ジェニー・シュピール 〜私が神になるまでの話〜

乙夜麻痺

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Episode1 動き出すパズルのピース

Episode1−1 〜森羅side〜

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《森羅side》
 目を醒してまず飛び込んで来たのは冷たい灰色のコンクリートの天井であった。つまり今私は横になっている、寝ているという事である。私は上半身を起こし辺りを見渡した。天井同様に周囲の壁もコンクリートで覆われ出入り口の形跡も無く、ただ1つ小さな除き窓があるだけだがこちらから外の様子を見る事は出来なかった。

「さて、ここは何処なのか?また私は誰なのか?全く分からない。まずはそこから考えていかなければ」

 一体ここは何処なのか。出入り口が無く、除き窓があり外から私の行動を観察出来るようになっている。つまり私は捕らえられているという事で、出入り口が無いのは私が逃げられないようにしている訳だ。記憶が無く、自分が誰なのかも分からない状況ではあるがこの状況からして、私は何かしらの罪を犯し拘束状態、あるいは何らかの研究対象として捕らえられている。なんにせよ私の身は安全が保証されていない状況である。まぁ、自分が何者かも分からないんじゃ命を失う恐怖も無い。では何故私は自分が何者かも分からないのか。良く聞くのは事故等による強いショックや脳へのダメージを喰らう例だが、直感的にその様な類のものでは無いような気がする。身体にも頭にも手術痕が見られない。どうやら精神的なダメージのようだ。何一つとして思い出される事は無い。しかしこれまでの時間で私は1つの結論に辿り着くことが出来た。それは簡単で誰もがそう考えるであろう事。

「まずは脱出し、陽の光でも浴びられる所へ行こうじゃないか。肌の状態からして、長らくこの薄暗い部屋で眠っていたらしいからな」

 私はベッドから離れるとコンクリートの壁に左手を軽く添え部屋の中を歩き始めた。ちゃんとした出入り口が無くても私やベッドをここに入れる為に何らかの痕跡が残っているはずだ。少しのズレでも良い。それさえ見つける事が出来れば抜け出せるはずだ。

 しかし探せど探せどそんな痕跡は見つからず気がつけば2時間46分が経過していた。(自分の体内時計での話だが、狂いは無いはずだ)私は一旦出入り口の痕跡を探すのを止め、またベッドに腰を下ろした。

「おかしい……。無いはずは無いんだが…」

 私は頭を抱えた。もう覚醒めてしまった以上、私をここに閉じ込めた者に見つかれば何をされるか分からない。一刻でも早くここを抜け出さなければ。この部屋を抜け出せたところで部屋の外には100人もの敵が待ち構えているかも知れないし、外の世界へと辿り着ける保証も無い。しかしそんな事は実際にやってみなくては分からない。
 
 不思議と私はこのスリリングな状況を心の片隅で楽しんでいるようであった。少しずつ上昇していく心拍数、アドレナリンが沢山分泌され、身体が仄かに火照っていた。

 こんなに探しても見つからないなんて、まるで神隠しにあったみたいだ。しかし、そんな事はありえない。この世に存在するものは説明出来ずに存在する事は出来ないはずなのだから。昔は落雷だって神の怒りと恐れられ、その発生要因なんて知られていなかった。しかし今となっては雷の発生は雷雲の成長とともに電気の力も強くなり、プラス電荷とマイナス電荷が引き合おうとし、空気が電気の力に耐えきれなくなった時に放電しおこるもの、と一般常識になっている。他にも色々な発見、研究が問題解決まで導き、今の世を築いている。しかし、科学の技術がなくたって気付ける事もある。日常生活の中で気付いたささやかな引っ掛かりがこれまでの偉大な科学者達を生み出してきた。彼らは好奇心を忘れず、一般人が見逃してしまいがちな事に着目して偉業を成し遂げてきた。諦めなければ道は拓ける。ちょっと視点を変えて見てみる。それだけで様々な発見が出来るのだ。つまり、灯台もと暗しという事。意外と身近にヒントは隠されていて……。
 
 ここまで頭の中で考えを巡らせた私はとある事に気が付いた。

「そっか!!そういう事か!!」

 ずっと居座っていた頭の中のモヤモヤが今、颯爽と吹かれ姿を消した。私はその勢いのまま、先程まで自分が眠っていたベッドをずらした。大きめのベッドだった事と、自分の力の弱さにとても時間がかかったが、50cmくらいベッドをずらすと私の予想通り、そこには人が1人ギリギリ通れるくらいの小さな扉が床に取り付けられていた。まさに灯台もと暗し。

 私は早く外の空気に触れようと、これからの事など考えもしないで小さな扉をこじ開けた。扉の向こうは垂直に暗闇が広がっており、壁に沿って小さなはしごが取り付けられていた。

「微かに風を感じる…」

 どこまで続くか分からない暗闇であったが、微かに感じる風がどこかへ繋がっているという事を私に教えていた。その風に導かれるように私ははしごを伝って、暗闇の中へと姿を消した。
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