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慣れ

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 あれから2週間が経った。私ほど配信に居座る人は増えなかったけれど、曜日とか時間によって来る人のことをなんとなく覚えてきた。別に覚えたところで関わるわけではないけれど、らろあが明らかにその人たちとの会話に集中してしまうと少し疎外感を覚える。毎日毎日居座っていると、らろあの対応も少しずつ雑になっていった。それが余計に寂しさを感じさせる。最初のころ、初見の一言で喜んでいた彼はどこに行ったのだろう。

 毎日いつでもいる私と、決まった日や時間にしか来ないリスナーだったら後者の方をその瞬間は大事にするのはわかっている。私だけをずっとかまっているわけにはいかない。


「あー……今日の配信そろそろ終わろっかな。るるちゃんしかいなさそうだし」


 らろあが背もたれに深く腰掛けて、コントローラーを持ったまま伸びをする。気づけば日付が変わっていた。らろあは大体22時に配信を始めて、これくらいの時間にいつも終わる。

 いつもだったらお疲れ様とコメントを送るところだけれど、私しかいなさそうだからというところにムッとした。ベッドに寝転がりながら、コメント欄を操作する。


『お金あげるからもうちょっと配信して』


 そんなコメントと一緒にギフトを送れば、コメント欄に華やかなモーションが散った。

 この配信サイトでは、ギフトと呼ばれるシステムを介して配信者にお金を投げることができる。何割かはサイトに抜かれるのだろうけれども、それでもいくらかは配信者の手元に入るはずだ。


「えーっ、お金もらったらやめれないじゃん。うーん、わかった。タバコ吸いながら雑談するわ、それでいいでしょ。許して?」


 らろあはそう言いながら、右手はすでにアイコスへと伸びている。『いいよ』と送ると、彼は待てをされていた犬のように煙草をくわえた。

 お金を送ると丁重に扱われる。それがこの2週間でわかったことだ。当たり前かもしれないけれど、お金というものの偉大さと恐ろしさを知った気がする。

 それから彼が煙草を吸うことと、仕事のシフトの時間と、広島に住んでいることもこの2週間で知った。ほとんど方言が出ていないから驚いたけれど、確かにたまに聞きなれない単語を口にしていることがある。


「今日は一本しか吸わない。これはマジ」


 深々と煙を吐き出しながら、らろあはカメラをじっと見つめた。『うそだね』と送ると、いやいやと首を振る。


「もうね、俺は禁煙も成功させてやりますから。ほんとだよ? 見守ってて」


 別にやめなくてもいいよ、と途中まで打ち込んでから消した。私は喫煙者が嫌いだけれど、らろあがタバコを吸っている姿を見るのは好きだ。体に悪そうな煙を吸い込んでいるときのらろあはどこかここでない場所にいるような、自分だけのプライベートに入り込んでいるような雰囲気がある。何か見てはいけないようなものを覗いているようなそんな錯覚に陥るのだ。


「『やめれない方にかける』? 言ったな、絶対やめてやるからね」


 そのアイコスも禁煙するために買ったって言っていたくせに、そう思いつつくすくす笑う。私の顔がらろあに見えていなくてよかった。こんなにニヤニヤしながら配信を見ているなんて知られたくない。

 お金のおかげでも、この瞬間のらろあの言葉が私のためにあるのが心地よかった。もう一回ギフト投げちゃおうかな、でも今日は本当に疲れてそうだしな、と思いとどまる。そう考えている間に彼は煙草を片づけ始めた。


「じゃ、今日はここまで! また明日ねー」


 友達に声をかけるようなフランクさで彼はカメラに手を振る。私が『おつかれ』と送信して、配信は終了した。
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