チュートリアルボスじゃ終われない

永島ひろあき

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財源確保案 その一 茸

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 なんだかジャスティンとビクトル、更には父上と母上の俺に対する教育の熱意が増しているような気のする昨今です。
 まあ、現代知識とゲーム知識があるとはいえ、現実になったこの世界の常識とかは分かんないわけで、熱心に教えて貰えるのはありがたいんだけど、こう、圧? 迫力が凄いのよね。
 俺の教育を間違えたら国が亡ぶ的な強迫観念にでも憑かれてんのかな? 意外と的外れな考えでもないから、俺も一生懸命応えるしかないんだけどさ。

 ありがたいんだけどなんだか釈然としない日々を過ごす中、俺は今の内から出来ることはないかと頭を捻り、とりあえず何をするにも必要なのは資金だという結論に至った。
 資金があれば良い装備を整えられるし、腕利きの傭兵を雇ったり、鍛冶屋や学者、医師や魔法使いを招くことだってできるようになる。

 父上の交易政策によって金の入るようになったユーバンだが、いくらブランド力があるとはいえ木材とその加工品だけで勝負するのは心許ない。
 出来る範囲で調べた限り今の俺でもなんとか着手できそうなのが茸の人工栽培、養蜂、石鹸の作成、農法などだろうか。しかしなあ、なんの根拠もなしに口にしたところで、説得できるわけがない。俺が既に畑なり土地なりを与えられていたら、試せたかもしれんが……

 精霊信仰の篤いユーバンでなら、精霊からのお告げと言えば信ぴょう性は得られるかもしれんが、本当に精霊と意思疎通できるシャーマンやドルイドが居る以上、嘘だとバレる可能性が高い。そうなったらどうなる? 幽閉くらいで済めばマシか?
 国を富ませて兵を強くする為のロードマップが、果てしなく難しい! もっと俺の頭が良かったら、記憶力が良かったら、もっと楽をできたんだろうなあ。

 とある日、俺は昼食にちょうど茸のソテーが出たのもあって、茸の人工栽培について話を振ることにした。
 ちなみにユーバンの主食はジャガイモとヒヨコ豆だ。本当にそのまんまジャガイモ、ヒヨコ豆と呼んでいる。これらを粉にしたり、練り込んだパンや煮込んだ料理が良く出てくる。

 ジャガイモは、ジャガタライモと言うのだが、ジャガタラとはインドネシアの首都ジャカルタのかつての名前だ。そのジャガタラを経由して日本に伝来したので、ジャガタライモなのである。
 ではこの世界ではと言うと、昔、大きな飢饉が起きた時にこのジャガイモを広めて、多くの人々を救ったジャガンダラという偉い人がいたとかで、『ジャガンダラのイモ』略してジャガイモと呼ばれるようになったそうな。ヒヨコ豆はそのまんま見た目がヒヨコみたいだからだ。

 蛮族と評判のユーバンだから手づかみで食べるのかと言うと、そんなことはない。
 ものによっては手づかみもするが、先割れスプーンやナイフ、フォークに箸まである。無節操過ぎない? と思ったものだ。
 ユーバンでは王族であれ豪族であれ、可能な限り家族が揃って食事を食べるのが習慣だ。
 この日は、あいにくと父上がどうしても外せない仕事があって欠席。母上とガンダレイも別用があり、朝食は一緒に摂ったのだが、昼食は俺一人、自室で摂ることになった。

 先割れスプーンで突き刺したシイタケのソテーをよく噛んで飲み込んでから、俺は傍に控えているジャスティンに話しかける。
 ちなみに味付けは塩と酢、魚醤が基本だ。味噌と醤油が欲しい。大豆から作る方の醤油が。
 味噌かあ。麹ってあるのかなあ? 酵母はあるけど、実は秘かに発明した誰かがユーバンに居ると都合が良いんだが、どうだろうな。

「ジャスティン、今日も美味しい食事が食べられて、料理人達と茸を献上してくれた民には感謝したい」

「はっ、殿下からそのようなお言葉を賜りますれば、皆も十分に報われるでしょう」

「うん。そうであるならなによりだ。時にジャスティン、この茸だが森から採ってきたもので間違いないかな?」

「はい。深き森のありがたき恵みにでございまする。殿下の御口に合いましたら、なによりでございますが、なにかお気に障りましたか?」

 昔の俺ことバルガンなら嫌いな料理が出てきたら、それだけで癇癪を起こすか皿をひっくり返して、せっかくの料理を床にぶちまけるくらいしてもおかしくない。本当に小さい頃からろくでもないな、本来のバルガンは。

「気に障ったことなど一つもない。ただ、森に採りに行く以外に、いつでも茸が採れるようになればと思ったのだ。数を用意できれば多くの民の口に届くようになるだろうし、干したりすればナイトリアやランザリアとの交易の品にもなると思う」

「ふぅむ、殿下の言われる通りかと。しかし、これまで茸を……そう、栽培したものの話は寡聞にして耳にした事がございません」

 長く王家に仕え、国内の色んな情報に触れるジャスティンが知らないとなれば、実際にユーバンで茸栽培は行われていないと考えていい。
 まあ、地球でもシイタケの人工栽培とか、日本だと十七世紀前後頃からという話だ。どう考えても十七世紀より数世紀前の文明のユーバンじゃあ、存在していないだろう。

「子供の考えと笑ってくれて構わないが、例えば茸の生えている原木を楔のような形にして、他の木に差して茸を生やすよう促してみるなどどうだろうか? ジャガイモも種芋を取っておいて、新しいジャガイモを育てる。同じように茸も出来るのではと思うのだ」

 言葉にするだけなら簡単だが、実際に人工栽培が上手く行くまでは数年かかると思っておいたほういい。
 とりあえず食用の茸はひとつ残らず試して貰って、上手くいったら原木栽培以外にも、おが屑なんかで作る菌床栽培を始めて行こう。ガラス瓶を用意するのは難しそうだから陶器の壺でも代用できるかな?

「このジャスティン、恥ずかしながら殿下の御考えを耳にするまで、そのような方法をまるで思いつきもしませんでした。試してみる価値は十分にあるかと存じまする」

「そうか、ジャスティンがそう言ってくれるのなら私も安心だ。すぐに結果が出るものではないだろうが、私が大人になる前には実を結んでほしいものだな」

 昼食後、俺は私室に戻ってから原木に種駒を打ち込み、そこから菌が広がって新たな茸が生えるイメージ図を書いて、それをジャスティンに渡した。上手くいけば父上に話が行くかもしれない。
 茸の人工栽培が成功し、交易品とすることが出来れば各国からの需要も増えて、新たな収入となってくれると期待している。そうして稼いだお金で来る戦争を勝ち抜く為の、強力な武器や兵糧を蓄えなければならん。
 茸には俺の人生が掛かっていると言っても、過言ではないのだった。
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