弟子を傷つけることないように。しっかりとお守りするのだぞ。
そなたも、また明日会おう。」
「それでは、失礼いたします。」
ペコリとお辞儀をして、塔を去っていく。ちらりと後ろを除くと、入り口にもたれかかったスィーチさんがこちらを見送ってくれていた。
誰かに見送ってもらうなんて、ちょっと恥ずかしくて歩き方が変になっちゃう気がするけど、こんなに嬉しいもんなんだな。顔が少しにやけそうになる。
結局俺は塔の入り口が見えなくなるまで、数歩進むごとに振り返っては手を振り、また進んでは手を振りを繰り返していた。
あとスィーチさん!そんなふうに腕を組むと!たわわわわなおっぱいが!おっぱいが!!
△▲▽▼△
「それではまた後日参りますね。」
「本日はありがとうございました。おやすみなさい。」
何事もなく部屋に帰ってきた俺は、ヒルファーさんと別れて、部屋の書斎に行った。
いや、何事もなくはなかったわ。腰を取られることも迫られることもなかったんだけど、ずっとキラキラが飛んでた。眩しいくらいのキラキラが。
話すときずっとこっち向いてるし。目があったらニコってキラキラ飛ばしてくるし。
目が痛いわ!
あとちゃんと護衛しろ!
ガチャリと扉を開けて、机と椅子と空の本棚のある部屋に入る。
さすがお城。さすが国賓。椅子の座り心地は最高だし、机のさわり心地もいい。
部屋にはいくつか小部屋があって、この書斎もその一つ。他にもシャワー室なんてのもある。浴槽はなかった。無念。
まあ、異世界あるあるだから仕方がない。
それにこの国では魔力を用いてシャワーを使うらしいが、俺は魔力がないんでふつーに水を組み上げて使ってるらしい。たまたま最初の部屋が魔力のない国賓用の部屋だったため、そのまま継続だそうな。
だから国賓なのに1階に部屋があるんだな。納得納得。
座り心地のいい椅子に満足しながら、ペンと紙を出してスィーチさんのお手本通りに文字の書き取り練習をしていく。
アルファベットでいうとブロック体になるのかな?そっちの方はほぼほぼパーペキ。さすが俺!
でも、筆記体は大変やばい状態だ。
知らない人はぜひロシア語の筆記体をググって見てほしいんだけど、あんな感じ。
え、これ違う文字なの?書けなくね?読めなくね?ほんとにわかってる?と聞きたくなる。
現に俺は今発狂しそう。
城下ではむしろこの筆記体のほうが主流らしく、ブロック体のようなキレイな形で書く者は少ないらしい。今後城から出たときには書けたり読めたりしないといけないそうなんだ。とはいえ歴史書や本にはキレイな方で書かれるし、授業には支障がないから焦らなくていいとのこと。
(それでも次回までは多少は書けるようにしたい。)
今までも多かれ少なかれ努力はしてきたつもりだ。これくらいで音を上げるわけには行かない。この世界で暮らすことになるのかもしれないなら、やるしかないんだ。
(それにもしかしたら………)
うまくできるようになったら、また頭をなでてくれるかもしれない。
………いやいや、しっかりせい!
芽生えた願望を振り切って、俺は必死に書き取りの練習をはじめた。
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