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第31話「困惑」
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第31話「困惑」
蛍は、凪の帰った部屋でひとりでパソコンを叩き続けた。若い男の子の「アフターレイプ」のPTSDに関する記事を読み漁った。(あぁ、レイプって「女」だけの問題と違うんやな…。お隣の国の事例はひどいもんがあるよな。長期間にわたって心を病んでしもたり、自殺した子もたくさんおるんや…。)モニターを見ていると自然に涙が溢れてきた。
凪に電話をして励まそうと思ったが、頭の中が全くまとまらなかったので、ラインで「私はずっと凪君の傍にいるからね。何かあったらいつでも連絡ください。」とだけ送信した。すぐに「既読」は付いたが、返事が来ることは無かった。
(まさか、凪君「自殺」なんかせえへんよね?)突然の不安に襲われ、凪の電話の連絡帳を開いたが、発信ボタンは押せなかった。蛍は悩みつつ、副島の事務所に電話をかけた。
「遅くにすみません。佐久間です。今日は、お忙しい中、お時間割いていただきありがとうございました。1時間ほど前に、凪君の携帯に門真警察から、私の姉が任意聴取に入ったことと、男ふたりは状況をすべて認めたとの連絡があったんですけど…、これから、どうしたらいいんでしょうか…?」
震える左手でスマホを持ち、右手にペンを取った。
「あぁ、お疲れさん。今、佐久間さんだけですか?それとも河貝子君も一緒ですか?」
と副島が尋ねた。
蛍は正直に副島に自宅に戻ってからのことを説明した。一緒に食事をとっても会話は続かず、入浴しても反応しなかったこと。凪が自分の写真を見て泣いていたこと。小一時間前に、ひとりで家に帰ったこと。全て話し、今、パソコンで調べて不安に駆られて電話をさせてもらったことまでを話した。
「はい、言いにくいことまでお話しいただきすみません。ただ、私には、今の河貝子さんの心の傷をすべて埋めてあげられる方法はありません。必要であれば、犯罪被害者を多数見てきた臨床心理士を紹介することはできます。
ただ、今日の明日でカウンセリングを受けても、河貝子さんも混乱するだけだと思います。一般論ですが、心の冷却期間と言いますが、クールダウンさせる時間が必要です。
佐久間さんが普通にかける優しい言葉も、彼の心を悩ます要因になる可能性もあります。一つ忠告しますが、ネットに出ている情報を鵜のみにしないようにしてください。被害者ひとりひとりに事情があるように、解決策もひとつではないので。」
副島は、淡々と蛍に話した。はたと、思うことがあり、再び、蛍は副島に質問を投げかけた。
「すみません、今回のような事例では、お姉ちゃん…、いや、私の姉はどれくらいの間、拘束というか刑を負うんですか?すぐに、釈放されちゃうようなことってあるんですか?仕返しに…、仕返しっていっても、悪いのは姉なんで…、逆恨みっていうか、うーん、とにかく、私の姉は性格的に破綻してるんで、何をしてくるのか不安で不安で…。私、凪君を守り切れるのか…。」
話ながら、自然と涙が溢れてきた。
「そうですね…。お姉さんは、初犯であるならば、本人が「反省の遺」を示せば、実刑を受けても刑期は短いものになると予想されます。また、事前に民事での賠償和解の提案がなされて、それを河貝子さんが受諾した場合は、執行猶予が付く可能性もあると思います。河貝子さんが、示談を拒否し、求刑に不満を持って高等裁判所に継続審議を申し立てるかどうかで釈放の時期は変わってきます。」
「えっ、「和解」ってそんなことありえないでしょ。あんなにひどい目に遭って、「和解」なんかあり得ないですよ!」
副島は一息ついて蛍に話した。
「失礼を承知でお話しさせてもらいますが、河貝子さんの家は、裕福ではないということですので、例えば、お姉さんが弁護士を立て、民事の和解金としての賠償を提示する可能性があります。
お姉さんの家は裕福との事なので、私が弁護士であれば、民事の和解を勧め、刑事裁判での情状酌量を狙うでしょう。河貝子さん本人ではなく、ご家族が示談を望む場合もあり得るとするならば、考えられることと思います。」
「えっ、示談しちゃうと、実刑を受けない可能性があるってことなんですか?」
「はい、その可能性はあります。もちろん、裁判ですので私が判断することではありませんので、あくまで一つの可能性と考えてください。」
「示談金っていくらくらいなんですか?」
「決まりはありません。今回は「傷害」も付加する事案ですので、下で100万、上は1000万くらいまで考えられます。」
(えっ、そんなにお金が入ったら、凪君、私へのインチキ修理代を清算して、私なんかと「縁」を切りたいって思ってしまうかもしれへん。結果的に、お姉ちゃんの思惑通りに、私は凪君と別れてしまうことになってしまうんや…。そんなん、絶対に嫌や…。)蛍は言葉に詰まった。
「佐久間さん、佐久間さん、どうかしましたか?大丈夫ですか?」
副島の声が頭の中でこだました。(あかん、今一番大変なのは凪君やのに、私ったら、自分のことを考えてしもてた…。) 蛍は、凪の心の問題よりも自分のことを優先してしまっていたことを恥じた。
「は、はい、大丈夫です。あと教えて欲しいのが…。」
蛍は、凪の帰った部屋でひとりでパソコンを叩き続けた。若い男の子の「アフターレイプ」のPTSDに関する記事を読み漁った。(あぁ、レイプって「女」だけの問題と違うんやな…。お隣の国の事例はひどいもんがあるよな。長期間にわたって心を病んでしもたり、自殺した子もたくさんおるんや…。)モニターを見ていると自然に涙が溢れてきた。
凪に電話をして励まそうと思ったが、頭の中が全くまとまらなかったので、ラインで「私はずっと凪君の傍にいるからね。何かあったらいつでも連絡ください。」とだけ送信した。すぐに「既読」は付いたが、返事が来ることは無かった。
(まさか、凪君「自殺」なんかせえへんよね?)突然の不安に襲われ、凪の電話の連絡帳を開いたが、発信ボタンは押せなかった。蛍は悩みつつ、副島の事務所に電話をかけた。
「遅くにすみません。佐久間です。今日は、お忙しい中、お時間割いていただきありがとうございました。1時間ほど前に、凪君の携帯に門真警察から、私の姉が任意聴取に入ったことと、男ふたりは状況をすべて認めたとの連絡があったんですけど…、これから、どうしたらいいんでしょうか…?」
震える左手でスマホを持ち、右手にペンを取った。
「あぁ、お疲れさん。今、佐久間さんだけですか?それとも河貝子君も一緒ですか?」
と副島が尋ねた。
蛍は正直に副島に自宅に戻ってからのことを説明した。一緒に食事をとっても会話は続かず、入浴しても反応しなかったこと。凪が自分の写真を見て泣いていたこと。小一時間前に、ひとりで家に帰ったこと。全て話し、今、パソコンで調べて不安に駆られて電話をさせてもらったことまでを話した。
「はい、言いにくいことまでお話しいただきすみません。ただ、私には、今の河貝子さんの心の傷をすべて埋めてあげられる方法はありません。必要であれば、犯罪被害者を多数見てきた臨床心理士を紹介することはできます。
ただ、今日の明日でカウンセリングを受けても、河貝子さんも混乱するだけだと思います。一般論ですが、心の冷却期間と言いますが、クールダウンさせる時間が必要です。
佐久間さんが普通にかける優しい言葉も、彼の心を悩ます要因になる可能性もあります。一つ忠告しますが、ネットに出ている情報を鵜のみにしないようにしてください。被害者ひとりひとりに事情があるように、解決策もひとつではないので。」
副島は、淡々と蛍に話した。はたと、思うことがあり、再び、蛍は副島に質問を投げかけた。
「すみません、今回のような事例では、お姉ちゃん…、いや、私の姉はどれくらいの間、拘束というか刑を負うんですか?すぐに、釈放されちゃうようなことってあるんですか?仕返しに…、仕返しっていっても、悪いのは姉なんで…、逆恨みっていうか、うーん、とにかく、私の姉は性格的に破綻してるんで、何をしてくるのか不安で不安で…。私、凪君を守り切れるのか…。」
話ながら、自然と涙が溢れてきた。
「そうですね…。お姉さんは、初犯であるならば、本人が「反省の遺」を示せば、実刑を受けても刑期は短いものになると予想されます。また、事前に民事での賠償和解の提案がなされて、それを河貝子さんが受諾した場合は、執行猶予が付く可能性もあると思います。河貝子さんが、示談を拒否し、求刑に不満を持って高等裁判所に継続審議を申し立てるかどうかで釈放の時期は変わってきます。」
「えっ、「和解」ってそんなことありえないでしょ。あんなにひどい目に遭って、「和解」なんかあり得ないですよ!」
副島は一息ついて蛍に話した。
「失礼を承知でお話しさせてもらいますが、河貝子さんの家は、裕福ではないということですので、例えば、お姉さんが弁護士を立て、民事の和解金としての賠償を提示する可能性があります。
お姉さんの家は裕福との事なので、私が弁護士であれば、民事の和解を勧め、刑事裁判での情状酌量を狙うでしょう。河貝子さん本人ではなく、ご家族が示談を望む場合もあり得るとするならば、考えられることと思います。」
「えっ、示談しちゃうと、実刑を受けない可能性があるってことなんですか?」
「はい、その可能性はあります。もちろん、裁判ですので私が判断することではありませんので、あくまで一つの可能性と考えてください。」
「示談金っていくらくらいなんですか?」
「決まりはありません。今回は「傷害」も付加する事案ですので、下で100万、上は1000万くらいまで考えられます。」
(えっ、そんなにお金が入ったら、凪君、私へのインチキ修理代を清算して、私なんかと「縁」を切りたいって思ってしまうかもしれへん。結果的に、お姉ちゃんの思惑通りに、私は凪君と別れてしまうことになってしまうんや…。そんなん、絶対に嫌や…。)蛍は言葉に詰まった。
「佐久間さん、佐久間さん、どうかしましたか?大丈夫ですか?」
副島の声が頭の中でこだました。(あかん、今一番大変なのは凪君やのに、私ったら、自分のことを考えてしもてた…。) 蛍は、凪の心の問題よりも自分のことを優先してしまっていたことを恥じた。
「は、はい、大丈夫です。あと教えて欲しいのが…。」
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